【完結】俺の姉貴はやべーヤツ   作:わへい

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 過去最高文字数です。覚悟してください。



#85 Stage of the riot / ───意味の───宝

「レンく~ん、来たわよ~」

「へー、最近のライブハウスはこんな風になってるんだなー」

「父さん、母さん、いらっしゃい」

 

 結束バンドのみんなと話した後、開場の時間になったので俺がドリンクカウンターで仕事をしているとライブハウスには似つかない恰好をした父さんと母さんがやってきた。父さんは収集癖でインテリア用のアコギを買ったり、母さんはクラシックが好きでピアノを弾いてたりするから二人とも音楽自体には興味があるんだよね。

 

「コンサート会場とはずいぶん雰囲気が違うのね~」

「そりゃあクラシックとロックだからね。客層も全然違うよ。トイレはあっちで、もし体調が悪くなったら俺と同じTシャツを着てるスタッフさんに声をかけてね。一応、休憩用の部屋も用意してるから」

「レンはちゃんと仕事をしてて偉いな。リョウがこういうところで真面目に働いてる姿を想像できないけど……」

 

 姉貴があんなのになった原因の一つは父さんと母さんが甘やかしてるからだからね? 作曲でスランプになった時、姉貴が家にいるのが嬉しくて病院を休業にしようとしてたし。俺ががんばって阻止したけど。

 

「ドリンクは何にする?」

「アイスティーはあるかしら~?」

「アイスティーね……はい、どうぞ」

「……不思議な味。どこの茶葉を使ってるの?」

「業務用の安物です」

「父さんはアイスコーヒーをもらおうかな」

「はいはい」

「……不思議な味だ。どこの豆を使ってるのかな?」

「業務用の安物です」

 

 このブルジョワ舌似た者夫婦め! ライブハウスでそんな良い茶葉や豆を使った飲み物を出すわけないでしょ! これ、二人とも嫌味じゃなくて天然で言ってるからね。

 

「レンく~ん!」

 

 父さん達の相手をしていると、幼い女の子が俺を呼ぶ声が聞こえてきた。視線を向けるとふたりちゃんが俺に笑顔で手を振っており、その後ろには後藤パパとママもいる。後藤一家の登場か。

 

「応援に来たよ~! お姉ちゃん生きてる? 死んでない?」

「ちゃんと生きてるから安心してね」

 

 冷静に考えるとものすごく物騒な会話だなこれ。会うなり「お姉ちゃん生きてる?」って。

 

「あら~、レンくんは随分可愛いお友達がいるのね~」

「おねーさん、だぁれ?」

「お姉さん……お世辞が上手なのね。私はレンくんのお母さんよ~」

「お母さん……」

 

 母さんがしゃがんでふたりちゃんに目線を合わせて優しく笑いながらそう言った。そして、母さんの言葉を聞いてふたりちゃんは驚いた表情で俺と母さんを交互に見る。

 

「似てる! 若い! 美人!」

「ふふっ、ありがとう。あなたのお名前を教えてもらえるかしら? 可愛い可愛いお嬢さん」

「後藤ふたり! 五歳です!」

「ふたりちゃんって言うのね。よろしくね~」

 

 母さんがふたりちゃんの小さな手を優しく握る。ふたりちゃんはあれだな。人たらしの才能があるな。世渡り上手で大きくなったら色んな人から好かれて無数の男達の屍を築き上げるんだろうな。

 

「山田くんのご両親でしたか~。はじめまして。後藤と申します。いつもひとりちゃんがお世話になってます」

「ひとりちゃん……リョウちゃんとレンくんがよくお話してるギターがとっても上手な女の子ですよね。こちらこそ、いつも二人と仲良くしていただいてありがとうございます」

「そんなそんな。山田くんにはバンドだけじゃなくてバイトや学校のお勉強もお世話してもらってて───」

 

 大人達四人が談笑を始める。あのさ、話すのはいいけどせめて息子がいないところでやってくれない? 自分の両親が友達の親御さんと話してる場面って子供にとっては普通に気まずいから。

 

「レンくーん。ふたり、カルピスほしい!」

 

 いつの間にかふたりちゃんが俺の隣に来ていてズボンをくいくい引っ張っていた。ほんとにふたりちゃんは癒しだね。

 

「ソーダで割ってあげようか? それともお水?」

「牛乳!」

「……牛乳をチョイスするとは。ふたりちゃん、わかってるね~」

「ふふ~ん。ふたりは『違いがわかる女』だから~」

 

 ふたりちゃんが腰に手を当てて得意気な表情を浮かべている。心がほっこりと温かくなった俺はふたりちゃんの頭を撫でて、リクエスト通り牛乳割りカルピスを作ってあげるのだった。

 

 

 

 

 

「よっ、レン。ちゃんと仕事やってるか?」

「結束バンドの応援に来ましたよ~」

 

 今度は星歌さんとPAさんがやってきた。今日は星歌さんの店長権限でSTARRYを完全休業にしているらしい。虹夏ちゃんの……結束バンドの晴れ舞台だし気持ちはわかるけど経営大丈夫ですか?

 

「今日休んだ分、明日二倍働けばいい」

「宿題をやらない子供の言い訳みたいですね~」

「そうやって後回しにした結果……本当は今日までにやらなくちゃいけない仕事が残ってたことに明日気付くんだ」

「おいやめろ! なんか急にすごく不安になってきただろうが!」

「じゃあ店長、お店に戻りますか? 私は残りますけど」

「ここまで来て帰れるか!」

 

 結局星歌さんもしっかり観ていくらしい。星歌さんってプライベートや家事はぽんこつだったりするけど仕事はきっちりやる人だから大丈夫でしょう。多分。

 

「ドリンクはどうされますか?」

「ビール」

「私も同じものをくださ~い」

「はーい、少々お待ちください」

 

 ビールか……あげて大丈夫かな? この前のよみ瓜ランドの時みたいな状態になったりしないよね?

 

「それで、レン……その……どうなんだよ?」

「何がですか?」

 

 ドリンクを渡すと星歌さんがなぜか顔を赤くして恥ずかしそうにしながら俺に尋ねてくる。

 

「何がって、そりゃあ……あれだよ、あれ!」

「あれって言われても……ああ! もしかして───」

「そう! お前は察しの良いヤツだって私はちゃんとわかって───」

「結束バンドのみんななら大丈夫ですよ。姉貴曰く『ここ十年で一番の出来』というボジョレー状態で……」

「発酵したぶどう扱いかよ!?」

「虹夏ちゃんと全く同じツッコミですね」

 

 やっぱり姉妹なんだなーと思っているとPAさんがおかしそうにクスクス笑っていた。もしかして、結束バンドのことじゃなかったんですか?

 

「PAさん、何のことかわかります?」

「わかりますけど……これは私が口にしていいことじゃないですね~」

「えー……めっちゃ気になる」

「ただ、私から言えるのは『がんばってください男の子♡』ってことだけです」

「よくわかりませんけど……はい」

 

 PAさんが笑いながら俺の頭を撫でてくれる。「がんばってください」って多分、仕事のことじゃないよな。となると他には……え? まさか()()()のこと? 星歌さん……もしかして俺の()()に気付いてんの!? だとしたらやばい……めっちゃ恥ずかしいんだけど。

 

 結局、星歌さんが俺に何を言いたかったのかはっきりわからなかったので、俺は釈然とした気持ちになるのだった。

 

 

 

 

 

 

「やまだー、次子お姉様が応援団を率いてきてやったぞー」

 

 続いてやってきたのは佐々木さん率いるクラスの「結束バンド応援実行委員」だった。ちなみに佐々木さんは実行委員の代表をやっている。

 

「Tシャツだけじゃなくて応援の旗まで……めっちゃ気合い入ってるね、ありがとう」

「山田の分もTシャツあるよ~……脱げ」

「脱がない」

「ほらほら、ウチが着替えさせてあげるから。ばんざーい」

「しない」

 

 ごめんねさっつー。今日の俺はここのスタッフだからそのTシャツは着れないんだ。気持ちだけありがたく受け取っておくよ。

 

 それにしても、結構な人数が集まったな。クラスメイトだけで十五人くらいはいるんじゃない? 女の子ばっかりだけど。まあ、男子は気軽には応援に来れないか……

 

「そういえば、先生達も何人か受付に並んでたよ。校長もいた」

「校長先生!!」

「なんでウチらみたいな可愛い女の子が来たことよりも校長が来たことでテンション上がってんの?」

 

 だって、校長先生は俺のソウルメイトだから。

 

「佐々木さんもBUMP沼にハマれば俺ともっと仲良くなれるよ」

「もうウチら十分仲良しじゃん」

「せやな」

 

 佐々木さんの言葉に俺は頷く。

 

 というか、佐々木さん達だけじゃなくて先生達も来てくれたのか。この前の全校集会で喜多さんとひとりが演奏したのがかなり評判になってたみたいだし、確か毎年ろっきんを観に行ってる先生もいたよな。

 

「お、あっちに後藤一家がいるじゃん」

「その隣にいるのが俺の両親です」

「まじで? おかーさんめっちゃ若い上に美人! しかも山田にめっちゃ似てるし……ウケる。よーし、じゃあウチらは後藤家と山田家と一緒に応援するかー! みんな行くよー!」

 

 お願いだからウチの両親に変なこと吹き込まないでね。佐々木さんって喜多さんと友達やってるだけあって、致命的にならない範囲で面白そうな誤解とかを放置する傾向があるからな。

 

「あ、そうだ山田」

「なに?」

「……がんばれよ」

「お、おう……?」

 

 佐々木さんがそう言って俺の頭を撫でた後、応援団を率いて移動を始めた。

 

 PAさんといい佐々木さんといい、なんで俺を応援するんだろう? え? もしかして佐々木さんも気付いてる!? 俺ってそんなにわかりやすかった!? いやでも、ちゃんと自覚してから佐々木さんに会ったのは今日が初めてだから……

 

 マジでどういうことですか?

 

 

 

 

 

 

「あ、勇者先輩だ!」

「ね、猫々ちゃん! いきなり失礼だよっ!」 

 

 茶髪の元気っ子が俺を見るなりいきなりそんなことを言い出した。どうしよう……ツッコむべきなのかな? 反応してあげるべきなのかな? 俺が対応に悩んでいると、元気っ子は散歩前の柴犬の様なキラキラした目でずっと俺を見てくる。将来は犬飼いたいなぁ……

 

「えっと……勇者先輩って俺のこと?」

「はいっ! イケメン先輩は勇者先輩なので一年生の間で結構有名です!」

「一年生……もしかして、秀華高校の?」

「はい! 自己紹介が遅れました! 秀華高校の一年、大山猫々(ねね)です! スポーツが趣味で中学はバスケやってて高校ではバンドを組もうと思ってます! よろしくお願いします!!!!」

「二年の山田レンです。よろしくね。……他のお客さんの迷惑になるからもうちょっと声量を落とそうか?」

「はいっ!!!!」

「落ちてない!!」

 

 またすっごいのが現れたな。喜多さんとは違ったタイプの陽キャ……というより体育会系か。ひとりや姉貴とは致命的に相性が良くなさそう。でもそれより……それよりも俺には気になって気になってしょうがないことがある!

 

「勇者先輩って何?」

「イケメン先輩はヒッピー先輩をあっさり連れて行ったので勇者先輩です!」

「……通訳してもらっていい?」

 

 大山ちゃんと一緒に来ていたおどおどツインテ少女に話を振ってみる。俺、察しの良さには自信があるけどさすがにこれだけで大山ちゃんの言いたいことを理解しろってのは無理だ。

 

「えっと……入学式の日にものすごい恰好をしたヒッピー先輩を見かけまして……周りがざわついてて誰もがヒッピー先輩を遠巻きに眺めてるだけだった中で山田先輩があっさり声をかけて連れて行っちゃったから、それで『あの先輩は勇者だ!』ってことになって……」

 

 おっと、何やら猛烈に嫌な予感がしてきましたね。入学式の日? ものすごい恰好をした先輩? その人に俺があっさり声をかけた? ひ、人違いじゃないですかねぇ? うん、きっとそうだ。この子達は多分俺と誰かを見間違えて───

 

「勇者先輩とヒッピー先輩が並んで歩いてる写真です! これを待ち受けにすれば願いが叶うって一年生の間で大流行してるんですよ!」

「今すぐ消してくださいお願いします!!」

 

 大山ちゃんが嬉しそうにスマホを見せてくると、画面に映っていたのは今年の入学式の日にとち狂った格好で登校してきたひとりと、そんなひとりの隣を歩く俺のツーショットだった。あらためて写真で見るととんでもない恰好してるな!

 

 こんな恰好をした女の子に俺は声をかけたのか!? そりゃあ事情を何も知らない人が見たら勇者って思われるよなぁ!!

 

「あの……すみません。勇者先輩って呼ぶのはやめてください」

「えー……あたし、結構気に入ってたんですけど……先輩が嫌なら仕方ないですね! じゃあ、新しいあだ名を考えてあげます!」

「普通で! 普通に名前で呼んでくれたらいいから!」

「あ、こんなのはどうですか!?」

「嫌です」

「ここに来てから先輩のことを見てたんですけど……女の人ばっかり先輩に話しかけてましたよね? だから『修羅場先輩』で!」

「さては君、悪意なく人を傷つけるタイプの人間だね?」

 

 さすがに「修羅場先輩」と呼ばれるのは絶対に阻止したかったので、結局「勇者先輩」と呼ばれることになりました。

 

「えっと……バンドを組もうと思ってるって言ってたけど、二人とも軽音部に入ってるの?」

「この子は入りましたけどウチは入ってません! ヒッピー先輩がいると思って怖かったので!」

「知らないところで軽音部に風評被害が出てる!?」

 

 そういやクラスの軽音部の女子が「一年生に怖がられてる」って言ってたのはひとりが原因だったのか……でも、おどおどツインテールちゃんは入ってくれたんだね。ありがとう、そのまま軽音部でがんばってください。

 

「でも、ヒッピー先輩ってすごく格好良い人なんですね! この前の全校集会でギターを弾いてる姿を見て、あたしもギターをやりたいって思うようになって……軽音部じゃなくてヒッピー先輩と同じように学校の外でバンドを組んでみようと思ったんです!」

 

 あ、どうしよう……俺が褒められたわけじゃないのに、ものすごく嬉しい。こんな風に、ひとりが演奏している姿を見て……その姿に憧れてギターを始めたいと言ってくれる人がいる。

 

 やっぱりひとりは───人に夢を与えられる存在なんだね。

 

「今日も格好良いヒッピー先輩を見るために応援に来ました! 先輩の写真を待ち受けにしているのもご利益目的じゃなくて純粋に尊敬しているからなんです!」

 

 すごくいい子だなこの子。純粋で、真っ直ぐで……バンドマンとしてはかなりレアな人種だ。合わないバンドは本当に合わないだろうけど、この子のこういう性格をうまく活かすことができればそれはきっと大きな武器になる。

 

「大山ちゃん」

「はいっ!!」

「バンドメンバーは集まってる?」

「いいえ! ウチ一人です! 実はライブハウスに来たのも今日が初めてです! ヒッピー先輩を応援しながらライブハウスの雰囲気も勉強しようと思って!」

「学外でバンドを組むためにライブハウスに足を運ぶのは正解だよ。メンバー募集のチラシが……ほら、ああいうところに貼ってあるから」

「おおっ!」

 

 俺が指差すと大山ちゃんはフリスビーを取りに行く犬の様にパタパタとそちらへ走って行く。そして、しばらくチラシを眺めた後、目をキラキラさせながら戻ってきた。完全に飼い主のところに帰ってくる犬だな。

 

「よかったら、ひとり……君の言うヒッピー先輩が活動しているライブハウスを紹介してあげるよ。下北だから学校からも近いし、俺もそこでバイトしてるから色々相談に乗れると思う」

「ありがとうございます! さすが勇者先輩! 

RPGみたいに困りごとやお悩み解決はお手の物ですね! あ、せっかくなのでロイン交換しましょう!」

「いいよー」

「わ、私もいいですか……?」

「もちろん」

 

 そして俺は後輩二人とロインを交換する。今度星歌さんにも話しておくか。もしかしたら大山ちゃんもSTARRYでバイトをするようになるかもしれないし。

 

「こうやって勇者先輩は女の子の連絡先を自然にゲットしてるんですね!」

「聞いてきたの大山ちゃんでしょ!?」

 

 その後、他のお客さんにドリンクを提供しつつ、なぜか俺の傍から離れない大山ちゃん達にライブハウスのことや今日出演するバンドのことなどについて色々と説明をしてあげることにする。

 

 そうしてしばらく三人で過ごしていると、客足もだいぶ落ち着いてきたのでそろそろ他の人と交代しようと考えていたら、入り口から大山ちゃんとは全く違うタイプのハイテンションガールがやってきた。

 

「レンさ~~~~~ん!! えれも応援に来ましたよ~~~~~!! はぁぁぁぁぁぁぁ~~~今日もお顔がお美しい!! スタッフTシャツちゃんと着れて偉い! お仕事がんばってて偉い! お客さんに飲み物渡せて偉い!」

「猫々ちゃん! ヤバい子が増えちゃったよ!?」

「また女の子の知り合い……やっぱり修羅場先輩だ!」

 

 やってきたのはSTARRYの大型ハリケーンえれちゃんだった。瞬間最大風速だけなら暴走した覚醒キタンゲリオンにも匹敵するやべー後輩。でもこの子も根はすごくいい子なんだよね。

 

「こんな所にもおきゃわわわな女の子達が!? レンさんのお知り合いですか~?」

「俺の学校の後輩……ちょうどよかった。大山ちゃん、この子は日向恵恋奈ちゃん。さっき言ってた下北のライブハウスでバイトしてる子だよ」

「日向恵恋奈です~。よろしくお願いしま~す! 趣味は小説執筆とアイドル鑑賞だったんですが、結束バンドさん達の演奏を観てバンドにハマりました~」

「大山猫々です! ウチもヒッピー先輩の演奏を観てバンド始めようって思ったんだ! 恵恋奈ちゃんは何か楽器やってる?」

「最近ベースを買いました~」

「そうなの? じゃあウチとバンド組もうよ! メンバー募集中なんだ!」

「あ、ごめんね。えれ、推し活が忙しいからバンドする気ないの」

「じゃあなんで楽器買ったの!?」

「猫々てゃわかってないな~。楽器買って他のファンとは違うアピールだよ~」

「猫々てゃ!?」

 

 なるほど、この二人が揃うとこんな感じになるのか。これも一つの化学反応だね。……絶対ひとりと姉貴が全力で逃げるな、うん。もしも大山ちゃんがSTARRYでバイトすることになったら色々フォローしてあげるか。

 

「もう一杯サービスしてあげるね……内緒だよ?」

「あ、ありがとうございます」

 

 そして俺は完全に置いてけぼりになっていたおどおどツインテールちゃんにこっそりとドリンクをもう一杯サービスしてあげるのだった。

 

 あと、これは少し未来の出来事なんだけど……

 

 今年のクリスマスに結束バンドが企画のクリスマスライブをSTARRYでやることになるんだ。で、色んな事情が重なって……ギター、大山ちゃん。ベース、えれちゃん。ドラムボーカル、俺というクリスマス限定の異色バンド「エレン&ネネ」が結成されることになって……

 

 ドラムボーカルである俺を一番前に配置した結果、虹夏ちゃんの夢を一つ叶えてしまうという、ね。

 

 まあ、そんな未来の話は置いておこう。

 

 俺はその後も、やってきた一号さんや二号さん、隅っこでぼっちになってたやみさんの相手をしながら仕事に励むのだった。

 

 

 

 

 

「山田、ドリンクの仕事はもういいの?」

「代わってもらった」

 

 いよいよライブ審査が始まる時間になり、同じバイト仲間が気を利かせてくれたので佐々木さん達と合流する。クラスメイトの他にも後藤一家と父さんと母さんもいるな。というか、後藤一家は横断幕を作ってきたのか。相変わらず変なところで気合が入ってるね。

 

 ちなみに大山ちゃん達はがんばって前の方に突撃しているらしい。

 

「ふたりちゃん、前見える?」

「よく見えないー。レンくん、だっこしてー!」

「いいよ。ほら、おいで」

 

 しゃがんで腕を広げるとふたりちゃんが嬉しそうに抱き着いてきた。あれ? 前よりも重くなったかな?

 

「ふたりちゃん、大きくなった?」

「ふふんっ。ふたりはね? せいちょーする女なんだよー」

 

 このくらいの年齢の子供はちょっと会わないだけで大人がびっくりするくらい成長するもんね。……そうか、これが親戚の子供に会うおっさんの気持ちなのか。

 

「山田、おっさん臭い」

「俺も自分で思ってたけど改めて指摘されると傷つくからやめて」

 

 隣で佐々木さんがけらけら笑っている。何か反撃してやろうと思ったけど、何を言ってもおそらく女子の団結力で俺が弾圧される結果に終わりそうなので黙っておくことにした。もうライブ審査が始まるしね。

 

「全国の十代からまだ見ぬ才能を発掘するこの未確認ライオット!! 今年も三千組を超えるバンドが応募してくれたぜ!! 今日はその中からネット審査を勝ち抜いた三十組がこのライブ審査に進んでいる!! そして、この東京会場からファイナルステージに進出できるのはたった二組!!」

 

 MCのお兄さんはTokyo Music Riseの時と同じ人だった。相変わらず熱い口上で会場を盛り上げてくれる。

 

 もしかして、結構有名な人なのかな?

 

 冷静に考えて、三千組以上の応募から上位三十組に残っている……百倍以上の倍率を勝ち抜いている時点で結束バンドはすでに十分な結果を出していると言っていい。だけど、あくまで彼女達が狙うのは優勝───グランプリだ。

 

 一年前までは決して叶うことのない夢のまた夢だと思っていた。

 

 だけど、今

 

 彼女達は手の届くところまで登り詰めたんだ。

 

「オープニングアクトはSICKHACK! 会場を温めてくれ!」

 

 MCのお兄さんの紹介の後、SICKHACKの三人が現れる。廣井さんの顔色を見る限り……ちゃんとほろ酔い状態をキープできてるみたいだな。少なくともダイブや日本酒シャワー、酒瓶で観客をぶん殴ることはなさそうだ。

 

 そして俺の想像通り、廣井さんにしては実に落ち着いていて……尚且つしっかりと会場を盛り上げる演奏をしてくれた。そういうのでいいんだよそういうので。機材をぶっ壊すとかしなくていいんですよ。

 

「なんか、今日の廣井おとなしかったな」

「物足りない気がする……」

 

 周りからそんな声がチラホラ聞こえてきた。よく訓練されたSICKHACKファンですね。おそらく彼らはもう末期状態なのでしょう。

 

「あのやべーお姉さん、今日は普通だったね」

「普通(当社比)」

 

 なんだかんだSICKHACKのライブを何度も観ている佐々木さんもそんな感想だったらしい。まあ、確かに俺は佐々木さんの前で廣井さんに顔面踏まれたりダイブされたり酒瓶で頭ぶん殴られたりしたからな。

 

「トップバッターはキュートでポップでロック! エレクトリックロックバンドのケモノリアだ!」

 

 オープニングアクトが終わり、いよいよ審査が始まる。ケモノリアが一曲目に選んだのは、跳ねるような高音のメロディラインが特徴的な曲。特にドロップ部分の盛り上がりが半端なく、聴衆達が思わず飛び跳ねたくなるような曲だった。

 

 前回のライブとは違う。一曲目からかなり飛ばしてきている。これもトップバッターだからこそ、だろう。

 

 だけど、飛ばすだけじゃない。この曲はEDMの魅力であるハイテンポでノリの良いメロディだけじゃなくて、電子音の中に聴衆に優しく問いかけるような……そっと背中を押してくれるような温かさがあった。

 

「この曲……サビはインストなんだね」

 

 佐々木さんの言葉に俺は頷く。

 

「それがEDMの最大の見せ場だよ。普通のポップミュージックと違って、一番盛り上がる部分で歌が不在になる……ほんとに面白い特徴だ。それに、()()()()で観客をのせるテンポの良さと激しさ、落ち着いたバラード調を両立させてる。そんなことをしたら演奏が取っ散らかってまとまりのない曲になるんだけど……ケモノリアの技術の高さがそれを可能にしているんだ」

「急に饒舌になった。おねーさんによく似てる」

「……それだけすごいバンドなんだよ、ケモノリアって」

 

 侮っていたつもりなんて全くなかったけど、この完成度の高さには脱帽だ。称賛しかない。トップバッターのプレッシャーや会場の空気を完全に味方につけたと言っていいだろう。

 

「続いては可愛い顔をして凶暴な音を鳴らすガールズバンドSIDEROS!!」

 

 ケモノリアが盛り上げに盛り上げた中で登場するのは、未確認ライオット優勝候補ナンバーワンのSIDEROS。ヨヨコ先輩はライブ前にナーバスになるだけでステージに立つと覚悟ガンギマリで豹変するからな。問題ないでしょう。

 

「ボーカルの子……あんなに可愛いのにすっごいシャウト。ギャップやば……」

「声だけじゃないよ。イントロのリフもめっちゃすごかったって!」

 

 SIDEROSの曲には、MCのお兄さんが言っていたように暴力的なサウンドの物が多い。現にヨヨコ先輩達が選んだ一曲目はハイスピードなビートから始まる曲で、攻撃的なサウンドはもちろん目まぐるしく曲が展開していき、先輩のブリッジミュートなギターリフやあくびちゃんの高速ドラムが特徴的で……まさに、メタルの「格好良さ」がこれでもかと詰め込まれたクールな曲になっている。

 

 曲自体の完成度もそうだけど、ヨヨコ先輩の切り裂くようなハイトーンボイスとプロ級の高等技術がいかんなく発揮されていた。

 

 歌も演奏技術もプロレベルの一級品、作詞と作曲も担当してて学校では成績優秀。しかもめちゃくちゃ可愛い。

 

 どこの漫画の主人公だよ。やっぱりヨヨコ先輩って反則生物だな。アクティブコミュ障ってところを除けば。

 

「はー……メタルってうるさいってイメージしかなかったけど、こういうバラード系の曲もあるんだね」

「パワーバラード。メタルってハードルが高いと思われがちだけど、こういう初心者向けの落ち着いた曲もたくさんあるんだ。『良いバラード歌ってるな。どこのバンドだろ? え!? このバンドがこの曲歌ってんの!?』っていう新しい発見があって面白いよ」

「メタルも奥が深いんだね。ヒップホップしか興味なかったけど、ウチも色々聴いてみるかな」

 

 SIDEROSもハード一辺倒ではなく、当然バラード曲を持っている。やっぱりヨヨコ先輩の声、いいよな。可愛い見た目からは想像できないシャウトも好きだけど……俺はどちらかというとバラードを歌ってる先輩の方が好きだ。

 

「ヨヨコちゃんってあんな変な声も出せるんだね!」

「シャウトって言うんだ。格好良いでしょ?」

「うーん……ふたりは今のゆっくりした曲の方が好き!」

 

 さすがに五歳児にメタルは早かったか。でも、これでふたりちゃんが将来ハードロックやヘヴィメタルにドはまりしたら面白いけど……この子、ギターとかやるのかなぁ? ひとりが教えたことがあったらしいけど、すぐに飽きたみたいだし。

 

「い、今の十代ってすごいんだな……とんでもない盛り上がりだ。こんな空気の中でやれるのか、ひとり……」

 

 元バンドマンの後藤パパが口をぽかんと開けて冷や汗をかいている。後藤ママはよくわかっていないようでニコニコと人当たりの良い笑顔で演奏を楽しんでいた。

 

「パパさん、今の二組は十代の中でも上澄み中の上澄み、全国でもトップクラスのバンドです。だけど、結束バンドも負けていませんよ───絶対に」

「そ、そうなのかい? いやー、おじさんの時代よりも若い世代のレベルが上がっててびっくりしちゃったよ」

 

 謙遜してるけど、後藤パパもバンドマン時代に作った曲が地方のローカルCMで使われていたんだから、あなたも結構すごい人ですよね?

 

 そうこうしている内に、SIDEROSの演奏が終わる。会場の盛り上がりは……言わずもがな。ケモノリアが作った高波を悠々と乗りこなし、会場の空気は完全にケモノリアとSIDEROSの二色で染まっている。いや、雰囲気だけならSIDEROSの方が有利か?

 

「ウチ、次に演奏するバンドに同情するよ」

「ははっ……」

 

 佐々木さんの言葉に、俺は乾いた笑い声しか出てこなかった。

 

 

 

 

 

 

「やっぱSIDEROSとケモノリアで決まりだろ。三組目以降も上手かったけどあの二つほどじゃないしな」

「まだトリに結束バンドが残ってるじゃん。あそこってTokyo Music Riseで準優勝だったろ?」

「あー、そういえばそうだったな。確かに、対抗できるとしたら結束バンドくらいか。じゃあ完全に三すくみで票が割れそうだ」

「人気投票も十位だったし……東京会場だけレベルが高過ぎない?」

 

 六番目のバンドまで演奏が終わり、会場内の空気は比較的落ち着いたものになっていた。やっぱりSIDEROSの時が盛り上がりのピークで、それ以降は……ものすごく失礼な物言いになっちゃうけど、消化試合に近い空気だった。

 

 決して、三番目以降のバンドのレベルが低かったわけじゃない。むしろここまで残っている以上、レベルの低いバンドなんていないんだけど、ケモノリアとSIDEROSが別格過ぎたんだ。

 

「結束バンドがトリ。春の時とは状況が真逆だね」

「うん。よくさ、スポーツなんかだと『追う側よりも追われる側のプレッシャーの方が大きい』っていうけど……こういう審査だとどう考えても追う側のプレッシャーの方が大きいんだよね」

「あんな演奏を見せられた後だもんね~」

 

 だけど、彼女達はもう知っている。圧倒的なプレッシャーを味方に変えることができたという成功体験を。プレッシャーが大きければ大きいほど、それを味方に変えられた時のパワーも比例して大きくなるということを。

 

 だから、心配なんて必要ない。

 

「さあ、最後に登場するのは……ネタのようなバンド名からは想像もつかない実力派!! 下北が生んだガールズバンド───結束バンドだーーーーーっ!!!」

 

 MCのお兄さんの紹介後、四人がステージへ登場する。緊張の色は……ない。むしろ喜多さんなんかは笑顔で観客に手を振っているあたり、この状況を楽しむ余裕すらあるみたいだ。

 

「こんにちはーっ! グーグルで検索すると一番上にアマゾンの商品紹介ページが出てくる結束バンドでーす!」

 

 どんなバンド紹介だよ。自虐ネタは滑ると痛い……あれ? 意外とウケてる。まじ?

 

「えー……色々言いたいことはありますが、バンドマンは結局……言葉ではなく音で語る生き物なので多くは語りません。だから一言だけ言わせてください。この会場の空気も、熱も、声援も、全部全部全部───私達の結束力で飲み込んであげるわ」

 

 そして、虹夏ちゃんのクラッシュシンバルによるカウントから一曲目が始まる。

 

 結束バンドがこのライブ審査で演奏する一曲目に選んだのは「ギターと孤独と蒼い惑星」

 

 結束バンドが一番最初に作ったオリジナル曲───結束バンドの原点ともいえる曲で、おそらく、結成してから最も多く練習を重ねてきたであろう曲。ロックナンバーでありながら、親しみやすいメロディーとリズム。そして、最大の特徴は音域の広さによる激しいアップダウン。低音から高音まで幅広く登場し、低音部分は普通の女性には少し歌い辛さも感じるだろう。

 

 だけど、喜多さんにはそんなの関係ない。彼女のボーカルとしての最大の強みは……低音だろうが高音だろうがしっかりと歌い上げることのできる声域の広さだからだ。

 

 この曲は序盤から低音が多く登場しつつ、ラストのサビでは最高音で盛り上がる楽曲構成。

 

 まさに、喜多さんのボーカルとしての強みを最大限発揮できる曲だ。

 

「喜多ちゃん、お歌も上手だけどギターも上手になったね~」

「おっ? ふたりちゃんにもわかる?」

「言ったでしょ~? ふたりは『違いがわかる女だ』って~」

 

 ふたりちゃんの得意げな表情に俺は思わず笑顔になった。

 

 一曲目の掴みは上々。さっきまでの落ち着いた空気とは違って会場が盛り上がりを取り戻しつつある。だけど、足りない。こんなもんじゃ足りない。SIDEROSやケモノリアに勝つには、もっともっと必要なんだ。

 

 だからこそ、こういう空気になることを想定した上での二曲目「グルーミーグッドバイ」

 

 結束バンドの代名詞とも言える曲で、結束バンドの楽曲の中で唯一MVを作成し、これまでのライブで必ず()()()()()として演奏してきた。だけど、それをあえて二曲目に持ってくる。

 

 だって三曲目には───()()()()()が控えているから。

 

「春の大会だと……喜多はこの曲でボーカルに専念してたよね?」

「うん。だけど、あの頃とは違う。今の喜多さんは、ボーカルに専念しなくても……フロントマンとしての実力を発揮できる。それだけの練習は積んできたよ」

「山田に毎日行動を管理されてたもんね」

 

 この数ヶ月の喜多さんの練習量と上達速度は俺の想定を遥かに上回っていた。大好きなSNSを封印されつつ……時々勝手に封印を解いてたから何度かスマホを没収してその度に「鬼!」だの「悪魔!」だの罵られたけど……それでも彼女が暇さえあればギターを手に取り、色々なバンドの映像を観て勉強し、イライザさんに技術指導を受けつつ、ひとりだけじゃなくてヨヨコ先輩やふーちゃん、星歌さんにも積極的に話を聞いていた。

 

「経験不足」が喜多郁代というバンドマンの最大にして唯一の弱点。それは彼女自身が一番よくわかっている。

 

 だけど……はっきり言おう。彼女はすでにその弱点を───克服している。

 

 もちろん、いきなりヨヨコ先輩のようなギターボーカルになったというわけではない。

 

 もちろん、いきなりひとりのような凄腕のギタリストになったというわけではない。

 

 それでも、それでもだ。喜多郁代というバンドマンは、前回の敗北を経て、自分の殻を破り、一つ上のステージへと足を踏み入れた。

 

「ほんとに上手くなったね……喜多さん」

 

 ステージの上で自分のありったけを歌に、ギターにこめて楽しんでいる彼女を見てそう思う。

 

 喜多さんだけじゃない。前回は突っ走ったひとりを姉貴と虹夏ちゃんが支える演奏になっていたけど、今回は違う。ひとりは突っ走ることなく、かつ合わせることに従事しているわけでもなく……かつてヨヨコ先輩が言っていた「グルーヴ」をしっかりと主張していた。

 

 虹夏ちゃんはみんなの道標として、正確かつ精密に……そして、自由に。

 

 姉貴は自己主張をし過ぎない範囲で自分の世界に浸り、それでいて安定したリズム、緩急の付いたメロディーラインとサウンドでしっかり支えていた。

 

 この一曲は間違いなく、結束バンドの最高傑作だ。

 

「では、ラストの曲ですが……なんと、人前で演奏するのは今回が初めてです! この未確認ライオットのために新曲を作ってきました!!」

 

 喜多さんの言葉に、会場内がざわつく。いや、ざわついているのは……喜多さんの言葉のせいだけじゃない。

 

「え? 後藤に……マイク?」

 

 喜多さんと姉貴、二本のスタンドマイクのうちの一本を、姉貴がこれまでの二曲で使っていたマイクをひとりの前へと移動させる。

 

「ラストのギターボーカルはこれまで通り私、喜多郁代……そして、バックコーラスはリードギターの後藤ひとりが務めます!」

 

 なんてことはない。バックコーラスの交代。それ自体は別に、それほど多いわけでもないけど特段珍しいわけじゃない。色んな事情でライブ中にバックコーラスが代わるのは実際に起こりうることだ。

 

 だけど、後藤ひとりという少女を少しでも知っている人間にとってみれば───

 

「それでは三曲目───『青春コンプレックス』」

 

 会場の盛り上がりと奇妙なざわめき、SIDEROSやケモノリアの時のような燃え上がるような空気とはまた違った異質な空間の中、結束バンドの最後の曲が始まった。

 

 特徴的なギターイントロから低音のボーカルへとつながっていく。

 

「グルーミーグッドバイ」を結束バンドの代名詞だとするなら「青春コンプレックス」は()()()()()()()()()だと言えるだろう。

 

 陰キャ全開なスタートから世の中への不満や鬱憤を「これでもか!」とぶちまけた歌詞。「忘れてやらない」のように、前向きに爽やかにがんばろうとする内容ではなく、自分の中にあるコンプレックスを、世界を力づくでぶっ壊してやりたいという荒々しさを感じる。

 

 だけど、それでいい。それでいいんだ。

 

 それこそが、後藤ひとりの最大の武器なんだから。

 

「おねーちゃんが、歌ってる……こんなにたくさんの人の前で……」

「ひとり……ひとり……立派になっだな゛あ゛っ!!」

 

 ふたりちゃんは目を丸くしてひとりを見つめ、パパさんは感動のあまり号泣していた。気持ちはわかる。俺は彼女とは高校に入ってからの付き合いだけど、それでも……彼女がこうして───猫背のままでも、それでもしっかりと前を向いて、歌っている。

 

 その光景を見ているだけで、心の奥底から熱い感情がこみ上げてくるんだ。魂が揺さぶられるんだ。

 

 ステージに立ち、真っ直ぐに前を───未来を見据えている彼女と目が合った。

 

 笑っていた。

 

 笑っていたんだ。

 

 誰よりも、楽しそうに。

 

 君は言っていたね。

 

 観覧車の中で。

 

「す、少しでも、自分が思い描く……理想の自分に近づきたいから……」

 

 今の君は、間違いなく───近づいているよ。君が思い描く、理想の自分に。

 

 だけど、こんなもんじゃない。こんなもんじゃないだろう。

 

 君なら───君達なら、もっと先へ行ける。

 

 そして、この曲の最大の見せ場と言っていいギターソロ。二番が終わり、Cメロへとつながる間奏。その間奏で、姉貴はひとりにしかできない、ひとりならできる難易度のギターソロを入れていた。

 

 もっとも、ギターソロだけではなく喜多さんのパートとひとりとのパートには難易度に雲泥の差があった。

 

「バックコーラスだけで満足してもらっては困る」という姉貴からひとりへの期待を込めたメッセージ。

 

 ギタリストとしての後藤ひとりの存在を世界に知らしめるためのメッセージ。

 

 ひとりはその期待に、信頼に───応えてみせた。

 

 ひとりのギターソロからCメロ、そして大サビへと進むにつれて会場のボルテージがどんどん上がっていく。

 

 喜多さんが宣言した通り、会場の熱を、空気を、声援を全て飲み込み、自分達の音楽で世界を塗り替えた。世界の中心はここだった。

 

 彼女達は叫び、ただただ主張する。

 

 ここに自分達がいるんだということを。

 

 

 

 

 

 

 

 

「かっこよかった」

「うん」

「後藤だけじゃない。喜多も、山田のおねーさんも、虹夏さんも、みんなかっこよかった」

「うん」

 

 全てのバンドの演奏が終わり、今は投票の集計中だ。俺は余韻に浸りながら頭の中がずーっとふわふわしていたから佐々木さんの言葉に生返事しかできなかったんだ。

 

「こらっ、レンくん! 女の子の話はちゃんと聞いてあげなきゃ……めっ!」

「ごめんねさっつー」

「許さん」

 

 ふたりちゃんがほっぺたを膨らませて俺の頭をぺしぺし叩いてくる。一応話はちゃんと聞いてたからね。でも佐々木さんは許してくれないみたいだ。悲しい。

 

「みなさん、長らくお待たせしました! いよいよ結果発表だ!先に言っておくが、審査員達も相当悩んで悩んで最後まで迷った! それくらい、どのバンドも素晴らしいライブを見せてくれた! 本当にありがとう!」

 

 しばらく佐々木さん達とじゃれ合っていると、出演バンドが全員ステージに登場し、MCのお兄さんがマイクを片手に観客に呼び掛ける。

 

 大丈夫、大丈夫だ。彼女達はこれ以上ないくらいのパフォーマンスをした。全員が、持てる力の全てを出し切った。今日のライブは、間違いないく過去最高のライブだった。

 

 だから何も、心配する必要なんてない。

 

「ライブ審査を勝ち抜き……ファイナルステージに進むのは───」

 

 あの時と同じだ。

 

 俺は絶対、神になんて祈ってやらない。彼女達は、それだけのものを、勝つための努力を積み上げてきたんだ。誰にも文句は言わせない。

 

 神様なんかに祈らなくても、彼女達は実力で勝利を勝ち取る。

 

 俺はそう───信じている。

 

 だから───

 

 

 

 

 

 

「───SIDEROSとケモノリアだ!! 全く、とんでもねえバンドが出てきたぜ!! それじゃあ観客のみんな、見事代表を勝ち取った二組に、そして……素晴らしい演奏を披露してくれた全てのバンドに盛大な拍手を送ってくれ!!」

 

 歓声と、拍手。会場中の熱が、空気の振動が伝わってくる。その異様な熱気とは裏腹に、俺の頭の中は酷く冷静で……ただただ、目の前の現実を受け入れることで精一杯だった。

 

 そうか……そうか……

 

 負けたのか───結束バンドは。

 

 俺は目を閉じ、深く深く……深呼吸する。色々な感情が、思いが、俺の心の中をぐちゃぐちゃと蠢いていた。

 

 だけど、俺にはそれらを露にする資格なんてないし、するつもりもない。

 

 そんなことよりも、何よりもまず……今すぐ俺がやるべきこと。

 

 それは───

 

「山田……」

 

 俺はふたりちゃんを降ろし、ステージへ向けて拍手を送る。

 

 勝ち上がったSIDEROS、ケモノリアへの称賛を。最高の演奏を見せてくれた全てのバンドへの感謝を込めて。

 

 佐々木さんも、クラスメイト達も……結束バンドを応援していた全ての人達も同じように拍手を送る。

 

 それが今の俺がやるべきことであり───できること。

 

「レンくん……お姉ちゃん、負けちゃったね」

「うん。でも、お姉ちゃん……格好良かったでしょ?」

「ん~……まあまあ!」

 

 ふたりちゃんの言葉に、俺は思わず吹き出しそうになる。そしてもう一度彼女を抱き上げて、ステージに立っているひとり達を見せた。するとふたりちゃんも周りの人達と同じように拍手をし始める。

 

「ふたりちゃん」

「なーに?」

「今日、お家に帰ったら……お姉ちゃんのこと、たくさん褒めてあげてね? すごく……すっごくがんばってたから」

「うん! わかった! ちょーしに乗らない程度に褒めてあげる。でもね、その前に……」

「その前に?」

 

 俺が聞き返すと、ふたりちゃんがにっこりと笑って俺の頭に手を置いた。

 

「レンくん、よくがんばりました」

 

 そしてそのまま俺の頭を優しく撫でてくれる。正直、その時俺は泣きそうになったけど、どうにか涙をこらえてふたりちゃんにお礼を言った。

 

「佐々木さん達も、ありがとう。クラスのみんなと一緒に、色々準備してくれて……みんなの応援、は……結束バンドにとって大きな力になってくれた。本当に、ありがとう」

「……落ち着いたら、みんなでお疲れ様会しようか」

「そうだね」

 

 佐々木さんは優しく笑って俺の肩をポンと叩いた。クラスメイト達の顔を見ると、何人か泣いている子もいて……ああ、本当に、結束バンドは人に感動を与えられる存在になったんだなと、あらためて実感した。

 

「ウチらは帰るけど、山田はどうする?」

「俺はまだ仕事が残ってるから」

「……そっか。じゃあ、またね」

「うん。また……」

 

 そして、佐々木さん達とはその場で別れた。その後は後藤一家と、父さんと母さんにもお礼を言って佐々木さん達と同じようにみんな新宿FOLTを後にする。

 

 さて、俺は最後まできっちり仕事をやりますか。

 

 

 

 

 

 

 不思議と、悔しさはなかった。

 

 いや、もしかしたら実感がわかなかっただけなのかもしれない。でも、少なくともあたしは自分達が敗北したことを冷静に受け入れられていたと思う。

 

 あたし達は、全員が持てる力を全部出し切った。リョウもぼっちちゃんも喜多ちゃんも、みんなみんなこれまでで最高のパフォーマンスを見せてくれた。

 

 これまでたくさん……たくさんライブをしてきたけれど、今日ほど楽しいと思った日はなかった。肌がひりつくような熱を、魂を震え上がらせるような空気の爆発を、身体の芯から力が湧いてくるような声援を、あたしは一生、忘れないだろう。

 

「また、ライブしたいな」

 

 四人で控え室のソファに座り、無意識の内にあたしはポツリと呟いていた。

 

「そうだね」

 

 右隣に座るリョウが抑揚のない声で言った。

 

「私も……なんだか今すぐ歌いたいです」

 

 リョウの反対隣りに座る喜多ちゃんが穏やかな声で言った。

 

「私も、もう一度あの景色を……いえ、()()()()()()()を───みんなと見たい」

 

 左隣に座るぼっちちゃんが、あたしの目を真っ直ぐに見てそう言った。

 

 うん、ぼっちちゃんの言う通りだよ。確かに、あたし達は今回も()()……届かなかった。だけど、確信があった。あれだけの演奏ができたあたし達なら絶対に、今日以上の景色を見られるステージに立てる、って。

 

 あたし達の旅は終ったわけじゃない。ううん、むしろ始まったばかりなんだ。

 

 これから先、もっともっとたくさんの壁にぶつかることだってあるだろう。もっともっとすごい人達にだって出会うだろう。

 

 だから、下を向いている暇なんてないんだ。

 

 今日の全てを糧にして、今日の全てを絶対に忘れないで、また一歩ずつみんなで進んでいこう。

 

 そして、その一歩を踏み出すために、あたし達がまず最初にやるべきこと。

 

 それは───

 

 

 

 

 

 

 「絶対に自分達が勝ち上がれる保証があった」と言えば嘘になる。

 

 もちろん、私達は自分達が勝つための最大限の努力をしてきたという自負があったし、負けるつもりもなかった。現に、本番では最高のパフォーマンスで会場を私達色に染め上げた。

 

 誰にも、私達の勝利の邪魔はさせない。私達が一番だ。

 

 そう、思っていた。

 

 だけど、彼女達の……結束バンドの演奏を聴いて、私は自分が観客達と同じように心を揺さぶられ、それと同時に激しい焦燥感を抱いたことを自覚した。

 

 油断していたつもりはない。侮っていたつもりはない。

 

 彼女達の実力は、今日出演したバンドの中で私達が一番よく知っている。

 

 はずだった。

 

 だけど彼女達は、あざ笑うかのように私の想像を軽々と越えてきたのよ。

 

 私は、自分達は追われる立場だとばかり思っていた。

 

 自分でも呆れるくらい傲慢にも、ね。

 

 でも、そんな傲慢さは今日限りでさよならよ。

 

 口だけじゃなく、本気で私達と肩を並べにきたあなた達が教えてくれたから。

 

 私達は、これからも自分達の実力と勝利を疑うことはないだろう。

 

 それと同じくらい、あなた達の実力と勝利を疑わない。

 

 私達とあなた達は、それでいい。

 

「大槻さん」

 

 思考に耽っていると、伊地知虹夏に声をかけられる。

 

 気付けば、結束バンドの四人が私達の前に立っていた。四人は放心しているわけでも、現実逃避しているわけでもない。彼女達は全員、力強い目をしていて───その目はすでに未来を見据えていた。

 

「ファイナルステージ進出おめでとう。本当に……本当に素晴らしい演奏でした」

 

 伊地知虹夏の言葉に、私は胸の奥から熱いものがこみ上げてくるのを実感した。目頭が熱くなり、それを堪えることで必死だった。

 

「ありがとう」

 

 絞り出すような声で私は答える。

 

 私なら、言えたか?

 

 自分達が敗北した直後に、これまでずっと競い合ってきた相手に称賛の言葉を送ることができたか?

 

 そして、気付く。

 

 そう。私に足りないのは、きっとこういうところなのね。

 

 伊地知虹夏……同じリーダーとして、私はあなたを心から尊敬する。

 

「私達は、先に行くわ。だけど……これだけは忘れないでちょうだい。私だけじゃ……私達だけじゃ無理だった。あなた達がいたから、私達はここまでがんばれた」

 

 一人の力には限界がある。私はそれを知っている。

 

 至極当たり前のことだけど、自分達の力だけでは限界がある。私はそれは知っている。

 

 競う相手がいて初めて、私達は成長できる。私はそれを知っている。

 

「私達の方こそ、素晴らしい演奏を聴かせてくれてありがとう。あなた達がいてくれて───本当によかった」

 

 私がそう言うと、伊地知虹夏の瞳が揺れ動いた。未来を見据えていた強い目が、潤む。

 

 そして、私を強く抱き締めた。

 

「絶対に……絶対に優勝してね───()()()()()()

 

 溢れる涙をこらえ、私は彼女を抱き締め返した。

 

「当然よ。あなた達の思いも全部背負って、私達が勝つわ───()()

 

 

 

 

 

 片付けが終わり、俺は結束バンドのみんなが出てくるまで会場内の椅子に座って待っていた。ケモノリアの人達とヨヨコ先輩達が先に出てきたので声をかけると、ケモノリアのリーダーさんは俺に握手を求めて……

 

「また今度、対バンしよう。必ず、必ずだ。彼女達にそう伝えておいてほしい」

 

 それだけ言って颯爽と去っていった。

 

 ヨヨコ先輩は目が赤くなっていたけど、深くは尋ねずに「おめでとうございます」とだけ伝えておくことにする。

 

「あの子達のこと、しっかり見ててあげなさい」 

 

 控え室で何かあったのかもしれない。だけど、それはきっと先輩達にしかわからないことで、俺がわからなくていいことだと思い、俺はただ先輩達の背中を見送るだけにする。

 

 その後、やみさんと司馬さんが俺のところにやってきたけど、結束バンドのみんなと直接話すのは後日にしておくとのことだ。

 

「やみさんはよかったんですか? 記事、書くんでしょ?」

「……さすがのあたしも今のあの子達にぶしつけな真似はできないわよ」

「丸くなりましたね」

「……うっさい」

 

 やみさんも目を赤くしていたので、結束バンドの敗退が悔しくて泣いていたんだろうなということがわかった。多分、今みんなに話を聞きに行ったらやみさんの方が先に泣きそうだ。

 

「山田さん、今後のことはまた連絡させていただきます。落ち着いたら、みなさんに事務所へ顔を出していただくようお伝え願いますか?」

「わかりました」

 

 やみさん達を見送り、しばらく待っていると控え室から結束バンドの四人が出てきた。四人はキョロキョロと辺りを見回していて、多分俺を探しているみたいだったから俺から彼女達へ近づく。

 

「あ、レンくん」

 

 気付いた四人に俺は軽く手を挙げて答えた。みんなの表情を見る限り、泣いていた様子はなく自分達の敗北をしっかりと受け入れられているようだった。

 

「あのね、レンくん───」

「虹夏ちゃん、みんな」

 

 虹夏ちゃんの言葉を遮って、俺はみんなの顔を見回した。

 

 悔しさはある。悲しさもある。だけど、俺はそんな感情を決して彼女達には見せたりしない。

 

 だって、みんなの方が何倍も何十倍も悔しくて悲しいんだから。ただライブを観ていた俺とは違って。

 

 何て言おうか、色々と考えていた。今の彼女達に、俺が何を言ってあげればいいのか。

 

 でも、そんなことは考えたところで無駄だった。考える必要がなかったからだ。

 

 俺が彼女達に言ってあげたいこと。言いたいこと。

 

 

 

 

 

「───お疲れ様でした」

 

 

 

 

 

 俺はできる限りの優しい笑顔でそう言った。俺の言葉を聞いて、虹夏ちゃんが、姉貴が、喜多さんが、ひとりが目から大粒の涙をこぼし、静かに泣き始める。

 

「あたっ……あたし達……負け、ちゃった……」

「うん」

「あんなに……たくさん練習して、色んな……人に、力を貸してもらったのに……」

「うん」

「それでも……それでも届かなかった……」

「うん」

 

 泣きじゃくる虹夏ちゃんの頭を俺はゆっくりと撫でる。悔しかったね。悲しかったね。わかる……わかるよ。俺もずっと同じ気持ちだから。

 

「みんながどれだけがんばってきたのかは───俺が一番よく知ってるよ」

 

 本気でメジャーデビューを目指すと決めたあの日から。たくさん練習してたくさんライブしてたくさんの人の刺激を受けて。少しずつ、色々な経験を重ねて今日に臨んだ。それを俺は、誰よりもよく知っている。 

 

「レンくんっ……ごべっ……ごめん、なさっ……ごめんなさいっ……」

「どうしてひとりが謝るの?」

「だって…だって……あんなにレンくんに助けてもらって……新曲の歌詞の、こととか……バックコーラスをやる、きっかけを作ってくれて……私の背中を押してくれたのに……何も……何も返せなかった」

「そんなことない」

 

 ひとりの言葉に俺は首を振る。

 

「『何も返せなかった』なんて、そんなことないよ。絶対に」

 

 むしろ俺は、十分すぎるほどのものをみんなから貰ったんだ。

 

「本当に素晴らしい演奏だった。誰が何と言おうとも───俺にとっての一番は結束バンドだよ」

 

 俺は絶対に、今日の全てを忘れない。魂が揺さぶられるような、心が震えるような感動を。「ここにいるんだ」と「世界の中心にいるんだ」と叫ぶ君達を。君達の涙を。

 

 そして、この敗北と───自分の力不足を、後悔を。

 

 俺は絶対、忘れない。

 

 嗚咽を漏らし、泣き続ける彼女達を見守る中、俺は固く誓うのだった。

 

 

 

 

 

 

 #85 Stage of the riot / 敗北も後悔も自分だけに意味のある財宝

 

 

 

 

 

 

「よかった!! まだ残っていてくれてたか!!」

 

 俺達五人の耳に、そんな声が届いた。

 

 視線を向けると、MCのお兄さんが息を切らせながら俺達へと駆け寄ってきている。

 

 どうしたんだろう、そんなに焦って。誰か忘れ物でもしたのかな? いやでも、それにしてはちょっと焦り過ぎなような気もするけど。

 

「はぁ……はぁ……よかった、まだいてくれて……結束バンド! 君達に、伝えたいことが……ある!」

 

 荒れた呼吸を整えながら、だけど興奮した様子でお兄さんは言う。

 

「本当に素晴らしいライブだった! 俺はTokyo Music RiseのファイナルステージでもMCをやってて、その時も君達の演奏を見せてもらって……でも、今日の演奏はそれを遥かに凌駕する……最高の演奏だった!」

 

 お兄さんがみんなに賛辞の言葉を贈る。嬉しさと戸惑いが入り混じる中、俺は彼がそういうことを言うためだけにやってきたわけではないだろうなと思っていた。

 

「SIDEROS、ケモノリア、結束バンド……いずれもこの未確認ライオットでグランプリを獲るポテンシャルを秘めたバンドだ。俺は東京ブロックにこの三組が残ったことで……相当に票が割れると予想していたし、現に……結束バンドと彼女達との得票数の差は本当に……本当に()()()()()だったんだ!」

 

 それは俺も予想していたことだ。司馬さん達に言ったように、勝ちあがるにしても、敗退するにしても僅差になるだろうと。

 

「この東京ブロックは、ウェブ審査のトップ10の内三組が出場するという異例のブロック。間違いなく、全国で最もレベルの高いブロックだ。そんなブロックで君達は、勝ち上がった二組と同格の実力を見せつけた! そんな君達が、ここで終わっていいのか? 君達はもっと大舞台で、広い世界で輝ける存在なんじゃないのか? 俺は審査結果を発表してからずっとそんなことばかリを考えていた」

 

 彼の話を聞きながら、俺は心臓の鼓動が早くなるのを自覚した。

 

「そして、他の審査員達も同じことを考えていた……だが、ルールを無視して出場枠を増やすことはできない。だけど君達には、ここで終わってほしくない……だから───」

 

 お兄さんは力強い瞳で俺達一人一人の顔をしっかりと見回す。四人は涙を止め、彼の次の言葉を待った。

 

 

 

 

 

「ファイナルステージのオープニングアクトを───君達に任せたい!!」




 めちゃくちゃ長くなりました。二万字越えですごめんなさい。二話に分けたかったけど話の勢いを優先しました。

 以下はクソ長あとがきです。

 興味のある方だけお読みください。

 それ以外の方はここまでお読みいただきありがとうございました!

 次回もよろしくお願いします!

【クソ長あとがき】

 結束バンドにはファイナルステージのオープニングアクトをやってもらいます。

 結束バンドを散々RTAして強化イベントを増やしてライブ審査でトリまで飾ったのに敗北させたことに対しては、読者のみなさんも色々と物申したいことがあると思います。どんな批判も受け入れます。でも誹謗中傷はやめてね?

 ただ、SIDEROSやケモノリアの格を落とさず、尚且つ結束バンドの成長と原作との違いを表現する方法は私の頭ではこれ以外に思いつきませんでした。

 出場枠を増やすのはご都合主義過ぎて「う~ん」って感じだし、かといってただ敗北させても「原作と何も変わらんやんけ!」と私の心が叫んでいたのでこういう展開にしました。

 もしも先に私と同じ展開をされている二次創作があったらごめんなさい。パクる意図はなく単に私の無知です。はい。

 で、前々回の伏線の答え合わせですが……もちろん「オープニングアクト」です。

 ライブ審査のオープニングアクトを務めるSICKHACK。そのリーダーであるきくりにオープニングアクトの重要性や存在意義を熱く語ってもらいました。ちょっと唐突だったので気付いている人も結構いたんじゃないかと思います。

 志麻さんに語ってもらおうかと思ったんですが、たまにはきくりにも良い役目をあげようという私の優しさときくりファンに媚びを売ろうという薄汚い下心でああなりました。結果的に素面きくりに語らせてよかったと思います。

 前半は色々なキャラを登場させました。予定ではあと二話で完結なのでここで出さないと下手したらもう出てこない可能性もあったので。そのせいで文字数が二万字超えになっちゃったけどね!

 ちなみに、結束バンドにファイナルステージのオープニングアクトをやらせるという展開は連載当初からずーーーーーーっと考えていました。やりたい場面をかけてすーーーーーーっきりです! まさかここまで80話以上かかるとは思わなかったけどな!!

 ではでは、本当に残りわずかとなりましたがどうぞ最後までお付き合いください。

 評価、感想、ここすき、誤字報告等ありがとうございました!  

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