ありふれぬ狩人は祝福をその手に   作:カチカチチーズ

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12.石橋の戦い

◇─────

 

 

 

 メルド団長の矢継ぎ早に飛ばされた指示を騎士団たちが耳にし動き始めたのとほとんど同時に、生徒たちの集団から目にも止まらぬ速度で飛び出した影が一つ。

 メルド団長に生徒らを率いてトラウムソルジャーの壁を突破する様に指示された騎士の一人であるアランはその行動に思わずこの状況でのパニックによるものか、と考えたがしかしそんな様に悠長なことを考えている暇はない。

 仮にパニックによるものだろうが、、無謀さだろうが、何らかの勝機があってやったのだとしても、一人が魔物の群れに飛び込んでいる以上ソレを助けないという選択肢は残念ながら彼ら騎士団には存在しない。

 故にすぐさま、アランは生徒らに声をかけようとした────

 

 

 だが、アランの声は届かない。

 後方で他の同僚たちがメルド団長と共に防御魔法を発動してベヒモスの一撃を受け止めて見せたが、その衝撃は殺すことは出来ず、橋全体が石造りであるにも関わらず大きく揺れ動いた。現にベヒモスの足元は大きく粉砕しており、その一撃が相当なモノであることを如実に伝えていた。

 だから。

 生徒たちの恐怖をより強く煽るには充分だった。

 ただでさえ、罠によって見知らぬ空間に飛ばされ出口だろう階段を目指そうとしたところに現れたのは不気味な骸骨の魔物、それも大量に。そして、後方では恐ろしい、いままで見てきた魔物なんて小動物を思えてしまう程の怪物としか言えないベヒモス。

 早く逃げなければ、後ろの怪物に追いつかれる。いや、それよりも先にこの石橋事態を壊されるかもしれない。

 そんな恐怖が、いま生徒たちの胸中に水を吸うスポンジの様に満ちていく。

 そうして、パニック状態となった彼らはアランの声など微塵も耳にせず、隊列も無視してがむしゃらに階段へ向けて我先にと進んでいく。

 パニックを抑えようと、アラン以外の騎士たちも声をあげるが、彼らは自分の命の危機を前に聞く耳を持たない。誰も彼もがパニックになってめちゃくちゃに武器を振り回し、魔法が乱れ飛ぶ。

 このまま、放置すればいずれ死人が出るのは目に見えている。

 

 

 

 そんな、状況を感じ取りながら、トラウムソルジャーの真っただ中で一人狩りを楽しんでいるメグミは僅かに片目を細める。

 突出したのは、少し悪手だったかな?と考えつつも、最終的にはこれでよくなる、そう熱が封殺してそのようにメグミも少しでも助けとなるようにトラウムソルジャーの相手を速めていく。

 戦闘訓練を初めて、まだ二週間。

 だが、メグミにはアビサルハンターとしての肉体がある。動けば動くほどに、動きが最適化されていく。

 

 

「ここだ」

 

 

 鞭のように振るわれた蹴りがトラウムソルジャーの武器を破壊しながら他のトラウムソルジャーを仕留め、槍をほとんど棒のように横合いに薙ぎ払い何体ものトラウムソルジャーを纏めて石橋外へと蹴散らしていく。

 だが、大振りな一撃である以上は生まれる隙を縫って一体のトラウムソルジャーがその剣を突き込んでくるのをメグミは上体を逸らしながら突き出された腕を片腕で掴み上げる。そのまま、自分の方へと引き寄せてその頭蓋を、槍を持っていた方の腕の肘で破砕する。

 

 

「良い。もっとだ。実に良い」

 

 

 槍の穂先が空間を巻き取り、引き寄せたトラウムソルジャーの身体をひっかけて即席の投擲具として何度もした様にトラウムソルジャーの群れへと投げ捨てられていく。

 死角からの複数体からの襲撃も、鳴き声を上げない分不意打ちとしては上等だが、骨の鳴る音や、そもそも周囲の空間を認識しているメグミにとって不意打ち足りえない。

 目視せずとも置かれた幾つものキューブが妨害し、振り向きざまの一撃で纏めて、くたびれ儲けすらも出さずに骨を破壊していく。

 

 

「そうか、こう撃つのか」

 

 

 掌に生じた大きめのキューブ、それをルービックキューブの様に二十七分割して散弾の様に前方両側面へと弾けさせていく。

 十センチの立方体であるキューブはそのままトラウムソルジャーの骨格を破壊するか、ひっかけるように弾き、武器を押し退けて石橋からの落下などを引き起こしていく。

 それを見届けながら、何度か手を閉じては開いてを繰り返す。

 日本にいた時では到底感じなかった手ごたえ。その感覚に僅かに笑みを浮かべながら、メグミは再び空間を滑り始める。

 最初の時の様な速度は出さずにトラウムソルジャーの群れの中を蹂躙する様に槍を突き進めていく。

 小魚の群れを肉食魚が食い荒らす様に、執拗に削っていく。

 二往復を終え、さあもう一度、といったところでメグミは即座に自分の立ち位置を変えていく。群れの真ん中から端っこへと滑り込んでいったと思えば、次の瞬間にトラウムソルジャーの群れの真ん中に純白の斬撃が炸裂していった。

 

 

「ちっ」

 

 

 だが、それでも足りない。

 空間に置いたキューブを踏み台に天井近くまで駆け上がり、先ほどの斬撃で押し退けられ橋の両側へと巻き込むように奈落へと落ちていったトラウムソルジャーを見下ろす。

 文句の一つも言いたくなっているが、一人突出したのはメグミ自身の判断でありエゴだ。これには何も言えない為、僅かに一瞥してからキューブを踏み砕きそのままクラスメイトらの方へと滑り落ちて合流する。

 

 

「皆!諦めるな!道は俺が切り開く!」

 

「お前達!今まで何をやってきた!訓練を思い出せ!さっさと連携をとらんか!馬鹿者共が!」

 

 

 そんな、天之河のカリスマ性のある言葉とメルド団長のいつも通りの頼もしい叱咤にクラスメイトや騎士全体の士気が持ち直し始めているのをメグミは感じ取りながら何か言いたげなメルド団長の視線をあえて無視しながら、しっかりと前衛組、後衛組と分かれ始めたクラスメイトに紛れて前衛組の遠藤や永山たちの近くに加わる。

 

 

「よぉ、落ち着いたか?」

 

「っ、お前なっ!何一人で突っ込んでんだよ、死んだらどうすんだ!」

 

「湊」

 

「……あー、悪い」

 

 

 軽口を駆ければ帰ってきたのは遠藤の若干涙目の叱責と永山の小突きにメグミはバツの悪そうな表情で眼を逸らしながら槍を握り直す。

 

 

「文句は帰ったら言わせてもらうからな」

 

「ほんっとに、お前はさ!」

 

「わかった、わかった……帰ったらいくらでも聞くよ」

 

 

 そう申し訳なさそうに返すメグミは、自分の中にあった熱がもう掻き消えているのに気が付き、これ以上はもうないか、と胸中で息を吐いていた。

 歩調を合わせてやるしかない以上、大人しくすることを決めたメグミは周りの前衛組たちと共にメルド団長や天之河へと続いていく。

 こうして始まった反撃は、凄まじい戦果を挙げていた。メグミも突出している側であるが、それでも全体的にこの場の面子はこの世界の住民から見ればチート染みた性能の持ち主たち。そんな彼ら彼女らの強力な魔法と武技の波状攻撃は瞬く間にトラウムソルジャーの群れを殲滅していく。そうして、遂に魔法陣の召喚速度を超えたことで階段への道が開かれた。

 

 

「皆!続け!階段前を確保するぞ!」

 

 

 天之河の掛け声と共に同時に走り出す中、メグミは結果としてあっけなさを感じ取りながら普段の思考回路に戻り始めたことで少しずつ自分の突出行動が面倒事を引き寄せた可能性を考え始めてしまっていた。

 そうして、全員が包囲網を抜けた中で天之河やメルド団長をはじめとする騎士たちが増えたトラウムソルジャーによって再び閉じ始めた橋の半ばと階段までの道をどういうわけか閉じさせまいとトラウムソルジャーを攻撃しているのだ。

 これにはクラスメイトらも思わず怪訝な表情を向ける。

 せっかく、階段へとたどり着いたのに、どうして────

 

 そんな皆の疑問に答えたのは白崎だった。

 曰く、ベヒモスを南雲が止めているのだ、と。

 理解できない、無能の南雲が?そんな考えが皆に浮かんでいる中、メグミは既に意識を完全に目の前の状況から外していた。

 一度、悪く思考を回したらそう簡単に止められない。

 それが悪癖だと自覚していても、このような状況でも、始まったらどうしようもない。

 そうこうしている内にも状況は進んでいく。

 

 

「前衛組!ソルジャーどもを寄せ付けるな!後衛組は遠距離魔法準備!もうすぐ坊主の魔力が尽きる。アイツが離脱したら一斉攻撃で、あの化け物を足止めしろ!」

 

 

 ベヒモスを足止めしている南雲が離脱したのを確認してから、後衛組の魔法でベヒモスを足止めして南雲を回収しこの場を離脱。

 そんなメルド団長の指示を耳にしながら、僅かに顔を歪めつつくるぶしを抑えるメグミはこと、『空間魔法』以外では門外漢でしかない自分を魔法攻撃の足止め薬から除外し、少しでもトラウムソルジャーを削るために槍を持ち直す。

 

 

 既に熱はない、ただ悪癖ばかりが残るだけだ。

 だから、ああなるとは、微塵も考え付くことはなかった。

 

 

 

 

 

─────◆

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