【完結】俺の姉貴はやべーヤツ   作:わへい

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#83 あー つらいつらい もてる男は 人がうらやむ 悩み

「母さん、俺は会場の準備があるから先に行ってくるね。時間になったら姉貴を起こしてあげて」

「わかったわ~。レンくんも気を付けて行くのよ?」

「うん。わかってる……あと、車出してくれてありがとう。夏に歩いて機材を運ぶのってすごく辛いから、虹夏ちゃん達がお礼言ってたよ」

「いいのよ~、とっても珍しいレンくんのお願いだもの。私もお父さんと一緒に応援に行くわね~」

 

 いよいよライブ審査当日、俺は新宿FOLTの会場設営があるため姉貴達よりも早く出発することになっている。さすがの姉貴も今日が本番だから寝坊はしない……と思うけど姉貴だからな。虹夏ちゃん達にちょっと早めにウチに来てもらうか。

 

「よし、じゃあ行きますか廣井さん」

「あっはい。行きましょう山田くん」

 

 そして俺は志麻さんに宣言した通り、昨日からウチに監禁してゆっくりじっくりアルコールを抜いた廣井さんを伴って家を出る。素面のコミュ障モードになった廣井さんは、俺から二メートルほど離れてついて来ていた。

 

 わかってたけど酷いなこれ。入学当初のひとりを思い出す距離感だ。酔っぱらってるとベタベタウザ絡みしてくるのに……この人も0か100しかないのか。新宿FOLTについたら適度にアルコールを与える必要があるな。志麻さんにロインしておこ。

 

「そういえば廣井さん」

「あっはいなんでしょうもしかして距離が近過ぎましたかごめんなさいあと十メートルほど下がりますからなんなら別の電車で行きましょう私は一本……いえ三本ほど後の電車で向かいますので」

「いや逆逆! 下がらなくていいですから! むしろがんばってあと一メートルくらい近づいてください! この微妙な距離が逆に気まずいですって!」

 

 廣井さんは俺から全力で視線を逸らして早口の小声でそう捲し立てる。いやほんとに別人だなこの人。今後は素面の状態でもきちんとコミュニケーションができるようにしていくべきかな。医者からお酒を止められたら人前で演奏や唄なんて絶対できないだろうし。理想としては素面でもいつものパフォーマンスができるようになることなんだけど……

 

 できれば志麻さんがとっくにやってるよなぁ。まあ、ウチの病院に定期的に通ってもらうか。医学的な方面から攻めてみよう。

 

「俺、個人的にはオープニングアクトって『育成の場』って思ってたんですよね。だからSICKHACKみたいな有名どころがやることになるって聞いて珍しいなって。こういうことは結構あるんですか?」

「あっはい。確かに山田くんの言うように『育成の場』という側面もあります。ただ、今回は会場が新宿FOLTなので一番盛り上げ役に適している私達が抜擢されまして……それと、若手バンド達にプレッシャーをかけるという意味で大御所バンドがオープニングアクトを務めることもあります」

「あー、確かに……先輩方のプレッシャーに勝てないようじゃこの先やっていけないですしね」

「た、たまに『オープニングアクトなんていらない』という声を耳にしますが、私はそうは思いません。確かに、目当てのバンドを観に来た人達にとっては退屈な時間に感じることもあるでしょう。だけど、オープニングアクトを任されるバンドというのはメインのバンドと親交が深いことが多く、お客さんが目当てとしているバンドをリスペクトしている可能性が高い。つまり、そのバンドが()()()()()()()()()()で『今までこのバンドのことは知らなかったけど好きな音楽!』と思うようになるかもしれない。実際、オープニングアクトでなければ耳にしないようなバンドも無数にあります。そんな無数のバンドの中で私達が出会えるのはほんの一握り……でも、その一握りの中で『自分が知らないバンドと出会える』というのはとても魅力的で……それこそがオープニングアクトの最大の存在意義だと私は思います」

 

 てっきり完全に無口になるかと思ったらいきなり饒舌になった。でも、言ってることはすごく熱くて納得ができて俺自身めちゃくちゃ勉強になるな。なるほど、オープニングアクトの存在意義……俺もライブは数えきれないくらい観てきたけど、そこまで深く考えたことはなかったな。

 

 結束バンドもSICKHACKのオープニングアクトを任されたことがあったけど、今になって思えば相当な信頼と実力がなければそんな場を任されたりはしない。ましてや、今回みたいなライブ審査のオープニングアクトならなおさらだ。

 

 自分達が審査の対象じゃないからって中途半端な演奏は許されない。いやむしろ「メインのバンドを食ってやる」くらいの気持ちでやらなきゃいけないんだな。

 

 ライブって、奥が深い。だからこそ、こんなにもたくさんの人が熱中するんだろう。

 

「あ、あああああああああああああああっ!!!! い、いいいいいきなり饒舌になってすみません気持ち悪かったですよねごめんなさい二度と調子に乗らないよう今から物理的に唇を縫い付けますのでちょっとそこのお店で裁縫道具を買ってきます!!」

「ちょいちょいちょい! 行かなくていいですから! めちゃくちゃ良い話を聞かせてもらってお礼を言いたいくらいですから!」

 

 廣井さんがおめめぐるる状態でお店に飛び込もうとしたので思わずその手を掴んでしまう。

 

「きゃっ……!!」

 

 ……きゃっ?

 

 今、この人……「きゃっ!」って言った? あの廣井さんが? 四六時中酒を飲んでて電気や水道を止められてびーびー泣いてた廣井さんが? ゲロを吐く時におっさんみたいにえずく廣井さんが? 志麻さんにシバかれて豚のような悲鳴をあげる廣井さんが? 

 

 こんな年頃の女の子みたいな悲鳴を?

 

 星歌さんが「昔の廣井は可愛かった」って言ってたのも納得だわ。うん。

 

「廣井さん、お口チャック、しなくていい、わかりますか?」

「きくり、お口チャック、しない、わかりました……」

「ならばヨシ! さあ、行きますよ」

「は、はひぃ……」

 

 さすがに廣井さんの手は離してあげることにしよう。このことがきっかけで俺のことを怖がったりしたら……その時はその時だ。だけどそれは杞憂だったようで、さっきは俺の二メートルくらい後ろをびくびくしながらついて来ていたけど、今は一メートルくらいに縮まっている。目は相変わらず合わせてくれないけど。

 

 まあいいや、俺の使命は「廣井さんを時間に遅れさせることなく新宿FOLTに送り届けること」なんだから。

 

 

 

 

 

「おはよーございまーす!」

「お、おはよう、ご……ございます……」

「山田ちゃん、廣井、おはよう。今日もよろしくね~♪ 廣井は良い感じにアルコールが抜けてるわね」

「あっはい。いつもご迷惑をおかけして申し訳ありません」

 

 廣井さんを気にかけつつ新宿FOLTへやってくると、吉田店長や他のスタッフさん、志麻さんとイライザさんもすでに来ていたようだ。ちょっと遅かったかな? 予定の時間より結構早めに来たつもりだったけど。

 

「志麻さん、廣井さんは仕上げておきましたんで……あとはアルコール調整お願いします」

「任せてくれ。ライブで使い物になる程度に酔わせておくから」

「あ、志麻さん。いつもいつもライブでご迷惑おかけして申し訳ありません。機材ぶっ壊して申し訳ありません。打ち合わせとかほとんどバックレちゃって申し訳ありません」

「……素面だと素面で面倒だな」

「え~? 私はこのきくり、可愛げがあって結構好きだヨ~!」

「ひ、陽のオーラ……あっあっあっ……い、イライザさん……だ、抱き着くのはちょっと……あっあっ……!?」

 

 素面の廣井さんにイライザさんが抱き着いて廣井さんが死にかけている。ほんとにこういう廣井さんは新鮮、というかひとりとの共通点が多いな。……ということはひとりも酒を飲んだら廣井さんのようになる可能性が高いということで。

 

 正月に甘酒で酔っ払ってたけど……ひとりには極力酒を飲ませないようにしよう。今思えば、廣井さんといいやみさんといい俺の周りには酒癖の悪い人が多いな。

 

「山田ちゃんは今日一日これをつけておいてね。それと、未確認ライオットのスタッフ用Tシャツも渡しておくわ」

「ありがとうございます」

 

 俺は吉田店長からスタッフ専用の吊り下げ名札を受け取り首にかける。Tシャツもあるとは思わなかったけど……あとで着替えておこう。

 

「ねーねー、レン」

「どうしました?」

 

 志麻さんが廣井さんにアルコールを注入するために楽屋へ連れて行き、俺も会場設営を手伝おうとしたところでイライザさんに声をかけられた。

 

「この前銀ちゃんにどんな相談してたの~?」

「……人生相談ですよ」

「だからどんな~?」

「内緒です」

「えー? 銀ちゃんばっかりずーるーいー! 私だって喜多ちゃんのお悩み解決がんばったのにナ~。レンのことも助けてあげたいのにナ~。銀ちゃんには話せて私には話せないんだ~。あーあ、イライザお姉さん悲しいナ~」

 

 イライザさんがわざとらしくほっぺたをぷくーっと膨らませて俺を見てきたので思わず笑ってしまった。別に話せないことはないんですけど、単純に恥ずかしいんですね。

 

「……内緒にできます?」

「できるできる~!」

「ほんとにお口固いですか?」

「固い固い~! カッチカチだヨ!」

 

 ほんとかなぁ? 

 

 疑ってみるけど、俺は目の前でものすごく天真爛漫な笑顔を浮かべているイライザさんに勝てる気がしなかった。

 

 俺も大概この人に甘いよな。

 

「あんまり大きな声で言いたくないので……ちょっとお耳を貸してください」

「んっ」

 

 俺は少ししゃがんでイライザさんに耳元に唇を寄せる。あ、イライザさんの髪めっちゃ良い匂いする。

 

「俺、好きな人ができたんです。それで、どうやって告白すればいいか吉田店長に相談して───」

「きゃーっ♪」

 

 ちょっとぉ!! お口固いって言ってたじゃないですか!! そんな可愛らしい悲鳴を上げたら……ああ、案の定他の人にめっちゃ見られてるし。

 

 で、イライザさんはイライザさんでわざとらしく両手をほっぺたに当てて顔を左右にぶんぶん振ってるし。ほんとにあざといなこの人。

 

「(ねえねえ、誰のこと好きになったの?)」

「(内緒です)」

「(え~、それくらい教えてくれてもいいでしょ~?)」

「(恥ずかしいから嫌です)」

「(も~! 強情だネ、レンは。……あ、もしかして私?)」

「(違います)」

 

 二人でこしょこしょと話をしていて、俺がイライザさんの言葉を即否定するとが彼女はジト目になって俺のほっぺたを引っ張ってきた。ここで「そうです」って肯定したらしたでめっちゃ困ってたでしょ?

 

「(む~っ……まあいいや。レン、私が前に言ったこと……覚えてるよネ?)」

「(恋は戦争、ですよね? ちゃんと覚えてますよ)」

「(偉いぞ~よしよし。じゃあ、レンの恋がうまくいったらお祝いしようネ! フラれちゃったら……私が慰めてあげる)」

 

 イライザさんが色っぽく笑いながらそう言った。フラれるとか……多分一週間くらい寝込むのでそんなこと言わないでくださいよ。

 

「(何か美味しい物食べに連れて行ってください)」

「(お任せあれ~!)」

「(あと、他の人には内緒にしてくださいよ?)」

「(安心したまえ! この清水イライザ……人の恋路を邪魔するほど野暮な女じゃないんだヨ! じゃあ、色々がんばるのだ少年! おねーさんがついてるからネ!)」

 

 イライザさんはそう言って俺の頭を撫でた後、廣井さんの様子を見るために楽屋へと入っていった。

 

 なんか……嵐みたいだったな。だけど……もしも俺がイライザさんと同じくらいの歳で新宿FOLTで働いてたら、俺はあの人のことを好きにならない自信がないよ。ほんとに。

 

 ……さて、俺も着替えて仕事をしますかね。

 

 

 

 

 

「あ、レンさんがもう仕事してるっすよ」

「ほんとだ。お~い、レンくーん!」

 

 しばらく会場設営やら機材のセッティングのお手伝いをしているとSIDEROSのみんながやってきた。あれ? まだ出演バンドの集合時間にはかなり早いんだけどな。

 

「みんなおはよう……って、大槻先輩大丈夫ですか? いつにも増して目がやべーことになってますよ」

「大丈夫よ。全く眠れなかったけどモンエナとレッドブルを飲んできたから」

「逆にヤバいですって!? ほんとに大丈夫ですか!? まだ時間はありますから奥の仮眠室で休んでても……」

 

 俺がそう言うとヨヨコ先輩は怪しく笑って俺を上目遣いに見てきた。

 

「心配性なのね、()()は。でも平気よ……ありがと」

「あ……え? せ、先輩……今、名前……?」

 

 名前で呼ぶのは二人の時だけって……

 

「別にもう……隠すことじゃないでしょう?」

 

 先輩の言葉に顔が熱くなるのがわかる。そ、その言い方は反則ですよ。

 

「目の下の隈がなければもっと効果的でしたね」

 

 でも俺は、なるべく平静を装ってそう返した。すると先輩は俺の照れ隠しを見抜いているかのように余裕の笑みを浮かべる。くっ……これまでだったら俺のこういう軽口に先輩は過剰反応してたのに。

 

 あくびちゃん達三人もニヤニヤしてて……確信犯だな!?

 

「レン」

「はい」

「私()───私()()絶対負けないから。ちゃんと見てなさいよ」

 

 ヨヨコ先輩はそれだけ言って楽屋へと向かっていく。私「達」はともかく私「も」っていうのは、そういう意味なんだろうな。

 

「そういうことっす」

「勝つのは私達だからね~」

「山田さん、中途半端な真似をしたら呪いますよ~」

「幽々ちゃんだけ怖くない!?」

「前髪の生え際前線が北上する呪いを……」

「男に髪と身長と加齢臭の話題はNGだっ!」

 

 三人も怪しく笑いながらヨヨコ先輩に付いて行く。あくびちゃんとふーちゃんはともかく……幽々ちゃんの呪いは洒落にならない。あの子なら本気でできかねないし。おーこわっ……

 

 そして俺は無意識の内に前髪の生え際を触りつつ、幽々ちゃんの呪いにちょっぴり怯えながら仕事へと戻ることにする。

 

 それから約一時間ほどかけて設営が終わり、あとは未確認ライオットの運営委員会の人達が細かいチェックや演出の確認をしていた。ここまで来れば俺のやることは半分終わりで、あとは片付けくらいだな。受付は吉田店長が気を利かせて俺を外してくれたみたいだし。

 

 俺達が準備している間にも他の出演バンドがどんどん集まり、東京三強の一角であるケモノリアもすでに到着していた。

 

 あと、到着していないのは結束バンドだけ。

 

 まだ集合の時間に余裕があるとはいえ重役出勤だな。どうせ姉貴が寝坊したんだろうけど。

 

「おはよーございまーす! 今日はよろしくお願いしまーす!」

 

 そんなことを考えていたら入り口から虹夏ちゃんの元気な声が聞こえてきた。ひとり、喜多さん……姉貴もちゃんといるな、ヨシ!

 

「おはよう虹夏ちゃん。結束バンドが一番最後だよ」

「おはようレンくん。……最後なのはね、リョウが全然起きなかったからなんだよ」

「知ってた」

「だからみんなで直接リョウの部屋に突撃して叩き起こしてあげたんだ」

 

 ほんとにごめんね! こんな時まで姉貴が迷惑かけちゃって!

 

「あ、そうそう。レンくんがおばさんに車を出してくれるように頼んでくれたんだよね? すっごく助かったよ! ありがとう!」

「いえいえ、これくらい。夏の機材運搬の辛さは……俺もよーく知ってるから」

 

 ギターケースとか背負ってると背中が汗でべっちゃべちゃになるからね。

 

「はー……緊張してたけどレンくんの顔を見たらちょっと安心したわ。ね? ひとりちゃん」

「あっはい、そうですね」

「二人とも、昨日はちゃんと眠れた?」

「正直言うと三時間くらいしか眠れなかったのよ……緊張しちゃって」

 

 俺が尋ねると喜多さんが恥ずかしそうに答えた。

 

「わかるよ、俺もあんまり眠れなかったから。でも、これまで積み上げてきたものが大きいからこそ、そう感じてると思うんだ。演奏だけじゃなくて、今感じている不安や緊張も全部ひっくるめて未確認ライオット───ライブなんだ……この経験をこれからの糧にしようね」

「そうね! ここまで来たんだからあとは全力でやるだけよ! レンくんもたまには良いこと言うのね!」

「たまにはは余計だよ」

 

 フッと、固くなっていた喜多さんの体から緊張が取れるのが目に見えてわかった。大勢の人の前で話したり歌ったりすることに慣れている喜多さんとはいえ、まだ十六歳の女の子。ギターを初めて一年数ヶ月、フロントマンとしての経験はもっと少ない。

 

 だけど、三月のTokyo Music Riseから今日までで一番成長したのは間違いなく彼女だ。 そう断言できる。

 

「ひとりはどう? 眠れた?」

「あっはい布団に入ったら五秒で眠りについて朝は雀の鳴き声で目が覚めて非常に爽やかな一日のスタートになってふたりと一緒にラジオ体操をして優雅なモーニングタイムを……」

「本当は?」

「ごめんなさい嘘つきました本当は一睡もできませんでしたあっでもふたりとラジオ体操をしたのは本当です!」

 

 ひとりがいつものように嘘をついて一瞬でそれを認める。ある意味いつも通り過ぎて心強いよ、うん。

 

「まったく……最近の若者は繊細過ぎる。寝坊するくらい爆睡だった私を少しは見習ってほしい」

「その神経の図太さだけはな」

 

 確かに爆睡してたけど昨日の夜は露骨に緊張してただろうが。今は大丈夫みたいだけど。

 

「もういい!! 今日限りで解散だ!!」

「恥晒すよりマシだからいいけど?」

 

 結束バンドのみんなと話していると、少し離れたところで何やら言い争っているような声が聞こえてきた。

 

 ……気のせいかな? あの声にものすごく聞き覚えがあるんだけど。

 

「なんでわかってくれないんだ!! 前のライブは武田信玄がダメだったから今度は誰もが知ってる徳川家康でやろうっていうナイスアイデアだったのに!!」

「武将の問題じゃないんだよバカ! ギターを軍配に見立てること自体が面白くないんだっての!」

「そ、そんなはずはないっ!! 前のライブだってみんな本当は笑いを堪えていたはずなんだ!!」

「あんたのその自信はどこからきてんだよ!?」

 

 視線を向けるとそこにいたのは予想通りケモノリアの四人だった。どうやらシンセボーカルのリーダーさんが性懲りもなく一発芸を披露しようとしているらしい。この未確認ライオットのライブ審査で。どんだけ勇者だよ。メンタル強いとかそういう次元じゃねーぞ。

 

 結束バンドもみんなも「あれがケモノリア?」って信じられないものを見るような目をしてるし。ひとりだけは「え? 面白くないですか?」みたいな顔をしてたけど。そうだよね。君とあの人はギャグセンスがそっくりだったよね。

 

「あっ!」

 

 彼女達の方を見ていると、不意にシンセボーカルさんと目が合った。途端に彼女は目をキラキラさせて俺の方へ駆け寄ってくる。

 

 うん、嫌な予感しかしない。

 

「山田くんっ……? やっぱり山田くんだ! 前のライブ以来だね。まさか君がここのスタッフだったとは……教えてくれてもよかったじゃないか」

「どうも、お久しぶりです。今日は臨時で助っ人に入ってるだけですよ」

「そうなのか……それよりも聞いてくれ! 私は前回のライブの反省を生かして今回はギターを軍配に見立てて『徳川家康っ!』ってやろうとしたんだけどメンバーに大反対されたんだ! 山田くんからもあいつらに何か言ってやってくれないか!?」

「ライブ審査落ちますよ」

「私にとどめを刺してきた!?」

 

 俺の一言にシンセボーカルさんは膝から崩れ落ちる。だけど俺は謝らない。だってそんなギャグを披露したら絶対に演奏が台無しになってろくな結果にならないから。ケモノリアが一発ギャグで自滅したおかげで勝ち上がりましたとか……ちょっと胸中複雑すぎるわ。

 

「そ、そんな……あの時、私(のとち狂ったダイブ)を全力で受け止めてくれた君なら理解してくれると思ったのに……」

 

 シンセボーカルさんの言葉に、結束バンド四人の視線が俺に突き刺さる。いやいや、誤解だからね? というか、ケモノリアのライブで何があったかはちゃんと説明したじゃん!

 

「おい、他のバンドさんに迷惑をかけるんじゃ……あ、山田くん。久しぶりだね、こんにちは」

「お久しぶりです。とりあえず一発ギャグはやめた方がいいですよ、絶対」

「ああ、シバき倒してでも阻止するよ」

「ウチらのこと覚えてますか~?」

「もちろんですよ。ケモノリアのみなさんのことを忘れるわけないじゃないですか」

 

 演奏技術、歌、バンドとしての完成度はSIDEROSに次いで飛び抜けている上に、観に行ったライブであんな衝撃的な体験をしたからね。忘れたくても忘れないよ。

 

「このバカ! よりによって()()()()()()()()迷惑をかけやがって!」

「ひぃんっ!」

 

 ドラムさんがシンセボーカルさんの頭をひっぱたく。ってちょっと待って! 今、なんて言いました?

 

「あたし達のこと……知ってるんですか?」

 

 俺が思っていた疑問を虹夏ちゃんが代弁する。

 

「もちろん。Tokyo Music Rise 準優勝、下北の若手ナンバーワンバンドと名高い結束バンドさん。お噂はかねがね……はじめまして、ケモノリアです」

「あ、け、結束バンドのリーダー伊地知虹夏です!」

 

 ドラムさんが手を差し出してきたので虹夏ちゃんがその手を握り固い握手を交わす。……あれ? リーダーってシンセボーカルさんじゃなかった? これもドラマーの宿命か。

 

「曲……拝聴させていただきました。私達とジャンルは違えど、熱い魂や情熱を感じ、バンドの在りを方を全力でぶつけられた素晴らしい曲ばかりでした。あなた達と対バンできること、光栄に思います」

「あ、あたし達もケモノリアさんの曲を聴いて……ライブ映像を見せていただいて、たくさんたくさん刺激を受けました! 今日は胸を借りる───つもりなんてありません! あなた達に絶対に勝ちます!」

「ふふっ。お手柔らかに……なんて言わないよ。私達も全力で勝ちに行きますから」

 

 虹夏ちゃんとドラムさんがお互いの思いをしっかりとぶつけ合う。嬉しいね。ケモノリアの人達に認知されてて、しかも実力を高く評価してもらえてて。

 

「山田くん」

「なんすか?」

「リーダーの私が軽んじられている気がするんだが?」

「残念でもなく当然です」

 

 やっぱこのシンセボーカルさん、完全に「残念お姉様枠」だな。星歌さんとか司馬さんとか廣井さんと仲良くできそう。

 

「私達を忘れてもらったら困るんだけど?」

 

 虹夏ちゃんとドラムさんが青春している横で俺がシンセボーカルさんを慰めていると、今度はヨヨコ先輩が絡んできた。あくびちゃん達は姉貴や喜多さんと話してるな。ひとり? ひとりはケモノリアの人達が来た瞬間から人見知りを全力で発動させて心を閉ざしてメタモンみたいな顔になってるよ。

 

「SIDEROS……大槻ヨヨコさん、今大会の優勝候補ナンバーワンですね。もちろん忘れてなどいませんよ。あなた達に勝つために、ここへやってきたようなものですから」

「あたし達だって大槻さん達を、SIDEROSのみんなをずっと目標に……いや、超えるために練習を続けてきました。その集大成が……今なんです!」

「優勝候補と言われようとも、実際に私達は何かを成し遂げた訳じゃない。玉座で踏ん反り返るような真似なんてしないわ。私もあなた達と同じ挑戦者───だけど、勝つのは私達」

 

 東京三強のリーダー(一人はリーダーじゃないけど)が演奏前からバチバチに意識し合ってる。いいねー、実に青春だ。お互いがお互いを意識し合って研鑽し合って高め合う……理想の関係じゃないかな。

 

 俺を間に挟んだやりとりでさえなければね!

 

「あそこにいるのって……SIDEROSとケモノリア、それに結束バンドだろ?」

「真ん中のイケメン、何者? スタッフのTシャツ着てるけど……」

「修羅場か? まさか三つのガールズバンドに手を出したとか……」

「あれ? ケモノリアのリーダー、なんか泣いてね?」

「わかった! 未確認ライオットで優勝したバンドがあの少年をモノにできるって展開だろ!」

「あー、なるほど。実にロックしてんなぁ! 青春青春!」

 

 やめろやめろやめろ! やめろください! 変な誤解を広げないでください! 

 

 ちょっと! 新宿FOLTの同じバイト仲間さん! 笑ってないで未確認ライオットのスタッフさん達の誤解を解いてくださいよ! あ、だめだ。あの人達面白がって遠巻きに見てるだけだ。

 

「見てくださいリョウ先輩。まるでレンくんが三股クソ野郎みたいですね!」

「居心地悪そうにしているレン……あれは実にレアな表情だ。そうそうお目にかかれるものじゃない」

 

 おいてめえら! 大事な弟と大事なお友達があらぬ誤解を受けてるのに助けようって気はないんか!?

 

 ひとりは仕方ない。知らない人がいっぱいだから仕方ない。むしろ爆発しなかっただけ偉いね! よしよし!

 

「なんかレンくんが可哀想になってきたね~」

「助け船出してあげるっすか?」

「幽々の予想だとそろそろ救世主が現れる気がします~」

 

 なんでSIDEROSの子達の方が俺を心配してくれてるのかな!? ありがとね三人とも! 大好き!

 

 ちくしょう……誰か……誰か助けてくれ……何も悪いことしてないのになんでこんなに追い詰められてるんだよ……

 

 誰でもいい───いやよくない。誰でもはよくない。決してよくない。絶対に。

 

 誰でもはよくないけど助けてください。

 

 具体的には志麻さん吉田店長イライザさん!

 

 お願いですから助けてください志麻さん吉田店長イライザさん!

 

 何でもしますから助けてください志麻さん吉田店長イライザさん!

 

 

 

 

 

 

「山田少年が!! 助けを求める顔してた!! うおおおおおおおお!! 今行くぞ少年! きくりお姉さんに任せろーーーっ!!」

 

 四分の一で最悪なの引いたあああああああああっ!!!!




 本当は今回でライブ審査を終わらせるつもりでした。でも、そうはならなかった。ならなかったんだよぼっち。

 色んなキャラと遊ばせていたらあっという間に文字数がとんでもないことになったのでここで区切ります。

 次回で絶対にライブ審査を終わらせます。

 ちなみにですが、今回は繋ぎ回兼ギャグ回に見えて次回への露骨な伏線を張っていたりします。

 私の伏線の貼り方が超絶下手くそなので気付く人は気付くでしょう。答え合わせは次回でね!

 私が余計なことを思いつかなければ完結まであと三話!

 どうぞ最後までお付き合いください!

 ではでは、評価、感想、ここすき、誤字報告等ありがとうございました!
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