本作一周年記念&ぼざろ劇場坂公開記念です。
名怪盗イライザ~300万ドルの興行収入~
「着いたー、北海道! 涼しい! ジメジメしてない! 故郷のイギリスを思い出す湿度!」
羽田から新千歳まで飛行機で約二時間、めちゃくそに広い新千歳空港を出た途端、イライザさんが横で大きく伸びをする。確かに彼女の言う通り、北海道は本土と違って湿度が低くて過ごしやすいな。冬は地獄だろうけど。
「レンタカーの受付も済ませたし、レンタカー屋まで送迎のバスがあるんだってさ」
「あ! きっとあの黄色いバスだヨ! ほら、レン。早く行こう」
イライザは嬉しそうな笑顔でアニメのステッカーがたくさん貼られたキャリーケースをゴロゴロと引きながら目的のバスが止まっている場所へと向かう。もう二十四歳になるのに相変わらず子供っぽいなこの人は。
まあでも、俺は彼女のそんなところを好きになったんだけどね。
「レーン! 置いてくよヨー!」
そんな年上の可愛い彼女と一緒に三泊四日の北海道旅行。どうだうらやましいだろう。
子供のような純粋な笑顔で俺に手を振る彼女を見ながら、俺も思わず頬を緩ませる。
そもそも、なぜ俺達が北海道に来たのか……その目的は、俺の高校卒業記念旅行兼───
コナン映画の聖地巡礼だっっ!!
本作一周年記念&「ぼっち・ざ・ろっく!」劇場版公開記念
『名怪盗イライザ~300万ドルの興行収入~』
「函館まで高速使って三時間半か……結構かかるな」
「のんびりドライブしようネ~♪ あ、運転疲れたら代わってあげるヨ~」
レンタカー屋でSUVを借り、函館にあるホテルまでのナビを入れると270㎞という距離が表示され、ほんの少しだけ心が折れそうになってしまった。……がんばろう。免許を取って日が浅いし、いい練習だと思えばいいな。助手席には可愛い彼女もいるし。
そう考えて俺はゆっくりと車を発進させる。幸いにも、旅行期間中は予報では晴れだったから安心だ。せっかく北海道の景色を楽しみたいのに雨が降ってたら楽しさ半減だからな。
「じゃあ函館に向けてれっつごー!」
「おーっ!」
隣に座るイライザさんはテンションMAXだ。今からそんなにはしゃいでたら函館に着くころにはエネルギー切れになってるよ? 着いてからが本番なのに。と思いながらも、俺も心の中ではすごくワクワクしている。北海道って初めて来るからね。よーし、景色をたくさん楽しんで美味しい物いっぱい食べるぞー!
「ねえ、レン」
「んー?」
「私ネ……北海道ってすっごく広大な土地が広がってて牧場がたくさんあって牛とか羊がたくさんいると思ってたんだ」
「うんうん」
「でもネ───山ばっかりでなーんにもいないヨ!?」
「仕方ないよ。高速道路だもん」
出発してから約三十分、最初こそイライザさんは遠足に行く小学生みたいに目を輝かせながら窓の景色を眺めていたけど、今はすっかり落ち着いて……というか落ち込んでいるようにすら見える。景色に対する期待値が高過ぎたな。正直、高速に入ってからの景色って山山山山山山山って感じだから。北海道とはいえ、高速道路からの景色は他の地域と大して違いがないらしい。
イライザさんのトレードマークであるアホ毛もしゅんと垂れている。その様子がなんだかおかしかったので、俺は左手で彼女の頭を優しく撫でた。
「えへへ、そうやって撫でられるの好きぃ……」
途端に彼女はとろんとした甘い笑顔になり、アホ毛もそれに合わせてブンブン揺れ始める。そして彼女は頭を撫でていた俺の手を取ってそのまま自分の頬にすりすりと擦り付けた。すべすべの肌がすごく気持ちいい。
「私、運転席と助手席の距離感好き! いちゃいちゃするのに丁度良いもん」
「わかる。部屋でくっついてるのとは違う甘さがいいよね」
「うんうん! それに、えっちな動画でよくある……ドライバーさんの手を取って自分のおっぱいとか太ももとか触らせる流れが頭悪くて好き!」
「……やらないでよ? 運転に集中できなくなっちゃうから」
「へっへっへ~。それは由緒正しきジャパニーズ熱湯風呂にもあるような『押すなよ? 絶対押すなよ?』的な
「別のところが目覚めそう」
「そうなったら
イライザさんが怪しい笑顔で手をワキワキさせ始めたから頭を乱暴に撫でると「きゃーっ♪」と嬉しそうな悲鳴を上げた。どうやらテンションは持ち直してくれたらしい。
「よーし、せっかくコナン映画の聖地巡礼をするんだからコナントークしようぜい! お題は~……『コナンの歴代No.1映画はどれだ!?』」
「なるほど、イライザさんは俺と戦争したいわけか……」
「ふっふっふ~、たとえ大好きなレンが相手でも……絶対に譲れない戦いが、ここにあるっ!」
「なら先攻は俺ね? 哀ちゃん好きの俺としては『黒鉄の
「あの哀ちゃん可愛かったよネ~。安易に人工呼吸シーンをチョイスしないところに匠のこだわりを感じるヨ……私はネ、やっぱりキッド様がナンバーワン! 平次と和葉のイチャイチャもあった今年の映画も良かったけど……でも私は、私はたとえ懐古厨と罵られようとも『世紀末の魔術師』を選ぶ! 今のキッド様はネ~、ちょっとコナン達と仲良くし過ぎてる気がするんだ。世紀末の魔術師くらいの裏方でミステリアスなキッド様帰ってこい!! あと世紀末の魔術師の魔術師はEDの入りが完璧!! ありがとうB'z! ありがとう稲葉さん松本さん!」
「EDへの入りなら『瞳の中の暗殺者』も好きだな。あのハードボイルドな感じがたまらん」
「Need not to know……僕はただの小学生だよ」
「ひゅーっ! イライザさん超KOOL……!!」
「惚れた?」
「惚れてるよ、
「えへへ、私も同じ~♪」
イライザさんはそう言って俺の手の指と自分の手の指を絡ませるように優しく握る。片手での運転って危ないけど……ハンドル操作が少ない高速道路だし何よりイライザさんが可愛すぎるから大目に見ても良いよね。運転中じゃなかったら普通に抱きしめてキスしてた気がする。
「よーし、気分が乗ってきたところで……コナン映画の歴代主題歌メドレーいってみよー!」
「おーっ!」
そう言ってイライザさんは車と自分のスマホをブルートゥースで繋いで曲を流し始めた。
「───って、『Time after time』じゃん! 『ONE』じゃないんかい!?」
「倉〇麻衣……しゅき♡ 主題歌補正と言われようとも……私は『迷宮の
「わかりみ……やっぱりこだまさんは神なんだよなぁ」
「神様仏様こだま様!」
景色はずっと変わらなかったけど、なんやかんやでドライブを楽しむ俺達だった。
「レン」
「なにー?」
「ソフトクリーム……美味しいネ」
「その割には元気ないじゃん」
「……サービスエリア補正、北海道補正もあって美味しい、確かに美味しいよ。でもネ───クレミアのソフトクリームの方が美味しいんだヨ!!」
「クレミアと比べちゃいけない……」
クレミアのソフトクリームは神だからな、まじで。でも、イライザさんの言うこともわかる。「北海道のソフトクリームとか絶対美味しいじゃん!」っていうめちゃくちゃ高いハードルがあったせいで、普通の美味しさじゃ物足りなくなってるんだ。牧場とかに行ったらまた違うんだろうけど、今日は牧場に行かないからなぁ……
またイライザさんのアホ毛がしゅんとなっていたから頭を撫でてあげるとちょっと元気を取り戻してアホ毛がゆらゆら揺れていた。
「ヨーグルト、飲む?」
「昼間から白くてドロッとした濃い液体を飲ませるなんて……レンのえっち~♪」
「いらないんだね」
「あーっ! ごめんごめん~! いる~! 私も飲む~!」
そう言いながらイライザさんが腕に抱き着いてきたので思わず笑ってしまうと、彼女もつられて笑っていた。ソフトクリームは普通の美味しさだったけど、展望台からの眺めはよかったし一緒に綺麗な写真も撮れたからよしとしよう。
「レン、運転代ろうか~?」
「いや、まだ疲れてないから大丈夫だよ。ありがとう」
「いつでも代わるからネ。ロンドンの赤い彗星と言われた私のドライブテクを披露してやるゼ! (他の車に)当たらなければどうということはないんだヨ」
この時、俺は誓った。イライザさんにハンドルを握らせるのはやめよう、と。
車を走らせて約四時間後、途中で何度か休憩を挟みながら今日宿泊する函館のホテルへと到着した。ホテルの駐車場は機械式の立体駐車場だったので、エレベーターの中に車を停めて係のおじさんから駐車券を受け取る。
今日泊まるのはちょっとお高いビジネスホテル。明日の朝は函館駅前の魚市場で海鮮丼を食べる予定だから素泊まりのプランで予約している。フロントでレジストレーションカードに必要事項を記入し、チェックインを済ませて部屋に入った。大きなダブルベッドにソファ、40インチ以上はありそうなテレビに冷蔵庫、カーテンを開ければ五稜郭タワーが見える。
「わ~っ! 思ったよりもいい部屋だネ! すごく綺麗! ベッドのマットレスが硬過ぎないのがいい!」
イライザさんはいきなりベッドにダイブした。うん、気持ちはわかる。俺もホテルに泊まる時って大体最初にベッドの固さを確認するもん。
「枕も……おお~! 普通の羽毛のヤツと低反発の両方ある~! へっへっへ~、いい仕事してるナ~♪」
彼女は笑顔で枕をぎゅーっと抱き締めながらベッドの上をゴロゴロ転がっていた。その仕草が可愛くていつまでも見ていられるな。俺はほっこりとした気分になりながらソファに座ることにする。結局俺がずっと運転してきたから、思ったよりも疲れた……
「レンもこっちおいでヨ~。一緒にゴロゴロしよ?」
「今ベッドに行ったら確実に寝ちゃう……」
「あ~、それは困るナ~。じゃあ、私がそっちに行くネ」
そう言ってイライザさんはベッドから降りてソファに座っている俺の方やってくる。そして、そのまま俺の膝の上に座った。お互いに向かい合うような体勢で。
この体勢はその……ちょっと、というか非常に困る。何が困るかって言うと、イライザさんは女性の割には結構身長が高くて俺はソファの背もたれに思いっきり体を預けていたから、俺の頭の位置が普段より低くなっていた。つまり、その……ね? イライザさんの大きな胸が俺の顔の目の前にあるわけで。
「運転お疲れ様~。ぎゅーってして癒してあげる~!」
イライザさんはそう言って俺の頭を抱いて胸に顔を埋めさせてくれた。柔らかい感触と甘い香りに包まれて、俺もその体勢のまま彼女をぎゅっと抱き締め返す。あー、ヤバい……めちゃくちゃ気持ちよくて良い匂いして癒される。癒される……けど、それ以上にね……ちょっとこう、昂ぶってくるものもありまして……
「このままえっちする?」
「……今やっちゃたら疲れ果てて夜景見に行けなくなるよ?」
「う~ん……じゃあ、帰ってくるまでおあずけか~」
イライザさんが残念そうな声色でそう言いながら俺の頭を優しく撫でてくれた。正直、運転で疲れてるから函館山から帰ってきてお風呂に入った後はそのまま寝ちゃいそうだけど……未来の俺ならきっとなんとかしてくれる。がんばれ俺! まあ実際ね、こんなに可愛い彼女におねだりされてね、断るなんて男のやることじゃないよ。
そのまま俺達はしばらくの間ソファでいちゃつくのだった。
「路面電車懐かしい~。日本で初めて乗るヨ」
「イギリスにもあるの?」
「うん。ロンドンの南部とかで走ってるんだ~。私、電車で街中を走る雰囲気大好き」
ホテルを出て路面電車に乗って目的の函館山へと向かう。俺、何気に路面電車って初めてだな。普通の電車と違って道路を走るから車と並走してて独特の雰囲気だ。車と同じように信号で止まるし、すっげー新鮮。
そのまま約二十分ほど電車に揺られ、函館山の展望台に最も近い駅で降りる。次に俺達を待ち受けていたのは……なかなかの傾斜になっている上り坂だ。
「ひとりや姉貴がダウンするヤツだ」
「ぼっちちゃんもリョウも体力ないもんネ~」
江の島の階段を思い出させてくれるような上り坂だね。それにしても江の島か、懐かしい……一年生の夏休みに結束バンドやSIDEROSのみんなと一緒に遊びに行ったり、去年は初詣にも行ったよな。そういや、俺がイライザさんと付き合い始めたことを報告したら、ひとりとヨヨコ先輩が引きこもって一時期はバンド活動も危うかったんだけど、最終的に未確認ライオットのファイナルステージをSIDEROSと結束バンドでワンツーフィニッシュを決めるくらい爆発的に成長したんだよね。
「レンが他の女の子のこと考えてる顔してる……」
「なんでわかるの?」
「イライザお姉さんは何でもお見通しなんだヨ? それで~、誰のこと考えてたの? ヨヨコ? ぼっちちゃん?」
「両方です」
「……むー」
イライザさんがわざとらしく拗ねたような表情でほっぺたを振らませているのが可愛かったから、笑顔で彼女の手を優しく握ってあげることにする。そんな顔しなくても俺が一番好きな人はイライザさんだからね。
「私も帰ったら銀ちゃんといちゃいちゃしてレンを嫉妬させてやる~」
「……吉田店長相手に嫉妬?」
「しないネー」
「そだねー」
そんなこんなで仲良く手を繋ぎながら五分ほど歩くと、展望台へ向かうためのロープウェイ乗り場に到着する。平日の夜なのに受付に列ができるほど人が並んでいた。思ったよりも観光客が多いな。平日でこれなんだから休日だともっとえぐいことになってそう。
ロープウェイは十五分間隔で往復していて、チケットを買ったらタイミングよく登りのロープウェイに乗れる時間だった。そのまま建物内を歩き、アルバイトらしきスタッフさんのやる気のなさそうなアナウンスを聞きながらロープウェイに乗り込む。
「aikoの相思相愛だ~」
「これを流すあたり……狙ってんな~」
ロープウェイが発進すると、今年のコナン映画の主題歌であるaikoの「相思相愛」が流れ始め、俺とイライザさんは思わず笑ってしまった。俺達と同じくコナンの映画を観たお客さんも結構いるらしく、ちらほらと笑い声が聞こえてくる。
「(わっわっわ! レン、ほらほら! 綺麗だよ! すっごく綺麗!)」
「(すごいな……想像以上)」
他のお客さんの迷惑にならないように俺達は顔を寄せ合って小声で喋りながら、イライザさんは窓ガラスに張り付く勢いで目を輝かせながら夜景を見下ろしていた。ロープウェイで登っている最中でこれなんだから、展望台からだともっと綺麗に見えるんだろうなと、期待に胸を膨らませながら数分の間ロープウェイに揺られるのだった。
「あ、お土産屋さんがある! ねえねえ、ちょっと見て行こうヨ!」
「夜景は?」
「夜景は逃げないでしょ? でもお店はあと一時間くらいで閉まっちゃうみたいだから、ネ?」
イライザさんはそう言って俺の手を引いてお土産屋さんへ突撃する。入口にはコナンとコラボしたグッズやお菓子がたくさん並べてあった。当然だけど、めちゃくちゃ推してるな。
「あ、コナンのフィギア入りチョコエッグ~」
「それコンビニに普通に売ってたよ」
「あっちには……雪ミクグッズだ~!」
「……普通のお菓子は?」
「そんなのあとでいいヨ~♪」
とりあえずイライザお嬢様は普通のお土産になりそうな食べ物よりもコラボグッズにご執心らしい。俺は俺で色々お土産を見繕っておくか。結束バンドのみんなと星歌さんとPAさんに個別に買ってあげてそれとは別にSTARRY用と家用とSIDEROS用とストレイビート用と後輩のわんこ達用と佐々木さんにもルタオのチョコをリクエストされてて、その他諸々……多いな! あ、ふたりちゃんにも何か……明日AOAOに行くからそこでぬいぐるみを買ってあげよう。
というか、まだまだ観光するしここで全部買わなくてもいいな、うん。
「見て~レン。いっぱい買っちゃった~♪」
しばらく色々と見て回っていると、レジで会計を済ませたイライザさんが購入したコラボグッズを嬉しそうに見せてくる。うん、普通のお菓子とかが何もないね。
「よかったね。……みんなへのお土産は?」
「あっ……ま、まだまだ旅行は始まったばっかりだしここで全部買わなくていいかな~って」
どうやらこの人は自分の物を買うのに夢中だったようです。そんなところも可愛いねと思ってしまうあたり、俺も大概色ボケしてるな。
「じゃあ、夜景見に行く?」
「うん!」
そしてようやく、本日のメインイベントである100万ドルの夜景を見に行くことにします。
まさに「圧巻」の一言だった。
外に出ると標高のせいもあって少し肌寒さを感じた。展望台を案内に沿って歩いて階段を登り、一番高い場所から函館の街を一望する。時刻は八時半過ぎで、函館の街は人々の営みで美しく装飾されていた。主要な道路に沿う暖かな橙色の街灯、自動車のライト、真っ暗な海には漁船の灯りも見える。そして、函館の街を挟みこむように湾曲した海岸線が人口の光で縁取られていて、息を吞むほどに美しい。
なるほど、確かにこれは100万ドルの夜景だな。
「レン……」
「うん」
「私、びっくりしちゃった……こんなに、こんなに綺麗な夜景、初めて見たヨ……」
いつも天真爛漫なイライザさんは感嘆の溜息をもらし、俺の手をそっと握る。人間って、本当に美しいものを見た時や感動した時はこうやって言葉を失ってしまうんだな。
「レン……」
「うん」
「なんか気の利いたこと言って……」
「えー……」
なんつー無茶振りを。なんですか? べったべたの使い古された「君の方が綺麗だよ」みたいなセリフを期待してるんですか? いや無理だわ絶対。そんなこと言ったら身体が拒絶反応を起こして蕁麻疹が出てしまう。
「……厄介なんだよ、オメーは!! オメーは厄介な難事件なんだよ!! 余計な感情が入りまくって、たとえオレがホームズでも解くのは無理だろーぜ!! 好きな女の心を…正確に読み取るなんてことはな!!」
「それビッグベンで新ちゃんが告白した時のセリフ!!」
イライザさんに盛大にツッコまれた。
「もーっ! 函館山なんだからそこは平次が和葉に告白した時のセリフでしょ!」
「怒るとこそこなんだ……」
イライザさんがほっぺたを膨らませてプンプンしながらそう言った。てっきり、甘い雰囲気をぶち壊すようなことを言ったことに対して怒ってるのかと思ったのに。
「レンがこんな人の多いところでこっちが恥ずかしくなるようなこと言えるわけないでしょ? ベッドの上だとあんなに可愛く甘々になるのに……」
「後半言わなくてよくない?」
そして俺達はからからと笑い合う。世界三大夜景が眼下に広がっているんだから、もうちょっとカップルらしい甘い雰囲気になってもおかしくないんだけど、こういう空気、俺は嫌いじゃない。まあ、周りがもっと暗くて人が少なかったらキスくらいしてたけどね。今はちょっと……カップル以外の普通の観光客もたくさんいてそういう雰囲気じゃないんだ。
「はー……もう旅行の一日目が終わっちゃうネ。明日は魚市場で海鮮丼を食べて、五稜郭に行って、五稜郭タワーに登って、函館の塩ラーメンを食べて、札幌まで戻って……明日も楽しいことがたくさんだ!」
にぱーっと子供のような純粋な笑顔で見上げてくる彼女の頭を優しく撫でると気持ち良さそうに目を細めた。
そうだね。明日も明後日も明々後日も……それからずーっと先も二人でたくさん楽しいことをしよう。
「ねえ、レン」
「んー?」
「次はどこに旅行しようか?」
「……気が早すぎない?」
まだ今回の旅行も終わってないのに。
「えへへ。だって……レンと一緒に、もっともっと色んなところに行きたいから」
その言い方は、ずるいなぁ……思わず抱き締めたくなっちゃうじゃん。
「行きたいところ、か……それなら───イギリスに行きたいな」
「イギリス?」
「うん。イギリスってロックの聖地だし、何より……イライザさんが生まれ育った場所を見てみたい」
好きな人の故郷の空気を吸って、この目で見て、自分の足で歩いて、彼女のことをもっともっと知りたいと思う。
「それに、イライザさんのご両親にもあいさつしたいしね」
「うえっ!? あ、あいさつ……!? あいさつってその……ジャパニーズ『娘さんを僕にください』的、な?」
「まあ、そんなところ。……嫌だった?」
「嫌じゃないっ……! 嫌じゃないヨ! むしろ……すっごく嬉しい。私の故郷に行きたいって言ってくれたこともそうだし……レンが、私との将来のことを……そこまで考えてくれてたから」
今が夜でもはっきりとわかるくらい、イライザさんは頬を赤く染めている。ああ、本当に───ずるいくらい可愛いな、この人は。
「そろそろ降りる?」
「ん~……もうちょっと、もうちょっとだけここにいたいカナ。……だめ?」
「だめじゃないよ」
答えると、イライザさんは嬉しそうに笑って俺に体を寄せる。彼女の温かさと柔らかさがじんわりと伝わってきた。
「ねえ、レン」
「うん」
イライザさんが悪戯を思いつた子供のような笑顔を向けてくる。この笑顔……雰囲気に当てられて甘いことを言う感じじゃない……なんか変なこと思いついた時の顔だな。何を言い出す気だこの人。
「今夜は───寝かさないゾ♡」
「明日も運転あるから勘弁して」
真顔で答えたら肩をぽこぽこ殴られた。
『名怪盗イライザ~300万ドルの興行収入~』 fin
山田「私は(興行収入)300万ドルの女」ドヤァ
最初はこんな感じでレンくんと山田がぼざろ劇場版の感想を語り合う感じの話にしようと思ったんですけど、メタ発言丸出しの話を面白いと思ってるのは作者だけというド滑り展開になりそうだったのでやめました。
で、なぜか気付いたらイライザと北海道旅行してました。北海道ネタはまだまだあったんですが、キリがないのでここでカット。ただ、北海道ネタというよりコナンネタ全開でしたね。そう……このお話のイライザはキッドのごとくレンくんのハートを盗んでいったということをサブタイトルで暗喩しているのです。
本当はもう更新するつもりはなかったんですが、本日7月5日は「俺の姉貴はやべーヤツ」一周年だったのでせっかくだからなんかやろうと思ってこのお話を投稿しました。
一周年だし、山田メインのお話にしてもよかったかもしれない……許せ山田。これで最後だ。
ではでは、ここまでお付き合いいただきありがとうございました!
あと、先週からこっそり新作を連載し始めたのでダイマしておきます。よかったらこっちも読んで感想とか評価とかくださるとすごく嬉しいです!
それでは、またどこかでお会いしましょう!
こっそり始まった新連載です
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