ありふれぬ狩人は祝福をその手に   作:カチカチチーズ

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 毎日投稿が続けられれば良いな、と思いながら更新2日目です。




2.招かれた異世界

◇─────

 

 

 

 眩いばかりの光が教室で彼らを呑み込んだ。

 その間、およそ数十秒にも満たないほどであったはずだ。

 だが、次の瞬間に彼らの目の前に火がっていた光景は彼らが見知った教室などではない、そこはまるで大聖堂と言う言葉が自然に出てくるような建物の中。

 大理石の様な美しい光沢を放つ白い滑らかな石造りの建築物、建物内に聳え立つ柱は巨大でありその一本一本に美しい彫刻が掘られており、その柱に支えられたドーム状の天井。

 どこをどう見ても、やはり大聖堂。だが、そんな柱や床、天井よりもなお目を引くのは彼らがまず真っ先に目にしたモノ。

 それは巨大な壁画だった。

 縦横十メートル近いその壁画に描かれているのは一人の人物。後光を背負い金の長髪を靡かせながら微笑む中性的な人物がまるで背景に描かれている自然を包み込むように両腕を広げている。多少の学があれば、正しくその壁画を宗教画であると思いつくかもしれない。そんな、この大聖堂の象徴めいたソレに彼らは目を奪われる中、数人が思わずその壁画というよりその人物から目を逸らしてこの大聖堂へと視線を巡らせていく。

 彼ら、教室に残っていた全員がこの場に、大聖堂の最奥にあたる場所にある台座に立っているのを確認したと思えば、巡る視線は次に自分たちの周囲へと向けられた。

 この広間、いや彼らがいる台座の前にいる三十人ほどはいる、まるで祈っているかのように跪いた人間たちへと。

そんな白い法衣を身に纏ったどうみても宗教的人物の集まりを見た瞬間に、まだ同様から戻らぬクラスメイト達の中で警戒を始めていた一人の少年が、その表情を顰めていたが法衣集団の一人と視線がかち合った瞬間に他のクラスメイトを間に挟めるように軽く動く。それが皮切りとなったか、どうかは分からないが法衣集団の中より一人の老人が進み出てきた。

 

 

「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いております。イシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、よろしくお願い致しますぞ」

 

 

 好々爺めいた微笑みを見せるイシュタルと名乗った老人は、教皇と自己紹介した通りその雰囲気や法衣は他の法衣を着た者たちとは一際異なるモノだった。身に纏う法衣は当然に他の者よりも豪奢であり、頭にかぶる所謂ミトラと呼ばれるモノも細かい意匠が施されている。何よりその覇気が強い、パッと見た外見は七十代ほどだが、その身に纏う雰囲気が老人と呼ぶには覇気が強く、顏の皺や老熟した目が無ければ五十代にも思えるだろう。

 そして、彼が先ほど生徒の一人とその視線をかち合わせた人物だった。

 そんなイシュタルと視線がかち合わせてしまった生徒、湊メグミはこれから先に起きるだろう諸々を呪いながら、他の生徒ら同様にイシュタルが案内するという話し合いの為の落ち着く場所とやらへと向かうために大人しくついていくことにした。

 

 

 

 

◇─────◆

 

 

 

 

 

 湊メグミはもう既に発狂したくなっていた。

 それは、このトータスという明らかな異世界に召喚されてしまったことにではない。ましてや、非日常に巻き込まれてしまったことではない。

 いや、ある意味前者ではあるのだろうが。

 イシュタルによって、この状況の説明の為に落ち着ける場所とやらに案内された広間にはいくつかの長テーブルと椅子が用意されており、恐らく晩餐会などで利用されているのだろうその一室は、落ち着ける場所と言っておきながらその調度品や内装はどうみても一般市民でしかないメグミ含めたクラスメイトらが落ち着けるわけもない。

 だが、メグミはそれ以前にこのイシュタルやここまでの道すがらで見た建物の内装などからこの世界でイシュタルの言った聖教教会とやらがかなり力を持っているのだ、と察してこれからの自分たちの扱いが実に複雑怪奇なモノになる、と想像し今すぐにでもこの場から逃げ出したい発狂したい気持ちになっていた。

 

 

「と言うよりも、いや、異世界だから仕方ないが。女神の名前であんな意気軒高な老人は頭が痛くなりそうだ」

 

 

 思わずそんな言葉を一人愚痴りながら、用意された椅子へと着席する。ナチュラルにクラスのカースト上位勢が上座に座ったのを尻目にしつつ、ゆったりと他のクラスメイトの様子を伺おうと、した時。絶妙なタイミングでカートを押しながらメイドたちが入室してきたのに、メグミは思わずその視線を奪われる。

 実にクラシカルな美女、美少女で構成されたメイド集団が給仕し始めたのを他の男子たち同様目を奪われていって、そこでふとメグミはある事に気が付いてその視線を給仕された飲み物へとやる。

 

 

「ハニー、トラップってやつか」

 

 

 誰に言うわけでもなく、そう呟けばそれがたまたま聞こえていたのか、隣に座っていた男子生徒が僅かに肩を跳ねさせていたが変に反応するのも面倒だとでもいう様に、その視線を今度はイシュタルへと向けていく。

 全員に飲み物が行き渡ったのを確認して、イシュタルが口を開いた。

 

 

「さて、あなた方におかれましてはさぞ混乱されている事でしょう。一から説明させて頂きますのでな、まずは私の話を最後までお聞きくだされ」

 

 

 そうして始まったイシュタルの話は実にテンプレートで、ファンタジーにあふれていて、何よりもメグミには頭痛の塊でしかなかった。

 曰く、人間族、魔人族、亜人族。大陸北部一帯に住む人間族、南部一帯に住む魔人族、そして東の巨大な樹海に住む亜人族。それらの中で人間族と魔人族は何百年も戦争をしているが、この数十年は大きな戦争は起きておらず一定の均衡が保たれていた中で、魔人族側で魔物と呼ばれる害獣を何十何百と使役できるようになったことで均衡が崩れこのままでは、人間族が遠くない将来滅ぶ。

 そんな滅びに対抗するために、彼ら人間族の神であるという『エヒト様』がこのトータスよりも上位の世界から自身の使徒として、自分たちを召喚した。

 大まかに言えば、そんな内容を聞かされたメグミだが、もう駄目だった。

 思わず目じりを揉みつつも、自分の中の意見は口にする事なく一先ずは状況を静観していた。

 

 

「(…………つまり、俺たちに全部丸投げってことか?神がこの世界に何かするんじゃなくて、俺らを勝手に呼んで仕事を押し付ける、とか頭が痛くなってきた……神の力でもういっそのこと土地ごと魔人族を消し飛ばせよ)」

 

 

 実に物騒な事を思いながら静観していると、やはりというべきか巻き込まれてしまった中で唯一の大人である先生、畑山愛子先生がイシュタルへと猛抗議を始めていた。

 

「ふざけないで下さい!結局、この子たちに戦争させようってことでしょ!そんなの許しません!ええ、先生は絶対に許しませんよ!私たちを早く帰して下さい!きっとご家族も心配しているはずです!あなたたちのしてることはただの誘拐ですよ!」

 

 

 その猛抗議はきっと子供たちを教え導く教師の鑑であり、一人の大人として実に相応しい姿であった。一つ問題点を挙げるとすれば、彼女、畑山愛子先生は今年で二十五歳を迎える若い先生であるが、その身長は百四十センチ程度で実に低身長と言わざるを得ない。

 そんな彼女が猛抗議をしていても、その姿に威圧感というものは微塵も感じられない。事実、その姿を見ている生徒らは思わずほんわかとしてしまっている有様だ。

 メグミも思わずその姿に気を緩ませていて────

 

 

「しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」

 

「は?」

 

 

 イシュタルの告げた言葉に、誰しもがその緩んだ空気を冷たいモノへと変えた。

 

 

 

 

 

─────◆

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