【完結】女転生者ですが、親友(♀)がエロゲの主人公と発覚したので死ぬ気で貞操を守ります。# シスターアディと淫魔の恩寵_Append   作:家葉 テイク

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第二六話 猫被りの聖女様

 破壊の騒ぎによるどさくさに紛れて宿屋の中へ押し入ってみると、騒ぎを受けて逃げ出したのか、中には既に人はいなかった。

 店主も、宿の受付にはいない。こんな治安の場所だ。騒ぎが起きた段階で逃げているのが普通の危機管理能力の持ち主ではあると思うけれど。

 

 

「宿の中に人がいないのは好都合だわ」

 

「まさに()()()()()()だな」

 

「それ、意味違うけどね」

 

 

 適当に言い合いながら、私たちは宿の奥──先ほど壁が吹っ飛ばされた部屋へと進んでいく。

 

 ちなみに、『留守の城攻め』とはその昔、神話に記されるような争いの時代に、探索王ドレシオが宿命の敵アーティクスのところへ手勢を率いて攻めに行ったら、留守の城を隣国のスィラスに攻め落とされてしまった──という出来事に由来する。

 長らく作り話の寓話と言われていたけれど、数十年前くらいに史跡が見つかって、数千年前に実際に起こった史実だと分かったとかなんとか……そんな話を学んだ記憶がある。

 神話の記述が実は再現性のある現象なんじゃないかという『神殿模倣(ロア=ミメティクス)説』の誕生のきっかけとなった事件だ。

 

 

「……意外と争った形跡がねえな」

 

 

 警邏騎士らしく剣を抜いて油断ない構えをしながら、マグノリアはそう呟いた。

 確かに、宿の中は慌てて逃げ出した時に散乱したものが少しだけ転がってこそいるものの、何かが破壊されていたりだとか、荒らされたりだとか、そういったものは全くなかった。

 壁を吹っ飛ばして脱出したのも、示威行為であって戦闘の余波とかではなかったのかもしれない。見せしめは派手にとか、悪党の考えそうなことだ。

 

 そうして現場を検分しながら、私たちは問題の部屋の前に到着した。

 扉は閉められており、やはり破壊の痕は存在しなかった。『クアゲル』で鍵穴をちょこちょこやって扉を開ける。

 

 

「おい、今しれっとヤバいことしてなかったか?」

 

「不定形って便利よね」

 

「……司祭にしておくにはもったいねえぜ、お前」

 

 

 適当にあしらいながら中に入っていくと──部屋の中は、異常なほどに整然としていた。

 部屋の内装は、大きいサイズのベッドに壁に取り付けられた机と椅子、化粧台だ。しかしそのどれも破壊はされておらず、強いて言うなら掛布団がめくれている程度。

 本当に此処で争いがあったのか──といえば、やはり壁には直径二メートル程度の大穴が空いているので、ここが吹き飛ばされたのは間違いない事実だった。

 当然、此処に宿泊していたはずの地下(ヤミ)探索者ギルドの下っ端はいない。

 

 

「……なあ、これってよ。もしかして()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってことなんじゃねえか?」

 

 

 辺りを警戒しながら、マグノリアはこちらへ問いかけてくる。

 確かに、誰かがいた形跡は全くない。こうなってくると、『地下(ヤミ)探索者ギルドの下っ端が事前に襲撃の危険を察知して逃げた』という展開も想定する必要が出てきてしまうし、そうなると私の暗躍もバレている危険が出てくる。

 ただ、私はそんなに慌てていなかった。

 

 

「いや、それはないわね」

 

 

 私はマグノリアの懸念に答えて、破壊された壁をチェックする。

 確かに手際はいい。けれど、確かあの二人の手札に人間を問答無用で拘束するようなものはなかったはずだ。つまり、拘束の際に絶対に攻撃はしかけている。

 まだ襲撃からそう時間も経っていない訳だし……

 

 

「……『リクイゲル』」

 

 

 私が魔法の名を唱えると、ズズ……と破壊された壁の隙間から、赤い液体が滲み出て来た。

 

 

「うわっ!? なんだこれ!?」

 

「血液よ。私の魔法で操ってるの」

 

 

 そう言って、私は這い出て来た血液を手に取る。

 これはおそらく、依頼主の血だろう。血が出ているということは、最低限攻撃はあったということ。おそらくは最小の負傷で捕縛していたのだろうけれど……新しい血があったということは、此処に地下(ヤミ)ギルドの下っ端はいて、そしてあの二人に捕縛されたという流れは間違いないと考えていい。

 

 

「新しい血……ってことは、此処で争いが起こったってこと。大丈夫。状況は私の計画通りよ。予定通りのままで行く」

 

 

 そう言って、私は血液を小瓶の中に収めた。この時代に血液から身元を特定する技術はないけれど、一応ね。

 ……相手の身体の一部を使うことで攻撃を行ったり居場所を特定する魔性薬も、作れないわけではないし。

 

 

 


 

 

STAGE_03 / ボス戦は××の底から

[in マニカナ教区 西区歓楽街]

 

第二六話 猫被りの聖女様

 

 


 

 

 

 ──『リクイゲル』というのは、私が初めて修得した魔法だ。

 『クアゲル』よりも威力・スピード・最大操作量共に劣るけれど、液体全般を操作することが可能な魔法である。

 この魔法のお陰でスラム時代の私は泥水やドブ川を操ることで安全を確保できていたと言っても良い。お世話になった魔法だ。

 ただ、これは『クアゲル』もそうだけれど、容器の中に入ったものは対象外なので、『傷口から相手の血を抜きまくって倒す』というようなことはできないのが残念だ。

 『傷口に「リクイゲル」を使って止血』とか、『傷口に「リクイゲル」を使って血で傷口を広げる』とかはできるんだけれどね。

 

 

「計画通りって……本当かあ? 確かに、地下(ヤミ)探索者ギルドの下っ端が捕まったのは間違いなさそうだけどよ……肝心の手がかりはゼロじゃねえか」

 

「別に手がかりなしでもいいのよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…………あん?」

 

 

 そう言って、私はあっさりと此処の調査に見切りをつける。

 あの二人がうっかり依頼主の情報とかを回収し損ねていたら儲けものではあったのだけれど……別に、なくても問題はなかった。何故なら、

 

 

「実は今、レルオーティエが別動隊としてスラムの動向を監視しているのよ」

 

「……別動隊?」

 

「そ。敵はそこそこ優秀よ。何せ昨日は私が埋蔵神殿(ダンジョン)に入った情報をキャッチして、すぐに襲撃を指令したんだからね。そんな有能なヤツなら、依頼していた探索者が良く分からない連中に襲われ、しかも拉致までされた場合……すぐにその情報を察知できるでしょ」

 

 

 というか、私たちが戦闘のあった現場にこんなにすぐやって来れたのも、そのへんが理由だったりする。

 普通、戦闘のあった現場にすぐに顔を出せば、私も襲撃者の身内だと疑われかねないからね。そうしたらせっかくの漁夫の利作戦が台無しだ。

 でも、今回の場合は敵が優秀なのが分かっていたから、襲撃後すぐにその情報を察知しててんやわんやになることで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のが分かっていた。だから、こんなにも大胆に踏み込めたのだ。

 

 

「そして、自分の手下がやられたのを見た悪党は、次にどう動くと思う?」

 

「そりゃあ、自分じゃどうにもならねえなら、ボスに助けを求め……、……あ」

 

「そう。ボスに助けを求める。つまり、依頼主は他の何よりも優先して自分で行動を始めるって訳」

 

 

 こっちはレルオーティエがスタンバってるんだから、そんな分かりやすい動きをすればすぐに察知することができる。しかも敵は慌てているわけだから、こっちが動きを察知していることなんてちっとも気にしないだろう。

 

 

「なるほど! それで依頼主の野郎の居場所を突き止めてとっちめてやろうって訳だ」

 

「いや、()()()

 

 

 あ、げんなりした。

 

 

「あのね……。別に私はバトルがしたい訳じゃないの。あくまでも主目的は、『アディに「淫魔の恩寵」を付与した黒幕』と『私の命を狙っている黒幕』の共倒れ。だから、順調にその対立が進んでいる状況で私が首を突っ込むメリットはないでしょ」

 

「じゃあ、なんでわざわざレルオーティエを別動隊にしたんだよ?」

 

「そりゃあ、敵の身元を割る為よ。手を出しはしないけど、敵対する相手の顔は知っておかないとね。いざとなったら『アディに「淫魔の恩寵」を付与した黒幕』に情報を売りつけることもできるし」

 

「……とんでもねえ聖女サマだぜ……」

 

「この年齢で司祭長やれるような女が、清廉潔白な訳ないでしょ」

 

 

 私は適当に言い返しながら、宿屋を後にする。

 連絡用の魔具を適当に起動させては切って、レルオーティエに合図を送りつつ、私はふと気付いてマグノリアに忠告した。

 

 

「分かってると思うけど、アディに今の話振ったら殺すからね」

 

「じゃあ俺の前でも猫被っててくれよ!! 分かったけども!」

 

 

 嫌だよ。

 …………アディと良い仲になる可能性もあった男に良い顔し続けるとか、めちゃくちゃ癪だし……。




■頻出(予定)魔法解説
リクイゲル
 液体操作魔法。操作(ゲル)型。
 基本的にはクアゲルの劣化版。操作スペックについて優っている部分は何一つない。ただし、純水だけでなく水溶液全般、また水以外の液体も操作できる。
 操作対象のことを必ずしも認識できている必要はなく、『射程内にある条件に該当する液体』をイメージすることで操作対象の液体を探知するような使い方も可能。
 ちなみに、『液体と固体の中間』であるガラス等の物質はほんのちょっぴりだけ微かに操作できるらしい。
 射程距離は最大で一〇メートル。持続時間は五分。最大操作量は一リットル。
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