ありふれぬ狩人は祝福をその手に   作:カチカチチーズ

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16.手札は足らず、伸ばす手に

◇─────

 

 

 

 時は少し遡る。

 奈落へと落ちていったハジメが、王国の人間らに知られる事無く生き延びて奈落攻略を始めてから数日。

 少しずつ、少しずつであるが、クラスメイトの死という状況から天之河をはじめとする生徒らが前へと向けて動き始めるように、次は自分かもしれないという恐怖を忘れるように、訓練へと身を投じ始めるなど少しずつであるが止まっていた時計が動き始めていた。

 だが、それでも、動き出したのは生徒の半数程度。

 多くの生徒たちの心にクラスメイトの死は深く重い影を落としている。戦いの果てに死ぬというモノをハジメがの件で強く実感した彼らは、トラウマの様なモノを抱き始めていた。

 それによってまともに戦闘など出来なくなっている彼らは訓練に参加する事無く、自室に引きこもっていたり、何もできずに訓練へと参加しているクラスメイトの姿を眺めているだけ、といった有様。そんな状況、当然なことだが聖教教会の関係者らは良い顔をするわけもない。

 荒療治とまではいかずともそのトラウマも訓練をしていく中で払拭できるだろう、と彼らは毎日のようにやんわりと訓練への復帰を促していた。

 きっと、このまま続けば衣食住を握られているという事もあり、この世界に来た時に天之河に流されたように戦闘訓練に参加し始め、いつか実戦訓練の時にでも無理矢理に埋めたトラウマが地雷の様に唐突に弾けて新た新たな犠牲者となる事だろう。少なくともメグミにはそんな未来が見えていた。

 

 そんな状況で、メグミは宝物庫を後にしていた。

 リストの作成を終えたメグミは王国へと返却提出したリストとは他に、本当の意味で知りえる限りのアーティファクトを記載したモノを自室へと持ち帰っていた。

 宝物庫に合ったリストから漏れていたアーティファクトには存外使えるモノが数点あり、メグミはそれを持ち出したことを誤魔化すためにソレが記載されていないモノを王国に提出した。世界を救う勇者一行の一人である以上そのような事をしなくても申請すればアーティファクトを持ち出せるだろう。しかし、持ち出したという記録を残したくなかったメグミはそうするしかなかった。

 例えば、地図を作成するアーティファクト。正確に言えば、タブレット程度のサイズのモノで、マッピング機能を有したものだった。普通なら地図を作製するなどそれこそ国が管理するべきモノでモノによれば国宝級のモノと言われてもおかしくはない。

 そんなモノがリスト漏れなどありえない。ありえないが、実際宝物庫にはリストアップされていた上位互換な同種のアーティファクトが複数存在していた。恐らく、使う際に座標の入力などと扱いが難しい癖にそれより扱いやすい上位互換がいくつかある中でそんなモノがいつまでも記憶に残るわけも無く……。

 そうして忘れ去られたアーティファクトに目を付けたメグミは持ち帰ってから、毎日のように自身の『空間魔法』の訓練をしながら座標を集めてはアーティファクトを使用していた。

 

 だが、そればかりにかまけているわけにもいかず、メグミは新たな手札を手に入れるために、自分がハジメのように死なないために、聖教教会へと近づくことを決めた。

 それが悪手であると理解しているが。

 

 

「(古今東西、宗教に近づくのはろくな結果に繋がらない、が)」

 

 

 ましてや、異世界の宗教。地球の宗教を否定するつもりはないが、それでも恐らく実際に力を行使できる髪が存在しているような世界の宗教など厄ネタにしかメグミは感じられなかったが、この世界についての知識を得るためにも、何が地雷になるのかを知るためにも、近づくことを決めた。

 

 

「どうかされましたか?ミナト様」

 

「ああ、いえ」

 

 

 ふと声をかけられたメグミはほとんど反射的に返しながら、手元の資料へと視線を落とす。

 今、メグミは聖教教会の総本山、つまりはあの日このトータスへと召喚された時にいた麓に王都を包したあの山────神山にある聖教教会の大聖堂内の一室にいた。

 仮想敵の本拠地、それも雲海よりも高い場所に建てられてる以上、逃走するにも難しい場所にこうしてほとんど四面楚歌、虎穴にいるメグミは胸中でため息と文句を吐きながら、目の前のテーブルに乗せられた資料へと目を通していく。

 そもそも聖教教会に近づくなど、普通に行えば簡単な事ではない。

 だが、まがりなりにもメグミは異世界から召喚された救世の勇者一行の一人。

 特に聖教教会の関係者らによってトラウマを抱えた生徒らへの復帰を促す行為に畑山先生からの猛抗議を受けてしまったことで勇者一行への干渉が難しくなってしまった彼らからすれば、メグミ側から関係構築する機会が得られたのは渡りに船とも言え、そしてメグミが告げた『空間魔法』という勇者一行の中で唯一無二の稀有な才能は、聖教教会の上層部が食いつくには充分だった。

 

 

「ミナト様の『空間魔法』は教会の資料によれば、長じれば大規模の空間転移すら行えるようになるという神代の魔法の一つです」

 

「……まあ、あの時の転移罠を実際に体験して、自分が使っているモノに通じる感覚はあったので……」

 

 

 そう説明をする対面のソファーに腰掛ける女性の言葉に首肯しつつ、手の資料から僅かに視線をあげ彼女を観察する様に覗き見る。

 聖教教会からメグミへの相手として紹介された修道女、この総本山で資料などを見るための手伝いという建前で監視役としてやってきたのが彼女だ。

 当然だが、聖教教会の修道服に身を包む彼女は、室内の灯りが時折反射する様にキラキラと輝く銀髪に優し気な見る者に慈愛を感じさせるやや切れ長の碧眼、少女にも大人の女性にも見える不思議な神秘的な符に気すら感じさせる顔立ち、美術品めいたモノを感じさせる容姿を持っておりそれこそ彼女が聖女と言われても信じられるられるだろう。

 勇者一行の一人の相手をする人選ならば妥当としか言いようがない。

 

 

「(はぁ……いや、美人なのはわかる。学校の二大女神なんて言われてる八重樫も白崎も確かに美人だろうが、それでもこっちはそれ以上だっていうのは分かる。うん)」

 

 

 フリスト、そう名乗った彼女は微笑みを絶やすことなく資料を精査している。

 きっと、この場に他のクラスメイトがいればあの日の時のメイドを見たように鼻の下を伸ばしている事は間違いない。メグミ自身、彼女が美人で魅力的な女性であるのは分かっているし大いに認めている。

 だが、目に見えた罠だ。

 

 

「(明らかにハニートラップも兼ねてるだろうな。俺の勘違いなら一番なんだが……資料精査なんてそれこそ普通の中年男性だとかでいいと思うんだが)」

 

 

 天之河と違い勇者ではなく、あくまで狩人でしかない自分を相手にするには過剰な気もするが……。

 など、と考えながらその視線が、資料から上げたフリストの視線とたまたまかち合い、一瞬目を丸くした彼女が微笑んだのと同時に視線を手元へと戻す。

 

 

「(は?状況が状況じゃなかったら、もう罠にかかってもいいや、ってなるが?いや、狩人が罠にかかってどうするんだ?という話だが……はぁ、修道女、修道女……ローレンティーナ、サクラコ……もしも目の前にいるのがサクラコだったら落ちてた。ガスマスクに水着…う、癖だ……)」

 

 

 正気か定かでない感想を、決して口に出さない様に胸中で吐露しながらメグミは資料に目を通す速度を上げていく。

 かなり性癖に刺さってはいるフリストを別の性癖で誤魔化す様にしながら、一言でも口に出せば困惑と侮蔑の空気が生まれてしまうだろう事実から目を背けつつ。

 

 

「(覚悟ですよ。擦られてラバーも擦り切れそうだが、覚悟は癖。は?礼装なんだからまだまだ擦り切れないが?宗教は癖だよ、先生。あ、いや、イシャームラもある意味そうでは?深海に帰ろう。深海に沈もう。ああ、海の奏歌が聴こえる…………)」

 

 

 きっと、クラスメイトの中で立ち直り訓練にも参加し始めた永山や遠藤らが訓練に打ち込み頑張っているだろう中で、メグミは自分の中の煩悩と向き合い始めていた。

 

 

 

 

 

─────◆





 修道女は性癖……いいぞぉ……ガスマスクに水着はもう、聖徒会、あいつら未来に生きてんな
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