【完結】女転生者ですが、親友(♀)がエロゲの主人公と発覚したので死ぬ気で貞操を守ります。# シスターアディと淫魔の恩寵_Append 作:家葉 テイク
第一話 親友に淫紋が生えました
呼吸と鼓動が、世界の全てを掻き消していた。
浅く上下する視界の中で視線を落とすと──そこには、頬を上気させた半裸の美女の姿が。
綺麗な女の子だった。
朝の陽射しのように爽やかな白い肌に、果実のように瑞々しい桃色の髪。微かに震える桜色の唇からは、浅い吐息が微風のように漏れ出ていた。
漆黒の修道服をゆったりと持ち上げる柔らかな双丘は乱雑に暴かれ半ばその柔肌を晒す格好になっている。
乱れた黒の中に覗く致命的な白の領域はいっそ毒々しい程に蠱惑的なはずなのに、私にはそれも含めてひとつの神聖な芸術作品のように思えた。
……、乱れた呼吸を落ち着けながら、私は不安そうに揺れる彼女の瞳を覗き込む。
春の空のような蒼穹色の瞳を見ながら、私は一つの事柄を思い出していた。
こんな時に言うのもなんだけれど、この目の前でへたり込む半裸の美女は私の親友で──
──エロゲの
『日本』という国で生まれて生活していた女が異世界に転生して、今は教会で
──と説明して、『あぁ、そうなんですね』とすんなり理解してくれる人はどれくらい居るだろうか。
同じ異世界に住む人間はもちろん、おそらく『日本』で暮らしている人間でも早々理解してもらえないと思う。なので、私の生い立ちについてこの場で深掘りすることはやめておこう。
幼少期は修道院附属の孤児院で育ったとか、歴代最年少でマニカナ教区の司祭長に任命されたとか、そういう小難しい話をしてもややこしくなるだけで全然本質的じゃないし。
重要なのは、私の日常は異世界なりに安定していて、不満は何一つなかったということだ。
文明水準的には『日本』に及ばないこの世界ではあるけれど、そこそこの地位を持つ聖職者というこの立ち位置は、それでも一定の生活基盤を約束してくれている。
週休は二日だし、職場の礼拝堂に住み込みだからほぼ在宅ワークみたいなものだし、収入もそこそこあるから食うには困らないし、教会が潰れない限り失職もあり得ないので安定しているし、魔法によるファンタジーなそれと併せて医療もそこそこ発達している。
娯楽はやや弱いけど、そもそも私はそんなに娯楽を欲しがるタイプの人間じゃないし……。
傍らには幼馴染で親友のアディがいて、助司祭として私のことを補佐してくれている。聖務の傍ら趣味の絵画も楽しめる。日々の楽しみは、それで十分だ。
特技を生かす安定職、充実した趣味、良好な人間関係。『日本』のそれと照らし合わせても、何一つ文句のない日常がそこにあった。
……そう。
つまり、今述べた事実は既に過去形の現実だということ。正直、今以て信じたくはないけれど──端的に言うと、愛すべき私の日常は、今しがた音を立てて崩れ去ったのだった。
とある日の朝のこと。
聖務が一段落ついた私は、いつもだったら少し前に部屋にやってくるはずのアディがいないことに気付いた。
この時間であれば、アディは朝の礼拝指導をするか庭の世話をするかしたあと、一旦休憩して私のところにやってきている頃のはず。朝の聖務が落ち着いた後の休憩は、私達にとっては大事な憩いのひと時なのだ。
何か急な仕事でも降って湧いたのか? あの子はお人好しだから、そういうの簡単に引き受けちゃうしな──そう思いつつ、その時はそこまで私も深刻には捉えていなかった。
精々、敷地内のどこかにいるから、私の楽しみを邪魔する不届き者の顔でも見てやろうと、そんな軽い気持ちで礼拝堂を見て回ったのだ。
そうして、何と無しにアディが最近つくりを変えたという裏庭に足を向けて、
そこで、今まさに何者かに押し倒されようとしているアディの姿を発見した。
──殺そう、と思う間もなかった。
襲われている女性がアディだと認識して、その表情が恐怖に染まっていることを確認して。
その次の瞬間には、私は既に魔法を発動し、何者か──正体は単なる暴漢だった──の後頭部に人の頭くらいの氷礫を直撃させていた。
相手の生命に対する気遣いは一切存在しなかった──という意味では、厳密に言うと殺意はあったかもしれない。
感覚としては、人を襲おうとしている猛獣に向かって猟銃を放つような気持ちだった。
まぁ、結果的には威力が足りなくて昏倒させるだけに留まったのだけれど……今にして思うと、一撃で死ぬ威力でなくてよかったと思う。もしも殺してしまっていたら、アディが気に病んでいただろうから。
昏倒した男がアディに倒れかからないように、私は次に氷を水に変え、そのまま男を横合いに弾き飛ばした。
男が雑に叩き上げられたビニール袋みたいに気のない勢いで弾かれたのを横目に、私は急いでアディに駆け寄る。
そして、半裸のアディを見下ろして──そこで、私の脳裏で、最早埃をかぶっていた前世の記憶達が閃いた。
乱れて地面に垂れても尚燦々と煌めく桃色の髪、恐怖と安堵の間で揺れる潤んだ空色の瞳、乱暴に乱されてはだけた漆黒の修道服。モデル体型と形容するのも陳腐に感じるくらいにすらりと伸びた肢体と、やわらかく修道服を押し上げる豊満な胸。怯えに染まっているはずの表情には、どこか性感の前兆が滲むような蠱惑さもある。
──この景色を
つまり、気付いたのだ。
この世界が、私がかつてイラストレーターとして携わっていた同人ゲーム『シスターアディと淫魔の恩寵』で描かれていた世界であり──
──私が今まで幼馴染であり無二の親友として過ごしていた彼女、アディがその
「……エヴァ、大丈夫ですか?」
礼拝堂に備えられている、来客用の応接室の一つ。
ホットミルクの入ったマグカップを両手で包み込むようにしながら、アディがおずおずと口を開いた。
修道服は襲われた時にいくらか破かれていたので、今はとりあえず毛布を羽織らせている。
暴漢を魔法で昏倒させた私は、一旦アディをこの部屋に連れてきて、暴漢の襲撃が組織的な攻撃の前触れだった時の為に備えていたのだった。
一応、通信魔具で警邏騎士には通報しているし、状況から見てこれ以上の襲撃は考えられないけど……それはそれだ。アディを安心させる為にも、警戒を怠る理由にはならない。
私はマグカップを包み込んだアディの手に右手を重ねながら、
「『大丈夫?』は貴方の方でしょう、アディ。……こんな時まで他人の心配なんて。どこまでもお人好しなんだから」
「わたしなら大丈夫ですよ! ちゃんとエヴァが助けてくれましたから。ただ、エヴァがすごく怖い顔をしてるのが気になって……」
言われて、私は左手で自分の頬を触って確かめてみる。
普段から不愛想で陰気な女である自覚はあるけれど、それを見慣れているアディにも見咎められるレベルで終わっている顔面だったとしたら、多分相当酷い顔だったんだろうな。
他の修道士連中に顔を合わせる前に気付けてよかったかもしれない。
「…………あぁ、ごめんなさい。やっぱり、どうしても気が張っちゃっているのかもしれないわね。でも、アディに逆に心配されるようじゃ駄目だわ」
「そんなことないですって!」
意識的に表情から力を抜くと、アディは慌てたように身を乗り出す。……こんな時だというのに自分の身に降りかかった不幸よりも私の心労を気にするような、底抜けのお人好しなのだ。この子は。
視界の端で呻く簀巻きの暴漢に『可能な限りの罪状をでっち上げて、確実に人生を破滅させてやる』と心の中で呪詛を吐きながら、私はテーブルの対面に座るアディの手に両手を重ねた。
「私のことなんていいから。今は、自分のことを考えなさい」
「…………はい」
私が真剣な表情で言うと、アディも頷いた。
頷いたアディは、そのまま視線を自分のお腹の辺りに落とす。おそらくは、そこにあるハート型の紋様を意識して。
『シスターアディと淫魔の恩寵』──通称『あまちょ』──というのは、同人エロRPG……大雑把に言えば『エロゲ』と呼ばれるジャンルのゲームの一つだった。
物語のあらすじはこうだ。
教区の人々の為に忙しい日々を送る敬虔な
呪いの力の源である自称大淫魔のレイラから『このまま行けば肉体は快楽に染まり、精神は堕落し、やがて自分と同じ淫魔と化すだろう』と宣告されたアディは、『淫魔の恩寵』を解除する為の手がかりを探すため、
そして『探索者』として活動していくうちに、アディは自らが巻き込まれた事件を取り巻く巨大な陰謀に迫っていく──。
この記憶によると、先ほどの悪漢は物語の最初に発生する『イベント』にあたる。
つまり、『あまちょ』の筋書きの通りならこの悪漢は単なる変態ではなく、黒幕の依頼を受けてアディに魔具で『淫魔の恩寵』を付与した刺客だったはず。
もっとも、アディに襲い掛かっているところを私に後ろから攻撃されたことからも分かる通り、自分で仕掛けた『淫魔の恩寵』の催淫効果をモロに食らって理性を失ったマヌケではあるのだけれど……。
──このあたりまでは、埃の被った知識を引っ張り出すまでもなくアディ自身の口から聞かされていた。
『淫魔の恩寵』という呪いを付与され、自分には今、淫魔の声が聞こえている──。『淫魔の恩寵』の効果については口ごもっていたけれど、そんな内容の話だった。
そういうわけなので、今アディが視線を落としている彼女の下腹部には、子宮を象ったハートの紋様、『
身体と精神を徐々に淫らに作り替えられ、そして黙っていても他者を誘惑する最悪の呪いが。
「大丈夫、大丈夫よ。きっと何とかなるわ。私も手伝うから、何も心配要らない」
「…………ありがとう」
なんだかんだ言って、不安な気持ちは大きかったのだろう。私が微笑みながら言うと、アディの空色の瞳から、大粒の涙が零れ出した。
そんなアディの頭を優しく撫でてやりながら、
私は、今世どころか前世まで含めても経験したことの無いくらい激しい怒りに打ち震えていた。
──クソ野郎どもが。
──
私は、アディのことを愛している。家族や友人としてとか、そういう次元ではない。一人の女性として、恋愛対象として、私はシスター・アディステアという存在をこの世で最も愛していた。前世の知識が埃を被って意味を成していなかった時代から、私は彼女という一人の人間が持つ魂の輝きに惹かれていた。
そんな彼女に、『エロゲの
欲望にまみれ醜い劣情を浴びながら、それでもアディの信じる正しさの為に、必要のない苦難に身を投じ、そしてそれゆえに悪人どもや怪物どもによる卑猥な攻撃を受けていくことになる。それが、この先の
最愛の女性が
……いるわけが、ないだろう。
いるわけが、ないだろう!!!!
そんな未来は、冗談じゃない。
そんな未来は、許せない。
そんな未来は、認めない。
アディに向けて優しく微笑みながら、私は静かに、しかし溶岩のように煮え滾る熱さで決意する。
──いいさ。やってやるよ。
──
つまり、世界の全てに向けた宣戦布告を。
──このふざけた世界の
開催期間中は毎日三話ずつ更新するので、お気に入り登録・しおり登録して追ってもらえると嬉しいです。
| ヒロイン:アディ(シスター・アディステア) |
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