【完結】俺の姉貴はやべーヤツ   作:わへい

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 終わる終わる詐欺。

 虹夏ルートです。



√N 永遠のドリーマー

「虹夏ちゃん、どうしたの? せーかちゃんは?」

「レンくん……お姉ちゃんが、お姉ちゃんがライブハウスに行っちゃった~! 虹夏とアニメ観るって約束してたのに~っ!」

 

 今にして思えば、あたしは小さい頃からずっと君に甘えてばかりだった。

 

「じゃあお家で俺と一緒に観よ? ()()()()()()もいるから、ね?」

「……うん」

 

 君はいつもそうだった。あたしが泣いていると決まってあたしのところにやって来て、あたしを抱き締めて優しく頭を撫でてくれた。

 

「せーかちゃん! 虹夏ちゃんを泣かせたらだめっ!」

「……うるせー」

 

 そしてお姉ちゃんに会ったらいつもあたしのために怒ってくれた。昔からお姉ちゃんはレンくんに弱かったよね。今でも口で言い負かされてるし。

 

「レンくん、虹夏ね。大きくなったら安定した公務員になってレンくんのお嫁さんになるっ! だからレンくんもバンドマンになんかなっちゃだめだよ?」

「うん、わかった。絶対にバンドマンになんかならない」

「えへへ、やくそく~」

「うん、約束!」

 

 レンくんとそんな約束をしたことを、あたしは今でもはっきり覚えている。そうだ、昔のあたしはライブハウスなんて、バンドなんて大っ嫌いだった。お姉ちゃんは全然家に帰って来てくれないし、全然遊んでくれないし……バンドにお姉ちゃんを取られちゃったような気がしてたんだ。

 

 うん、今思い出すとすごく恥ずかしいや。あの頃はお姉ちゃんと喧嘩ばかりしてたなぁ~。でも、レンくんやリョウが一緒に遊んでくれたからその寂しさはちょっとずつ薄れていって、あたしも毎日楽しかったんだ。

 

 あの日まで───お母さんが交通事故で死ぬまでは。

 

 お母さんがいなくなってからレンくんは毎日あたしを家まで迎えに来てくれた。それで一ヶ月くらいは無理して学校に通っていたんだけど、家に帰って一人になると、お母さんがどこにもいないっていう現実があたしの心を少しずつ少しずつ蝕んでいったんだ。 

 

「虹夏ちゃん、学校行こう」

「行かないっ! レンくん一人で行って!」

 

 そしてとうとう、あたしは学校にもどこにも行きたくなくなって……レンくんにも冷たく当たっちゃって……

 

 だけど、だけど君は───

 

「じゃあ、俺も行かない」

 

 お家の隅っこで座り込んでいるあたしに寄り添うように、レンくんはあたしの隣にいてくれた。

 

「虹夏ちゃんが学校に行けるようになるまで、ずーっとここにいてあげる」

 

 ねえ、あたしが君にどれだけ感謝しているかわかる? 君はね、あたしは一人じゃないってことを教えてくれたんだよ。君にとっては何気ない一言だったのかもしれないけど、あたしはあの日の、あの時の君の言葉で救われたんだ。

 

 あの日も、君はいつもと同じだった。泣きじゃくる私を抱き締めて、優しく頭を撫でてくれた。

 

 そんな君だから

 

 昔から何一つ変わらない優しい君だから

 

 あたしは君のことを好きになったんだ。

 

 

 

 

 

 

√N 『永遠のドリーマー』

 

 

 

 

 

 

「レーンくんっ!」

「いらっしゃい虹夏ちゃん」

 

 玄関のドアを開けるとあたしの大好きな彼氏が笑顔で出迎えてくれた。思わずあたしがそのままぎゅうっと抱き着くとレンくんの優しくて甘い香りが胸いっぱいに広がる。レンくんはそんなあたしを受け止めてゆっくり頭を撫でてくれた。

 

「姉貴が待ってるから部屋に行こうか」

「ん~……もうちょっと。あと十秒だけ」

「しょうがないな~」

 

 あたしがそう言うとレンくんは苦笑しながら抱き締める力をちょっとだけ強めてくれる。優しいなぁレンくんは。こんなことされちゃうと離れたくなくなっちゃうよ。今日はちゃんとした予定があったけど、レンくんのお部屋でこのままずーっと二人でくっついていたいなぁ……

 

「はよ来んかいバカップル」

 

 そんな風に考えていると、廊下の奥から無表情ながらも呆れオーラ全開のリョウがやってきた。

 

 ごめんねリョウ。あと十……二十秒だけだから。

 

 

 

 

 

 

「今日は何を観るの?」

「本日の一本はこれ。『アンヴィル! 夢を諦めきれない男たち』」

「レンくんって最近メタルにハマってるよね」

 

 玄関でひとしきりいちゃいちゃした後、オーディオルーム兼シアタールームへと案内される。お家にこんな防音設備がしっかりした部屋があるなんて……レンくんのお家って本当にお金持ちだよね。

 

「レンがメタルにハマってる理由……それは女の影響」

「どーせリョウだったってオチでしょ?」

 

 大きなモニターの前に置かれているソファに三人並んで座ると、リョウが怪しく笑いながらそう言った。レンくんの音楽の趣味はリョウの影響が大きいからなぁ~。そうやって意味深に言ってあたしの反応を楽しんでるんでしょ?

 

「残念ながら今回は私じゃない。教えてやれ、レン。新宿で出会ったあの女のことを」

「誤解されそうな言い方やめてくんない?」

「でも、レンがあの女と出会ってからメタルをよく聴くようになったのは事実」

「それはそうだけどさぁ……」

 

 リョウの言葉にレンくんがバツの悪そうな表情をしている。あれ? 本当にリョウ以外の女の子の影響を受けちゃってたの? でもレンくんの知り合いでメタルが好きそうな女の子なんていなかったと思うんだけどなぁ。

 

 別に嫉妬なんて……ほんのちょっとだけしかしないけど、もにゃもにゃするからあたしはレンくんの手をにぎにぎしてみる。

 

「あのね虹夏ちゃん、俺がこの前姉貴に新宿までパシられた時の話なんだけど……」

 

 レンくんは申し訳なさそうな表情で話してくれた。要約すると、リョウがわがままを言って新宿にあるケーキ屋さんのケーキをレンくんに買いに行かせて、レンくんはその道中で凄腕のギターボーカルの女の子と出会ってお話して仲良くなったらしい。

 

 その女の子は一人でULTRA-VIOLENCEの「Burning Through the Scars」を演奏していて、そのあまりの技術の高さに感動して思わず声をかけちゃってリョウと食べるはずだったケーキをその子と一緒に食べたとかなんとか……

 

 恋愛漫画の第一話かな?

 

「虹夏の知らないところでレンは王道のボーイミーツガールをやっていた。うーんこれは修羅場の予感」

「なんでそんな嬉しそうなんだよ。あれから先輩とは一回も会ってないのに修羅場もくそもあるか」

「その子、年上なんだ?」

「うん。虹夏ちゃん達と同い年だよ」

「……可愛かった?」

「え?」

「その子、可愛かった?」

 

 レンくんの手をにぎにぎしながらわざとらしく不機嫌な声で尋ねると、レンくんが焦った様子であわあわしている。……可愛いなぁ。

 

「か、可愛かった……よ?」

「……ふーん」

 

 レンくんは正直に答えてくれた。君はリョウと違ってそういうところで嘘はつけないもんね。

 

「あのさ……その子よりも虹夏ちゃんの方がずっとずーっとずーーーーっと可愛いし俺が一番大好きなのは虹夏ちゃんだからね」

 

 レンくんはこうやって言葉にするのも恥ずかしいようなことを真正面から言ってくれる。君のそういうところ、ほんとに大好き。

 

「えへへ。ありがとっ。しょうがないから許してあげよう」

「……虹夏ちゃんが言わせたくせに」

「たまにはいいでしょ~? それとも、こうやって嫉妬しちゃうあたし……嫌い?」

「ううん。好き。大好き」

「あたしもね、レンくんのこと大好きだよ」

「はいはい糖尿糖尿。インスリン持って来い」

 

 

 

 

 

 

「はー……やっぱクドロー格好良いな。六十過ぎてもあんな風に子供みたいな笑顔で演奏できるじーさんになりたい」

「まずは髪を伸ばしてもじゃもじゃにするところから始めよう」

 

 DVDを観終わって、レンくんが膝の上に座っているあたしをぎゅうっと抱き締めながらうっとりした声でそう言った。こうやって一緒に映画を観る時は大体あたしがレンくんの膝の上に座って、でもホラー映画を観る時はお互いにぎゃーぎゃー悲鳴を上げながら抱き合ってるんだ~。

 

「虹夏ってレンの膝の上に座るの好きだよね」

「えへへ~、だって落ち着くんだもん」

「でも虹夏は細くて肉付き良くなくておっぱい小さいから抱き心地よくなさそう」

「乳のことを言ったら戦争ぞ? お? お?」

 

 あたしはそう言いながらリョウの胸をぺしぺしと叩く。ちょっと大きいからって調子に乗っちゃって~! た、確かにあたしはリョウと比べたら小さいけどこれから成長するんだもん!

 

「はぁ~……わかってないな姉貴は。虹夏ちゃんは腕の中にすっぽり収まるこのサイズ感がちょうどいいんだよ。良い匂いするし髪サラサラで撫でると気持ち良いし、このまま抱き枕にして昼寝したい」

 

 あたしもこのままレンくんにぎゅーって抱き着いてお昼寝したい!

 

「ふん。何やら聞こえの良いことを言っているがレンはおっぱい星人だろう?」

「確かに俺が巨乳好きなのは間違いない。でも正直、虹夏ちゃんが巨乳になるっていうのは解釈違いなんだ。虹夏ちゃんはちんちくりんのままでおっぱいが小さいことを気にしててほしい」

「わかる。虹夏には『小さくてごめんね……』って申し訳なさと恥じらいが混ざった表情で服を脱いでほしい」

「それな!」

「こーゆーときだけ姉弟で団結するなぁーっ!」

 

 くそーっ! そこまで言うなら絶対巨乳になってやるんだからねーっ! おっきいおっぱいでレンくんをたくさん誘惑してあげるんだから覚悟しなよ! あたしがちょっと怒り気味にそう言うとレンくんが優しく頭を撫でてくれる。そ、そんなので誤魔化され……誤魔化されないんだからぁ……えへへ、もっと撫でて撫でて~

 

「じゃあそろそろ今日の本題に入ろう。このままだと二人で虹夏を愛でるだけで一日が終わってしまう」

「せやな。虹夏ちゃん、真面目な話するから降りて」

「え~? このままじゃだめ?」

「……だめじゃない」

 

 ふふ~ん♪ レンくんはあたしがこうやって甘えておねだりすれば何でも言うこと聞いてくれるって知ってるんだよ~?

 

 あ、でもちゃんと真面目にお話はするからね。あたし達()()()将来に関わることだから。

 

「これからのあたし達三人について……バンド活動について話し合おうか」

「もう一人新メンバーが欲しい。欲を言えばある程度経験値のあるギターボーカル」

「俺か姉貴がボーカルやってもいいけど、演奏に厚みを持たせるならもう一人ギターが欲しいよね」

 

 三人の将来……話し合うのはあたし達が組んでいるバンドの将来についてだ。今のところレンくんがギター、リョウがベース、あたしがドラムのスリーピースバンドで、三人でもやっていけないことはないんだけど三人だとどうしても音が薄くなっちゃうんだ。

 

 それに、気心の知れた三人だけだと馴れ合いで終わっちゃう可能性だってある。だから、あたし達三人とは全く関係のない第三者的立ち位置でしっかり自分の意見を主張できるような人が欲しい。

 

「でも、そんな都合の良い人なんていないよね~」

「いるよ」

「いるのぉ!?」

 

 レンくんがあっさりそう言ったからあたしは思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。リョウの言うようなある程度経験値のあるギターボーカルで自分の意見をしっかりと主張できるような、なおかつあたし達とは全然関係ないところにいる人。

 

 あ、もしかして……

 

「さっきレンくんが話してた新宿で出会ったギターボーカルの人?」

「うん。その人、今は諸事情でソロ活動しててバンドメンバーを探してるんだ。初めて会った時に将来のこととかバンドに対する姿勢とか考え方とか色々話したんだけど、とにかくものすごく意識が高くて本気で海外フェスのトリを目指してて相応の努力を積み重ねてて確かな実力があって……正直、同世代であの人より上手いギターボーカルを俺は知らない」

 

 レンくんにそこまで言わせるくらいすごい人なんだ。会ってみたい……会ってみたいけど、レンくんがそんな風に別の女の子のことを嬉しそうに話すのはちょっともにゃっとしちゃうな~。

 

 それが顔に出てたらしく、レンくんは優しく笑ってあたしを抱き締める力を強くする。えへへっ♪ 許してあげる~♪

 

「レンが言うなら信用できると思う。虹夏はどう?」

「うん。あたしもその人に会ってみたい! それだけ高い目標を本気で掲げてる人なら、あたしの夢にも共感してもらえるだろうし」

「よし、じゃあ早速連絡してみるね」

「今から!?」

「今から」

 

 レンくんはそう言ってスマホをぽちぽち操作し始める。あ、その人の連絡先も知ってるんだね。ふーん? いや別にね。いいんですよ。このくらいで嫉妬なんかしませんよ。なんだったらあたしだってクラスの男の子から「ロイン教えて」ってよく言われるし~?

 

『も、もしもしっ!?』

「あ、大槻先輩ですか? お久しぶりです。先日の路上ライブでお会いした山田なんですけど……覚えてます?」

『お、覚えてるわよっ! 山田くんね! きょ、今日はどうしたのかしら!?』

「いきなり電話しちゃってすみません。こういう大事な話は自分の口で直接伝えたかったので」

 

 レンくんのスマホから相手の女の子の声が聞こえてくる。相手の子は早口で緊張して焦ってる感じだった。そうだよね~、いきなりレンくんみたいな男の子……それも路上ライブで声をかけられただけの男の子から電話があったらびっくりしちゃうよね。

 

『だ、大事な話?』

「はい。俺達の(バンドの)将来についての話です」

『しょ、将来って!? げほっ!? ごほっ!? ぐえぼふぉっ!?』

 

 相手の女の子……大槻さんが女の子が出しちゃいけないような声でむせ始めた。今のはレンくんの言い方が悪いよ~。絶対わざとやってるよね?

 

「それで、先輩に紹介したい人が二人いまして……」

『しょ、紹介したい人が二人ぃ!?』

「具体的なことは会った時にお話ししますけど……えーっと、端的に言うなら『先輩が欲しい』って話ですね」

 

 その瞬間、レンくんのスマホから「ガタン!」という大きな音が聴こえてきた。大槻さん……スマホ落としちゃったんだね。ごめんね、レンくんが勘違いさせるようなこと言っちゃって。あとでちゃーんとレンくんを叱っておくから。

 

 も~っ! レンくんって普段はすごくいい子なのにこうやって悪ノリするところはリョウに似ちゃって~!

 

 そんなところも好きだけど……

 

「大槻先輩、大丈夫ですか? 聞こえてますか?」

『だ、だいっ、だいじょぶぶよ~! き、聞こえてりゅわっ!』

「もしご都合が良ければ今からお会いできないかと思うんですけど」

『い、今からぁ!?』

「あ、ご予定があるなら無理にとは言いません。でも、なるべく近いうちにお会いしたいなと思って」

『そ、そうよね……大事な、大事なお話だものね。い、いいわっ! い、今から会ってあげる……! (こ、心の準備が……)』

「レン、ここ。ここ行きたい」

 

 リョウがスマホで新宿に新しくできたカフェのホームページをレンくんに見せている。すごくお洒落だ。あたしもそこ行ってみたい!

 

「ありがとうございます! 集合場所のカフェをロインで送るので今から一時間後でどうですか?」

『え、ええ……だい、大丈夫よ……』

「じゃあ先輩、楽しみにしてますね!」

『わ、私も楽しみにしてるわ……』

 

 そしてレンくんは通話を切った。相手の大槻さんは最後まで勘違いしたままだったけど大丈夫かな? 会った途端に怒られたりしないかな? でも、レンくんだってそのくらいわかってるだろうし。

 

「先輩はなんだかんだ優しい人だよ。ちゃんと第一声で俺から謝るし……それに、先輩ってどうも学校で友達とかいないみたいだから最初にこういう冗談で緊張をほぐしてあげようと思って」

「変な誤解されたりしないかな?」

「先輩はそこまで馬鹿じゃないよ。今は悶々としてるかもしれないけど、ちょっと冷静になればおかしいなって思うから」

「う~ん……そうかもしれないけど。でも、女の子にあんまりこういうことしちゃ『めっ!』だよ?」

「は~い」

「許すっ♪」

 

 レンくんって基本的にコミュ力高くて人懐っこいけど、そんなレンくんがこんなに好感を持ってて懐いてる大槻さんってどんな女の子なんだろう? 会うのが楽しみだな~。

 

 

 

 

 

「大槻先輩、紹介します。こちら俺のママである山田リョウともう一人のママである伊地知虹夏さんです」

「こんにちは、ママです」

「もう一人のママです」

「私が思ってた百倍複雑なご家庭!?」

 

 大槻さんは待ち合わせのカフェに先に来ていて、レンくんが声をかけると主人を迎えるチワワみたいな可愛い笑顔を浮かべていた。な、何この子……すっごく可愛い! お洒落だしスタイル良いしどこかのモデルさん!? ほ、ほんとにこの子が凄腕のギターボーカルなの!? 読モとかじゃないの!?

 

「ごめんなさい嘘つきました。姉の山田リョウと父さんの連れ子で血の繋がってない義理の姉の虹夏ちゃんです」

「姉です」

「義姉です」

「結局複雑なご家庭じゃないの!?」

「ちなみに虹夏ちゃんは俺の彼女です」

「障害が多過ぎて世間から白い目で見られるヤツ!!」

 

 レンくんの冗談に大槻さんはいちいち律儀にツッコんでいた。珍しいな~、レンくんがこんなにぼけぼけな対応をする女の子なんて。レンくんって普段はリョウを相手にしてるからツッコミ属性なのに。

 

「ごめんなさい嘘つきました。姉の山田リョウと幼馴染兼彼女の虹夏ちゃんです」

「姉です」

「幼馴染兼彼女です」

「あ、彼女っていうのは本当なのね……」

 

 レンくんの言葉に大槻さんはがっかり……はしてないみたい。まあ、まだ二人は仲良くなり始めたばっかりだし、そういう感情を持ってたりはしなかったか。

 

「あともう一つ謝ります。電話で勘違いさせるような発言をしたのはわざとです。先輩って人との電話にあんまり慣れてなさそうだったから緊張をほぐすためにあんなこと言っちゃいました。ごめんなさい」

「別にいいわよ。あんなの冗談ってすぐわかったもの(ほ、本当は冷静になるまで十五分くらいかかって妹に引かれたなんて言えない……)」

「そういえば先輩」

「どうしたの?」

「先輩って普段は髪下ろしてるんですね」

「ええ。ああいう服装や髪型はライブの時だけよ」

「そうなんですね~。髪下ろしてる先輩も可愛いです!」

「げぼふぉっ!?」

 

 大槻さんが飲んでいたコーヒーらしきドリンクを吹き出しそうになった。こんなに可愛い女の子なのに褒められ慣れてないのかな? なんとなく、レンくんがこの子に懐く……というか気にかける理由がわかった気がする。

 

「あ、あのねっ! 彼女がいるのに他の女の子を褒めたりしちゃだめよ!」

「大丈夫だよ大槻さん。女の子の服装や髪型をちゃんと褒めるように教育したのはあたしだから」

「そうだとしてもいい気はしないでしょ!?」

 

 確かにちょっともにゃっとはするけど、あたしも他の男の子のことを普通に褒めたりするからな~。それに、二人きりになって「大槻さんばっかり褒めてあたし嫉妬してましたよ?」っぽい雰囲気を出せばレンくんがいっぱい甘やかしてくれるからね。えへへっ♪

 

「ん~……でもレンくんの一番はあたしだし」 

「待った虹夏。レンの一番は私」

「やめて! 俺のために争わないで!」

「猛烈に帰りたくなってきたわ……」

 

 大槻さんとのファーストコンタクトはこんな感じ。大槻さんは人見知りらしいからまずは緊張をほぐしてあげようっていうレンくんの案に乗ってよかった。これで和やかな雰囲気でお話しできるね。

 

 その後、リョウも大槻さんを気に入ったらしく彼女の隣に座ったんだ。リョウもコミュ障だから珍しいって思ったけど……多分、大槻さんの「おもしれー女オーラ」を敏感に感じ取ったんだと思う。大槻さん、山田姉弟に懐かれちゃったね♪ あたしとお揃いだ~。

 

「場の空気の温まったところで本題に入りましょう。大槻先輩、単刀直入に言います───俺達とバンドを組んでくれませんか?」

 

 改めて自己紹介を終えてレンくんが話を切り出した。レンくんの言葉を聞いて大槻さんは腕を組み、目を閉じて少しの間思案する。

 

「本気で言ってるの? 私がどういう人間なのか……なぜ私が今、ソロ活動をしているのか山田くんには話していたはずだけど」

 

 そして、目を開けてあたし達三人を見回しながらそう言った。

 

「だからこそ、ですよ。本気だからこそ……大槻先輩が本気で海外フェスのトリを目指しているからこそ、先輩とバンドを組みたいと思ったんです」

 

 レンくんの真剣な表情声色に大槻さんは気圧されているようだった。

 

「私も本気。だって私はこの世界でしか生きられないから」

 

 レンくんに続いてリョウが言う。……リョウ、格好良いことを言ってる雰囲気出してるけど勉強して進学したくないだけだよね? 社会に出て働きたくないだけだよね? ただ、リョウの音楽に対する姿勢は本物だ。前のバンドでも()()()()()から今のバンドに賭ける思いも人一倍強い。

 

「大槻さん、あたしもね……どうしても叶えたい、本気で叶えたい夢があるんだ」

「叶えたい、夢?」

「うん」

 

 あたしの夢はバンドを辞めたお姉ちゃんの分まで人気のバンドになること。そして、お姉ちゃんがあたしのために作ってくれたライブハウス「STARRY」をもっともっと有名にして世界一のライブハウスにすること!

 

 目指すは世界。大槻さんと同じなんだ。

 

 あたしは自分の家庭事情と自分の夢を包み隠さず大槻さんに話した。初対面で重たい話をしたから困らせちゃったかなって思ったけど、大槻さんはずっと真剣な表情であたしの話を聞いてくれて、あたしの夢を、思いを、笑ったりしないで真っ直ぐに受け止めてくれた。

 

 ああ、きっとレンくんは大槻さんのこういうところを好きになったんだなぁ。

 

「あなたはどうなの? 山田くん」

「俺は……」

 

 大槻さんに問いかけられ、レンくんは一呼吸置いて答える。

 

「俺がギターをやる理由は……俺がバンドを組んだ理由は虹夏ちゃんでした。虹夏ちゃんがバンドに誘ってくれて、虹夏ちゃんの夢を応援したくて本気で練習して……」

 

 初めはあたしとリョウの二人だけで始まったバンド。レンくんも昔からリョウに付き合わされてギターの練習をしていたけど、誰かとバンドを組んだり本気で音楽の世界で生きていこうなんて考えてはいなかったんだ。

 

 でも、あたしと付き合い始めて……あたしのことを一人の女の子として好きになってくれてからレンくんは変わった。それまで積極的じゃなかったバンド活動に本気で取り組んでくれて、あたしの夢を真剣に応援してくれて……

 

「虹夏ちゃんの夢を叶えたい。それと同じくらい、俺も……俺だけの夢、目標ができたんです」

 

 ただ、それだけじゃない。

 

 レンくんが変わった理由はそれだけじゃない。

 

 レンくんを変えたもう一つのきっかけは───

 

「俺は───先輩に勝ちたい」

 

 レンくんは基本的に闘争心の強い男の子じゃない。

 

 穏やかで優しくてコミュニケーション能力が高くて、勉強も運動も何でも人並み以上にそつなくこなせて……なまじこなせちゃうから小さい頃から何かに対する()()()()というものが欠けていた。

 

 レンくん自身もそれがわかっていたからキャンプとか動画制作とか筋トレとか色んなことに手を出して多趣味になっていったんだ。

 

 ギターだって基本的なことはあっという間にできるようになって、あたしがバンドに誘うまではあくまで遊びの範疇で楽しむ程度。

 

 そのはず、だったのに。

 

「俺、先輩の演奏を聴いて、演奏している姿を見て、震えるくらい心の底から感動しました。『同世代でこんなことができる人がいるのか』って。それと同時に気付いたんです。俺、今まで何やってたんだろうって」

 

 レンくんのギターは決して下手じゃない。むしろ、彼が練習に費やしてきた時間と実力を考えれば間違いなく「センスがある」人間だ。そのレンくんにここまで言わせるなんて……大槻さんは一体どれだけすごい人なんだろう。

 

 少しだけ、羨ましいなと思ってしまう。

 

「具体的に何を持って『勝ち』と言えるのかはわかんないですけど……ただ先輩に憧れて尊敬してるだけじゃだめだってことはわかります。だから俺、先輩がどんな努力を積み重ねてそれだけの技術を身につけたのかを知りたい。全部全部、先輩のことを知った上で───ギタリストとして先輩に勝つ。それが俺の夢です」

 

 そっか……君はそんな顔もできるんだね。子供の様に目を輝かせて「自分が本当にやりたいこと」を見つけられたんだね。

 

 君にそんな表情をさせる、その役割はあたしでありたかったけど……そう思っちゃうのは傲慢かな。やっぱり、大槻さんが羨ましいや。

 

 あーあ、あたしって結構面倒臭くて重たい女だったんだな~。

 

 ……って、だめだめ。考えが悪い方にいっちゃってるよ~。せっかくレンくんが「あたしの夢を叶える」以外に自分だけの夢を持つことができたんだから喜ばなくちゃ!

 

「……あなた達の思いはよくわかったわ。三人とも理由は違えど本気で音楽と向き合っている。それが十分伝わってきた」

 

 あたし達の話を聞き終えて、大槻さんは頭を深々と下げてこういった。

 

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 こうしてあたし達四人のバンド───「SIDEROS」が誕生した。

 

 

 

 

 

「よし! じゃあ大槻先輩、親睦を深めるためにカラオケに行きましょう!」

「い、今からっ!?」

「今から。大槻ヨヨコの実力がどの程度の物か試してやろう。その上で山田姉弟の美声に恐れ慄くがいい」

「なんで上から目線なのよ!?」

「あたしも大槻さんの歌聴きた~い! ねえ、だめ……かな?」

「しょ、しょうがないわね~。そこまで言うなら付き合ってあげるわ(か、カカカカラオケ!? 今まで家族と行くかヒトカラしかしたことのなかった私が同世代の子達とカラオケ!? し、幸せ過ぎて死ぬんじゃないかしら……)」

 

 この後みんなでカラオケに行きました。大槻さんはやっぱりすっごく上手で可愛くていちいち反応が面白くて……すぐにあたし達と仲良くなれたんだ。えへへ、新しいお友達が増えて嬉しいな~。

 

 それに、メンバーが四人集まったからこれでようやく本格的に活動できる。よーし、あたしたちの戦いはまだまだこれからだ!

 

 

 

 

 

 

「リョウ! ビブラートかけすぎ! 虹夏はレンに引っ張られ過ぎてリズムキープできてないわ! レン! あなたは私に合わせようとしすぎ! リズムギターならそれで十分なのでしょうけど私の代わりにリードギターをやるのならパルスに対する解像度を上げてもっともっとグルーヴを感じさせなさい! あなたがそのままなら私がボーカルをやりながらリードギターもやるわよ!」

 

 ()()()()()()が加わってからの練習は熾烈の一言だった。元々私達三人は気心知れた幼馴染だからお互いの技術に対する指摘も甘いものになってしまっていたけど、ヨヨコちゃんは違う。あたし達に足りない部分を的確に厳しく指摘してくれる。

 

 特にレンくんにはものすごく厳しかった。同じギターっていうこともあるし、レンくんが「先輩に勝ちたい」って言っていたからヨヨコちゃんのレンくんに対する指導に一層熱が入っている。

 

「ヨヨコ先輩、もう一回最初からお願いします」

「だめよ。がむしゃらにやるだけが練習じゃないの。休憩はきちんと取りなさい」

「じゃあ休憩しながらさっきのセッションの反省いいですか? 二番のAメロからBメロへの繋ぎに関してなんですけど」

「先に水分を摂りなさい! ほら、レモンの蜂蜜漬けも作ってきてあげたから───ってリョウ! あなた何勝手に食べてるの!?」

「美味しい。ヨヨコも食べる?」

「作ってきたの私!!」

 

 そしてレンくんもヨヨコちゃんの指導に必死に食らいついている……どころか熱が入り過ぎてヨヨコちゃんが押されてるくらい。もぉ~、しょうがないなぁレンくんは~。

 

「レーンくんっ! ちゃんと休憩しなきゃ……めっ!」

「わかった」

「虹夏の言うことは素直に聞くのね!?」

 

 後ろからレンくんにぎゅーっと抱き着いてそう言うとレンくんはおとなしくその場に座り込んだ。身体がかなり熱くなってるなー。い、勢いで抱き着いちゃったけどあたしも結構汗かいちゃったし……汗臭いって思われちゃったらどうしよう。

 

「虹夏ちゃん、ぎゅー」

「ぎゅーっ♪」

 

 そんなことを考えていたらレンくんが座りながらあたしを正面から抱きしめてきた。えへへ~、汗臭いとかどうでもよくなっちゃった~。

 

「本当に仲がいいのね。もう結婚したら?」

「しますよ。しかるべき時が来たら。ねえ、虹夏ちゃん」

「うん、そーだね。あ、ヨヨコちゃんに友人代表の挨拶やってもらってもいい?」

「軽くジャブを入れたつもりだったのにとんでもないカウンターを返してきやがったわね!?」

「レンと虹夏は放っておいてもそのうち結婚するから大丈夫。でも、もしもそうなったら私とレンと虹夏は親族になってヨヨコだけハブられてしまう。ヨヨコもレンと結婚する?」

「どの世界に弟に二股を勧める姉がいるのよ!?」

「ヨヨコ先輩すみません。俺、先輩のこと好きですけど虹夏ちゃん一筋なんで」

「なんで私がフラれたみたいになってるの!?」

「レンがだめなら私と結婚するしかない───ヨヨコ、私を一生養って」

「史上最低のプロポーズ!!」

 

 こんな感じで練習中はすごく緊張感のある雰囲気だけど、休憩中はすごく和やかで練習が終わったらみんなで遊びに行ったりご飯を食べに行ったりしてるんだ。お互いの呼び方も変えて、あたし達四人はすごくいい関係ができあがってる。普段は仲の良いお友達で、演奏が始まれば互いを高め合う仲間。

 

 ただ馴れ合うだけが仲間じゃないってことを、あたしはこの一ヶ月で……四人でSIDEROSになってからの一ヶ月で学んだんだ。

 

 まあ、最初こそヨヨコちゃんはメンバーが辞めていったトラウマがあって遠慮がちに意見を言っていたんだけど……

 

「ヨヨコ先輩。遠慮する必要なんてないです。俺達は本気で上を目指してるんで、先輩に何を言われてもきちんと受け止めます」

 

 レンくんの本気の言葉が、あたしたちの本気の思いがヨヨコちゃんに伝わってからは今みたいな練習になったんだ。おかげであたしもリョウもこの一ヶ月で信じられないくらい成長した。でも、一番成長したのはレンくん。ヨヨコちゃんにはまだまだ遠く及ばないけど、レンくんの成長速度はヨヨコちゃんが軽く引くくらいだったみたいなんだよね。

 

「っしゃあ! 休憩終わり! ヨヨコ先輩やりましょう! 俺の火照りが冷める前に!」

「もう、しょうがないわねぇ……」

 

 そしてヨヨコちゃんもなんだかんだレンくんに甘かった。レンくんって人を甘やかすのがすっごい上手いけど、あれで「弟」だから甘えるのも上手なんだよね。ヨヨコちゃんには妹がいて「お姉ちゃん」みたいだし。

 

「ヨヨコ先輩みたいなお姉ちゃんが欲しかった」

「やっぱり私とヨヨコが結婚するしかない」

「だから私を雑に山田一族に引き入れようとするな!!」

 

 そしてあたし達は練習を再開する。もうすぐお姉ちゃんのライブハウス「STARRY」がオープンして、あたし達とSICKHACKの人達が「こけら落としライブ」を任されたから気合い入れなくちゃね! がんばるぞー! おーっ!

 

 

 

 

 

「ヨヨコちゃん大丈夫!? 目がガンギマリ状態だよ!?」

「はぁー……はぁー……大丈夫よこのくらい。モンエナを三本くらい飲めばハイになっていつも通り演奏できるから」

「血糖値上がって別の病気になっちゃうよ!!」

「先輩! ライブまで時間あるからこっちで横になってましょう! ね?」

 

 STARRYのこけら落としライブ当日、ヨヨコちゃんはものすごく据わった目……というかガンギマリの血走った目で現れた。目の下の隈もメイクで誤魔化しきれてないしいつもの可愛いお顔が台無しだよ~。三日前くらいから緊張してる雰囲気だったけど、本番当日だとこうなっちゃうんだ。

 

「意外ですね。ヨヨコ先輩って場数踏んでるから緊張しないと思ってました」

「そんなわけないでしょ。私はこれまで一度たりとも緊張しなかったことなんてないし、これから先何百回ライブをやろうともこの緊張感はなくならないと思っているわ。むしろ、本気で上を目指すならこの緊張感をなくしてだめ、忘れてはだめだと思ってるもの。この緊張感を乗り越えた時、精神が最高の状態になって一番良いパフォーマンスができる。少なくとも、私は今までそうやってきたから」

「ヨヨコ先輩かっけえ……緊張感すら己の武器にするとかさすがですね!」

「そ、そう? あなたにもそのうちわかる日が来るわよ」

 

 う~ん、レンくんがかなりのヨヨコちゃん信者になっちゃってるな~。気持ちはわかるよ? だってヨヨコちゃんってすっごく格好良くて可愛いんだもん。あたしもドラムじゃなくてギターをやっていたらレンくんと同じ感じになってたかもしれないし。

 

「ふん、今のレンの実力はせいぜい三分の一ヨヨコ。だからここで偉大なるお姉様が名言をくれてやる『憧れは理解から最も遠い感情だよ』」

「先輩、手を出してください。緊張を和らげるツボを押してあげます」

「あ、ありがと……」

「レン、無視はやめて」

 

 リョウがレンくんの服をぐいぐい引っ張ってる。残念だけどリョウのお姉ちゃん力を10とするとヨヨコちゃんは1000くらいあるからね。レンくんがそういう対応しちゃうのも当然だよ。

 

「レンくん、ヨヨコちゃんの緊張がほぐれるようなお話もしてあげたら?」

「緊張がほぐれるような……? あ! この前、ヨヨコ先輩が猫ちゃんに『にゃーにゃー』って話しかけてた時のことを……」

「ぎゃーっ!? あなた見てたの!? 周りに誰もいないと思ってたのに!!」

「ぷぷっ……ヨヨコはバイリンガルだったのか。猫語教えてヨヨコにゃん」

「張り倒すわよリョウ!」

「押し倒す? 私、雰囲気とか流れを重視するタイプだから無理矢理はいや」

「レン、なんとかしなさい!!」

「えー? じゃあ最近俺がハマってる『ギターヒーロー』さんの動画についてでも……」

「ギターヒーロー?」

 

 あ、ヨヨコちゃんが興味を示した。あたしもレンくんに教えてもらってギターヒーローさんの動画を観たんだけどすっごく上手なんだよね。弾き方に独特の癖があるけど全体的なテクニックはそこらのバンドマンなんかじゃ全く相手にならない。というかむしろヨヨコちゃんレベル?

 

「顔出しはしてないんですけどめちゃ上手い女の子なんですよ。あ、この人ですこの人!」

「……ふーん。まあまあやるじゃない」

 

 レンくんがヨヨコちゃんに動画を見せると、ヨヨコちゃんは途端に不機嫌そうな表情になった。わかりやすいなーヨヨコちゃん。レンくんが自分以外のギタリストを褒めてるから嫉妬しちゃったんだね。しかも相手は女の子だし。

 

「こ、この子……!?」

「姉貴、何か気付いたの?」

「ジャージかつ猫背で隠れているけど私の目は誤魔化せない。この女子(おなご)……相当な巨乳だっ!」

「迫真のキメ顔で何を言ってるのよ!?」

「まじか……全然気付かなかった」

「レンも食い入るように見るな!!」

 

 レンくん、気付いてなかったんだ。あたしもなんとなくそうかな~って思ってたけど……まあ? あえてレンくんに伝える必要はなかったしぃ? あたしだって将来巨乳になってレンくんをたくさん誘惑するしぃ? 

 

「もしかするとこの人はレンと同い年で同じ高校に進学して運命的な出会いを果たしてかれかのぴっぴな関係になる……そんな世界線があったかもしれない」

「そんな漫画みたいな展開があるわけないだろ」

「もっと言えばヨヨコとレンが付き合っていたかもしれない世界線も……」

「たとえどんな世界線だろうと俺が好きになるのは虹夏ちゃんだけだから」

「うーんこの漫画の主人公みたいな台詞。レン位の顔面偏差値でなければ許されない」

 

 みなさん聞きました? あれがね! あの男の子がね! あたしの彼氏なんですよ! 何があっても、どれだけ魅力的な女の子が目の前に現れてもレンくんはあたしを選んでくれるんだって!

 

 もぉ~、しょうがないなぁレンくんはぁ♡ あたしのこと大好きなんだからぁ♡ あたしもね、レンくんのこと大大だーい好きだよ♡

 

「おーい、お前ら先にリハやっちまえ」

 

 レンくん達と会話してヨヨコちゃんの緊張も良い感じにほぐれたところでお姉ちゃんがあたし達に声をかけてくる。あれ? SICKHACKの人達が先にリハをやるんじゃなかったの?

 

「廣井のバカがまだ来てないんだよ。時間がもったいないから先にやってくれ」

「ね、姐さん……」

 

 せっかく良い精神状態だったヨヨコちゃんがスンってなっちゃった。

 

 あ、ライブは大成功だったよ。お客さんいっぱい来てくれたし。ヨヨコちゃんとSICKHACKのネームバリューってすごいんだなぁ……ライブが終わってから廣井さんがお姉ちゃんと志麻さんにボコボコにされてたけど。

 

 それからのあたし達はバンド漬けの毎日だった。学校が終わればほとんど毎日STARRYで練習してバイトして休日には路上ライブやSTARRYでのライブ。

 

 夏休みにはみんなで花火大会に行ったり、山田家の別荘に行ってみんなで海で遊んだり……海ではレンくんとヨヨコちゃんがラキスケイベントを起こして変な雰囲気になりかけたけどそこは割愛しておこう。ヨヨコちゃんって結構おっぱい大きいんだね。ふーん?

 

 秋も変わらずバンド&バイト三昧。レンくんが受験生だからバンド練習の頻度を減らそうとも思ったんだけど、レンくんってリョウと違ってすごく成績が良いから下北沢高校の推薦枠を貰ったみたいなんだよね。ヨヨコちゃんも頭良いし、SIDEROSはもしかしたら高学歴バンドなのかもしれない!

 

「クリスマスに新宿FOLTでライブできるってほんとヨヨコちゃん!?」

「姐さん達の前座だけどね。半年前の私なら断っていたけど、今の私達なら十分新宿FOLTでも通用するわ」

「セトリはどうします? まだ結構時間はありますし、SIDEROS初のラブソングとか?」

「私にラブソングの歌詞を書けると思う?」

「あ、俺が書いてきますよ。虹夏ちゃんとのあまあまライフをそのまま歌詞にすれば大丈夫なんで」

「私にそんな歌を歌わせる気!?」

「ヨヨコ先輩、俺達のハードな魅力は十分アピールできてきます。だからこそ、SIDEROSの()を広げるためにもラブソングのようなパワーバラードは必須ですよ。クリスマスですし、SIDEROS初の試みを披露するにはもってこいの場では? パワーバラードを通して先輩にも新たな発見があるかもしれませんし」

「……確かにそうね」

 

 ラブソングを拒否していたヨヨコちゃんにレンくんが早口で捲し立てる。リョウと同じ癖だね。ヨヨコちゃんはヨヨコちゃんで言いくるめられてるし。でも、あたしもヨヨコちゃんがラブソングを歌ってる可愛い姿を見たいから何も言わないでおこう。

 

「レン、本音は?」

「ヨヨコ先輩にゴリゴリきゃわわなあまあまラブソングを歌わせたい」

「それな」

「絶対歌わないからね!!」

 

 ヨヨコちゃんはそう言っていたけど、レンくんが作詞してリョウが作曲、編曲した山田姉弟の魂の結晶があまりにも良曲過ぎたからヨヨコちゃんも没にできずクリスマスライブで歌うことになったんだ。山田姉弟……あの二人って同じ方向を向いて力を合わせればとんでもないことになるよね。

 

「お、ギターヒーローさんが新しい動画投稿してる。クリスマスが近いからラブソングが多いな。珍しい」

「とうとう脱いだ?」

「脱いでねえよ」

「私がギターヒーローのプロデューサーなら水着で演奏させるのに。それだけで再生数十倍は固い!! はっ!? 私達もチャンネル作って動画投稿しよう! ヨヨコの『水着で演奏してみました動画』を……」

「言い出しっぺのあなたが脱ぎなさいよ!!」

「私が脱いだら人気を独占してしバンドを潰してしまう」

「……虹夏ちゃん、一緒に動画観よ?」

「うんっ!」

 

 リョウとヨヨコちゃんがぎゃーぎゃー言い合ってるのをよそにあたしはレンくんの膝の上に座って一緒にギターヒーローさんの動画を観る。やっぱりすごく上手だな~。若い女の子っぽい雰囲気だけど、何歳くらいなんだろう。

 

「あたしこの曲レンくんに歌ってほしいな~」

「練習する。タブ譜どこかでダウンロードできないかな?」

 

 クリスマスはライブと打ち上げがあってずっと二人きりで過ごしたわけじゃないけど、打ち上げの後に二人でイルミネーションを観て回ったんだ。すっごく綺麗ですっごく幸せな時間だったな~。

 

 も、もちろんお泊りとかはしないでその日の内に帰ったからね。あたしとレンくんは健全なお付き合いをしてますから! そ、そーゆーえっちなのはまだ早いです! まだ……ね?

 

 

 

 

 

 

「レンくん、今日はありがとう。お母さんのお墓参りに付き合ってくれて」

「ううん、こっちこそ誘ってくれてありがとう。俺も一度、ちゃんとあいさつしておきたいって思ってたから」

 

 今日はお母さんの月命日。あたしとお姉ちゃんは毎月欠かさずこの日はお墓参りに来ていた。いつもはお姉ちゃんと来るんだけど、今日はレンくんと二人きり。気を遣ってくれてありがとうお姉ちゃん。

 

 お姉ちゃんに心の中でお礼を言いながら二人でお掃除してお供え物とお線香をあげて手を合わせる。

 

 お母さん。あたしね、この一年間でたくさんたくさん成長したよ。自分の夢を叶えるためにいーっぱい努力してきたよ。最初はリョウと二人だけで始まったバンドだけど、レンくんとヨヨコちゃんが入ってくれてみんなで夢に向かって真っ直ぐ走り続けてるんだ。

 

 私達、東京だと結構人気のバンドになったんだよ。ライブの後に「サインください!」って言われることもたまにあるし、色んなハコからライブのお誘いももらってるんだ。今年はレンくんが受験生だから無理だったけど、来年は未確認ライオットっていう十代限定のフェスにも挑戦するんだ。

 

 将来はプロになって日本全国色んな所でライブをして……ううん、日本だけじゃない。いつか必ず日本を飛び出してあたし達「SIDEROS」の名前を世界中に轟かせて、お姉ちゃんが作ってくれた「STARRY」を世界一のライブハウスにするんだ!

 

 それでね、それでね。これはまだ誰にも言ってないんだけど……あたしはずーっと祈ってるんだ。

 

 あたし達の音楽が天国にいるお母さんに届きますように、って。

 

「レンくん、覚えてる? 昔、あたしがバンド大っ嫌いだったこと」

「覚えてる。いつも星歌さんに泣かされてたよね。で、俺が怒ると星歌さんは逃げちゃって」

「そうそう。そんなことばっかりだったからあたしは公務員になろうとしてて、レンくんにも『バンドマンになんかなっちゃだめ』って言って」

「指切りまでしたよね」

「そんなあたし達が、今や東京ではそこそこ名の知れたバンドマンになるなんて……」

 

 本当に、人生って何が起こるかわかんないや。

 

「レンくん」

「んー?」

「ありがとね」

「どうしたの? 突然」

()()()()()ずっとあたしのそばであたしを支えてくれて」

 

 お母さんがいなくなって時間が止まってしまったあたしを、心にぽっかりと穴が空いてしまったあたしを助けてくれたのは君なんだ。

 

「だから、ありがとう───そしてこれからも、ずっとそばにいてください」

 

 あたしがそう言うと、レンくんは昔から変わらない、何一つ変わらない優しい笑顔であたしを抱き締めてくれた。

 

 そんな君だから

 

 昔から何一つ変わらない優しい君だから

 

 あたしは君を───愛しているんだ。

 

 

 

 

 

 

「ヨヨコ先輩、今日の対バン相手の『ουροβóρος(ウロボロス)』……下北でかなり評判良いみたいですよ」

「ふーん? 五人組のガールズバンド、ね。ボーカルと……ギターが二人にベース、ドラム。今時()()()()()()なんて珍しいわね」

「むむっ!? 巨乳力20000……30000……バカな!? まだ上がっていくぞ!? このリードギターとベース……いったいどれほどの乳を隠し持っているんだ!?」

「俺、このリードギターの人……なーんか見覚えあるんだよな」

「揉み覚え?」

「乳から離れろ!!」

「あたしもどこかで見た気がするんだよね~」

「これは修羅場の予感!! 貧乳幼馴染VS謎に包まれたぽっと出の巨乳ギタリスト!! 虹夏の明日はどっちだ!?」

「……レン、虹夏、星歌さんと一緒に打ち合わせしましょう」

 

 この「ウロボロス」ってバンド……曲は聴いたことないけどSNSですごく評判が良いみたいなんだよね。STARRYでライブをやるのは初めてであたし達と同世代か~。仲良くできるといいなぁ。あ、でも「リードギターのパフォーマンスが突拍子もなくて怖い」ってコメントがある……廣井さんタイプだったらどうしよう。

 

 そんな風にトゥイートを見ながら心配していると、STARRYのドアが勢いよく開かれた。入り口から入ってきたのは五人の女の子……この子達がウロボロスだ。

 

 赤い髪の可愛い女の子、マロンベージュの髪色をしたフワフワした雰囲気の女の子、不気味な西洋人形を持ったゴスロリ少女、黒いマスクに銀髪で苦労人の気配がする少女……絶対この子がドラマーだ!

 

 そして

 

「こ、ここここここここんにゃ、こんにゃちゅわっ! う、ウロボロスの後藤ひとりでしゅ!」

 

 ウロボロス

 

 後にあたし達SIDEROSの最高のライバルになってお互いに切磋琢磨し合っていくんだけど、それはまた別のお話。

 

 

 

√N 『永遠のドリーマー』 fin

 

 




 虹夏ルートです。

 本当はやるつもりなんてなかったんですけど、前回喜多ちゃんルートを投稿し終えた夜、夢に虹夏が出てきて……

「何やってんの?」

 ってものすごく冷たい目(原作でろくでもないことを考えている山田やぼっちちゃんを見る目)で言ってきた+虹夏が夢に出てきた翌日から体調を崩し、コロナにかかって喉の炎症がやばいことになってのどの痛みで三日くらいほとんど何も飲まず食わずという地獄の苦しみを味わった(おそらく虹夏の呪い)ので急遽虹夏ルートを書くことにしました。

 これでいいよね? どうか許してください虹夏様!

 以下はクソ長いあとがき&解説になるので興味のある方だけお付き合いください。

 それ以外の方はここまでお読みいただきありがとうございました!
 
 次回こそ(他のキャラに呪いをかけられなければ)エピローグになります!



【くそ長あとがき&解説】

 虹夏ルートは実は本編で没になったネタを再利用しています。

 その最たるものが「音楽技能持ちレンくん」ですね。本編のあとがきで述べたように「原作キャラの活躍の場を奪う」「オリ主すげーになる」という事態を避けるために本編のレンくんは趣味でギターをやる程度でした。

 ですが、実は連載を始めるにあたってギリギリまでレンくんに音楽技能を持たせるかどうか悩んでいたんです。音楽技能を持っているパターンのストーリーも考えていて、今回の虹夏ルートのようにレンくん、山田、虹夏、ヨヨコと()()()にバンドを組むという話です。

 虹夏ルートと違うのは、あくまでこの四人は一時的なバンドなので新宿FOLTのクリスマスライブ後に解散して、SIDEROSは原作メンバー、結束バンドはレンくん達に喜多ちゃんを加えた四人でスタートします。だけどレンくんが高校に上がる直前に交通事故に遭い、両手に障害が残ってギターを弾けなくなってしまう。失意の中秀華高校に進学し、ギターヒーロー───ぼっちちゃんと出会ってレンくんは自分の夢と結束バンドをぼっちちゃんに託し、自分は結束バンドから距離を置こうとしたところで、ぼっちちゃんの言葉で新しい夢を見つけることができて前に進めるようになる……的なお話を考えていました。

 このお話のレンくんの夢は虹夏ルートで言っていた「ギタリストとしてヨヨコに勝つこと」です。でも交通事故でギターを弾くことができなくなり、絶望していたところをぼっちちゃんに救われて「俺個人ではヨヨコ先輩に勝つことはできなくなったけど、結束バンドをSIDEROSに勝たせる」という新しい夢に気付くことができて、結束バンドをサポートしていくようになる。

 本編でレンくんが結束バンドを献身的にサポートしていたのはこの没設定の名残だったりします。

 没にした理由は単純です。原作きららに合わないめちゃくちゃシリアスな話でラブコメどころじゃなくなって絶対エタると思ったから!

 実は本作のタイトルも最初は「山田家Xの献身」にしようと思ったんですけど、タイトルからシリアス臭が漂っていたので「俺の姉貴はやべーヤツ」になりました。

 ちなみに「山田家Xの献身」のままお話を進めていった場合のヒロインはヨヨコでした。ぼっちちゃんはレンくんを救ってくれた「ヒーロー」だったのでヒロインになれなかったんですよね。

 「山田家Xの献身」の最終的なオチは未確認ライオットのステージに立っている結束バンドやSIDEROSを見てレンくんが「俺もステージに立ちたかった」と涙を流し、めちゃくちゃシリアスな独白を垂れ流した後、レンくんの内心に気付いたヨヨコがレンくんを新宿FOLTへ呼び出して、観客が誰もいない新宿FOLTでレンくんとヨヨコがステージに立って二人きりで演奏する……当然レンくんは事故の後遺症でまともにギターを弾くことはできないものの、ヨヨコのおかげでステージに立つ喜びをもう一度知ることができた。

 そこでヨヨコから告白されてエンディング……みたいな流れです。

 うん、シリアス過ぎて私には扱いきれない。誰かこの設定でお話書いて♡

 ふー……長くなったけど没ネタを供養できてよかった。虹夏の呪いは重かったけどこのお話を書けて結果的によかったと思います。

 あと、虹夏ルートで出てきた「ウロボロス」のメンバーはぼっちちゃん、喜多ちゃん、楓子、幽々、あくびの五人です。「ウロボロス」というバンド名はぼっちちゃんが付けました。原作五巻でぼっちちゃんが虹夏の家にお泊りした話のネタが由来です。ちなみにリーダーもぼっちちゃんです。あくびちゃんが全力で介護しています。可愛いね。

 次回こそ、次回こそ「ぼっちアフター」になる予定!

 他のキャラが夢に出てきて私に呪いをかけない限り!

 ではでは、ここまでお読みいただきありがとうございました!

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