ありふれぬ狩人は祝福をその手に   作:カチカチチーズ

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9.不穏の海に沈んでく

◇─────

 

 

 

 夢を見る。どこまでも沈んでいく夢を見る。

 暗い海の底を目指して、光も届かない深海を沈んでいく。足枷でも嵌められ、重りでもついていると錯覚してしまう程にただただそこを目指して沈んでいく。

 だが、抵抗するつもりはなく身を委ねる様に深海を目指して沈んでいく。

 そうしていれば、そう待つことも無く、視界は深海、光のない海中から全く別物の光景を映し出す。

 光のない深海から打って変わった光が差し込んでくる古び寂れた大聖堂。

 嘗て、この世界に来る前に見た夢と全く同じ大聖堂。耳を傾ければ、聴こえてくるのは歌声。

 静寂の大聖堂に響き渡るしっとりとした歌声は、聞けば聞くほどに自分の中の何かが、細胞が、血が、沸き立ち始める様な感覚すら感じるモノ。

 

 ああ、歌声が聴こえる。

 郷愁の、血族の、歌声が聴こえてくる。

 黄金の錫杖を膝の上に横たえ、美しい銀糸の御髪をこの海に満ちた大聖堂で揺らめかせる白い衣に身を包む彼女。

 あの日から一度たりとも見る事のなかった夢。

 生まれた時から見るようになった夢。

 どうして、また見たのか、なんていう疑問は思考の片隅へと追いやりながら、こちらを見る彼女を見る。

 夢だからか、身体は昔と変わらず微塵も動きはしない。 

 

 

 そして、彼女も前回と変わらず大聖堂だったモノの瓦礫に腰かけて、ただただ歌っている。

 ソレに耳を傾ける。

 決して侵すことのできない宗教画的光景を見ながら常人であれば常人であれば、聞くのを忌避してしまうかもしれない彼女の歌声を聴いていく。目を背ける事無く、耳を塞ぐ事無く、彼女の歌声を。

 いつまでもいつまでも、あの時と違い、彼女は歌う事を辞める事無く、こちらへと手を伸ばし始める事も無く、彼女は歌う。

 どれぐらい、聞いていただろうか?

 あの時では気が付かなった。

 だが、今なら分かる。

 彼女が何者なのか、どうしてこの歌にこうも魅かれるのか。

 

 

「■■────」

 

 

 俺は彼女の名を呼びながら、前回と違いこちらからその手を伸ばそうとして、自分の口から出てきたノイズまみれの声に一瞬面食らって

 

 

 

 

 

「朝、か」

 

 

 手を上へと突き出すような体勢のまま、目覚めた。

 もしも、これで幼馴染やヒロインポジがいればきっと起こしに来た所にたまたま伸ばした手が、というトラブルが起きそうなところだが残念ながらこの部屋は自室でもなければ俺以外にいるのはつい昨晩初めてまともに話したばかり、という男子クラスメイトでしかない。そして悲しいことだが、俺に幼馴染はいない。

 もしかしたら、なんて淡い期待も小学生あたりで諦めたものだ。

 さて、久方ぶりに見た深海の夢。

 アレがどういう意味の夢なのか、なんていう考察はする意味はない。

 俺がアビサルハンターの肉体を有しているから以上の意味はない。

 さて、それよりも窓を見ればまだ外は僅かに白み始めたかもしれないという程度。つまりは、まだまだ全然朝ではない。

 起床時間まで、まだ時間はある。だから

 

 

「寝るか」

 

 

 昨晩は少し寝るのが遅れた。

 やる事がなく、南雲との話も途中で終わってしまい、手持ち部沙汰になってしまったのもあり、ベッドの中で軽くストレッチをしつつ眠気が来るのを待っていたら、だいたい深夜になりかけた頃合いだったな。

 何やら本を読んでいた南雲が眠ろうとしたタイミングで、来客があった。

 こんな時間に誰だ?そう思いつつ、南雲が出ればどうやら例の白崎が着たようで俺は思わず天井を見上げつつ、聞き耳をたてて訪問理由を盗み聞きをしていたら、何やら話があるようで訪ねてきたわけだが……南雲のメンタルに七面倒な事が起きるのを予測しつつ、俺はまだまだ眠気も無かったので軽い散歩と言って、白崎と入れ替わるように部屋を出た。

 もう少し時間を考えろとか、まがりなりにも二人部屋で相手もいるのだが?なんて、文句も浮かんだがそんな胸中は口に出すことはない。

 まかり間違ってそれで、面倒ごとに巻き込まれたら最悪だ。そんな気分で軽い散歩をしてから俺は部屋へと戻ってそのまま寝た。

 何やら、南雲が決意したような表情をしていたし、部屋の外、すこし離れた場所で誰かが俺の部屋の前を見ていたようだが、俺には関係ない話だった。

 そして、こうして中途半端に起きてしまった。

 

 

「まあ、大丈夫だろ」

 

 

 

 

◇─────◆

 

 

 

 

 

「かんっぜんに、寝坊した」

 

 

 起きてからもうそこそこの時間は経っているというのに、まだ少し頭の奥の方がポヤポヤしているのを不快げな表情で吐き捨てるのは、狩人用の軽装備に身を包んだメグミ。

 槍を持っていない方の手で軽く頭を殴りつつ、睨み気味に細めた目つきを見れば元々のその綺麗な顔立ちも相まって不機嫌極まりない少し怖く感じさせる表情だが、彼の周囲にいる彼らはいまさらそんなことは気にしないだろう。

 そう、中途半端な時間に起きて改めて寝たメグミだが、フラグよろしく、とものの見事に寝坊していた。

 朝食の時間ぎりぎりに起きてきたメグミは無理矢理に朝食を流し込んで、急いで装備に着替えたわけだが既にお腹は問題なくとも頭痛の様なモノはまだまだ引いてくれていなかった。そんなクソみたいなコンディションで大迷宮挑戦の一日目を飾るメグミに、友人であるいつもの面々は何とも言えない表情を向けていた。

 

 

「いや、本当に珍しいな。どうしたんだ?」

 

「多分、四時前後ぐらいに一回目覚めてから寝た」

 

「ああ……」

 

 

 隣を歩いている遠藤の質問にそう返しながら、無理くりに頭を起こすためにメグミは周囲に『空間魔法』を走らせていく。

 今、メグミたちがいるのは遠征の訓練を行う『オルクス大迷宮』その第一層。横縦五メートル以上あるだろう通路は松明などがあるわけでもないのに周囲の様子が視認できる程度に、薄ぼんやりと発光していた。

 曰く、緑光石という特殊な鉱石がこの大迷宮には埋まっておりそれが発光しているらしい。

 そんな通路をメルド団長と二、三人の騎士が引率しそれについていく様にメグミたちが固まり、その左右や後方に騎士たちがいるという不測の事態に対応できるための陣形だった。

 

 

「(しばらくは、一本道か……この先に広間か?魔物もいるな)」

 

 

 普通ならば、こんなところでしかも実戦訓練の場で勝手に魔法を使っていいわけではないのだが、元よりメグミの魔法は『空間魔法』であり、炎やら水やら風やら、カラフルめいたものが出るわけも無ければ、純粋に周囲へのサーチをかけただけ。特殊な反応が出てくることも無く、周囲の誰もメグミがそれを使ったと分かる者はいない。

 そうして、人知れず頭に軽い負荷をかけつつ、寝坊の影響を覆い隠そうとしながらもその胸中に一抹の不安と僅かばかりの高揚感を抱きながら、注意されない程度の会話をしながらメグミたちは大迷宮を進んでいく。

 

 

 

 

 

─────◆

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