「あっつい……」
「溶けそうだよね~」
「お二人とも大丈夫ですか? これ首に巻いてください。ひんやりしますから」
「ありがとーレンくん♪」
八月七日、未確認ライオットファイナルステージ。
俺は一号さん二号さんのお姉様二人と一緒に東京ビッグサイトへとやってきていた。一年前は結束バンドのみんなと一緒に来て、たまたまヨヨコ先輩達と会ったんだよな。懐かしい。
ライブ審査後、MCのお兄さんからオープニングアクトを依頼されて……その時はお兄さんの言葉の意味をすぐに理解できなくてみんなで宇宙猫状態になってたんだけど、他の審査員さんや吉田店長から詳細を説明されてなんとか受け入れることができたんだ。
そして、依頼に対する結束バンドの返答はもちろん───
「感慨深いね~。下北の路上でコピーバンドやってたみんながこんな大きなステージに立つようになったなんて」
「そういえば、あの路上ライブで声をかけてくれたのはレンくんだったわね」
「そーそー。男の子がビラ配ってるな~って思っていたらまさかの路上ライブで……」
俺もよく覚えています。あのライブの後、お二人だけはライブのチケットを買ってくれましたからね。
それにしても、たまたまあの時あそこを通りがかった女子大生の二人がこんなにもずっと結束バンドを応援してくれて、ライブも毎回欠かさず観に来てくれるようになるなんて……人の縁って本当に不思議だな。
「あの出会いで私達が栄えあるファンの一号二号になれたもんね!」
「言っておきますけど、俺はガチの結成当初から知ってるので真のファン一号は俺ですからね? お二人はね……まだまだ
「急に厄介古参老害ファンマウント取ってきた!?」
「そういうところ、リョウちゃんにそっくりね」
でも、もっと言うと虹夏ちゃんが「バンドを組む!」って決めたことを最初に知ったのは星歌さんだから真真ファン一号は星歌さんなんだよね。その星歌さんは今日もSTARRYを休みにして応援に来ているらしい。どこにいるのかはわからないけど。
「もしもファンクラブができたら会員ナンバー1は俺のものですからね」
「あ、ずるいっ! 私も一番欲しい!」
「残念ながら、レーベルでバイトしている俺に圧倒的なアドバンテージがあるんですよ。司馬さんにお願いすれば造作もない……」
あの人の胃袋と事務所の平穏が保たれているのは俺とやみさんのおかげだからね。このくらいの我儘は聞いてもらえるんだ。
「しょ、職権濫用だ! レンくんはいつからそんな悪い子になっちゃったの!? おねーさんはそんな子に育てた覚えはありません!」
「俺も二号さんに育てられた覚えはありませんよ」
むしろ一時期病んでて俺がお世話した側だったじゃないですか。
「ぐぬぬ……い、いいもんっ! 番号なんて関係ないもんね~大事なのはバンドに対する愛の深さだもんね~それなら私だってレンくんに勝てるもんね~」
「確かに、愛の
「ふ・か・さ!!」
「あ^~ナンバー1の会員証片手に飲む酒が上手いんじゃ~」
「レンくんがお酒飲んだら大変なことになるでしょ!」
二号さんがそんなことを言ってくるけど、俺の予想だと二号さんもお酒を飲むと面倒臭くなるタイプとみた。実際その辺どうなんです?
「私はおとなのおねーさんだからね? お酒の嗜み方なんてよゆーだよ、よゆー。なんならおねーさんがレンくんにお酒の飲み方を教えてあげ───」
「この子、お酒飲んだらハイになってベタベタ甘えてきてかなり面倒臭いわよ。それでいきなりダウナーになったり情緒不安定で」
「なんですぐバラすの!? 私の年上お姉さんのイメージが崩壊しちゃうじゃん!」
「いえ、元からそういうイメージ持ってないです」
「酷い!」
だって普段の言動がちょっと子供っぽいじゃないですか。一号さんはしっかり者の年上お姉さんって感じですけど、二号さんはどう見ても妹系というかなんというか……多分大学の同じ学科の人達にはマスコットポジションとして可愛がられてるんだろうな。
「レンくんが私を見る目がひとりちゃんを見る時と同じになってる気がする……ここはおねーさんらしく年下の男の子を優しくリードする感じで行こう! よーし……レンくん! 結束バンドの晴れ舞台なんだからもっと前に行くよー! おー!」
「……前は結構な地獄ですよ?」
「だいじょーぶ! おねーさん強いから」
二号さんはそう言って俺の手を引いて人混みに突撃する。一号さんを見ると、彼女は苦笑いを浮かべながら俺達について来ていた。
「ふえぇ……人多いよぉ……『人混みから彼女守るマン』がいっぱいいるよぉ……」
「だから言ったじゃないですか」
見事な即落ち二コマである。
どうにかがんばって三人で先頭までやってきたけど、ライブが始まる前からすでに二号さんはダウンしかけていた。俺は夏フェスの地獄を何度も味わってきてるから知ってたけど、一号さんと二号さんは初めてだからなぁ……
「一号さんは大丈夫ですか?」
「私は大丈夫よ。……それよりその子を見ててあげてくれる?」
とのことだったので、とりあえず二号さんを俺と一号さんでガードするように配置する。やっぱり二号さんに年上おねーさんムーブは無理ですって。
「はぁ……おっきいステージ……さっきまでは手放しで喜んでたけど、なんだか結束バンドのみんなが遠いところに行っちゃった気がするね……」
「気持ちはわからんでもないですよ。……また病みそうです?」
「や、病まないっ……! ただ、ちょっと寂しいだけだから」
二号さんに言う「寂しい」には共感できる部分はある。ただ、俺は等身大の結束バンドを……というより普段の彼女達を知り過ぎているから変に拗らせたりしないだけで……俺も二号さんと全く同じ立場だったら、今の彼女みたいな気持ちになっていたかもしれない。
「ねえ、レンくん」
「なんですか?」
「もしまた病んじゃったら……慰めてくれる?」
「時と場合によります」
「すっごい現実的な回答!?」
だって二号さんって甘やかしすぎると変に依存されそうでややこしいことになりそうなんですもん。きっと彼氏のスマホのロックをこっそり解除してロインとか確認しちゃうタイプだ。
「そんなことしないもん!」
「ほんとにぃ?」
「ほんとっ!」
「ちなみに俺はスマホにロックはかけません。操作の度に解除するのが面倒なので」
「それはそれで不用心過ぎない!? 見られて困るものとか……」
「ないですね~……もしかして二号さんは困るようなものがスマホに?」
「な、ないよっ! あるわけないじゃん! レンくんのえっち!」
「誰もえっちなものとは言ってないでしょ」
二号さんが顔を赤くしながらぷんぷんし始める。反応があまりにも面白かったので笑っていたら二号さんはほっぺたを膨らませながら俺をぺしぺし叩いてきた。とりあえず元気になったな、ヨシ!
「まあ、甘やかしてくれるような優しい彼氏をがんばって作ってください」
「応援が雑! あとね、言っておくけど美大って男女比が女子に偏ってて出会いが少ないんだよ? レンくんの言う優しい男の子なんて……彼女がいるに決まってるじゃん」
「他の大学と飲み会とか……ああ、お酒飲むとガードがガバガバになるからだめですね」
「……はあ、どこかに運命的な出会いとか転がってないかな」
星歌さんみたいなこと言い出した。二号さんも普通にしていれば可愛いし、ちょっと病んじゃうところも庇護欲掻き立てられるから真っ当にモテそうな気がするんだけどな。一号さんは一号さんで頼りになるお姉様タイプで、そういう女性が好きな人ってかなりいると思うし。
……大学選びって大事だな。
「レンくん、私達と同じ大学に通う気ない?」
「俺が大学生になる頃には卒業してるじゃないですか」
「……あーあ、レンくんが大学生だったらよかったのになー」
仮に俺が今大学生で二号さんと同じ美大の学科に進学してたとしても俺達が付き合うなんてそんな都合の良い……いや普通になんやかんやあって付き合ってそうだな。二号さんって俺の元カノと性質とか傾向が似てるし。
さすがに失礼すぎるからそんなことは言わないけどね。
「そういえば、レンくんって進学するの? それともレーベルに就職?」
一号さんが尋ねてくる。
「今のところ大学進学志望ですね。芳大の教育学部を狙ってます」
「芳大ってジカちゃんと同じところね。学校の先生か~。レンくんなら良い先生になれるわよ」
「ありがとうございます」
実際になるかどうかはまだ未定ですけどね。
「れ、レンくんが学校の先生!? 絶対生徒に『私が卒業したら付き合ってください!』って言われるヤツじゃん! ダメだよレンくん! 女子高生に手を出したら!」
「このSNSが蔓延るご時世でそんなことするわけないじゃないですか。そもそも、そんな漫画みたいなことが起こるはずないでしょ」
「いーや、起こる! 私にはわかる! 女の子って男の子よりも精神的な成長が早いから男子高校生なんて子供に見えちゃうんだよだから年の近い新任の男の先生や教育実習に来た大学生に年上の魅力を感じちゃって憧れちゃってそれがだんだん恋愛感情へと昇華されていって……」
なんか二号さんが一人でぶつぶつ語り始めて怖い。でも聞き流していい内容だったので適当に相槌を打っていると、それがお気に召さなかったらしくまたぷんぷんし始めた。
「それから家庭教師! レンくん! 絶対に家庭教師のバイトなんてしたらダメだからね! おねーさんとの約束だよ!?」
「今でさえバイト三つ掛け持ちしてるのにさらに増やす気なんてないですよ」
むしろ場合によってはシフトを減らさなきゃいけないくらいですから。
「あ~……心配だなぁ……レンくんが大学生になって悪い遊びを覚えたりしないか心配だなぁ~。お酒を飲まされて隙だらけになったところお持ち帰りされたりしないか心配だな~。はっ……レンくんっ! まさかとは思うけど一人暮らしする気じゃないよね!?」
「バイト代がかなり貯まってるんで高校卒業次第するつもりですけど」
「だめー! だめー! 絶対はんたーい! レンくんが一人暮らしとか……東京で一人暮らしとか……こんなのもう完全に鴨葱じゃん! おねーさん許しませんよそんなこと!」
「暑さで頭やられました?」
二号さんのテンションがさっきからおかしい。夏は人を開放的にするって言うし、初めてのフェスで色々舞い上がってるんだろうな。大丈夫? 救護所に行きます?
「せめて誰かと同棲しなさい! リョウちゃんとか!」
「姉貴の世話が面倒なんで実家を出ようと思ってるんですけどね」
「じゃあ私! 私と一緒に暮らそう! これで万事解決だね!」
「一号さん、
「……そっとしておきましょう」
二号さんと同棲するとか……それならまだ姉貴や虹夏ちゃんと同棲する方が現実味ありますよ。俺と一号さんが残念そうな目で二号さんを見るも、二号さんの興奮は収まらず、最終的に一号さんが二号さんのおでこに冷えピタを貼ってあげるのだった。
「あ、レンだ~! やっほー!」
「あれ? イライザさんと志麻さん? もしかしなくてもファイナルステージを観に?」
「ああ、SIDEROSも結束バンドも私達にとっては大事な後輩だからね。ちゃんと最後まで見届けようと思って」
二号さんの暴走が比較的落ち着いて、ファイナルステージの開始を待っていると人混みの中からイライザさんと志麻さんが現れた。まさかこの二人に会えるとは……ライブ審査の後は色々バタついてたからちゃんと話す時間がなかったんだよな。
「遅くなりましたけど……あらためてありがとうございました。お二人のご協力がなければ、結束バンドのみんながこの舞台に立つことはできなかったと思います」
「私達は手段を教えたに過ぎない。どれだけ環境が整っていようとも、本人達にやる気がなければあそこまで伸びなかったさ。それに、君が一番よくわかっているだろうが……本当にがんばったのはあの子達だよ」
「それでも、ですよ。ちゃんとお礼を言っておきたかったので」
自分達の力だけで成長するには限界がある。競い合う相手がいて、導いてくれる先達がいて初めて殻を打ち破ることができる。俺には彼女達を導くことなんてできないけれど、導いてくれる相手を探すくらいならできる。
そして、結束バンドにとって、SICKHACKはそういう導いてくれる存在なんだ。
「レン、誠意はネ。言葉じゃなくて行動で示さなくちゃだめなんだヨ!」
「……具体的に何をお望みですか?」
「えへへ~♪」
イライザさんが悪戯っぽく笑った後、背伸びをして俺の耳元でそっと囁いた。
「(レンの好きな子、教えて?)」
「(だめです)」
即答だった。確かに何らかの形でお礼をしようとは思ったけど、それとこれとは話が別だ。そもそも、こんなところで言いたくないし。
「えー!? なんでー!? レンのけちー! いけずー!」
「『いけず』なんて日本語どこで覚えてきたんですか?」
イライザさんがわざとらしくぶーぶー拗ねていたので、宥める意味を込めて特農ミルクの塩飴を彼女にあげる。最初は「子供扱いしないで!」って言ってたけど、飴を口に放り込んだとたんご機嫌になった。この塩飴めっちゃ美味しいんだよね。
「そういえば、廣井さんはどうしたんですか? 二日酔い?」
「いや、借金を返済するためにここの出店でケバブを売ってる」
「……債務者の悲しき末路」
廣井さんにもお礼を言いたかったのに……仕方ないから俺も後で出店に行って廣井さんの借金返済に協力してあげるか。
「ついに未確認ライオットファイナルステージ!! 全国から勝ち進んだ注目の若手バンド達がグランプリの栄誉をかけてぶつかり合う!! どこのバンドがその栄誉を掴むのかは誰にも予想できない!! ただ一つ言えることは、ここまで勝ち残ったバンド全てにそれを手にするチャンスと実力があるということ!!」
それからしばらくSICKHACKの二人も交えて五人で話していると、ついにファイナルステージが始まる。MCのお兄さんはライブ審査の時と同じ人だった。こういう大舞台のMCを任される辺り、あのお兄さんってやっぱり結構な大物なんじゃないの?
「体感しろ!! 新時代を担う若き魂のエナジーを!! 五感全てで!!」
相変わらず熱いお兄さんだ。でも、やっぱフェスはこうじゃないとね。会場のボルテージと一緒に、俺も自分がどんどん興奮していくのがわかる。
「まずはこの最高の舞台を彼女達に温めてもらおうか!!」
これ以上ないくらいの……ライブ審査の時とはまた違う高揚感。
「───結束バンド!!」
あの時は、審査される側だったから俺にも少なからず……いや、かなりの緊張があった。
だけど今は、審査なんて関係なく、何の憂いも不安もなく彼女達の演奏を楽しめる。
「みなさんこんにちはー! 結束バンドでーす!」
喜多さんが持ち前の笑顔と明るさで元気よく観客に声をかけた。
ああ……ダメだ。
結束バンドのみんなが……四人がこのステージに立っている。
それだけで……それだけで……
胸の奥から熱いものがこみ上げてくる。涙がこぼれそうになってくる。感無量とか……感慨深いとか、そんな言葉で表現できるようなものじゃない。いやそもそも、この感動を言葉
ただ俺は、思うがままで、感じたままでいればいい。
「オープニングアクトという大役を任されて大変光栄に思います! だけど、光栄に思うだけじゃありません! この後に出演する全てのバンドよりも……グランプリを獲ったバンドよりも……私達の方がすごかった! って言ってもらえるくらい盛り上げていくからね!」
喜多さんの言葉に会場が沸く。喜多さんってほんとにこういう場面で盛り上げるのが上手いよな。下手にウケを狙ったMCなんてやらなくていいんだよ。あんなもんファンが愛想笑いしてくれてるだけなんだから(姉の多大なる偏見の影響)
そんなことを考えていると、喜多さんと目が合った。するとなぜか彼女は俺に対して勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
どういうこと? 今度は一体何をやらかす気? 例のキタキタした感じじゃないから大丈夫だとは思うけど。
ただ、これだけは言わせてほしい。
この後の出来事に関して、俺は一切関与していないということを。
「それともう一つ! リードギターの後藤ひとりが演奏前にみなさんに伝えたいことがあるそうです!」
俺はしばらく、喜多さんの言葉の意味を理解しかねていた。
ひとりが……話す?
この……この……大舞台で? 文化祭やライブ審査とは桁違いの数の観客の前で?
あの……ひとりが?
「み、みなさんこんにちは───け、結束バンドの後藤ひとりです」
やっぱりやめておけばよかった。
喜多ちゃんにマイクを渡されて最初に思ったことがそれだった。
文化祭の時やライブ審査の時の観客数はせいぜい数百人。だけど、だけど……今、私達の目の前にいるのは……何人? 数えるのが馬鹿らしくなるくらいの人数だ。きっと、千人は軽く超えているだろう。
さっきのMCのお兄さんがいい感じに盛り上げてくれたおかげで、会場は異様な熱気に包まれていた。その熱気を真正面からぶつけられて、圧倒されて、頭がくらくらしてくるよ。
お客さん達の視線が、一斉に私に注がれて……
ああ、どうしよう。逃げ出したくなってしまった。
頭の中が真っ白になってしまった。
マイクを握る手が震えて……力が入らない。
やっぱり、こんなことやめてしまおう。
私は目の前の光景から逃げ出すようにぎゅっと目を閉じ、俯いてしまった。爆発しそうなくらいの心臓の鼓動だけが頭の中に響く。
はは……結局私は何も変わらない。
だめな子───
「がんばれー!」
その時だった。
声が、聞こえた。
今、私が一番聞きたくて、私が一番大好きな人の声が。
ゆっくりと目を開ける。
すると、私の好きな人が……世界で一番大好きな人が……最前列で、笑顔で私に手を振っている。
彼のそんな笑顔を見た瞬間、私は心と体がフッと軽くなるのを自覚した。心臓の鼓動が、破裂しそうな鼓動が治まって落ち着きを取り戻す。
君はいつもそうだった。
私が足踏みして、立ち止まって、一人の世界に閉じこもってしまいそうになった時、君はいつも私の手を引いて、背中を押してくれた。
「ひとりちゃーん! がんばれー!」
「ぼっちちゃーん!」
「嬢ちゃんがんばれー!」
「ビビる必要なんてないぞー!」
彼だけじゃない。私のことを知ってくれている人も、知らない人も、会場の人達がみんな私を応援してくれていた。
あったかい……
そして、私は気付く。
そうだ。何を怖がっているんだ私は。今、目の前にいる人達は私の敵なんかじゃない。ここにいる人達はみんなみんな……私の味方なんだ。
さあ、前を向け。顔を上げろ後藤ひとり。
いつまでも───猫背のままじゃいられない。
「み、みなさんこんにちは───け、結束バンドの後藤ひとりです」
会場が、静まる。自分の唇が、口の中が渇いていくのがわかる。
だけど、それでいい。そんなことはもう、気にならない。
「私は本来、こんな大きなステージに立てるような人間ではありませんでした」
みんなに伝えたいことがあるから。
「休み時間はいつも一人で寝たふりをしたり本を読んでいたりするような人間で、ネットの世界でしか人とつながることができなくて、高校生になってバンドを組むまで……友達なんて一人もいませんでした」
きっと、中学生の私が今の私を見たらびっくりするだろうな。
「私はずっと……何をするにも他力本願で、自分から誰かに話しかける勇気も、自分から行動する勇気のないどうしようもない人間で……でも、そんな私に勇気をくれた人がいた。背中を押してくれた人がいた。独りぼっちだった私に手を差し伸べてくれた人がいた。その人のおかげで、私は最初の一歩を踏み出すことができた」
言葉にするのも恥ずかしいけれど、きっとあれは運命の出会いだったんだ。
「私が今、ここに立てているのはその人の……ううん。その人だけじゃない。本当に……本当にたくさんの人に支えられて、応援されて、背中を押されてここに立つことができました」
どんな時も私を肯定してくれた家族、辛いことも楽しいことも喜びも悲しみも全部分かち合ったバンドメンバー、何でも相談に乗ってくれた優しい友達、いつもいつも最前線で応援してくれたファンの人達、これまでずっと競い合ってきたライバル……例を挙げればきりがないほどたくさんの人達に。
「だから……このライブは私を、私達を支えてくれた人達に、今日、見に来てくれた人達に、関わってくださった全ての人達に───ありったけの感謝を込めて」
そして、大好きな君に。感謝してもしきれないくらいの思いを───愛を。
「それから……」
大事なことをもう一つ。
「自分を変えるきっかけというものは、自分が思っているよりもずっとずっと近くに存在しています。だけど、もしもそのきっかけに手を伸ばす勇気が……最初の一歩を踏み出す勇気がないのなら───」
今なら、今の私ならこう言える。
私だからこそ、こう言える。
「私が───私達がその勇気になるよ」
あの時、君が私にそうしてくれたように。
今度は私が、他の誰かに勇気を与えたい。
言葉だけじゃなく、私達の音楽で。
そんなことができるような人間になりたい───いいや、なるんだ!
私はこれまでずっと、自分はなんてダメな人間なんだろうって思っていた。でも、そんな私でも……どうしようもない私でも「こんな人間になりたい」っていう、理想の自分を思い描くことができたんだ。
きっと、今日
これから先、長い長い人生の中で一生忘れることのできない日。一生忘れることのできないライブ。一生忘れられない光景。
君の大好きな
『ゴールはきっとまだだけど もう死ぬまでいたい場所にいる』
その通りだ。
さあ───いくよ、みんな。
今日も最高のライブにしよう。
そして
『あの輝きを確かめにいこう』
ぼっちちゃんが猫背の虎でなくなった日。
ぼっちちゃんにライブ審査で観客に向かって話をさせなかったのはこのためです。
よりたくさんの人の前でちゃんと話せるようになりました。成長したぼっちちゃんを書けてよかったです。
ではでは、評価、感想、ここすき、誤字報告等ありがとうございました!
次回もよろしくお願いします!