【完結】俺の姉貴はやべーヤツ   作:わへい

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#82 今でも好きだと言ってくれますか

 この一ヶ月、本当に色々なことがあった。

 

 たくさん悩んで、たくさん考えて……自分と、この感情と向き合って。

 

 もしかしたら、人生で一番自分の内面と向き合った時間だったかもしれない。

 

 だけど、そんな時間はもう終わり。

 

 これ以上、ウジウジするのは男らしくない。それに何より、あの人達に……彼女達に失礼だ。俺に好意を向けてくれた彼女達に、不義理な真似はしない。俺も、彼女達の気持ちに全力で応える。

 

 そう、決めた。

 

「姉貴」

「なに?」

 

 リビングのソファでだらしなく寝転んでいる姉貴に声をかける。すると、さすがに姉貴も俺が真剣な話をしたいと思っていることを理解したらしく、ちゃんと起き上がって俺を真っ直ぐに見てきた。

 

「俺さ」

「うん」

 

 まさか俺が姉貴にこんなことを言う日が来るなんて、思いもしなかったな。

 

「───好きな人ができたんだ」

 

 俺の言葉に、普段は無表情な姉貴が目を丸くして驚いている。ははっ、さすがの姉貴もそういう反応になるか。そりゃそうだよな。弟からいきなりこんなことを真正面から言われて驚くなっていう方が無理だ。

 

「……そう」

 

 姉貴が優しく笑って俺に近づいてくる。そして、俺の頭に手を置いてそのままゆっくりと撫で始めた。

 

()()()()

 

 そう言ってくるのが、実に姉貴らしい。やっぱり、心配してたよな。高校二年生にもなって、何人もの女の子と付き合ってきたくせに恋愛感情がどういうものか理解していない弟なんて……俺が姉貴の立場でも心配する。

 

 だけど、もう安心していいよ。

 

 俺はちゃんと認めたから。

 

 この感情を。

 

 俺はちゃんと理解できたから。

 

 人を好きになるってことを。

 

「だからそろそろ、姉貴も俺を安心させてほしい」

「虹夏が男だったら安心させられたのに」

「もしそうだったとしても、虹夏()()が姉貴を選ぶ理由がないんだよなぁ」

「選ぶ理由しかないと思うけど?」

「……どこが?」

「見た目と体」

「内面が終わってるけどな」

「性欲が服を着た男子高校生なんて人のいないところで胸を揉ませてやれば一発よ!」

「そんな度胸もない癖によく言う」

「度胸はなくても胸はある」

「うまいこと言ったつもり?」

 

 姉貴が頭を撫でていた手を止めて今度はほっぺたを引っ張ってきた。いやほんとにさ、安心させてほしいっていうのは俺の本心だからな? バンドが大成するしないは置いておくとして……良い人を見つけてほしいんだよ、まじで。

 

「虹夏にはもう言ったの?」

「いいや、まだだよ。姉貴が最初」

「ふふんっ。ならばよし」

 

 姉貴は露骨にご機嫌になって今度は抱き着いてきやがった。暑いからやめろや鬱陶しい。でも俺は抵抗する気にもなれず、姉貴にされるがままだった。

 

「虹夏ちゃんには今日、話をするつもりだよ」

「……そう。がんばって」

 

 絶対に、伝えなくちゃいけないんだ。虹夏ちゃんにだけには。今までたくさん甘えてきて、お互いに重たい感情を向け合ってて、その感情を清算することなくここまでずるずる引きずってて……

 

 これ以上、曖昧なまま誤魔化しておくのは俺達のためにならない。

 

 だからちゃんと伝えるんだ。

 

 俺はもう、大丈夫だよって。

 

「レン」

「なに?」

「まだ肝心なことを聞いてなかった」

 

 ああ、そういや俺も肝心なことを言ってなかったな。

 

「誰のこと───好きになったの?」

 

 

 

 

 

 

「すみません吉田店長。お忙しいのにわざわざ時間を作っていただいて」

「いいのよ~。他でもない山田ちゃんから『相談したいことがある』って言われたんだから~!」

 

 姉貴に報告をした後、俺は新宿FOLTを訪れていた。理由は、両親を除けば俺が最も頼りにしている大人である吉田店長に恋愛相談をするためだ。星歌さんはこういう話題だと全く頼りにならないからな! PAさんはえっち過ぎるし、やみさんは頼りになりそうだけど死ぬほど弄られるから却下。司馬さん? この手の話題だと絶対ぽんこつになる。俺にはわかる。

 

「えっと、それでですね……相談の内容なんですけど……」

「うんうん」

 

 やばい。姉貴にはさらっと言えたのに今になって恥ずかしくなってきた。吉田店長はニコニコしながら俺を見てるし……もしかしてこの人、俺が相談したい内容を察してたりする? ありえるな、男心と女心の両方を併せ持つ吉田店長なんだから。

 

 だ、だとしてもっ! やっぱりちゃんと俺から話を切り出さないと……ふー……ヨシ!

 

「お、俺……好きな人ができたんです」

「あら~♪」

 

 吉田店長(三十七歳のおっさん)が両手を握りながら乙女のような声を出す。くっ……姉貴とは全く違うリアクションだから恥ずかしい。喜多さんとかイライザさんっぽい反応だなこれ。

 

「以前、俺が恋愛感情について色んな人に聞いて回っていた時……吉田店長が言っていた『その人の隣にいるのが自分じゃなきゃ嫌だ』っていう言葉を思い出して……想像してみたんです」

 

 俺の好きな人が、俺以外の誰かの隣にいて幸せそうに笑っている。

 

 そんなの、耐えられるわけがない。

 

 その人の幸せを願うなら潔く身を引くべきだとわかっていても……それでも俺はその人の隣にいたいと思ってしまう、どうしようもないエゴ。でもきっと、そのエゴこそが人を好きになる───恋をするって意味なんだと思う。

 

「えっと……それで、ちゃんと思いを伝えようとは思うんですけど……俺、告白されたことはあっても自分から告白したことがなくて……どうすればいいかわかんなくて……」

「山田ちゃん、モテそうだもんね~」

「自慢になりますけど、俺はモテます」

「そういうところリョウちゃんにそっくりよ」

 

 仕方ないですよ。俺も姉貴も山田家の立派な血が流れているんだから。ただ、モテると自称する割には高校生になってからは彼女がいなかったけどね。多分、喜多さんやひとりがずっとそばにいたからだと思う。あの二人って見た目だけなら飛び抜けた美少女だからな。

 

「告白、ねえ……自分の思いを素直に、ストレートにぶつけるだけでいいと思うわ」

「自分の思いを、素直に……」

「そう。変に気取った言葉を使ったり洒落た言い回しなんてしなくていい。大事なのは、嘘偽りのない、飾らない自分の本心を───()()()()()()()()()()ということをしっかり伝える」

 

 吉田店長の言葉を聞いて、俺は過去に告白された時のことを思い出していた。確かに、俺に告白してきた女の子達はみんな正面から俺に好意を伝えてきたんだ。吉田店長の言う、気取った言葉なんて使わずに。そして、そんな彼女達の飾り気のない言葉に心を揺さぶられたものまた事実だ。

 

「格好つけなくていい。気取らなくていい。着飾らなくていい。だって、そんなことをしなくても山田ちゃんはとっても格好良くてとっても素敵な男の子なんだから。あたしが保証してあげる!」

 

 その言葉に背中を押されて、俺は心がフッと軽くなるのを実感した。

 

 そっか。そうだよね。一番大事なのは……俺の本心を、嘘偽りのない気持ちを伝えることなんだから。

 

 難しく考えるのはやめよう。俺はちゃんと彼女に「好きだ」と言うんだ。その結果が、たとえどうなろうとも……俺は絶対に後悔しない。だって、この思いをずっと隠したまま、伝えられないまま……勝負の土俵に上がる前に全てが終わってしまう方が後悔してしまうから。

 

「ありがとうございます。吉田店長に相談してよかった……」

「いいのよ~! あたしも嬉しかったわ。まさか山田ちゃんから恋愛相談されるなんてね~♪ 山田ちゃんが色んな人に恋愛について聞いて回っていたことが懐かしいわ」

 

 今にして思えば、あの時の俺は結構アホだったな。……これも全部喜多郁代って女のせいなんだ!

 

「がんばれ、男の子! 応援してるわ!」

「はい!」

 

 うん。ほんとにこの人に相談してよかった。多分これからも色々と頼らせてもらうことになると思いますがよろしくお願いします。俺の周りにはほんとに残念美人が多いので。

 

「それで~……山田ちゃんの好きな人って誰なの? 申し訳ないけど廣井だったら全力で阻止するわよ?」

「あ、それはないです」

 

 素面時ならともかく、酒が入ってるとねぇ……

 

「俺の好きな人は───」

「あーっ! 銀ちゃんと山田少年が内緒話してる~! うおぉ~い、きくりお姉さんを仲間外れにするなんていつからそんなに薄情になったんだ~?」

「……廣井、あんたってほんとに間の悪い女ね」

「えへへ~そんなに褒めないでよ銀ちゃ~ん」

 

 うざ絡みしてきた廣井さんを適当にあしらっているとイライザさんと志麻さんもやってくる。今日はヨヨコ先輩がいない日を狙ってきたから油断してたけど、SICKHACKの人達のスケジュールも確認しておくべきだったな。

 

「レン、銀ちゃんとどんなお話してたの~?」

「人生相談ですよ、イライザさん」

「じゃあ、私も相談に乗ってあげるネ! お悩み解決はイライザお姉さんにお任せあれ~!」

 

 イライザさんが得意気に胸を張ってお姉さんぶってくる。今日も相変わらず可愛いですね。

 

「あ、志麻さん。ライブ審査の前日は廣井さんをウチで監禁して良い感じにアルコールを抜いておきますから」

「ごめんね山田くん。こいつのことだからヤケ酒してオープニングアクトに間に合わないなんてことになるかもしれないから……」

「あれ? 山田少年、今『監禁』って言った? ねえ?」

 

 廣井さんが尋ねてくるけど俺は曖昧に笑って誤魔化した。

 

 吉田店長にためになるアドバイスを貰えたし……次は虹夏ちゃんの家に行こう。

 

 ちゃんとお話ししないとね。

 

 

 

 

 

「レンくんがあたしの部屋に来るのも久しぶりだね~」

「そうだね。前は入り浸ってた姉貴を回収するためによく来てたけど」

 

 レンくんがあたしの家にやってきた。

 

「大事な話をしたいから時間を取ってほしい」とお願いされてから数日、どんな話なんだろうと不安と期待が入り混じった不思議な感情があたしの心を支配していた。

 

 玄関のドアを開けてレンくんを迎えて、大好きな幼馴染が決意に満ちた表情をしているのを見て、あたしはレンくんがどんな話をしたいのかなんとなく理解してしまった。

 

「あれ? これ姉貴の漫画じゃ……」

「リョウが置いていきました」

「この服も……」

「リョウが置いていきました」

「ドローン……」

「リョウが置いていきました」

「ごめんね全部持って帰るから!!」

 

 あたしの部屋はベッド以外の全てをリョウに占領されている。最近はレンくんがあたしの家に遊びに来ることがほとんどなかったからストッパーがいなかったんだよね。仕方ないよ、リョウは野良ペルシャなんだから。気に入ったものをなんでもかんでも持ってきて置いて行っちゃうんだ。ほんとに猫の習性だよね。

 

「あたしのスペースはここだけだから。ほら、レンくんもこっちおいで」

「うん」

 

 あたしはベッドに座って隣をポンポンと叩く。いくら幼馴染とはいえ男女だし、ベッドはちょっと無神経だったかな? って思ったけど、レンくんは躊躇うことなくあたしの隣に座った。

 

「レンくん、警戒心なさすぎ」

「……虹夏ちゃんの何を警戒すればいいの?」

「あたしが実は狼さんでレンくんを襲っちゃうかもしれないよ?」

「こんな可愛い狼さんがいる?」

「……がおー」

 

 あたしが手を上げて襲い掛かる真似をすると、レンくんは笑いながらあたしの頭を撫でてくれた。あたし、レンくんにこうやって撫でられるの好き。ほわほわして安心してすっごく幸せな気分になって思わず甘えたくなっちゃうから。お姉ちゃんはあんまりこういうことしてくれないし……

 

「それで、レンくん。お話って何かな?」

 

 本音を言うとずっとこうやってレンくんとじゃれ合っていたいけど、今日はちゃんとお話をしなくちゃいけないんだ。気持ちを切り替えて尋ねると、レンくんはさっきのようにすごく真剣な表情であたしを見てきた。

 

「あのね、虹夏ちゃん……俺……」

「うん」

 

 レンくんは一度深呼吸した後に再び口を開く。

 

「───好きな人ができました」

 

 真剣な声色の中に、ほんの少しの気恥ずかしさと照れ臭さを含みながらレンくんはそう言った。あたしはそれを聞いて、静かに目を閉じてレンくんの言葉の意味を噛み締める。

 

 最初に感じたのは、安堵。

 

 次に、喜び。

 

 そして最後に───寂しさ。

 

 あはっ……寂しさを感じちゃうってことは、やっぱり()()()()()()なんだね。ずっとずっと昔からあたしが抱いていたこの感情のきっかけは、やっぱり()()()()()んだね。

 

「そっか───うん、よかった。おねーさん安心したよ。レンくんが……誰か、を……好きになって……ほんとに、本当によかった……」

 

 これは紛れもないあたしの本音。心の底から安心したし、喜んでいる。だけどその一方で、どうしようもない寂しさを感じていることもまた事実だ。

 

 わかってはいた。わかってはいたんだ。

 

 あたしじゃ君の一番になれないってことは。

 

 だからこれで、正解なんだ。

 

「ありがとう、虹夏ちゃん」

 

 優しく笑ってくれたレンくんの顔を見て、あたしは思わず彼にぎゅっと抱き着いてしまった。レンくんはそんなあたしを受け入れてくれて、優しく抱きしめてくれて、小さい子をあやすように背中をゆっくり撫でてくれる。

 

 そんな君だから……全部受け入れてくれる君だから……

 

「ごめんね、レンくん」

「なんで虹夏ちゃんが謝るの?」

「だってあたし、ずっとずっと……レンくんに甘えてたから。昔からレンくんのことが大好きで、でもあたし達は付き合ったりしないで、レンくんに一方的に重たい感情を向けちゃって……そんなあたしをレンくんはすんなり受け入れてくれて……あたしは君に、甘えることしかできなかった」

 

 あたしはレンくんの胸に顔を埋めて抱き締める力を強くする。今だってそうだ。こうやって彼の優しさに甘えてしまっている。自分でも、嫌になってしまうくらいに。

 

「虹夏ちゃん、顔……上げてよ」

 

 今の自分はきっとすごく情けない顔をしている。そんな顔をレンくんに見られたくなくて、でもレンくんの声がたまらなく優しかったから。

 

 顔を上げて、君を見る。やっぱり君はいつもみたいに何もかも受け入れてくれるような優しい笑顔をしていて。

 

 そして

 

 あたしの()にそっとキスをしてくれた。

 

「レンくん……」

 

 驚いた。まさか君がそんなことをするなんて。

 

 だけど、あたしは不思議とドキドキなんてしなかった。ううん、不思議と、じゃない。

 

 あたしは知っているから。額にキスをするその意味を。

 

 あたしは知っているから。君があたしに向けている感情の意味を。

 

「虹夏ちゃん、あのね。俺は……虹夏ちゃんのこと、重たいなんて思ったことはないんだよ。今までに、一度だって」

 

 あたしは、君がそういう人間だっていうことを……あたしは君のことを───世界で()()()によく知っている。

 

「むしろ、俺の方が甘えてたんだ。虹夏ちゃんのそういう感情に。俺は、人を好きになるってどういうことが()()()()()()()から……それを免罪符にして、虹夏ちゃんに甘えてたんだ。だから、謝るのは俺の方……ごめんね虹夏ちゃん。今までずっと、俺のせいで……抱え込ませちゃって……」

「レンくんが謝ることじゃない、もん……だってあたしが───」

「虹夏ちゃんが謝ることじゃない、よ……」

 

 レンくんが少し辛そうな表情になって言葉を詰まらせる。ああ、君にそんな顔をさせたくないのになぁ……あたしはそう思いながらレンくんの頬に手を添えた。

 

「なんだか、面倒臭いね……あたし達って」

「うん。面倒臭い者同士だ」

「……あはっ」

「……へへっ」

 

 なんだかおかしくなってあたし達は笑い合う。なんでこんなにも面倒臭い者同士でこれまでずっと仲良くやれていたんだろうね。何かちょっとでもすれ違いやボタンの掛け違いあったら……きっとこの関係は簡単に壊れてしまっていたんだろうなぁ。

 

「レンくん、あたしもね……」

「うん」

「君に言っておきたいことがあるんだ」

「言っておきたいこと?」

 

 レンくんが首をかしげる。びっくりするだろうなぁ……あたしがこんなことを言っちゃったら。君は一体、どんな顔をするんだろう?

 

 あたしは少しワクワクしながら不思議そうな表情を浮かべているレンくんを見る。

 

「あたしの初恋は───レンくん()()()

 

 あたしの言葉にレンくんは目を丸くして驚いている。あはっ、期待通りの反応だね。その驚き方、リョウにそっくりだよ? ……可愛い。

 

「あたしも今、自覚したんだけどね。レンくんに『好きな人ができた』って言われて、安心して……喜んで……でも、どうしても寂しくなっちゃって。だから……考えてみたんだ。なんで寂しくなっちゃったのかなーって。そうしたら……わかった。あたしがレンくんに、重たい感情を向けることになっちゃった理由が……」

 

 それが、初恋。ずっと昔、まだあたし達が小学生だった頃のこと。あたしも、リョウも、レンくんも、恋なんて全く考えていなかったあの頃。あたしの一番身近に居た男の子がレンくんで、一番仲の良い男の子がレンくんで、一番好きな男の子がレンくんだった。

 

 その時の、昔のレンくんに対する「好き」があたしの初恋だったんだ。 

 

 昔のレンくんは、今みたいに自分に向けられる感情の意味をちゃんとわかっていなかったから、あたしの気持ちに気付けなかった。だけど仕方ないよね。だってあたし自身、今気付いたんだもん。

 

 そしてお互い、そういう感情を知らないままどんどん仲良くなって……それこそ、家族のような関係になって、いつの間にか重たい「愛」になっていたんだ。

 

 それらをすべて理解した時、あたしは自分の心がすーっと軽くなるのを実感した。

 

「全然、気付かなかった……」

「あたしも今の今まで気付かなかった」

「……やっぱり、俺達って面倒臭い似た者同士だね」

「うんっ!」

 

 またおかしくなって、あたし達は再び笑い合う。さっきまでの重たい空気はどこにもない。昔の、それこそ小学生の頃のあたし達に戻ったみたいだった。

 

「ねえ、レンくん」

「んー?」

「あたしね、初恋相手がレンくんでよかった。君のことを───好きになれてよかった」

 

 心の底から、そう思う。これを失恋と呼んでいいのかどうかはわからないけど……あたしは失恋って、もっと辛いものだと思っていた。泣き出したくて、何もかも嫌になって。もう二度と、誰も好きになれないんじゃないかって───

 

 でもね、そんなことないんだよ。

 

 失恋って、辛いことばかりじゃないんだよ。

 

 少なくとも、あたしはそう。

 

 あたしはね、これでやっと……前に進める。ずっとずっと抱えていた重たい感情を清算できる。

 

 あたしが君に抱いていた思いは、届かなかったこの思いは、今のあたしの背中を押してくれて、あたしを一つ大人にしてくれた。

 

「だから───ありがとう」

 

 そう言って、あたしは()()()()キスをする。あたしから、大好きな君へ。精一杯の「愛」を込めて。

 

「俺の方こそ、ありがとう。本当に……本当に嬉しかった。俺のこと、好きだと言ってくれて」

 

 レンくんが、もう一度あたしを強く抱き締める。彼の匂いと温かさと優しさに包まれて、あたしはこの上なく幸せな気持ちになった。

 

「ねえ、レンくん」

「んー?」

「もしも……もしもだよ? もしも、あたしが初恋を自覚できていて……()()()()『好きだ』と言っていたら……あたし達はどうなっていたかな?」

 

 尋ねながら、あたしはレンくんがなんて答えるのか予想ができていた。

 

「きっと、付き合って……そのまま結婚してたんじゃないかな?」

「うん、あたしもそう思う」

「それで、姉貴は空気を読まずに俺達の新居に入り浸って三人で生活するようになって……」

「あははっ! ご飯の味付けに文句を言ったりしてね」

「それは今もそう」

 

 不思議と、そんな未来が容易に想像できてしまった。だけど、そんな未来が訪れることはないんだよ。絶対に、ね。

 

 だけどあたしは悲しくない。だって、あたしはきっと()()()()()()に君の幸せを願っていて、あたしも自分自身の幸せのために歩き出せるってわかったから。

 

 あたしはもう大丈夫だよ。

 

 だから安心してね。

 

 君は君の幸せを掴んでください。

 

「ねえ、レンくん」

「んー?」

 

 だけど、最後にどうしてもこれだけは言わせてほしい。

 

 あたしからの君への我儘(あい)を。

 

「君はこれからも、あたしの大好きな幼馴染でいてくれますか? 今でもあたしのことを───()()()()()()()()()()()()?」

 

 あたしの問いに、レンくんは迷いなくこう言った。

 

「君はこれからも、俺の大好きな幼馴染でいてくれますか? 今でも俺のことを───()()()()()()()()()()()()?」

 

 これが───あたしと君が選んだ世界。 




 本作の虹夏ルートはこれで終了。

「あたしの、最高のおさななじみ」ENDですね。虹夏にとっては二番目に良い結末でした。

 虹夏はもう激重感情を抱くことはないし、しっかりと清算できたのでちゃんと自分の幸せのために前に進めます。

 ただ、レンくんの彼女に対して山田と一緒に小姑面するかもしれませんがね。

 今回のサブタイトルは「66号線」の歌詞からです。

 個人的に虹夏のイメージソングの一つなのでぜひ聴いてみてください。名曲です。

 次回はライブ審査! いよいよ未確認ライオットも大詰めですね!

 ではでは、評価、感想、ここすき、誤字報告等ありがとうございました!

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