ありふれぬ狩人は祝福をその手に   作:カチカチチーズ

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8.同じ様で違う

◇─────

 

 

 

「と、とりあえず、言わせてくれ……話を聞く限り、高卒で就職をするのかもしれないが……そ、それでも授業は寝るな、うん。教師に目を付けられたら、いやもうつけられてるだろうが……面倒くさいことにしかならないぞ。というか、親に連絡とかで下手すれば将来設計が崩れると思うんだが」

 

「うぐっ」

 

 

 メグミの苦悶に濡れた表情で絞り出されるその言葉は、ハジメの横っ腹へと突き刺さったのか、思わずハジメは横っ腹を抑えながら呻くような声をあげる。

 ハジメにとって、メグミは珍しい人間どころではなかった。どうして構ってくるのかわからずもう少し周りの目を考えてほしい白崎や自分の考える事しか信じれていないように思える天之河、嫉妬と敵意を剥き出しにしている他の男子や侮蔑の表情を隠さない女子、そんな彼ら彼女らと違いメグミはハジメの事情を聴いたうえでその将来設計に対しての意見を突っ込んでくる。

 他人に興味がなく、人付き合いなんて最低限で済ませようとしてクラスメイトの半分近くの名前と顔をイッチできていないどころか憶えていないメグミが言える事ではないが。それでも、自分本位的なハジメの事を何も考えないような言葉ではなかった。

 本当に、まるで大変そうな年下を慮るような言葉に、ハジメは無視なんてすることは出来なかった。

 

 

「まあ、俺だってオタクの類ではあるだろうから深夜ゲームとかは全然するし、次の日眠いとかは割とあるけれども、その、だな、これから……いや、将来はもう決まって……うん、それでも眠るのはやめた方がいい。お前が気にしなくても、周りがお前の今後に影響を与えてくし、気がついた時にはもう遅いなんてこともある」

 

「それは……そう、だね」

 

「まあ、なんだ、そう、あいつ、あいつだ、あいつだよ、あの空回りしてる」

 

「もしかして、檜山くんのこと?」

 

「そう、檜山だ……檜山だよな?まあ、その檜山は、お前が態度を改善したとしても突っかかってくるのは目に見えてる話だが……相手を下げたところで自分が上がるわけじゃないのにな。むしろ、自分は気に入らない人間を貶めて嘲笑する男です、と自分で自分の首を絞めている、そんな人間が好かれるわけもない」

 

 

 本当に憶えてないんだな、なんて事をメグミに対して思いながらハジメは何度も頷く。

 それと同時に、ハジメの脳裏に浮かぶのは檜山の事。檜山はハジメを日本にいた時より日頃飽きもせずに絡んではハジメにキモオタとレッテルを張りつけて罵ってくる四人グループのリーダーであり、遠巻きに舌打ちや敵意を向けてくる男子たちと違ってどうしてわざわざハジメに絡んでくるのか、なんとなくハジメは分かっていた。

 檜山はクラスの、いや学校で二大女神と噂される美少女、白崎へと好意を抱いておりだからこそそんな彼女が、檜山にとって格下最底辺の人間であるハジメに構っているのが我慢ならないのだ、と。

 そして、クラスからも嫌われていてこの異世界で力を得ても雑魚でしかない劣等生に対して訓練をつけてやるという頭のおかしい名目で痛めつけられる。エスカレートしない理由がなかった。

 既に魔法をぶつけられたり、武器で怪我をさせられかけてきた。

 そこまで、思い返して

 

 

「あ」

 

 

 ゾワリ、とハジメの背に気持ちの悪い冷たい汗が流れた。

 敵意を向けて実際に手を出してきてる檜山、それがこうして力を手に入れて今後も天之河とは比べるべくもないがそれでも強くなっていくだろうし、今後こうして遠征の訓練や実際の戦争が始まっても何らかの特別な理由がなければ全体で団体行動を取るから当然、一緒にいる機会は多くなる。

 そう、どうなってもかしくない様な場所に足を運ぶのだ、一緒に。

 その事実を認識した瞬間、ハジメは自分の背に流れる冷たい汗を止められなくなった。

 もしも、危険な場所で、檜山の魔が差したら?

 ありえない、と切り捨てるべきだ。

 流石にそこまではしない、と鼻で笑うべきだ。

 

 

「────無理だ」

 

 

 一度浮かんでしまった可能性は簡単に消えてくれない。何より、今後戦争に参加すればだんだんと命を奪う経験をせざるを得ない。そうして緩んでいく自制心と日本にいた頃じゃ手にする事もなかったような力への快感が、そうさせるかもしれない。

 顔も段々と青ざめていくハジメを見ていたメグミは何か口を挟むことなく、その手のキューブの数を増やしながら、ソレをルービックキューブの様に組み替えながら手慰みに弄り始めていく。

 ここまで、ハジメと言葉を交わしていきメグミはおおむねハジメの性格を読み取ってきていた。

 この男は同じだ。

 

 

「(俺は人付き合いが面倒だから殻にこもっているが、こいつは自分の趣味や家族以外との関わりを削いでいる。種類ややり方は違うが、俺と同じか)」

 

 

 同類だが、違う。

 似ているが似ていない。

 こうして口出しをしたが、深くはこれ以上は踏み込まない。

 

 

「(何を思い浮かべたかは分からないが、まあ、いいモノではないらしいな)」

 

 

 そこまで、考えたメグミはハジメが落ち着くまでの間、まるで子供遊びの様にベッドの上に作り出した空間のキューブを積み木の様に一つずつ重ねながら待つことにした。

 

 

 

 ハジメが落ち着くまでにどれほど、時間をかけたのだろうか。

 少なくとも、積み木遊びに飽きて一人でジェンガを始め三ゲーム目を開始しようとし始めたぐらい、といった所か。

 ようやく落ち着いたハジメをメグミは一瞥するが、何を悩んでいたのかは口にするつもりはないようでベッドの上で体育座りの姿勢を取ったままだがその表情は気まずさを隠せないモノだ。だが、メグミもそう言ったことにわざわざ自分から口を出すような性格ではない。

 だから、ハジメが気まずそうにしているのもメグミからすれば別にどうでもいいことだ。

 

 

「えっと……待たせてごめん」

 

「気にするな。俺は気にしてない」

 

 

 そうして会話は終わり、続くことはない。

 ハジメもメグミもコミュ障というわけではない。ただ、ハジメは気まずいだけで、メグミはどうでもいいと思っているから、続かないだけだ。

 この後、夕食で部屋を後にし、そのまま明日の為に就寝するまで二人の間に会話と言える会話は一度も起こることはなかった。

 

 

 

 

 

─────◆

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