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まず、この世界に存在する七大迷宮の一つこと、『オルクス大迷宮』には当然その迷宮を住処とする魔物が存在している。かつて、この世界に来た時にイシュタルが説明していたが、魔物は通常の野生動物が魔力を取り入れる事で変質した異形であり、この世界に跋扈する脅威の一つともされているが、今までの座学でメグミたちはそんな魔物についてもある程度、教えられていた。
例えば、魔物はその身体に魔物を魔物たらしめている魔石という力の核が存在している。この魔石はトータスにおいて魔法陣を作成する為の触媒として使われるモノで、それは魔道具と言ったアイテムにも利用されている。使わずとも魔法陣は効果が出るが、使用したモノとしてないモノでは三倍程度に効率が違う為、軍事日用問わずに魔石というモノは需要の高い素材と言えるらしい。
そんな魔石を抱え込んでいる魔物が、大迷宮を住処にしていてかつ、大迷宮の魔物は全体的に地上の魔物と比べてはるかに良質の魔石を有している。
また、大迷宮の魔物は階層ごとにある程度強さが決まっていて、自分がいる階層でどの程度の実力の魔物がいるのかを図りとる事も容易。そういった理由が重なり合い、この『オルクス大迷宮』は冒険者や傭兵、新兵の訓練で非常に人気のある大迷宮らしい。
だからだろうか、『オルクス大迷宮』のすぐ近くには挑戦する冒険者らの為の宿場町が存在しており、その中には王国直営の宿屋もあるようでその部分からもこの大迷宮でとれる魔石や魔物との実戦が重要視されているのが窺える。
「えぇと、よろしく、ね?」
「……ああ」
そんな宿場町ホルアドにある王国直営の宿屋に、今メグミたちはいる。
当全、理由は昨日訓練後にメルド団長が伝えた『オルクス大迷宮』での実戦訓練の為で、今日はこのホルアドまで移動し休息をしてから明日の早朝より迷宮入りするという予定となっている。
メグミとしては、このホルアドに王城の宝物庫があるわけでもなければ、王立図書館や城内書庫があるわけでもないので、当然やる事はなく暇だからホルアドを散策しようと考えていたが、一応は遠征の実戦訓練、このホルアドでの活動も訓練中という事もあり不用意な外出は残念ながら禁止され大人しく宛がわれた宿屋の部屋で大人しくしていた。
さて、ここは王国直営とはいえただの宿屋。
王都で与えられている部屋とは当然その規模は違うもので、普通の部屋だ。そして、なによりも一人部屋なんかではなく、二人部屋。
当然、メグミも一人ではない。彼がベッドの壁側に背を寄りかからせ手元で『空間魔法』で作ったキューブを弄繰り回している中、遠慮がちに声をかけてきたのはこの部屋の相方。
短めに切りそろえられた髪の大人しそうだが陰気ではない、ただ少しばかり積極性が無いそんな程度の印象を抱かせる彼はメグミの友人である遠藤や野村、永山ではない。
あの時、この世界に転移したばかりに天之河に同調していなかったメグミとは別のもう一人の男子生徒。
「……確か、南雲ハジメ、だったか」
「え、あ、うん、そうだよ?」
つい先日、ステータスが判明した時に知った名前を口にして確認すれば返ってきたのは。何とも微妙なモノ。キューブから、視線を外し彼へとやればハジメはまるでおかしなものか珍しいものでも見たかのような表情を浮かべており、それを見たメグミは思わず、なんだ此奴、といった視線を向けつつも
「ともかく、どうせ遠征中は、どうせこの部屋のままだ。何してようが、気にしないが寝てるのを邪魔だけはするな」
「え、あ、うん」
そんなこれから二人部屋を過ごす上でのメグミからの要求だけを簡潔に伝えて、このまま空間把握の修練でもするか、と意識を外側へと、部屋の外へと向けていこうと、して────
「…………なんだ、言いたいことがあるなら言ってくれ。俺は覚じゃないんだ」
本当に不思議そうな視線を向けるハジメに、メグミは閉じかけていた瞼を開けその血の様に赤い瞳を向ける。
刺すようなメグミの視線に一瞬、息をのんだハジメだが、しばらくして意を決したのかぽつりと呟いた。
「えっと、湊くんは、こうなんというか、僕に対して、その……」
「……敵意を向けてない、か?」
「う、うん。なんか、クラスのみんなは敵意とか侮蔑みたいなのを向けてくるからさ、少し珍しくて」
今まで、日本にいた頃は、メグミはある種閉じこもっていたという表現があっていた。
良くも悪くも身内とその他を分けていた。クラスメイトだって、友人である遠藤らとそれ以外で切り分けていた。実際、メグミはクラスメイトの半分も名前を憶えていない。
これはきっと前世から引きずっている性格が影響しているのだろうが、いままで特に問題はなかった。ある程度関わる、それこそクラスで強い発言力を持つ天之河の名前は憶えていてもその周りの取り巻きの名前を憶えてなくても学校生かつで何の問題も無い。
自分から、交友を広げるつもりもなかった。世間一般的にソレは治した方が良いのは、さすがに分かっていたがいつか、後で、と先回しにしてきた。
だから、メグミはハジメがクラスでどのような立場なのか、どうでもいいし、つい先日まではそういう奴がいるという認識しかなかった。
「……別に、オタクで何か問題があるわけでもないし、誰に好かれてようがどうでもいい。俺はそれぐらいしか知らないからな。実際、どうしてお前がそういう立場なのか俺は知らない」
「なる、ほど。ええっと、え?同じクラスなのにそのあたり知らなかったの?」
「なんなら、お前の名前もこの前のステータスの時まで知らなかった」
「え!?クラス替えしてないよね、僕らの学校!?」
「………………いや、すまん」
ハジメのツッコミにはさしものメグミも悪いと感じたのか、そう一言謝罪を返しつつその手のキューブを八つのキューブに分割していきながらその視線をハジメから外す。
「いや、ぶっちゃけ、クラスメイトの名前なんて、最悪全員分憶えてなくても大丈夫だろ?」
「毎日会ってるのに!?僕が言う事じゃないけど、それ結構駄目じゃないかな!?」
「ぐっ、遠藤と同じことを……」
メグミの口から出た言い訳の様な言葉に対して、ハジメは本当に自分にそういう事を言う資格なんてないと分かっていたがそれでも思わず叫び、その言葉にメグミは影が薄いのが特徴な遠藤と初めて話した時の事を思いだしながら知怒りとダメージを受けていた。
このトータスに来てから、初めてこうも精神的ダメージを受けたメグミはその視線をハジメへと戻して苦し紛れの糾弾を返す。
「なら、お前はどうなんだ南雲!クラス全体から嫌われるとか、何をしたって!?」
「え……いや、その、じ、人生を趣味の合間にしている、だけで」
「は?そんな抽象的な言葉で分かるわけないだろ。簡潔に言え」
「…………えっと、基本的に趣味の為に色々と切り捨ててる、というか……別に将来設計はもうできてて少なくともそれが出来るぐらいに充分技量が足りてるというか、えっと、あの、授業中基本寝てるからとか?」
「いや、ほんとに人に対して言えないな、お前」
嘘だ、此奴。
そんな表情を浮かべながら、メグミは思わず額に掌をあてる。
その後もぽつぽつと自供していくハジメの言葉を整理していけばいくほどに、この目の前のクラスメイトが嫌われる理由がつまびらかになっていく。
これが個人に何の問題も無ければ、どうでもいいや、と切り捨てられるのだが。
「い、いくら、将来が決まってるとはいえ、いや、は?待ってくれ、さ、流石に親はお前の現状を、いや、言わなくていい……なんで、えっと、白崎だったな、うん、そいつに構われてるのかは分からないが、ええぇ?」
ハジメ側の理由を聞かされて、メグミはアーティファクト探し以上の悩みを抱えていく。
流石に召喚された日の夜の、戦争に参加しなければならない事への苦悩とは比較にならないが、思わず思考放棄したくなる中で、メグミは
「さ、最低限の付き合いは持つべきじゃないか?」
人の事なんて言えないが、そう絞り出すことしか出来なかった。
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