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「ねえ、キミは死んだの。でも、それは肉体的な話よ?あくまで必要だったのはキミが世界から消えたという事実」
星が瞬く、宙の中。
地面など存在しない空間で当たり前の様に用意された椅子に腰かける女性。夜空を孕んだようなドレスに身を纏う彼女が、気が付けば■の前にいた。
わからない。どうして自分がこんなところにいるのか、この目の前の女性が何者なのか、いやそもそも、つい少し前、声をかけられるまで■が何をしていたのかもわからない。
「その中身、精神までが死ぬ必要はないわ」
彼女が何かを言っている。
聞こえているのは間違いない、だが、その内容が理解する前に聞きこぼれていく。
「あの世界にとっては、あの時点でもうキミのことは不要になった。それがいわゆる寿命であり、死の運命とでも言うべきもの」
それでも少しずつ話を理解していく。
どうやら、■は死んでしまったらしい。普通ならば戸惑い狼狽えるのかもしれない。でも■はそんな感情が思い浮かぶことすらできない。
何故だろう。そんな疑問も抱くことがなく、彼女の言葉をただただ受け入れていく。
「でも、キミはこうしてここにいる。肉体に巻き込まれて中身まで霧散する必要はないでしょう?」
じゃあ、どうして■はここにいるんだ?
「そう、私がキミをここに引きずり込んだのよ。ここまでで何か聞きたいことはあるかしら?」
そう、ふと抱いた疑問に対しての答えにもまた驚くこともなく当たり前のように受け入れる。
こちらの考えていることに対して反応をされたとしても、この状況が状況のせいでいまいち驚くという事がない。
青みを帯び星々の天の川を思わせる髪を揺らしながら、■に質問の有無を聞いて来るがすぐに出てくるわけもないが、だがしかし、もしもあるとすれば
それは、■がこれからどうなるのか、と言う事だけだ。
「あの世界で不要となったキミを私は、別の世界に送り出すの。これは証明。元の世界で不要となった生命が、別の全く異なる世界でどのような結果を齎すのか、私はソレが知りたいの」
まるで生徒に教える様に、見る者を魅了するような微笑みを浮かべながらそう告げる彼女に、やはり疑問を抱く事も無く納得を示しつつ言葉の続きを聞いていく。
彼女はまるで誕生日のサプライズプレゼントボックスを前にしているかのように楽し気な笑みを浮かべているのが彼女の被る黒いベール越しであってもよくわかる。
「キミが世界を壊してしまうのもいいし、世界は何も変わらず続いていくというのもいい、世界が新たに生まれ変わるというのもいいと思うわ。そう、見たいのは、確かめたいのはキミがどんな結果を世界に齎すのか」
「もちろん、私の証明に協力してもらう以上、私から相応の祝福を贈るわ」
祝福?
そうこちらが思うのとほぼ同時に、彼女の手には数枚のカードが握られていた。
まるでタロットカードの様なモノが十四枚。それを目にした瞬間に、理解できる。
それらのカードはただのカードではない、こちらの視線を奪って離さぬ特別なモノ。
「これがキミの運命。キミが選ぶべき運命、その運命に準ずる祝福を。一度死んだキミが新たな世界で歩くために必要な
そうして差し出された十四枚ものカード。
どれも同じ、何も分からない、星を孕んだ夜空の絵柄ばかりのそれら。
どれも中身が分からないのに、何も分からないのに、次の人生をソレにゆだねる事なんて出来はしない。
ましてや、■の様な人間がそんな大事な選択など出来るはずがない。きっと、よしんば選べたとしても絶対に後になって後悔するはずだ。自分の選択したソレは本当に正しかったのか、って。
ああ、だが。
端から自分の運命を知っていて選べる人間なんているのだろうか?
それに、何よりも、どんな選択をしても、どんな結果になったとしても、どうせ後で自分の選択を疑って心配して後悔するなら、どれを選んでも一緒じゃないか。
■は、十四枚のカードの内から一枚を選んだ。
特に理由は無い。実はどのカードも中身は同じだった、なんて可能性もあるかもしれないが、■はそれを選んだ。今すぐにでも不安になり始めた自分を黙殺しながら彼女を見る。
「そう……キミはこの運命を歩むのね。ええ、これで運命は選ばれたわ。さあ、私からキミへささやかな三位一体の祝福を」
消えていったカードの中、残った■が選んだカードを手に取り見ていた彼女はやはり微笑んだ、と思えば次の瞬間に瞬く星々から二つの流星が弧を描いたのを近くした瞬間、彼女と自分、そして瞬く星々しかないはずのこの空間で■は、彼を見た。
番えられた一矢は一条の星が如く、吹き抜ける一陣の風は疾駆する彼の前触れ。
彼と言う存在に視られた刹那に、肉体を失って脆弱な精神ばかりが自分である■はあふれかえった情報に何もかもが理解できず、納得できず、しかしてその視線に意味を見出していって────
「最後に、名乗っていなかったわね。私は『渾沌』、ただの観測者であり、ただのパトロンであり、ありふれた観客よ」
そんな、彼女『渾沌』の言葉を胸に覚えながら速やかに■はこの宇宙から弾き出されていった。
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そう、またなんだ。
また、性懲りも無く新しいモノを書いたんだ。
忙しくて書けない期間が続くと書けなくなる……でも書きたいと思ったら書きたい……そんな性なんです。