【完結】女転生者ですが、親友(♀)がエロゲの主人公と発覚したので死ぬ気で貞操を守ります。# シスターアディと淫魔の恩寵_Append 作:家葉 テイク
第二話 脳が破壊されそう ①
──警邏騎士が礼拝堂に到着したのは、通報から一〇分ほどした頃だった。
「にしても、司祭殿方に大事がなくて、本当に良かったです」
簡略化された騎士甲冑を身に纏った青年が、深刻そうな面持ちで呻く。
彼の手には、簀巻きにした悪漢から伸びたロープが握られている。アレを馬に括り付けて、拘置所まで引きずっていくのだ。その後の処遇については、偽証にならない範囲で可能な限り罪状を積み重ねておいたので『追放刑』はカタいだろう。ざまぁ見ろ。
「……これも、フィルマト様の教えの賜物ですね」
いかにも聖職者らしい厳かな台詞を吐いて、私は静かに連行の様子を見守っていた。
明らかにそんなことを言っている場合ではなかったのだけれど、こんな時でも余裕と穏やかさを捨てる訳にはいかない。徳のある聖職者という肩書は、人間性の底を見せるとすぐに失われてしまうのだ。アディのような真正の聖女なら別だけど。
「この男については、我々警邏騎士が責任もって連行します。二度と悪さはさせません」
「よろしくお願いします」
警邏騎士は悪漢を乱暴に引きずったまま礼拝堂を後にする。あの悪漢は完全にこの世の表舞台から退場するだろう。
さて。
これでようやく──『これからの話』を進められる。
『あまちょ』──『シスターアディと淫魔の恩寵』は、サークル『海千山千』が製作した同人エロRPGだ。
エロRPGというのはRPGの形態をとったエロゲのことで、『クリエイク』というツールによってRPG制作の難易度が劇的に低下したことで大きく広がったジャンルである。
ゲームシステムは作品によって色々だけれど、大雑把に説明するとゲーム中のイベントや敵の攻撃によってステータスの『淫乱度』が増加し、その『淫乱度』の数値やゲーム中のフラグの有無によって『清楚エンド』から『淫乱エンド』までエンディングが変化するというものが一般的だと思う。もちろん例外はあるけどね。
で、今説明した『淫乱度』が増加するイベントや敵の攻撃というのは、言うまでもなくセクハラや凌辱にあたる。これがエロRPGの肝ともいえる部分。エロRPGの中には、そうしたイベントや攻撃を全部回避することで『処女プレイ』をすることができるものもあるけれど……『あまちょ』はそうではなかった。
『あまちょ』において、回避できない『強制エロイベント』は全部で八つある。
そして、この八つの『強制エロイベント』のうち最初の一つが、実は先ほど発生した悪漢による淫紋付与レイプだった。
そう、アディはどう頑張ってもあそこであのクソ野郎に処女を……、……ああクソ、やっぱり偽証してでも略式処刑できるくらいに罪を重くしておくべきだった……、……、……処女を散らされることになっていたのだ。
でも、その未来は私が変えた。変えることができた。
つまり──
では、今後は具体的にどうすればいいか。
本来の未来、『あまちょ』の筋書きではどうなっているかというと、アディはこの後、淫紋解除の情報を集める為に探索者ギルドに向かう。
そこで情報屋に出会うのだけれど、この情報屋というのが悪徳も悪徳で、淫紋解除の情報に多額の情報料を吹っ掛けてくるのだ。当然多額のお金なんて支払えないアディは、探索者として活動することで情報料を稼ぐことになる。これが、ゲーム序盤の行動方針だ。
実際のところ、探索をしている最中に集めたアイテムが淫紋解除の為の魔具の素材になるので、わざわざ多額の情報料を支払ってまで情報を手に入れる必要もなくはあるんだけど、流石に埃の被った前世の記憶では、具体的にどんな素材が必要かまでは思い出せない。
『あまちょ』は担当作だし、私にとっては出世作だったこともあってそれなりにやり込んではいたけれど、イベント内容を全部覚えているほどしっかりプレイしたわけではないからね。
ストーリーなんかは大まかにしか覚えていないし、細かいイベントは記憶も曖昧だ。覚えていることと言えば、女性キャラクターのヴィジュアルとどういうエロ展開が起きるかくらい。……クソったれ忘れてえ。思い出すたびに
とにかく、私の知識ではどこで解呪用の素材が手に入るのか、そもそも解呪用の素材が何なのかもわからない。分かることといえば、精々『悪徳情報屋は情報料を体で支払うことで値引きしてくれる』ということだけだ。何せ、そのシーンのエロCGは私が描いたんだからな! あははは! ──世界に呪いあれ!!!!
……当然、アディに身体で支払いをさせることなど到底認められない。そういう話を持ち掛けさせることすら許せない。
ただ、『あまちょ』の本来の筋書きでは別にここは強制エロイベントというわけでもなかった。
『あまちょ』では、値引きせずに提示された価格分地道にお金を稼ぐことで情報料を支払えていたし、それで物語の進行に不都合はなかった。結局、やりようはいくらでもある。
つまり、私の方針としては──基本的には『あまちょ』の筋書きを踏襲して探索者として『淫魔の恩寵』の解除を目指しつつ、その過程で発生するエロイベントについてはその前提となる条件を潰して適宜阻止していく、という形になる。
……場当たり的にはなってしまうけれど、肝心の解呪方法が分からない以上、こういう動きになってしまうのはしょうがない。
「わぁ~、助司祭になってから、聖務以外で街に出るのって久しぶりだから新鮮です!」
「アディ。私達は司祭なんだから、あんまりはしゃがないの」
「はぁ~い」
というわけで──まずは情報を集める為に、私達は街に出ていた。
私達の住むマニカナ教区は東・西・南・北・中央の五つの区画に分かれていて、東区の東側の丘の上に私達が住み込みで働いている礼拝堂、西区の西側の郊外にスラム街がある典型的なエロRPG地形だ。
ちなみに、北側には
で、現在の私達の目的地は、『あまちょ』の筋書き通り探索者ギルドのある北区である。『淫魔の恩寵』を解除する為には、まず魔具の素材を集める為に
「あ! ねぇねぇエヴァ、出店がありますよ。ちょっと見ていきません?」
「あのね、遊びに来たんじゃないんだから……」
孤児院時代、夏祭りに二人で出かけたことを思い出して一瞬めちゃくちゃ遊びたくなったけれど──気合で堪える。っていうかこの子、自分の腹に淫紋が生えてること忘れてるのか? まぁそんな天真爛漫なところも可愛いんだけどさ……。
「……はぁ、全くアディは、いつまで経っても
「失敬な! 流石にわたしだって昔よりは落ち着いてますぅー!」
私が冷やかしの言葉をかけると、アディはそう言って身を正した。少し憤慨しているようだけど、対抗心からか行動が落ち着いたので良しとしよう。
ツンと澄まして見せるその横顔は、凛々しくしようとするあまりに逆に間が抜けてしまっている。本当にこの子、今年二〇歳になったとは思えないくらいに可憐だな……。
──ちなみに、ヴィーンの待たせ
この世界では、子どもは幼い時に『恐怖の』ヴィーンティオという女神に誘われて恐れという感情を教えられるという信仰がある。好奇心旺盛でやんちゃな子どもは女神に誘われて恐怖を教わり分別を覚える、というわけ。
逆説的に、やんちゃで恐れ知らずの子どもはヴィーンティオが
ちなみに、言うまでもなく相手を子ども扱いした物言いなので、私とアディくらい仲のいい友人同士でなければ言うのはオススメしない。人によっては本当に怒る言い方だからね。
「どうだか。……でも、よそ見は控えめにね。あんまり私から離れないように。今日はちょっと混んでいるはずだから」
「分かりましたけど……なんで混んでるんですか?」
「なんでって、それはもちろん」
言いかけて、私は足を止める。
いや、止めざるを得なかった、というべきか。何せ──
「久しぶりの市中引き回しだもの。庶民は興味津々でしょう?」
──まるでパレードの時みたいに、通り抜けるのにも一苦労しそうなほどの人の塊が、私達の行く先を完全に塞いでしまっているのだから。
■あまちょ用語解説
ヴィーンの待たせ
慣用句。幼子は『恐怖の』ヴィーンティオに誘われることで恐れという感情を知り分別を覚えるという神話から、ヴィーンティオが待たせている子どもは恐怖を知らずやんちゃという意味で使われる。
『あまちょ』では図書館でこの神話を読むことが出来る。CGあり。