ありふれぬ狩人は祝福をその手に   作:カチカチチーズ

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 どうも、だいたい1週間ぶりです。
 連休で友人と旅行に行ってきたら、まさかのコロナという悲しい事態に更新が遅れてしまいました。
 コロナはどうやら、私の場合熱が平熱でただ喉の痛みと咳と頭痛と平衡感覚の死!だけだったみたいです……


11.危機の前に躍る心

◇─────

 

 

 

「駆け抜ける───」

 

 

 まるでランナーがスライディングでもするかの様に前へと出した右つま先で空間を滑りながら、メグミは突き出す黒槍と共に突出する。アビサルハンターの筋力から叩き出されたクラスメイトらの最大速度となんら変わらない速度を初速でたたき出しながら、その銀糸の髪を尾に引きながら狩人は前方に屯する骸骨兵士としか言いようのない魔物たちへと突き進んでいく。

 骨格だけの身体に武器を持つ彼ら、トラウムソルジャーという魔物相手に穂先が細い槍で突きをするなど、狙いを外しかねないものだが、それをメグミは自身の筋力と、そして『空間魔法』によって穂先へと周囲の敵を引き込むように作用することで命中率を上げる。

 トラウムソルジャーの剣がメグミへと触れるよりも先に轢かれ、そんなトラウムソルジャーに巻き込まれるように周囲の数体が破砕しながら追従していく。

 群れの半分ほどまで、突き込んで僅かに速度が緩んだのを察したメグミは滑っていた空間を踏み砕いて無理矢理にブレーキをかける。

 そうして、確かめるように槍を手元で回しながらすぐ近くに転がる轢いたトラウムソルジャーの頭蓋を踏み砕き、メグミは改めて周囲を見回す。

 当然、群れのただ中。

 つい先ほどぶち抜けた群れの穴も次々と、怪しく光る足元の魔法陣から補充されたトラウムソルジャーで埋まっていく。

 

 

「骸骨、いわゆるスケルトンな魔物が筋肉も無しにどう動いているのか、実際に目に見れるとは、な」

 

 

 一度、後方。群れの向こう、置いてきたクラスメイトらや騎士団らのいる方へとトラウムソルジャー越しに視線をやりつつ、メグミは少し名残惜しいような声音でそう呟く。

 目の前の魔物も興味がそそられる、だが

 

 

「本音を言えば、あのベヒモスのが興味深いし、実に狩りたい……狩りたいんだが、流石にそれで友人たちが死にかねないのは、俺も困る。望んでいたような事態とは、言え、な?」

 

 

 普段ならば決してしないし出来ない空気と表情、思考を回しながらメグミは微笑む。

 

 

「妥協しよう。一先ずは」

 

 

 少なくとも、これが一番いい選択だ。

 みんなの為に魔物の群れを蹴散らすのは、自分のステータスを考えればこれが一番いい選択だから。

 優柔不断で、咄嗟の判断を鈍らせる自分を、この実戦訓練で高ぶった熱が思考を一瞬止めさせる事無く、きっと後悔しないであろう手を選ばせた。その事実に、メグミは僅かな安堵を憶えながら飛び掛かってきたトラウムソルジャーの腕を叩き砕き、そのまま粉砕しない程度の力で横殴りにして吹き飛ばす。

 背後から襲い掛かってきた相手にはキューブの空間を置いて、妨害しその頭蓋を蹴り砕く。

 そうしながら、メグミはこの状況、望んだ危機が訪れる事となった原因に僅かながらの感謝を、拾い上げたトラウムソルジャーの剣と共に離れたところのトラウムソルジャー目掛けて投げつけた。

 

 

 

 

◇─────◆

 

 

 

 

 

 メグミの望んだ危機。

 それが降って湧いたのは実戦訓練も既に佳境、第二十階層での訓練も次の階層への階段が近づいてきた頃合いの事だった。

 鍾乳洞に近い形状で、隊列も横に広がるのは難しく縦に並んで進んでいる中、戦闘を進んでいたメルド団長や天之河らが立ち止まったことでクラスメイトらは訝し気になる中、既に『空間魔法』を走らせていたメグミは特にそうなる事も無く、視線を細めクラスメイトらの隙間からどんな魔物がいるのかを観察していく。

 戦闘態勢に入ったメルド団長が、

 

 

「擬態しているぞ!周りをよ~く注意しておけ!」

 

 

 など、と警告した直後。前方にせり出していた壁が突如変色したかと思えば、動き出した。まるでカメレオンかイカの様に色を変えれるのだろうソレは、褐色の身体を見せながらドラミングをしてみせた。

 ゴリラの様な姿へ行動にカメレオンやイカの様に体色を変えられる生態に、メグミは思わず感嘆の息を吐く。

 

 

「ロックマウントだ!二本の腕に注意しろ!豪腕だぞ!」

 

 

 天之河らに相手をさせるようでメグミは僅かに目じりを下げつつも、ロックマウントと言うらしい魔物を観察していて、ふとある事に気が付いたがそれに反応するよりも先に、天之河らとの戦闘が始まっていく。

 飛び掛かり殴りつけてきたロックマウントの剛腕を天之河のグループの前衛、屈強な身体つきの坂上が拳で殴り弾き、僅かにひるんだところを他の二人が取り囲もうとしているが、

 

 

「立ち位置が悪いな」

 

「え?」

 

「足場が悪い。取り囲むよりも誘い込むのが良い、アレは」

 

 

 この周囲の地形のせいで足場が悪く、天之河も、もう一人の前衛である女子八重樫も二人ともうまく取り囲むことが出来ていない。

 ぽつりと零した感想に反応した、隣に並んでいる女子生徒にメグミは反射的に自分の所感を吐きながら観戦する。取り囲み自体は成功とは言わずとも、それでも効果は出ているのか、ロックマウントは正面に立つ坂上の肉壁を抜けることは出来ないらしく、僅かに歯噛みしたと思えば後ろへと下がった。

 その反応に坂上は助走をつけるのか、と判断しいつでも迎え撃てるように僅かに腰を落として────

 

 

 仰け反るように大きく息を吸ったロックマウントの姿に坂上は自分の判断ミスを悟った。

 

 

「グゥガガガァァァァアアアアーーーー!!」

 

 

 直後、周囲全体を振動させるかのような咆哮が発せられた。

 離れていてもよく響くソレに思わず周囲のクラスメイトらは耳を抑え、メグミは狩人として優れた聴覚にもろにダメージを受けたのか、一瞬白目を剥きかけていた。

 そんな、咆哮をもっと至近距離で受けた天之河らのグループの前衛組はダメージを受けているわけではないが麻痺でもしたように身体を硬直させた。

 致命的な隙を晒す彼らに対して、ロックマウントは突撃をする、かと思えばサイドステップし傍らにあった岩を持ち上げて前衛組を無視して後衛組へと投げ付けたのだ。見事な砲丸投げのフォームで放たれたソレだが、当然後衛組も戦闘をポケーッと眺めているわけもなく、迎撃の為にあらかじめ準備していた魔法を備えた杖を岩へと向ける。

 回避は残念ながら隊列が横に広がれない様に横幅の問題で難しいからだ。 

 だが、そんな迎撃も不発となった。

 

 

「ひぃっ!?」

 

 

 後衛組の悲鳴が漏れる。

 投げ付けられた岩もまた擬態していたロックマウント。空中で一回転したロックマウントは両腕をいっぱいに広げて彼女らへと迫る。

 人型の魔物、それもゴリラの様な姿で血走った目に鼻息を荒くして飛び掛かる。そんな姿をうら若き女子高生が耐えられるわけもなく、思わず悲鳴を上げて詠唱を中断してしまう。

 そんな彼女らに対してメルド団長は呆れたように言いながら慌てて後衛組の前へと躍り出てロックマウントを切り捨てて見せた。

 

 

「こらこら、戦闘中に何やってる!」

 

 

 彼女らはそんなメルド団長の叱責に謝るものの相当気持ち悪かったのか、顏を青ざめたまま。ハプニングはこれで終わり……で、あればよかったのだが。

 そんな彼女らを見た天之河が怒りを露わにする。

 

 

「貴様……よくも香織達を……許さない!」

 

 

 どうやら、彼女らの青ざめている理由を気持ち悪さではなく、死の恐怖によるものと勘違いしたようで、彼女らを怯えさせえたロックマウントへの怒りを向け、それに呼応する様に彼の持つアーティファクト、聖剣が輝きだす。

 

 

「万翔羽ばたき、天へと至れ――〝天翔閃〟!」

 

「あっ、こら、馬鹿者!」

 

 

 咄嗟に気づいたメルド団長の静止の声を無視して、天之河は大上段に振りかぶった聖剣を一気に振り下ろした。

 その瞬間、詠唱により強烈な光を纏っていた聖剣から、その光自体が斬撃となって放たれた。逃げ場などない。曲線を描く極太の輝く斬撃が僅かな抵抗も許さずロックマウントを縦に両断し、更に奥の壁を破壊し尽くしてようやく止まった。

 部屋の壁から破片が落ちていく中、彼女らへと安心させるかのような表情を向けつつ声をかけようとした天之河。

 だが、それは叶うことなく代わりにその視界に星が散った。

 

 

「へぶぅ!?」

 

「この馬鹿者が。気持ちはわかるがな、こんな狭いところで使う技じゃないだろうが!崩落でもしたらどうすんだ!」

 

 

 笑みを浮かべながら拳骨を落としたメルド団長の叱責に天之河は声を詰まらせ、バツが悪そうに謝罪をしてそこに後衛組が寄ってきて苦笑いしながら慰める。

 そんな様を後方待機のクラスメイトらもまた苦笑し、メグミは酷い咆哮だった、とこめかみを抑えながら同グループの辻から軽く治癒魔法を受けていた。

 そして、その時はやってきた。

 

 

 天之河の一撃で砕け崩れた壁に煌めくものを白崎が気付いたのだ。

 そこにあったのは青白く発光する鉱物だった。インディコライトを内包した水晶、ファンタジーでよくある宝石系の鉱石と言えばいいか、正しくそういったモノが花咲くようにそこにあった。

 異世界のモノであっても女子を惹き付けるのか、女子生徒らは一様に夢見る様にうっとりとした表情を見せたいた。

 

 

「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しい」

 

 

 グランツ鉱石とは、言わば宝石の原石みたいなものだ。特に何か効能があるわけではないが、その涼やかで煌びやかな輝きが貴族のご婦人ご令嬢方に大人気であり、加工して指輪・イヤリング・ペンダントなどにして贈ると大変喜ばれるらしい。求婚の際に選ばれる宝石としてもトップ三に入るとか。

 そんなメルド団長の簡単な解説に女子たちはまた一層頬を染めてうっとりする。

 実物と説明を受けて、彼女らの琴線により強く振れたのだろう。

 

 

「だったら俺らで回収しようぜ!」

 

 

 そんな中で、真っ先にそう言って唐突に動き出したのは一人の男子生徒だった。

 檜山だ。昨晩の会話や普段の姿から、パッと名前が浮かんだ彼にメグミは思わず顔を顰める。

 グランツ鉱石に向けてヒョイヒョイと崩れた壁を登っていく。それに慌てたのはメルド団長だ。

 

 

「こら! 勝手なことをするな! 安全確認もまだなんだぞ!」

 

 

 そう、こんな階層で、明らかに見栄えのいいものが出てきた。しかもそれはいままで壁面の中に埋もれていた。

 当然、絶対に安全何て言えるわけがない。しかし、檜山は聞こえないふりをして、とうとう鉱石の場所に辿り着いてしまった。そんな姿を侮蔑の視線を向けていたメグミだが、まるで皮膚の下が蠢くような感覚が走り、胸中に湧いた予感。メグミは無意識に笑みを浮かべていた。

 メルド団長は、止めようと檜山を追いかけていくのと、同時に騎士団員の一人がフェアスコープで鉱石の辺りを確認する。そして、一気に青褪めた。

 

 

「団長! トラップです!」

 

「ッ!?」

 

 

 だが、もう何もかも遅かった。

 檜山がグランツ鉱石に触れた瞬間、鉱石を中心に魔法陣が広がっていく。グランツ鉱石の輝きに魅せられて不用意に触れた者へのトラップだ。美味しい話には裏がある。世の常である。

 まるであの日の様に、魔法陣は部屋全体へと広がっていき、輝きを増していく。

 

 

「くっ、撤退だ! 早くこの部屋から出ろ!」

 

 

 メルド団長の言葉に生徒達が急いで部屋の外に向かうが……間に合わない。

 メグミは壁際に移動し、槍を握り直す。ずっと、この後の予感がする。先ほどの咆哮で冷めかけていた熱がまた、息を吹き返していく。

 部屋の中に光が満ち、メグミたちの視界を白一色に染めると同時に一瞬の浮遊感に包まれた、と思えば次の瞬間には周囲の空気が変わり、次の瞬間にはドスンと地面へと叩き付けられる。

 メグミは余裕をもって着地し、周囲の尻餅をついているクラスメイトらを軽く見まわしながら即座に『空間魔法』を走らせていく。

 

 

「転移魔法、か。あの時のは世界間だったが、これは……いい。実際に体験できるのと出来ずに想像で理論を考えるのじゃあ、わけが違う」

 

 

 明らかに先ほどまでと座標が異なっている。

 恐らく転移トラップと言うべきモノを実際に体験した、それはメグミにとって何よりも得難い経験と言える。これだけで、正直な話をすればこの遠征の元を取ったと言っても良いほどに。

 宝物庫や図書館、書庫でのアーティファクト漁りや文献漁りでは得れない貴重な経験。

 それを体験できたことにメグミはウキウキしながら、周囲を見渡す。

 先ほど走らせた空間認識で分かったのは、この空間は奈落にかかった橋という事。

 石造りの橋は、端から端までで百メートル程度、横幅は十メートル。天井までは二十メートルと少し。そして、恐ろしいのはこの橋には手摺や縁石が無く、足を滑らせて転がってしまえば止まるもの無くそのまま橋から落ちてその下に口を開けている奈落へ真っ逆さま、というもの。

 具体的にどれほど深いのか、まではメグミも分かっていない。

 

 

「(この身体でも落ちたら死ぬかもしれないな……いや、どうだ?)」

 

 

 そう、自身の身体の強度についてメグミが思考を回し始めた中、周囲の状況を確認したメルド団長が、険しい表情をしながら指示を飛ばし始める。

 

 

「お前達、直ぐに立ち上がって、あの階段の場所まで行け。急げ!」

 

 

 雷の如く轟いた号令に、わたわたと動き出す生徒達。

 目指すのは橋の両端、その片方。上へと続く階段が存在する側。

 だが、迷宮のトラップがただ転移させた程度で終わらせるはずもない。撤退はそうやすやすと成功することはなかった。階段側の橋の入口に現れた魔法陣から大量の魔物が出現したからだ。

 そして、通路側にも魔法陣は出現し、そちらからは一体の巨大な魔物が現れていく。

 その時、現れた巨大な魔物を呆然と見つめるメルド団長の呻く様な呟きがやけに明瞭に響いた。

 

 

「まさか……ベヒモス……なのか……」

 

 

 それは体長が十メートルはあるだろう四足獣の魔物だった。

 トリケラトプスめいた二本の大角を生やした兜の様なモノを頭部に持ち、瞳を赤黒く輝かせ、鋭い爪と牙を打ち鳴らしながら、角より炎を放っている魔物。

 その姿を見て、メグミは自分の中の狩人としての本能が笑みを浮かべ、今すぐにでも狩ろう、と感じていくのを感じながらもその熱は違う選択を選んだ。

 視線を即座に、メルド団長がベヒモスと呼んだ件の魔物から外し、階段側へと向けた。

 そこにあるのはベヒモスが召喚されたものに比べればせいぜい一メートル程度のサイズの魔法陣だが、夥しい数のモノが展開されては、骨格だけのの身体に剣を携えたザ・スケルトンというべき魔物トラウムソルジャーらが溢れる様に湧き出していく。既に目算で二百は越えているというのにも関わらず、まだまだ増えている。

 

 

 だから────

 

 

「お預け、だ」

 

 

 メルド団長が騎士団に飛ばす指示を耳にしながら、メグミは槍を構える。

 今の自分が出せる速度で、周囲に衝撃を残さない様に、困惑する彼らの矢面に立って。

 

 

「この切っ先が、お前たちの脆弱な群れに滑り込むのに一秒もかかることはない」

 

 

 カジキの様に狩人は空間を滑り駆ける。

 かくして、冒頭へと至っていく。その胸に、思考に、手に、熱を抱きながら。

 

 

 

 

 

─────◆

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