ありふれぬ狩人は祝福をその手に   作:カチカチチーズ

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13.彼は落ちる、彼はまだ沈まず

◇─────

 

 

 

 どうやら魔力が付きかけてきたようで最後の駄目押しと言わんばかりにより大きく石や土が隆起していったのを最後に南雲がベヒモスから離脱し、そのあとすぐにメルド団長の指示によってクラスメイト達が詠唱を終えた魔法を次々と撃ち込み始めるのを見ながら、俺はこめかみを抑える。

 決して、俺が突出したから南雲が一人残ってしまったわけではない、ないのだろうがしかし、それでも俺の思考はもしかしたら、万に一つのあり得ないを、俺の選択と結び合わせようとしている。

 どれだけ、否定しても、俺自身が本当に?と疑問を吐いていく。俺自身の選択に後悔とケチをつけていく。

 そんな俺を余所に色とりどりの魔法が次々にベヒモスへと殺到していく。

 だが、さすがはベヒモスなんて名前を付けられているだけはあるのか、目立ったダメージは入っていない様に見える……しかしそうだとしても、それでも足止めとしては充分だ。

 俺自身も『空間魔法』で援護しようとしたが、やはり悪癖のせいで上手く魔法が定まらない。

 早々に諦めて腕を下ろし、槍を杖代わりにして他の魔法は使えない前衛組の面子と共に待機しつつ目の前の状況を見守る。

 

 

「あ」

 

 

 ソレはすぐに起きた。

 無数に南雲の上を飛び交っていく魔法の中で、一つ。

 火球がベヒモスではなく南雲の目の前の床へと着弾した。至近距離でのそれは当然、相応の衝撃があって進んでいた道を戻されるように後方へと吹き飛んだ南雲、三半規管でもやられたのかふらふらとおぼつかない足取りで何とか進もうとしているが、

 

 

「駄目だ」

 

 

 ベヒモスが見逃すはずがない。

 咆哮をあげて、さんざん石や土で自分の邪魔をしてくれた南雲へと飛び掛かっていった。

 先ほどまでの魔法も、まるで効いていない。南雲自身はなんとかその場から回避できたみたいだが、次はないだろう。

 俺は、その時点で分かっていた。

 走らせた魔法で、この石橋がどういう状況なのか分かっていた。

 ベヒモスの怒りに満ちた一撃が石橋を襲えばどうなるか、なんてほんの少し考えればすぐにわかる事だ。

 

 

「…………ああ、間に合わない、か」

 

 

 狩人としての視力が、石橋にすごい勢いで走っていくヒビを視認し、そしてメキメキと音をたてているのを耳にする。

 ただでさえ、南雲がやっていたらしい錬成で足元の石橋を使用していたのだ、そこにベヒモスが暴れまわれば、こうなるのは当然の帰結だろう。

 崩れ始めていく石橋、絶叫の悲鳴をあげながらなんとかその場に残ろうとするベヒモスも一度崩れ始めた石橋ではその巨体を支える事も出来ない。爪を立てた場所もすぐに崩れていきついにはベヒモスの巨体が奈落へと落ちていった。

 いや、それは問題じゃない。

 重要なのは、そっちではない。這いずる南雲だが、すでにその足元も崩れていっている。

 周囲のクラスメイトを窺えば、皆一様に青ざめた表情であり飛び出そうとしていた白崎は天之河らに羽交い絞めにされて止められている。

 メルド団長らももう無理だ、と判断しているのだろう。悔しそうな表情で落ちていく南雲を見ている。

 

 …………俺は?

 俺の足と『空間魔法』なら、間に合うかもしれない。

 だが、俺の足は動かない。

 恐怖でもなく、驚愕でもなく、硬直しているわけでもなく、俺は南雲を助けるつもりがないらしい。

 助言はしたし、苦言もした、だがそれでも、所詮はつい昨晩話しただけのクラスメイトの一人でしかない。

 

 

「悪いとは、思わない。恨んでくれてもいい」

 

 

 ■■の為にも、その選択は出来ない。

 

 

 

 

◇─────◆

 

 

 

 

 

 石橋があった部屋より階段を登り元の第二十階層へと戻る事のできた勇者一行だが、メルド団長の指示もありできうる限り戦闘を最小限にしながら『オルクス大迷宮』の第一階層への入り口、迷宮正面門へと到達しその足でホルアドへと戻りクラスメイトらは早々に与えられていた部屋へと戻り泥のように眠る事だろう。

 そんな中、一人部屋となって広くなった部屋でメグミは端から休むつもりも無く部屋を後にしていた。

 もしも騎士たちがそんなメグミを見れば、南雲が同じ部屋だったという事情を加味して部屋にいるだけで精神的に疲弊してしまうのだろう、と考えるだろうがメグミはクラスメイトの死、よりも自分自身の死に関して思考を回していく。

 死にたくない。

 このトータスに召喚されたあの日から、メグミはこの世界で死ぬつもりはない。

 

 

「死ぬのなんざ、ごめんだ」

 

 

 本当だったら戦いたくもない。

 傷つきたくない、死にたくない、平穏と暮らしていたい。平穏が駄目だとしてもどうして戦争に出なくてはいけないのか。

 呪詛の様に思考に渦巻き始めるそれらを噛み潰すことも無く、むしろその濁流の様な思考に身を任せながらメグミは一人ホルアドの街を歩いていく。

 宿場街という事もあるからだろうか、日が暮れて喧騒が街のいたるところから聞こえ始める中、メグミ人気のない路地裏を歩いていく。

 誰もメグミを止める者はいない。

 

 

「いっその事、このまま……」

 

 

 逃げだそうと思えば、逃げられる。

 『空間魔法』があればどこに人がいるのかも手に取るようにわかる。

 衣食住も、ある程度は狩人の天職を利用すればいいし、宝物庫から持ってきたサバイバルでも使えるアーティファクトがある為、そこまでの問題はない。

 このまま、逃げれば戦争なんて参加しなくてもいい。

 ある程度、傷つく可能性はあってもそれはあくまで必要経費でしかなく、この世界の為とかいう他人様の為に命をかけるのとはわけが違う。

 

 

「そうだ、そうしよう。このまま、山野で狩人生活でもすればいい……ああ、冒険者なんてのもありだな」

 

 

 自分が巻き添えに死ぬのはごめんだ。

 だが、それで足を踏み込まなかった結果、死んだ命に対して、メグミは完全に割り切れていない。

 見殺しにする理由はなかった。

 でも、助ける理由もなかった。

 そうだとしても、それではい終わり、と言えるほどでもない。

 心がちぐはぐになっていく。

 狩人としての自分が仕方のないことだ、と言い。

 転生をした自分が今度こそ死ぬのは避けるべきだ、と言う。

 前世から残っている悪癖があの時何もしないという選択をしたことを間違った選択である、と糾弾する。

 呪詛の様にぐるりぐるりと熟した腐臭が思考を巡っていく。

 何もかも捨てるべきだ、と言う思考が染まっていく。

 重く受け止めてはない。ただ、南雲の死に対して自分自身がソレを理由に自分を責め立てているだけだ。

 

 

 

 どうしようもなくて、どうしようもなくて、いっその事楽になりたくて

 

 

 でも、どこかで潮の香りを嗅いだ(海の歌声を聴いた)から、その足を止めた。

 

 

「…………ああ、馬鹿馬鹿しい。もういい、後で考える」

 

 

 急速に冷えていく頭、まるで冷たい水に頭を突っ込んだようなソレにどこか不思議な感覚を憶えながら、メグミは宿へと戻るべく踵を返していく。

 その表情は、つい先ほどまでのモノなんてなかったかのような表情だけがあった。

 

 

 

 

 

─────◆

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