【完結】女転生者ですが、親友(♀)がエロゲの主人公と発覚したので死ぬ気で貞操を守ります。# シスターアディと淫魔の恩寵_Append 作:家葉 テイク
最初に感じたのは、魔物の気配だった。
といっても、先ほどのゴブリンのように魔物が私達を取り囲んでいる──という感じではなく、何か私達ではない何かを意識して動いているような、そんな微妙な距離感だ。
あたりは腰の高さくらいの草で覆われていて、先行した探索者が踏み固めてくれた道幅三メートルくらいの歩道の他は、屈んでいれば熊くらいの大きさの魔物でも隠れられそうな草原が広がっている。
人間の手が比較的多く入っている浅層では魔物の個体数も少ないので滅多にないけれど、それでも浅層での魔物の縄張り争いが全くない訳ではない。
縄張り争いが起きたのか……? と怪訝に思いつつ、巻き込まれないようにアディを先導して声から遠ざかろうとして──私の背筋を冷たいものが走った。
違う。
『金属音』がする。ガチャガチャと、探索者が装備を揺らして移動してくる金属音が!
──こんな浅層で探索者が探索者を襲うなんてリスクの高い行為をはたらく可能性は低いけれど、こちらにはバカを自動で引き寄せる『淫魔の恩寵』を持ったアディがいる。
低レベルなカスがアディを目の当たりにして魔がさしてしまって……という可能性は、十二分にあるのだ。警戒しておくに越したことはない。
「……アディ。誰か来る。警戒しておいて。『移動結晶』をすぐにでも使えるように」
アディにそう言って、私は音からアディを遮るような立ち位置を取る。
幸いにも、相手はこちらを包囲するようには動いていない。取り囲むような人数がいないのか、取り囲もうと考える頭がないのか、あるいは敵対意思がないのか……どういう意図かは分からないけれど、どちらにせよ私達にとっては都合がいい。
「どちら様かしら!」
左手で
『移動結晶』で
そこまで事前に準備を終えて相手の出方を待ち構えていると、自分たちの動きがバレていると悟ったのか、あるいは射程内だと判断したのか、音の主たちが現れた。
「……意外だな。平和ボケしたシスターと聞いていたのだが」
リーダー格らしき男が、開口一番にそう言った。それを見て私は静かに確信する。
──確定。コイツらは敵だ。
そしてまだ、私が魔法を使う態勢に入っているとは認識していない! だからこそ悠長に『開口一番』という時間を消費する余裕がある!
「『クアゲル』!!」
叫びながら瓶を勢いよく振る。空中に撒き散らされた水はそのまま広がった状態で固定化され、アディと男達の間を遮る壁となった。
──『移動結晶』によって移動した場合、発動している魔法とその操作対象となる物質も一緒に転移するのは検証済みだ。これで移動先での待ち伏せ対策も完璧、
「『
直後。
リーダー格の男が突然、茶色く塗り潰された骨董品めいた杯を掲げ出した。
何を──あ、まさか、エリーミンが話していた、
そう考えてみると、確かに他の男達の配置も何か等間隔で、まるで儀式を行う神官みたいな動きだ……!
気付いたけれど、その時にはもう遅かった。
私が何か具体的な行動を取る前に──
「
──後ろ腰のポーチで、何かが粉々に砕け散ったのが分かった。
「……アディ!!!! 『移動結晶』!!!!」
左手を構えて『ラゲル・デザード』を発動しかけていたアディを制するように大声で叫ぶ。
「あっ、エヴァは……、」
「私もすぐ行く! 水の盾張ってなきゃ移動の隙に何されるか分かんないでしょ!!」
「……! はい!!」
困惑するアディだったけど、追撃するように言い募ると、その剣幕に押されたのか一瞬後には『移動結晶』を発動してその場から消えた。
それを確認して、私も『移動結晶』の発動を念じてみるけど……。
「…………アイテム破壊の
どうやらさっきの一撃で破壊されてしまったらしい。
もしもの為の予備の『移動結晶』も含め、全く反応はなかった。ポケットから『移動結晶』を取り出してみると、予備も含め粉々に砕け、そしてどこか煤けて古びた感じの『移動結晶』の姿があった。
……厄介なことをしてくれる。
っていうか、アイテムをじかに破壊してくるとかゲームならバグ確定の最悪仕様だからね。本当にナメてんのかって感じだ、この世界。
ただ、考えようによってはプラスと言えるかもしれない。最初にまず帰還用のアイテムを破壊してくるってことは、コイツらの戦術には『移動先で待ち伏せ』という選択肢はないということだ。
つまり、アディは確実に無事。それが一番重要だ。私はまぁ、なんか適当に上手くやればいい。
私はバラバラになった『移動結晶』の残骸を横合いに放り捨てて、
「でも、あの子を帰されたのは誤算だったんじゃない? 水の壁が邪魔で
「……構わない。こちらとしては、こちらの仕事を済ませるだけだ」
……あ? アディ目当てじゃないのか? だとすると……私の素性を知っている人間か? カネ目的? 司祭長って言っても権限に伴う待遇が約束されるだけで、私有財産という意味では大したものはないんだけれど……。
……食うに困った探索者あたりが半端に知識をつければ、そのあたりの事情は知らなくても当然か。
っつか、アディが逃げた=追手が追加でやって来る可能性があるってことを一切考慮していないのはどう評価すべきかな。
①私を確実に捕縛して自分達も追手を撒ける自信があるほどの実力者。
②そこに頭が回っていない愚者。
③そもそも捕まることまで織り込み済みの捨て駒。
………………まぁ、死にたくなければとりあえず①だと考えて動いた方がよさそうだ。
こちらの手持ちは……今展開した一リットルの水塊の他は、一リットル入りの瓶が二本に、『回復薬』と『清廉薬』。『移動結晶』の残骸は今捨てた。
ただし、こちらについてもさっきの
この場で一番に私が取るべき状況は何か……。
そこまでさっと考えた私は、すぐに結論を叩き出した。
……逃げるか。
『クアゲル』で自分の背後に水の壁を張りつつ、私は
男達は即座に追いかけ始めたので──この時点で強力な遠隔魔法持ちの線は消えた。……雷とか撃ってきてくれたらワンチャン感電で一網打尽にできて楽だったんだけれど、そう甘くはないか。
というか、おそらく発想の流れとして、魔法の才能を持っていないヤツがその穴を埋める為の異能として
「『クアゲル・レード』!」
とりあえず、私は水を地面全体に垂れ流し、それから凍らせる。
道幅三メートルの全体を覆うような氷の床だ。薄く張ったので、長さは三メートルくらい用意できた。
男達はそのまま走ろうとして滑りそうになり、一旦足を止めてくれた。よし、まぁこれでちょっとは距離を稼げるだろう。焼け石に水だろうけれど。
多少余裕ができたのを見て取った私は、次に後ろ腰のポーチに手を突っ込んで中身を確認してみる。
幸い──というべきか、手触りから察する限りでは、他のアイテムはまだ破壊されていなかった。
おそらく、敵の
「……『奉還』!!」
と、そこで氷の床を踏み越えてきたらしいリーダー格の男が、何事かを叫ぶ。
同時に、私の後ろ腰のポーチから何かモヤのようなものが抜けて、男が掲げる杯へと戻っていくのが分かった。
男達の配置は──先ほど私の『移動結晶』を破壊したときと同じだ。
……読めてきたな、相手の扱う伝承が。
おそらく、ヤツ……いや、ヤツらの扱う伝承は『アルプの宝』だ。
『アルプの宝』。……祭事として演武をして『鍛錬の』ビーアルプスに鍛錬を捧げた過去の風習に起因して、努力が実を結んだ時には『アルプの宝をお借りした』と表現する文化だけれど……それって多分、大本としては『
つまり……この風習って、拡大解釈したら『任意のタイミングで過去の鍛錬(経験)をダウンロードする儀式』という風にも捉えられるんじゃないだろうか?
そして、術者本人にしろ、
本来は『鍛錬の結果』を獲得することで己を高める為の風習だったんだろうけれど、『鍛錬』というのは根本的に物理的破損だ。人間の身体はそこから回復するからこそ強くなるのであって、生物ではない無生物に『鍛錬の結果』を与えても、(これは伝承の解釈にもよるだろうけど)別に強くなったりする訳ではない。
それどころか、多くの場合、その『鍛錬』は破壊を伴うだろう。つまり、『鍛錬』をダウンロードされた──そういう形に『魔性化』された相手の持ち物は、破壊される。
…………なるほど、問答無用で『移動結晶』を破壊して数で囲んで叩くための戦法と考えたら、理にかなっている。
…………ああ、よかった。
あの時、咄嗟にアディのことを庇っておいて本当に良かった……!
私が咄嗟にアディのことを水壁で庇っていなかったら、最悪の場合アディもこの修羅場に巻き込まれていたかもしれない……!!
目の前の危険に対する危機感よりも、その安堵感の方が強かった。
それに。
……正直、