【完結】女転生者ですが、親友(♀)がエロゲの主人公と発覚したので死ぬ気で貞操を守ります。# シスターアディと淫魔の恩寵_Append   作:家葉 テイク

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第一四話 手を伸ばせば神話の世界

 探索は順調に進んでいった。

 

 途中でモナッポルの木を見つけては実を回収したりしつつ先を進んでいくと、やがて目の前に一本の川が現れた。

 広くて深い川だ。流れもそこそこあるので、泳いで渡るのは難しいっぽい。

 

 

「……『降り立った方々のうち一人が、枯れ始めた森を見て川をお作りになった。すると奪い合っていた栄養は川を通して大地を巡り、森はかつての豊かさを取り戻したという』」

 

「『導典』の創世記の一節だな」

 

 

 雄大な川の流れを見て、アディがぼそりと呟くように諳んじる。

 ちなみに、この後は『この時、獣のうちの幾らかは川に住み魚となった。現在の海は、この川の水が低地に溜まったものだ。これを行ったお方こそ、二番目の姉女神「恐怖の」ヴィーンティオ様である』と続く。いわゆる『地球』的な科学考証とは順序がめちゃくちゃなのも、いかにも神話って感じがして良いよね。

 ……この世界(ファンタジー)だとこの通りに世界が作られている可能性も否定できないんだけども。

 

 っていうか、凄まじい景色を目の前にして聖典の一節を諳んじるって、なんか凄い聖職者っぽいな……。……いや、実際に司祭だしめちゃくちゃ聖職者なんだけどさ。

 ただ、そのくらい神秘的な光景ではあった。透明な川の流れはまるで宝石の様に色とりどりの光を反射し、川底がしっかりと見えるくらいに透き通っている。

 川の流れの中で入り混じる気泡が、ときたま幻想的な姿をした魚に姿を変えて泳ぎ出し、そして消え失せる。──魔物ではなく、『そういう在り方の川』なのだ。

 意味が分からないけれど、そんな現実ではありえない光景が実現しているのが埋蔵神殿(ここ)の特徴でもある。

 

 そして、その川を横断するように石の橋が架かっていた。

 といっても、これはおそらく先達の探索者が移動の為に建てたものではないだろう。何せ石の橋は地中から伸びる形で構築されているし、石の橋はところどころが木の材質だったり氷の材質だったりしているからだ。

 

 埋蔵神殿(ダンジョン)にはこのようにしばしば人工物があるけれど、それが探索者が後進の為に設営したものとは限らない。

 これは埋蔵神殿(ダンジョン)が『女神の城(キュリアース)』と人間位相の狭間の歪みであるっていう話と関係してくると思うけれど……多分、埋蔵神殿(ダンジョン)では二つの世界の地形情報が断片的に混ざり合っているのだ。

 だから、実際に埋蔵神殿(ダンジョン)の中で誰かが建てていなくても、『地上』や『女神の城(キュリアース)』に存在する地形情報が反映されて『橋のような地形』が埋蔵神殿(ダンジョン)に表出するのだろう。

 ……まぁ、そんな小難しい話は脇に置いておくとしても、

 

 

「……なんだか出来の悪い風刺画みたいで不気味ね」

 

「えぇ?」

 

 

 思った感想を素直に口に出すと、アディに心外そうな声を上げられてしまった。

 

 

「森の木々と石の橋が絵具を合わせるみたいに混ざってて、とっても幻想的じゃないです?」

 

「アディはロマンチストね」

 

「エヴァに浪漫がないんだと思いますよ~」

 

 

 ……まぁ、私に浪漫がないのは正直認めざるを得ないところではあるけれど……。この景色を幻想的というのはちょっと気が引ける。なんというか、じっくり見てるとSAN値が削れそうだし。

 

 そんな風に適当なことを言い合いつつ、私達は橋を渡っていく。

 橋の上は安定していてびくともしない──はずなのだけれど、何故かギシギシと()()()()()()()音がする。アディがぎょっとして下に視線を走らせていたけれど、特にヒビが割れているということもない。

 

 

「これが埋蔵神殿(ダンジョン)なのよ。石の見た目をしているけれど、ところによって木の性質も持っているから、軋んだ音が出るの」

 

「それ、怖くないですか……」

 

「あら、浪漫はどうしたの?」

 

 

 先程のやりとりを踏まえて軽くからかったつもりだったんだけど、私は直後に後悔することになる。

 少し笑いながらアディの方を見て表情を伺ってみると──そこではアディが頬を膨らませて憤慨していて。

 

 

「そういうことを言ってるんじゃないですよ! エヴァのばか! 知らない!」

 

 

 ──その後、橋を渡るまで私が必死こいてアディの機嫌を取ったのは言うまでもない。

 

 

 


 

 

STAGE_01 / ダンジョン日和の昼下がり

[in イーガシア森林神殿 浅層]

 

第一四話 手を伸ばせば神話の世界

 

 


 

 

 

「あ、これって……」

 

 

 橋を渡ったそのすぐあと。

 すっかり気を取り直したアディが、川岸に何かを見つけた。私達が何かを言う前に、アディは早歩きで川岸に降りて、ごつごつした石が転がった地帯を跳び渡り、そこから何かを拾い上げて来た。

 

 見てみると、それは透明なガラス片のような形をしていたけれど──その周囲を水色の環が回っている。ということはつまり、これは『移動結晶』ということだ。

 

 

「ほう、珍しいな。天然ものの『移動結晶』か?」

 

 

 アディを追って川岸に移動したエリーミンが、『移動結晶』を覗き込みながら言う。

 私もその後を追って、

 

 

「遺留品かもしれないわよ。あとアディ、危ないから川岸には近づかない。落ちたらどうするの」

 

「別に、落ちてもエヴァが助けてくれますよね」

 

「アディこら」

 

 

 そういうことを! 外で言うな! っていうかエリーミンに聞かれてるから!

 ぶっちゃけ私ももう『あまちょ』の知識と併せてエリーミンのことはかなり信頼しているけれども、だからといって無条件でこっちの掌を明かして良いってことにはならないんだからね……。

 

 私の注意をスルーしながら、アディはエリーミンの方に向き直り、

 

 

「ところで……天然ものって?」

 

 

 そう言って、首を傾げる。

 当然の疑問だ。天然ものという区分があるということは、つまり逆説()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 エリーミンも頷いて、

 

 

「ああ。さっき、魔具屋のことを『魔具を収集している』と話をしたが……アレは実は正確ではない部分もある」

 

「……どういうことです?」

 

「魔具は()()()ってことよ」

 

 

 エリーミンの説明を引き継ぐように、私はアディに答えた。

 さっきまでの話と矛盾するようだけど……厳密な話をすると、そういうことになる。

 

 

「そもそも埋蔵神殿(ダンジョン)の中にあるものは、こういう橋とか川とか草原みたいな『地形構造物』を除けば、殆ど全ては元々『地上』にあったものなの」

 

「え!?」

 

 

 私の説明に、アディは目を丸くする。

 まぁ、この説明をそのまま鵜呑みにするなら、魔具は最初から『地上』にあったってことになるから、不思議な話だろう。これには理由があって──

 

 

埋蔵神殿(ダンジョン)にはね……『魔性化』といって、内部にあるものを別の物に変質させる作用があるの。魔具は、元々『地上』の道具が魔性化したものなのね」

 

「魔物についても原理は同じだ。生物本来の内在魔力による抵抗もあるから、魔具とはまた勝手が違うが……魔性化した生物が何世代も埋蔵神殿(ダンジョン)内で世代交代して種として定着したのが、各埋蔵神殿(ダンジョン)内で生態系を築いている魔物たちだと言われているな」

 

 

 このあたりは知らなくても無理はない。

 魔性化の話は探索者でもないと知らないし、エリーミンの話なんかは最近ようやく研究されるようになった内容だしね。

 

 

「魔具屋はこうした魔具の魔性化の法則性を()()()()()掴んでいて、自分が法則性(レシピ)を知っている魔具を安定供給して生計を立てていたりもするわけだ」

 

「そうなんですか……。知らなかったですよ」

 

「そう? アディも知っているものはあるわよ?」

 

 

 そう言って、私は今まさにアディが手に持っている『移動結晶』を指差す。

 

 

「『旅の途中、イザハヤは誤って滝壺の大渦の中に大切な宝珠を落としてしまう。困ったイザハヤの為にアイザヴェーラが「恐怖の」第二姉神に祈りを捧げると、滝壺の水面が大きく盛り上がり宝珠がイザハヤの許へと戻って来た。すると驚いたことに、宝珠には帰還の奇跡が宿っていた。イザハヤはこの奇跡がアマリヤトの試練に使えることにすぐ気づいた』──イザハヤ書の第六節よ」

 

「…………? ……あっ、もしかして」

 

 

 私の説明に、アディはハッとした表情になる。

 気付いたみたいだ。そう、その通り。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 この場合、『透明な鉱物を透き通った水の渦の中に入れる』という条件を満たせば、『移動結晶』は簡単に作ることができる。

 多分、前に浅層の綺麗な沼で作業をしていた魔具屋はこのやり方で『移動結晶』を生産していたのだろう。

 

 

「つまり、伝承の道具立てを使って当時の条件を再現すれば、似たような効果の魔具を比較的確実に作り出せるって訳。この技術のことを神殿模倣(ロア=ミメティクス)と言います。覚えておくように」

 

「は~い、エヴァ先生」

 

 

 私が人差し指を立てて言うと、アディも乗っかって手を上げて返事をする。

 うむ、素直な生徒は大好きですよ、先生。

 

 そんな馬鹿なやりとりをしていると、苦笑したエリーミンが横槍を入れて来た。

 

 

「先生。授業もいいが、モナッポル集めの方は大丈夫か?」

 

「ああ、そうね。一〇個納品で今七個だから……もうちょっと、かしら。もちろん確認してはいるけれど……ないわよね? モナッポルの木」

 

 

 辺り一面は草原で、たまに木もあるが……モナッポルは()っていない。

 需要が高いから、既に収穫され尽くされてしまっているのかもしれないけれど……。

 

 

「まぁ、そうだな。この辺りは他の探索者も多いから……ちょっと別のルートを通る必要があるかもしれない」

 

 

 そう言うと、エリーミンはスッと片手を構えて、

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 あ、やっぱりバレてたんだ。あのやりとりで。

 ……油断ならない洞察力だな。

 

 

「特別サービスだ。私の手の内も、二人に見せるよ」

 

 

 言って、エリーミンはあっさりと笑い、

 

 

「『ベタ・トルドス・ミリオ・ゲルグリル』」

 

 

 ──音が、穿たれた。

 

 先程ギルド本部では『何か』が悪徳情報屋を叩き伏せていたけれど──それが『何』なのか、目の前で発動されたことでようやくわかった。

 風だ。

 無数の風の槍が、眼前の草原を一直線に穿ち散らしている。それも、一本一本が並の魔法とぶつかっても打ち勝てるくらいの威力がある。それが、透明な風であることを差し引いても、数えきれないくらい。というか、もう全体でまとめて一本の槍なんじゃないかというくらいに大量の風の槍が螺旋状に渦巻いて吹き荒れている。

 私が目の前の事象を『風の槍』と断定できたのも、穿った草の残骸が舞い上がってその輪郭を浮き彫りにしているからだし。

 ……ってことは、ギルド本部で見たアレも風を打ち下ろしていたんだな。というかそんな単純な現象のタネを余人に気付かせないよう一瞬だけ展開するって、魔法の取り回しそのものの技量もどうなってるんだ? この人。

 

 ……風が通った痕が、まるで緑の絨毯に消しゴムをかけたみたいに見事な茶色い一本道になっていた。

 

 今まさに道路整備を終えたエリーミンは、朗らかに笑いながらこう付け加える。

 

 

「さ、道ができた。あと三個だ。もう少し頑張るぞ」

 

 

 『あまちょ』でエリーミンの出番が異様に少なかった理由が分かった。

 コイツが出張ったら、話がすぐ終わっちゃうんだ。

 

 

 ………………でも、それは結構利用できそうだな…………。

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