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大迷宮での魔物相手の実戦訓練。
と、言っても実際にこの世界の新兵や駆け出し冒険者と違って、そのステータスは誰も彼も、約一名を除いてベテランクラスに手をかけてるか、それこそ王国最強の騎士団長の影を踏みかけている有様だ。
誰もがしっかりと魔物相手にある程度の余裕をもって対応できている。
魔物との戦闘はグループごとで行っており、もうすぐ俺のグループの順番になる。ちなみに俺のグループは、天職が重格闘家である永山をリーダーに、暗殺者である遠藤、土術師の野村、治癒師の辻、付与術師の吉野、そこに狩人である俺を含めた六人。
遊撃である遠藤に、タンク兼アタッカーの永山、純アタッカーだろう俺、そして後衛からの攻撃が出来る野村に回復役の辻、バッファーである吉野と役割の組み合わせとしてはかなりバランスが良いモノだと、自分ながら思っている。勇者グループに比べれば少し見劣りするものもあるかもしれないが、現状問題はない筈だ。
「緊張、してるのか?」
「まさか、武者震いって奴だよ」
「お、お前こそ大丈夫なのか?湊」
「────いや?絶好調だ、今ならどこまでも沈められる」
少し緊張で身震いをしている永山にそう声をかければ軽口が返ってきて、隣にいる遠藤から投げられた質問に俺は弾んだ声で返す。
「??え?」
「沈められる???」
「ちょっと、何を言ってるか分からないんだが」
「え」
だが、残念ながら反応は芳しくないモノで、思わず俺も研ぎ澄ませ始めていた感覚を崩しながら三人の方を見てしまう。
三人は、まるでおかしなものでも見たかのような呆然とした表情で、俺も思わず怪訝な表情を向けてしまうが、俺たちの誰からともなく笑い声が漏れる。
「っくく……お前なぁ」
「いや、すまん……」
「……っ、っ、わ、るい…っっ」
「は?野村は赦すが、遠藤お前は絞める。永山は、まあいいや」
なんで俺だけ!?そんな遠藤の抗議を無視しながら、視線を彼らから前方へと戻せば、新たな魔物の群れが出てきたようだ。
同時に、メルド団長の指示が響く。
「よし、次は重吾たちだ!」
その指示が他のみんなも聴こえたのか、もう一度顔を誰かがそう言ったわけもなく突き合わせて、思わずもう一度笑いそうになりながらも
「うし、行くか!」
「それじゃあ、援護頼むな」
「肩の力は抜いていけよ」
後衛である、野村たちを連れて前へと出る。
目の前にいるのは二足歩行をしたネズミというモノだが、どこぞの夢の国に出てくる彼とは似ても似つかない外見の魔物。ネズミらしい灰色の体毛に、赤黒い目。これだけならラットマンという名に相応しい外見だが、問題はその上半身。
マッスルだった。筋肉だった。ムキムキだった。
八つに割れた腹筋、膨れ上がった胸筋、その部分だけ毛が無い。見せびらかす様に、いや実際そうなのだろう。時折胸筋がピクピクと動いている。
後ろで他のグループがやっている時に遠目で見ていたが、それでも流石に慣れるわけもない。
引き攣りそうになる表情を抑えながら、俺は槍を握る手に力を入れて────
「あ」
思考が澄んでいく。
視界が澄んでいく。
視界の端で永山が前へと進んでいき、ソレをフォローする様に追従するを始める遠藤の姿が映っていながら、俺の意識は目の前のラットマンの一挙手一投足へと向けられている。
ラットマンの一体が一歩、前へと踏み込んだ。
ソレと同時に俺は地面を蹴り、気が付けばラットマンの首目掛けて槍を振るいその穂先で、頸椎を叩き折っていた。ゴキャッ、そんな音が聴こえたのとほぼ同時に、視界の端でこちらを見たラットマンの目と目が合った。そして、俺の耳が目の前のラットマンの絶命を聴いたと同時に振り上げた槍の穂先が、次のラットマンの喉を捕捉した。
飛び掛かろうとするラットマンの首に風穴を開けながら、俺は背後にいくつかの十センチ立方体の空間を置く。
「チチィッ、ヂッ!?」
「なるほど、こういう使い方もあるのか」
背後で悲鳴じみた鳴き声が上がったのと同時に、振り返りながらラットマンの首から引き抜いた槍をその勢いまま僅かに握る手を緩ませ、持ち手を穂先側に持ち変える。
俺の槍は身の丈よりも長いモノだ。当然持ち方が穂先側へとよれば今度は石突側が重くなるが、アビサルハンターの膂力からすれば誤差でしかない。
短く持った槍をまるで短刀の様に使って、空間に置いたキューブにぶつかりよろめいたラットマンの手足を切り落とす────
”いや、獲物は苦しめるべきではないよ”
そんな声がどこからともなく聴こえた気がした。
突如聞こえたソレに対して俺は、驚くよりも先に動いていた。四肢を狙おうとした穂先をその膂力で無理矢理に狙いを変えてラットマンの首を切り落とした。
頸椎の硬さ、なんて堅く頑丈なアーティファクトであるこの槍の前では大した意味もない。
先ほどの諭すような声が一体誰のものなのか、そう疑問に浮かびはするが、今は思考の奥底に沈めておく。
「さあ、次だ」
槍を元々の持ち方へと戻しながら、まだ残っているラットマンたちへと視線を向けた。
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メグミの魔物に対する初実戦は、他のクラスメイトらと大差なくそのチートなステータスや技能でもって、一切苦戦する事無く終了した。
それがクラスメイトらの認識でしかなかった。だが、メルド団長を含む騎士たちはメグミの動きに対して思わず目を見張っていた。
どれも全て一撃。それだけなら、天之河を始めとするステータス上位陣でもやっているが、問題なのはその一撃全てが、確実にラットマンらの首を狙って仕留めている事。
的確に一撃で仕留めるその様は、勇者一行の他の誰よりも鮮やかなモノで、メルド団長は狩人の天職がそれをさせているのか?と考えたが、そういった長考はこんな場所でする事ではない、と切り上げて他のグループの様に軽く褒めつつ注意をしていき、メグミのグループは交代していった。
そうして、変わらず実戦訓練は続いていく。
さて、迷宮には魔物以外にも脅威となるモノが存在する。それは下手をすれば魔物よりも脅威と言われるトラップの類だ。致死性のモノから、デバフをかけてくるようなモノ、と多種多様が存在しているそれらは当然今回の実戦訓練の目的地である第二十階層までの道のりにもそういったトラップは存在している。
だが、そういったトラップは先人の知恵というべきかそういったトラップを看破するアーティファクトがあり、メルド団長をはじめとする騎士たちの尽力によってトラップの有無を確認しない場所へと誘導してくれたおかげでかなり速いペースでメグミたちは目的の第二十階層へと辿り着くことが出来た。
「よし、お前たち。ここから先は一種類の魔物だけでなく複数種類の魔物が混在したり連携を組んで襲ってくる。今までが楽勝だったからと言ってくれぐれも油断するなよ!今日はこの二十階層で訓練して終了だ! 気合入れろ!」
そんな、メルド団長の言葉を聞き流しながら、メグミはやはり片手間にキューブを作り出して手慰みに弄っている。いや、正確に言えばこれもメグミ流の実戦訓練とでも言うべきだろう。
槍を振るいながら、『空間魔法』で作りだしたキューブを使い先頭に織り込む。その為には戦闘中でも並行して『空間魔法』に対応できるようにしなければならない。
意識しなければ走らせられない『空間魔法』による空間認識。
あらかじめ、不可視のキューブを置くことで相手の移動を妨害できる空間配置。
少なくとも、実戦訓練をしていく中で少しずつ練度も上がってきたが、それでもまだ足りない。
何より、最初の実戦で聞こえたような気がした何らかの声についても、まだ何もわかっていない。焦るべきではないこともメグミは自覚しているが、それでも、『狩り』を始めた時から高揚感が微塵も消えないのだ。
次を、次の獲物が待ち遠しい。
狩人として待つことも肝心だというのは分かっている。分かっているが、思わずこの場から離脱して心ゆくまで狩りに行きたい。この大迷宮には他にどのような魔物がいるのだろうか、どのような生態をしているのか、固有魔法を持つ魔物がいるのだろうか。自らをより研鑽したい、これでは物足りない。
そんな、高揚感がメグミの心をつかんで離さない。
だからこそ、メグミは普段であれば、平時であれば決して抱かない願いを抱いていた。
「(ああ、どうか、心躍る会合を、危機を)」
血のように赤い瞳を細めながら、狩人は望んでいた。
そして、それは、彼が望まずとも向こうからやってきた。
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ここまで読んでいただきありがとうございます。
今日まで毎日更新をしてきましたが、明日から連休明けまで所用で執筆時間が確保出来なさそうで更新出来ません。
少しずつ進めていきますのでしばし、お待ちください。