【完結】女転生者ですが、親友(♀)がエロゲの主人公と発覚したので死ぬ気で貞操を守ります。# シスターアディと淫魔の恩寵_Append 作:家葉 テイク
第一〇話 五年前──相変わらず
──それは、今から少し前。
私がまだ、ただの司祭だった頃のこと。
「『かつて、世界には不毛の大地が広がっていた』」
豪奢な衣服を身に纏った老人を見下ろしながら、私は『導典』の一節を口にした。
『規律の』フィルマトが遺した教えを当時の信奉者が書き留めた『導典』のうち、最初の章──『創世記』の一節だ。もっとも、目の前のこの生臭坊主は最早諳んじることすら覚束ないだろうけれど。
「『そこに六名の
老人の身に纏う豪奢な衣服は乱れ、そして丁寧に撫でつけられた白髪は今は彼の狼狽を表すかのようにところどころ跳ねていた。
表情も、これ以上ないほどに焦燥しているのが見て取れる。ここ数日はよく眠れていなかったのか、皺が深く刻まれた目元の下は鈍い色の隈が横たわっていた。
「『降り立った方々のうち一人が、荒れた大地を見て木々をお作りになられた。木々は生えては朽ちて肥やしとなり、やがて肥沃な大地と鬱蒼とした森林が生まれたという』」
私は老人から視線を外し、そしてその周りをぐるりと歩いて回る。
「『そのうち森の中で木々ではない新たな生命が生まれ、彼女はこれを獣と名付けられた。これを行ったお方こそ、第一の姉女神「規律の」フィルマト様であり、我々の造り主である』」
そこまで言って、私は足を止めた。
「──『しかし、増えすぎた木々はやがて互いに大地の栄養を奪い合った。鬱蒼とした森林は次第に枯れ始め、獣も森を追われるようになった。多くの獣が森の外にもいるのはこのためである』」
そして、目の前の哀れな老人と視線を合わせる。
「教会では、この記述を『古木がいつまでものさばり続けると、森全体が枯れ果ててしまう。これは人間の社会も同じである』という教えだとする派閥もありますね。流石にこじつけだと思いますけど、教訓の部分については同意するところもあると思いませんか?」
男の名は、オーヴィエル=ラシーダテラー。
このマニカナ教区の司祭連の長であり、私とアディが住み込みで働く礼拝堂の管理者であり、私の直属の上司でもある──
────私の敵だ。
「つまるところ、世代交代が必要ではありませんか? ということなのです」
「ま……待ってくれ。少し落ち着くのだよ」
朽ちかけた古木のような老人は、そう言って私の言葉を遮った。
まるで、私の話が続くことが自分の破滅を加速させるとでも思っているかのように。
「どうやらエヴァと私の間で、認識に齟齬があると思うのだよ。私は……そう、別にアディのことを手籠めにしようとしていたわけではない。当たり前だろう? 私は彼女のことを幼子の頃から見守ってきた。言わば孫のような存在だ。大切に思うことこそあれど、欲望の捌け口として見ることなどり得ないのだよ」
「ほう? なるほどそれは素晴らしい愛ですね。ですが残念ながら、別に私はその話をする為に此処にやって来たわけではないんですよ、司祭長」
「………………は?」
この男は──オーヴィエル=ラシーダテラーは、好色な男だった。
齢七〇を越えているのに娼婦を宿に引き入れては姦淫に耽る──だけなら別に良かった。それ自体は違法じゃないし、お爺さんなのにお盛んなことですねって感じだ。
問題は……この男が管理している修道院の修道女に対して脅しをかけて性奉仕を強要し、そしてそれをアディにも行おうとしていたことにあった。
かねてからコイツの女癖の悪さに警戒して身辺調査をしていた時に浮かび上がったこの事実を知って、私は激怒した。必ずこの腐敗堕落を絵に書いたようなクズを失脚させると心に誓った。
の、だけれど。
……此処で一つ、問題があった。
権力を笠に着てアディの尊厳を貶めようとしたこの男の罪は、万死に値する。
牢屋にぶち込んで失脚させるだけでは、コイツは刑期を満了したら出て来れてしまう。表舞台には戻れないだろうが、それなりに裕福な余生を送ることはできてしまう。
ただし、だからといって私がこの手を悪事に染めてコイツを陥れるのもそれはそれで違う。お人好しで善人のアディと一緒に幸せになる為には、私だって後ろ暗い人間でいてはいけないのだから。
ゆえに私は、コイツの余罪を調べた。合法的にコイツの罪をより重くしようとした。私に使える手は全て使って、コイツのあらゆる罪を調べ尽くした。そしてその結果──
「
「…………、……」
司祭長の顔色が変わる。
ただ失脚するだけなら
「これまでは
……その程度で済ませるわけがねぇだろ、ボケが。
「ただ……『規律の』フィルマト様が齎して下さった規律の教えを以て人々を導くことを使命とするはずの司祭長殿が、『兵器』の量産や売買に手を染めるのは…………感心しませんねぇ」
「な、何を、」
「ここ最近!! マニカナ教区へ貴族の視察が増えましたねぇ! それも『王都』で政治的に弱体化した貴族ばかりがです! スラム経由で調べてみたところ、どうもこれらの家から使途・行先不明のカネやモノの流れが増えているらしいです。そして時を同じくして、とあるヴィーン系
──余罪を調べ尽くした結果、オーヴィエル=ラシーダテラーが、国家転覆計画に関与していた疑惑を見つけた。
この男は密かに武器を大量生産する技術を研究していて、そうして大量生産した武器を政争に敗北して落ち目の没落貴族共に売り捌こうとしていた訳だ。
当然、国家の転覆は計画することも加担することも重罪中の重罪である。もしもバレれば、『追放刑』は確実だ。『神殿追放刑』、あるいは状況によっては略式処刑すらあり得るレベルだ。
……改めて思う。この陰謀を見つけたのが私で良かったと。これがもし外部にバレていたら、多分コイツの腹心をやっている私まで巻き添えで首を切られていたに違いない。本当にふざけた野郎だ。
そしてこの様子だと、こうやって面と向かって糾弾されるほどの決定的な証拠は掴まれていないとタカをくくっていたのか?
だとしたら本当に耄碌している。お前の目の前にいる女は、これまでお前の腹心としてマニカナ教区の運営を一手に担ってきたんだぞ。女と陰謀に耽溺したお前に代わってな。
「そして此処に……その証拠となる書類があります。私の言っている意味、お分かりいただけますね?」
「待て…………」
「ああ、残念です。アディにとってそうであったように、私にとっても貴方は師であり親でした。その貴方に対し、こんなことを宣告しなくてはならないなんて」
「待て!! 待ってくれ!! それは……その情報は何かの間違いだ!! 私は何も関わっていない! クーデター計画になど……、」
叫びながら、司祭長は私の手から書類を奪い取ろうと詰め寄ってくる。
馬鹿が。こうしてお前の目の前にやってきている時点で、この書類の控えは既に用意してあるというのに。
「おっとぉ!! この様子は録画魔具で撮影されています。妙な動きをすれば、後で困るのはご自分ですよ? 司祭長殿」
「ぐ、ぐうッ……!!!!」
言われて、司祭長は怯んだように動きを止める。
その挙動自体が語るに落ちるというものだけれど、追い詰められたこの老いぼれはそのことにも気付けないらしい。
そしてぷるぷると震えながら、枯れ木の老人はゆっくりと口を開いた。
「頼む……エヴァ。分かってくれないか。あれは、君達の為でもあるんだ。ギルド本部へのカネの流れを弱める為に、マニカナ教区の王国内での立場は年々悪くなっている。革命によって王家が倒れれば、私が率いるマニカナ教区の教会内での地位も今よりはるかに向上する。これは、エヴァやアディの為でもあるんだ」
「はぁ、左様ですか。ではこれはどういうことなのでしょう」
『「で、誰に雇われて私を殺しに来たの?」
「そ、それは……言えねえ。俺達も命は大事だからな」
「ガボボボボ!?」
「なっ!?」
「殺してはいないから安心しなさい。吐くまで続けるつもりだし。でも、このまま続けてうっかり死なせてもこの場合私は罪に問われないから、遠慮はしないわよ。それでも、喋らない?」
「……………………」
「あっやべゴボガバボゴボボ!?!?」
「次、貴方ね」
「…………。……………………ら、ラシーダテラー司祭長だ」』
そこで、私はあらかじめ用意しておいた録音魔具を使って録音しておいた証言を再生してやる。
この証言を聞けば分かる通り──私はここ最近、コイツの陰謀を知ったが為に口封じとして悪徳探索者の襲撃を受けていた。アディを巻き添えにするわけにもいかないからコネを使って探索者資格を即日交付させて、
そのおかげで色々と情報が集まった部分もあるんだけれども。
……録音した内容を耳にした司祭長は、茫然としたまま動けなくなっていた。
本当に恩着せがましい野郎だよな……。『君達の為』だと? 計画の尻尾を掴んだ瞬間口封じの刺客をアホほど送り込んできやがった大悪人が今更一丁前に保護者面してんじゃねぇよ。
「私達の為にやった計画の証拠を私が見つけたら殺すんです? 本末転倒ですね」
「……、…………こっ、このクソガキが……育ててやった恩を忘れやがって……!!」
おっ、地金が出たな。
追い詰められた司祭長は、懐から何かの箱のようなものを取り出す。
おそらくは、ヤツ自身が独自に開発した兵器の一つだろう。真実を知る私を消せば、後は何とか揉み消せるというのだろうか。
どうやら追い詰められるところまで追い詰められたせいで、本当に焼きが回っているらしい。
「私を殺せば、後は全て丸く収められる──とでも思った?」
物陰から矢が飛来して、司祭長の手首辺りを撃ち抜く。悲鳴を上げながら箱を取り落とした司祭長を、物陰から現れた騎士が押し倒す。
気付けば、物陰から数十人規模の警邏騎士が現れていた。
「……ば、かな。気配は、どこにも……」
「
そう言って、私はガラスの玉をピンと指で弾く。その表面には、水の様に透明な稲妻が土星の環のような形で走っていた。
既にこの礼拝堂の物陰には、大量の『移動結晶』を隠していた。どんなに遠い場所でも存在を把握してさえいれば瞬時に移動可能な魔具を、だ。
そして隠し持っていた連絡用の魔具を使って会話の内容と映像を逐次伝えることで、司祭長が何か妙な動きに出た瞬間に警邏騎士が動けるような体制を作っていた訳だ。
つまりこの盤面が出来上がった時点で、司祭長は詰んでいたのである。
万策尽きた重罪人を見下ろして、私は淡々と告げた。
「──なァにが育ててやった恩だ。こっちには
今更ですが、
◆ ◆ ◆
既にちょこちょこ出てきていますが、原作でも六女神は作中では敬称つきで呼ばれるものの、略称については敬称をつけないみたいです。
ちょっとややこしいかもなので、未プレイの人向けに表を用意しておきました。
| 女神 | 略称 | 権能(属性) |
|---|---|---|
| 『規律の』フィルマト | フィル | 農耕(木) |
| 『恐怖の』ヴィーンティオ | ヴィーン | 航海(水) |
| 『信愛の』ティナーリタ | ナルタ | 調理(火) |
| 『鍛錬の』ビーアルプス | アルプ | 開拓(土) |
| 『休息の』プラシーデ | ラシーダ | 医療(回復) |
| 『堕落の』トーレイラ | トレイル | 性交(エロ) |
権能のところはそんなもんなんだな~程度に思っておいてください。本編で登場するタイミングがあればその時に詳しくやります(未プレイ者配慮)。