【完結】俺の姉貴はやべーヤツ   作:わへい

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 ぼざろ公式サイトで山田だけキャラ紹介でろくでもないことしか書かれてないの草。




#81 魂がここがいいと叫ぶ

『ひとり、迎えに来たよ』

「あ、ちょ、ちょっと待ってください……い、今開けますっ!」

 

 とうとう……とうとうこの日がやって来てしまった!! れ、レンくんとの……レンくんとの花火大会デートの日が!!

 

 しかもこ、こここここここここここここ今年は去年と違って二人っきりで!! 二人っきりで!!

 

 私以外のバンドメンバーが今日はわざとシフトを入れてレンくんと私の二人にしてくれたんだ。なぜか店長さんが号泣していたけど……なんでだろう? な、泣くほど私の恋を応援してくれてるのかな? 店長さん……まだちょっと、いや結構怖いけど優しいな。

 

 ただ、みんながそうやって色々と私に気を遣ってくれているのはすごく嬉しいんだけど……ふ、二人っきりはやっぱり緊張します。

 

 あぅ……去年はみんなと一緒だったから平気だったのに……あれ? でも結局去年もレンくんと二人で出店を回ったし花火も二人で一緒に観たよね? ということは……すでに私はレンくんと二人っきりでの花火大会デートを経験済みということに……

 

 なぁんだ♪ 心配して損しちゃった☆

 

 私ってば経験豊富な女なんだから今更緊張する必要なんて微塵もなかったんだね!

 

 そ、そうだよっ! ここは経験豊富な年上(約一ヶ月)お姉さんである私が大人な魅力と大人な態度でレンくんを優しくリードしてあげるんだ!

 

 恐れるものは何もない!

 

 さあ行け後藤ひとり!

 

 運命の扉(玄関)を開くのだ!!

 

「やっほー」

 

 扉を開くと、浴衣姿のレンくんが笑顔で立っていた。

 

 ゆかた……豊……尾〇豊……ユカタ……浴衣ぁ!?

 

「ひぃんっ!?」

「あ、爆発した」

 

 恐れるもの……ありました。私はレンくんが一番怖いです。不意打ちで浴衣とかいうえっちで色っぽい恰好をしてくる君が怖いです。

 

 

 

 

 

 

「今日はいつもと髪型が違うんだね。お団子とサイドの髪をねじねじしてシニヨンっぽくまとめた感じか~。うん、めっちゃ似合ってる。可愛いよ。あ、そのかんざしも華やかですごくいいね」

 

 復活するなりレンくんが笑顔で私の髪型を褒めてくれた。あ、うへへ……か、可愛いって言ってくれた。こ、このために今日は美容院で意識を失ってる間にセットしてもらったんだ。寿命を削って美容院に行った甲斐があった……

 

「去年のレース浴衣も可愛かったけど、今年はすごく大人っぽくていいね。そのシックな紫陽花(あじさい)柄がすごくいい!」

「あ、ふひっ……うへへへ……」

 

 どうしよう。レンくんの顔を直視できない。嬉し過ぎて嬉し過ぎてさっきから頬が緩みっぱなしだ。今までもレンくんに褒められたことはたくさんあったけど、好きな人から褒められてるって思うと、その……余計に、ね?

 

 今年の浴衣は、ベースカラーは去年と同じアイボリーホワイトだけど藍色のレトロな紫陽花柄が入っている。帯は薄紫色で全体的に大人っぽくなるように喜多ちゃんと虹夏ちゃんが選んでくれたんだ。

 

 ありがとう喜多ちゃん、虹夏ちゃん……二人の協力がなかったら絶対にこんな素敵な浴衣を選べませんでした。

 

 それに、レンくんが浴衣を褒めてくれたのも嬉しいけど、去年私が着ていた浴衣のことを覚えててくれていたこともすごく嬉しい。

 

「きょ、去年の浴衣のことも覚えててくれてたんですか?」

「そうだよ。当たり前じゃん。だって……」

「だって……?」

 

 私が聞き返すと、レンくんが恥ずかしそうに私から顔を逸らした。あ、な、なんで顔を逸らすんですかっ?

 

 レンくんに一歩近づいてじーっと見上げるけどレンくんは私と視線を合わそうとしない。むーっ! 人とお話しする時はちゃんと目を見なきゃダメなんですよ?

 

 で、でも私はレンくんより年上のお姉さんなのでこのくらい許してあげますっ! ふふんっ、さすが私! 大人のレディ!

 

 それにしても……レンくんの浴衣姿はちょっと色っぽ過ぎやしませんか……?

 

 グレーに近い薄いブルーに白のストライプ。帯はグリーンカーキで……私と同じように全体的に大人っぽい雰囲気。あ、どうしよう……改めてレンくんの浴衣姿を観察してたら顔がすごく熱くなってきた。

 

 ぐうぅっ……! で、でも今日の私はお姉さんなんだからっ! 褒められてばかりじゃなくてレンくんのこともしっかり褒めてあげるんだっ!

 

「あ、あのっ……れ、レンくんの浴衣、すごく素敵……です。い、いつもよりも格好良くてその……あっ、あっ、ふ、普段が格好良くないわけじゃないですよむしろいつも格好良くて……」

「う、うん……あり、がと……でも、その辺にして、ね? ちょっと、そんなに褒められると俺も恥ずかしくなっちゃうから……」

 

 レンくんが顔を赤くして俯いている。お、怒ってるわけじゃないよね? は、恥ずかしいって言ってたもんね? いつもは私が褒められてばっかりで……こうやって褒めてあげて恥ずかしそうにほっぺたを赤くしてるレンくんは……うん、正直……こう、色々とこみ上げてくるものがあります。

 

「これ、姉貴と一緒に選んだんだ。姉貴は絶対自分では浴衣なんて着ない癖にこういう時だけ張り切ってて……」

「そ、そうだったんですね……」

 

 私の浴衣を虹夏ちゃんと喜多ちゃんが選んでくれている一方で、リョウさんはリョウさんで私に援護射撃してくれてたんだ。てっきり、私の浴衣選びに付き合うのが面倒で来てくれなかったのかと思ってました。ごめんなさいリョウさん。そしてありがとうリョウさん。こんな素敵なレンくんを見せてくれて。

 

「あ、レンくんだーっ!」

 

 私達が玄関で二人揃って顔を赤くしていると、奥の部屋からふたりとジミヘンがパタパタと駆け寄ってくる。

 

「レンくんも浴衣なんだー! すっごく似合ってて格好良い~!」

「ありがとう、ふたりちゃん」

 

 レンくんがしゃがんでふたりに目線を合わせてふたりの頭を優しく撫でている。わ、私もレンくんに頭撫でられたいっ! で、でも撫でられたらせっかくの髪型が崩れちゃう! ぐ、ぐぬぬ……

 

「レンくん、今日はお姉ちゃんと花火に行くんでしょー?」

「そうだよ~」

「いいな~。ふたりもレンくんと花火デートしたいな~」

「ふたりちゃんがもうちょっと大きくなったらね」

 

 ふたりがわざとらしく頬を膨らませてレンくんを見ている。残念だったなふたり、今日は私がレンくんを独占するんだ。それに、ふたりが大きくなる……ふたりが高校生の頃にはレンくんはもう二十五歳。残念ながら恋愛対象にはならないのだよ! 諦めたまえ!

 

「約束だよ───絶対だからね?」

 

 私が勝ち誇っているとふたりはレンくんに抱き着いて、私にも聞こえるように……むしろ私に聞かせるようにレンくんの耳元で囁いていた。い、妹に寝取られるなんてありえません! ほ、ほらっ! ジャギ様だって言ってたでしょ!? 「兄より優れた弟など存在しない」って!!

 

 しょ、所詮幼稚園児の言うことですからね全然慌ててませんよ高校生になったふたりがレンくんを誘惑してそのままレンくんが私の義弟になるなんてそんな未来……ありえませんからぁ!!

 

 あ、で、でも……もしも万が一……いいや、億が一……いやいや兆が一、レンくんが私の義弟になったとしたら……私の義姉特権でレンくんを好き放題できるんじゃないだろうか……

 

 ダメダメダメ!! なんてことを考えているんだ私は!! NTRもBSSも悪い文明!! そ、そういうのはえっちな動画の中だけにしておいてください! も、もちろん私はえっちな動画なんて観ませんよ当たり前じゃないですか私のノートパソコンはギターヒーロー動画の編集に使ってるだけですからぁ!!

 

「ひとり、そろそろ行こうか」

「あ、そ、そうですね……い、行きましょう!」

 

 別に焦ってないっすよ? ふたりにレンくんを取られるかもなんて思ってないっすよ? 私を焦らせたら大したもんですよ!

 

 五歳児相手に危機感を募らせる高校生がいてたまりますかっ!

 

 で、でも……ちょっとだけ、本当にちょっとだけ悔しかったので……私は勇気を出してレンくんの手を握った。

 

「あ、あの……嫌……だった?」

 

 私がいきなり手を握ったせいでレンくんが驚いた表情をしていたので、ちょっぴり不安になりながら尋ねる。ど、どうしよう……手汗でべちょべちょとか思われちゃったら……

 

「そんなことないよ」

 

 でも、そんな私の不安なんて吹き飛ばすようにレンくんは優しく笑って手を握り返してくれる。

 

 それだけのことが……たったそれだけのことが嬉しくて……

 

 私は恥ずかしさを押し殺しながら、肩が触れ合うくらい彼に体を寄せて歩き出す。

 

 ちょっと歩きにくいけど、少しでも近くで彼を感じていたいから。彼の傍にいたいから。

 

 そんな私の我儘を、君は許してくれるかな?

 

 

 

 

「も~……ほんとにお姉ちゃんはふたりがいないとだめだめなんだからぁ~」

 

 私は全然知らなかったけど、玄関の向こう側でふたりがそんなことを言っていたらしいです。……あれ? もしかして私って五歳児に何もかも見透かされてるの?

 

 

 

 

 

「今年も人が多い!」

「で、ですね……」

 

「金沢まつり花火大会」の会場である海の公園にやってくる。去年は確か到着早々人の多さで体調を崩してレンくんに看護してもらってたんだったね。

 

 だが今年の後藤ひとりは一味も二味も違う!!

 

 だてに一年間結束バンドで揉まれていない!! この程度の人混み、私にかかればちょちょいのちょいですよ~!

 

「たっく~ん♡ 人が多いから守ってぇ~♡」

「しょうがねえなぁ……絶対に俺から離れるなよ?(イケボ)」

 

 おぼろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろ!!!!????

 

 ひ、人の多さには耐えられるけど……イチャラブバカップルはあかん……あかん……

 

 なーにが「戦いは数だよ」だ! 「戦いは質」だよ質! 後藤ひとりが新たにこの場で宣言します!

 

「ひとり、大丈夫? 今年は休まなくても平気?」

「へ、平気でしゅっ……! さ、さあ行きましょうレンくん!」

 

 レンくんが心配そうに見てくるけどここは成長した私を見せる時! でも、もしも途中で倒れたらおんぶしてくださいっ!

 

 そ、そういえば下駄の鼻緒が外れたり切れたりして男の子におんぶされるっていう浴衣女子の定番イベントがあったような……

 

 でも、こんなふっとい鼻緒が切れることなんてある? 私の精神力よりも強そう。……鼻緒に負ける私のメンタルって一体……

 

 私がそんな風に勝手にへこんでいると、レンくんが自然に私の手を取ってくれた。ふ、ふふんっ! きょ、今日の私は年上の大人なお姉さんだからこの程度では動じませんよ~……えへへ♪

 

「俺、お腹空いたんだよね。ひとりは何食べたい?」

「あ、あっちにある唐揚げ串がいいです」

 

 そして私達は歩き出す。さっきみたいに、ぴったりと肩を寄せ合って。

 

 うん……やっぱり、君の隣にいるとすごくすごく安心する。心が温かくなって、君とこうしているだけで、君の笑顔を見るだけでこんなに元気が湧いてくるんだ。

 

 恋をするって、すごく素敵なことなんだね。

 

 知らなかった。だけど、知れて良かった。心の底からそう思います。ただ、もしも……もしも君も私と同じ気持ちでいてくれたら───

 

 高望みし過ぎかもしれない。いつもの私ならそんな希望的観測なんて絶対あてにしないし、誰かが私のことを好きになってくれるなんて、そんな期待……抱くわけがない。

 

 でも、私はもう───やめようと思う。

 

 言い訳して、逃げ道ばかり用意して、心に予防線を張って……自分の本当の気持ちから目を背けることを。

 

 うん、そう決めたらなんだか力が湧いてきた。さあ、前を向いて背筋を伸ばせ後藤ひとり! この思いを……私の本当の気持ちを届かせるために今の私に何ができるか。

 

 それは、今日を思い切り楽しむこと。

 

 そして、大好きな彼に思い切り楽しんでもらうこと。

 

 二人で一緒に楽しむんだ!

 

 私だけでも、彼だけでもなく二人で一緒に……だってその方が、ずっとずっと楽しいでしょ?

 

「あ、レンくん。お面を売ってますよ」

「ほんとだ。お面なんて小さい頃から買ってないな~」

「せ、せっかくだし買っていきましょう! 私がレンくんに似合いそうなものを選んであげますっ!」

「お? じゃあ俺もひとりに選んであげるよ。いや~、ひとりが何を選んでくれるか怖いけど楽しみだね」

「こ、怖いってどういうことですか……!? いいでしょう。どっちが相手に似合うお面を選べるか勝負ですっ!」

「……もはや結果は見えている」

「ふへへっ、私の勝ちは揺るがないということですね」

「どこからその自信が湧いてきてんの?」

 

 レンくんとこうやってとっても気安く会話をできていることに私は小さな感動を覚えていた。一年前はもっとレンくんは私を、よく言えば気遣ってくれて、悪く言えば介護してくれていた。でも、それからもっともっと仲良くなって……こんな風にレンくんが私に冗談を言ったりからかってきたりして、出会った時と比べたら私達の距離は本当に縮まったんだなって。

 

「よし、決めた。これにしよう! ひとりはどう?」

「あ、私も決めました。ふへへっ、私のセンスに驚いてくださいね」

「うん。慄くと思う」

 

 すごくかっこいいお面を選んだんですから! 私のセンスにレンくんもきっと涙を流して喜んでくれるに違いない! だってレンくんってバンドTシャツを作る時に私のデザインは「人類には早すぎる」ってすごく高く評価してくれたんだもん!

 

「俺はこれね。シナモロールのお面」

「あ、可愛い……」

「マイメロちゃんと迷ったけど……ひとりの髪色はピンクだから白の方が映えるかなって」

 

 シナモロール……確か子犬のキャラクターでふたりが好きだったはず。ふふ~ん、帰ったらふたりに自慢してやろーっと。「レンくんが私のために選んでくれたんだよ」って!

 

「わ、私はこれです。一目見た瞬間にビビッと来ましたっ!」

「プレデターじゃんこれ!? よくこんなの見つけたな!?」

「お、思わず叫んじゃうくらい気に入ってくれたんですね……こ、今回は私の勝ちということで」

「ほんとなんでそういうところだけ自信満々なの?」

 

 後でレンくんが言っていた「プレデター」について調べたんだけど……あの面の下ってものすごく気持ち悪い顔が隠れていたんだね。ち、違うよ!? レンくんの顔が気持ち悪いことを遠回しに伝えてるとかじゃなくて! むしろレンくんの顔ってすっごく整ってて羨ましいくらいだからね!

 

「でもやっぱり……ひとりは期待を裏切らないね」

「ふへっ……そ、それほどでも」

 

 最終的にレンくんは二つのお面を交互に見比べて笑っていて、そのままレンくんが二つともお面を買ってくれて、シナモンロールのお面を私に差し出す。

 

「つけてあげる、じっとしててね」

「あ、ひゃいっ……!」

 

 そしてレンくんが私の頭に手を伸ばしてお面をつけてくれた。セットした髪が崩れないように優しく。

 

 彼の手が私の髪に触れた時に少しだけ心臓がドクンと跳ねてしまい、私は彼に悟られないように平静を装うのでいっぱいいっぱいだった。

 

「うん、可愛い……もうちょっと斜め前の方がいいかな? これで……ヨシ!」

「あ、ありがとうごじゃいます……」

 

 自分だとどんな風になってるかわからないけど、レンくんが「可愛い」って褒めてくれたからきっとこれでいいんだよね。えへへ……嬉しい。

 

「あ、レンくんのお面は私がつけてあげ、あげましゅっ……!」

「じゃあ、お願いしようかな」

 

 私もレンくんにお返ししないと……いつもいつも彼に気遣ってもらってばかりじゃダメだからね。えーっと……どの辺につければいいのかな? さっきレンくんはちょっと斜め前って言ってたからこの辺? ほ、本当に?

 

 私がレンくんに近づいて髪に触れながら格闘していると、彼の琥珀色の綺麗な瞳が私を真っ直ぐに見ていることに気付き、私は顔が赤くなってしまったのを誤魔化すように慌てて顔を逸らした。

 

「こ、これでおっけー……です」

「ありがと、ひとり」

 

 彼が笑って喜んでくれている。たったそれだけのことがすごく嬉しい……嬉しいけど、それだけじゃダメなんだ。そこで終わってたらこれまでの私と何も変わらない。

 

 だから───

 

「れ、レンくんっ! 写真撮りましょう!」

 

 私は自分のスマホを取り出してレンくんにそう言った。レンくんは私の言葉を聞いてすごく驚いた表情をしていたけれど、すぐに優しく笑って頷いてくれる。

 

「じ、自撮りモードってどうすればいいんでしょうか……?」

「ここだね。ここをタップして……」

「あ、で、できましたっ……! じゃ、じゃあえっと……その……も、もっと……二人でくっつく感じで……」

「そうだね」

 

 レンくんが私の目線に高さを合わせるようにしゃがんでくれる。彼の顔がすぐ横にあって私の心臓がさっきよりもずっと激しく高鳴っていた。

 

 ど、どうか聴こえていませんように……

 

 私がそう願っているとレンくんは私の肩に手を回して、そのまま私をそっと抱き寄せる。

 

 あっ、ちょ……ちょっと待って……ちょっと待ってくださいっ……! い、今の私……すごく顔が赤くなってるから……そんな状態で写真なんか撮れな───

 

 直後にパシャリ、と自分のスマホから無機質なシャッター音が聴こえてきた。あ、あ、あ……緊張で手が震えてシャッター押しちゃった!

 

「な、なしっ! レンくん、今のなしっ!」

「なんで? 良い写真だよ? ほら、ひとりがこんなに恥ずかしがってるし」

「そ、それがいやなのっ! もう一回! もう一回!」

 

 駄々をこねる私を見てレンくんは笑いながら私の頭をポンポンと撫でてくれた。……あ、ちょっと落ち着いたかも。そうやって撫でられるの、好き……

 

 そしてその後はレンくんのスマホで写真を撮ってくれました。

 

 私のスマホで撮った写真は……せっかくだから残しておこう。き、記念だもんねっ!

 

 

 

 

 

 それから私達は屋台で食べ物や飲み物を買って、去年花火を見た穴場の展望台へとやってくる。今年もカップルが何組かいるくらいだったから落ち着いて見れそう。

 

「この前、全校生徒の前でやった演奏は大成功だったね。先生達も絶賛しててライブ審査の応援に来てくれるって言ってたよ」

「れ、レンくんが色々事前に根回ししてくれてたおかげで……いきなり当日にやれって言われたら困ってました」

 

 ウェブ審査を十位で通過した後、校長先生とレンくんが気を利かせて私と喜多ちゃんが学校のみんなの前で演奏する機会を作ってくれたんだ。次のライブ審査は実際に観に来てくれたお客さんが投票することになってるから、一人でもたくさんの人にライブ審査に応援に来てもらうための宣伝も兼ねてたみたい。

 

 演奏する曲もレンくんや喜多ちゃんと相談して、色々なバランスを考えた結果「ギターと孤独と蒼い惑星」にしたんだ。

 

 結束バンドで一番最初に作った曲だから思い入れもあるしね。

 

「し、新聞部の人達から取材も受けちゃって……こ、これはもう学校一の有名人なのでは?」

「取材を受ける前からひとりは有名だからあんまり変わらないよ」

「そ、そうだったんですね。い、いや~っ! 別にそんな目立つようなことしてないんだけどなぁ~っ!」

 

 ふ、ふへへっ……有名になっちゃったのなら仕方ないですね~! もっと早くサインを書けるように練習しておかなくちゃ!

 

「文化祭でダイブしたり始業式にピンクジャージで登校したりしてたじゃん」

「あひんっ!?」

 

 わ、悪目立ちっ!? そ、そういえば文化祭のダイブ動画がトゥイッターでかなりバズってたような……

 

 でもよかった……ダイブのせいで変なライターさんとかがいきなり突撃してきて記事にされたりしなくて……

 

 そんな風に二人でベンチに並んで座ってのんびり話しながら屋台で買った物を食べていると「ドンッ!」という大きな爆発音の直後に夜空に光の花が咲き誇った。

 

「花火、始まったね。あっちで見ようか」

「はいっ」

 

 レンくんがそう言って私に手を差し出してきた。私はその手を取ろうとして、ふと思う。

 

 ここが勇気の出しどころなのではないか、と。

 

 だから私は自分の指と彼の指、お互いの指を絡めるようにして手を握る。

 

 私、この繋ぎ方……好き。

 

 だって、この方が二人が強い絆で繋がってるって感じられるんだもん。

 

 レンくんはびっくりした表情の後に、すぐに頬を染めて私から目を逸らす。君も、そんな反応をするんだね……可愛い。

 

 もしかして、少しは私のことを意識してくれているのかな? だとしたらすごく、嬉しい……です。

 

 恥ずかしそうにしている彼が可愛くて、嬉しくて、でもちょっとだけ意地悪してみたくなって……私は彼にぴったりと身を寄せて花火を見る。

 

 花火はすごく綺麗だ。だけど私は今この瞬間が、この時間が夢のようで、ずっと頭の中がふわふわしていて、家に帰ったら今日どんな花火を見たのか全然覚えていないだろう。

 

 でも、それでいいんだ。君とこうして二人で同じ時間を共有している。それだけで心が満たされるから。

 

「ひとり」

 

 ふいに、レンくんが私の名前を呼んだ。

 

 彼の顔を見ると、さっきまでの恥ずかしさは消えていて、代わりにいつもの優しい笑顔を、私の大好きな笑顔を浮かべていた。

 

 

 

「約束───守ったよ」

 

 

 

 ああ、覚えていて……覚えていてくれたんだ……

 

 一年前に……二人で交わした約束を……

 

「来年も───一緒に花火を見に来よう」

 

 彼は一年前の今日、私にそう言ってくれた。そんな約束……覚えているのは私だけだと思ってた。

 

 なのに……なのに君は───

 

 

 

「俺がひとりとの約束、忘れるわけない」

 

 

 

 やっと、わかった。

 

 私が……私が君を好きな理由。

 

 山田レンくん

 

 私はね───君のことが好き。大好きだよ。

 

 入学式で君と出会って、独りぼっちだった私の手を引いて結束バンドと引き合わせてくれた。

 

 初めてのバイト、初めての路上ライブ、初めてのライブハウス、初めての作詞。君はいつもいつも、困っている私を助けてくれた。

 

 海に行って、フェスを観に行って、江の島に行って……夏休みはたくさん、たくさん一緒に遊んだね。

 

 文化祭では色々あって君に迷惑をかけちゃったけど……でも、あの日から私達はお互いを名前で呼ぶようになったんだよ。

 

 店長さんのお誕生日プレゼントを一緒に買いに行ったり、初詣に行ったり、バレンタインは人生で初めて手作りチョコを……君が一番好きなチョコをあげました。

 

 Tokyo Music Riseは準優勝ですごく悔しい思いをしたけど、私達の努力が認められてレーベルと契約して……それでも君は変わらずずっと私を、私達を支えてくれて、倒れて熱が出ちゃうくらいがんばってくれて。あの時は本当に心配したんだからね?

 

 そして、あの日

 

 みんなでよみ瓜ランドに行ったあの日

 

 君は私にこの感情の名前を教えてくれました。

 

「恋」を教えてくれました。

 

 君と出会ってからのことを振り返ると、私は君に支えられてばかりでした。

 

 でも、これからは違います。

 

 私が君の支えになりたい───いいえ、支えになります。

 

 他の誰でもなく、私が。

 

 君の隣で、ずっと。

 

「レンくん」

 

 私は彼の肩にそっと頭を乗せる。少しでも彼に近づきたくて。少しでも彼を感じたくて。

 

 そして私は決意した。

 

 私みたいな人間のことを好きになってくれるはずがない。

 

 そんな弱気なことを考える自分とはさよならだ。

 

「私───一番になるからね」

 

 君にとっての、一番に。

 

 他の誰にも、譲らないよ。

 

 何があっても、絶対。

 

 だって私は───君のことが世界で一番好きだから。  




 ぼっちちゃん回!

 次回は吉田銀次郎&虹夏回!

 多分あと4話で完結します! 順調にいけばね。

 残りは短いですが最後までお付き合いいただけると幸いです。

 ではでは、評価、感想、ここすき、誤字報告等ありがとうございました!

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