【完結】女転生者ですが、親友(♀)がエロゲの主人公と発覚したので死ぬ気で貞操を守ります。# シスターアディと淫魔の恩寵_Append 作:家葉 テイク
「こ、これ……」
眼前に広がる人の波を見て、アディは戦慄した様子で呟く。
それもそのはず。この人々は、アディを襲ったという悪漢の連行を見にやって来た野次馬なのだから。──いかに鈍感なアディでも、いやその純粋さゆえに、『義憤』という悪意は敏感に感じ取ることができるだろう。
そんなアディの戦慄を無視するように、私は何でもないことのような顔をして説明する。
「さっき例の悪漢を引き渡したばっかりな訳だものね。
「………………、」
警邏騎士に通報してから悪漢を引き渡すまでの時間で、既に礼拝堂にいた修道士に『教会に強盗が出た』と少々話をぼかして伝えていた。こんな話が伝われば、人は誰かに言いふらしたくなってしまうものだ。そして狙い通り、『強盗目的で礼拝堂に押し入った悪党の話』は街に広まりきっていた。
当然、人混みの中からは『コイツが司祭様を……』『フィルの裁きを受けろ!』『追放刑だ!』などなど、他にも聞くに堪えない罵声・暴言が漏れ聞こえる。その中心にいる悪漢のことを考えてしまったのか、アディの表情が曇った。
私がこのタイミングで街に繰り出した理由の一つが、これだ。
アディはお人好しだから、自分が大変な目に遭ったとしても、なんだかんだで楽観的に構えてしまうし、他人を恨まない。現に『あまちょ』でも、たとえレイプされても冤罪で投獄されてもアディは誰かのことを恨んだりしなかったからね。
ただ、『あまちょ』ではそういう脇の甘い部分で追い詰められていた節も否定できない。だからそうならないように、今のうちに『アディが誰かに傷つけられたら
…………天真爛漫なのはアディの良いところだから、それを抑制するようなことは、本当ならしたくない。でも、これからはそんなことは言っていられないのだ。だって、相手は巨大で途方もない『
そして、このタイミングで街に繰り出した理由はほかにももう一つある。
こっちについては『狙い通りに行けばいいな』レベルの目的ではあるけれど……、
「だから! 私は大人だ!!」
……どうやら、その目的は無事達成できそうだ。
道の端から聞こえて来た少女のものらしき怒声で状況が狙い通りに進んでいることを確信しつつ、声のする方へ視線を向けてみる。
「本職の『探索者』だから、この先のギルドに行きたいだけだと言っているだろう!? 急いでるんだよ!」
「あーはいはい。分かった分かった。いいかいお嬢ちゃん、こっから先は人がいっぱいで危険だから通れねえ。脇道は暗いし狭いからお嬢ちゃんが通るのは危険だ。つまり、お嬢ちゃんにできる決断は一つ。諦めて人の波が引くのを待ちな。オーケー?」
「ノットオーケー!!」
そこにいたのは、二人の男女だった。
いや、男女と表現するのもあまり相応しくないかもしれない。
一人は、警邏騎士共通の簡略化した騎士甲冑を身に纏った青年。治安維持組織ゆえにお堅い人間が多い警邏騎士にしては珍しく、どことなく粗暴でカジュアルな印象だ。
それに対し、女性の方は手入れのされた金色の髪をツインテールにした、一〇代前半の幼い少女だった。
そしてもちろん、今青年に噛みついている幼女は当然ながら見た目通りの幼女ではない。
彼女の名前は、エリーミン=アルプスドータ。通称エリー。
『あまちょ』にも登場するサブヒロインであり──この
『あまちょ』の作中ではお助けキャラとしての役割を担っており、一緒に
ただ、ご覧の通り彼女は容姿が非常に幼い。この世界は身分証明書の大きさが置物くらいあって(偽造防止技術がそこまで発達していないので当然だけれど)携帯できないから、『あまちょ』でもたびたび子どもに間違われる展開があった。
今回、私が遭遇したかったのは彼女。街で騒ぎを起こせば、幼い容姿の彼女はかなりの確率で人混みの影響を受けるからね。後は甲高い声のする騒がしい場所見つければエンカウントできる、という寸法だ。
見つからなかったら見つからなかったでギルドで直接接触するので問題はなかったのだけれど……エリーミンが『困っている』というところが重要で、つまるところ困っている彼女に助け船を出して、『ギルド最強の女』に恩を売って第一印象を良くしようというわけである。運よく上手くいって良かった。
「まったくこれだから警邏騎士は……!」
「はいはい、お嬢ちゃんのおうちはどこかねー。……ったく、最近は探索者ごっこをしたがるガキが多くて敵わねえぜ」
「そこのお二人、どうかされましたか?」
揉めている二人を見つけて速攻で声をかけようとしたお人好しのアディを手で制してから、私は改めてエリーミンと警邏騎士に声をかける。
今にも掴みかかりそうだったエリーミンはハッとして私の方へ向き直って、
「ああいや……。……何でもないんだ。ただ……」
先程までの剣幕が嘘のように、声が尻すぼみになっていく。
事情は分かる。今まではギルドとは仲の悪い警邏騎士が相手だったし一対一だったから自分の正当性を強気にアピールできたけれど、教会の人間が相手でしかも三対一となったら、自分が成人した女性と言っても信じてもらえないだろう、ということで語気が弱まったんだと思う。司祭もそうだけど、基本的に裏方仕事の探索者って、名前は売れても顔が売れないからね。
で、恩を売るなら此処。
「おや、間違っていたら申し訳ないですが……貴方はかの高名な探索者、エリーミン=アルプスドータ様では?」
「へっ?」
遠慮がちに問いかけてみると、警邏騎士の方が素っ頓狂な声をあげる。警邏騎士はすぐさま自分が今まで抑えていた幼女の方へと視線を落とし、『あっやべぇ』という表情を浮かべた。……この一瞬で自分の立ち位置が悪化したことに気付けるのは、良い危機管理能力だ。問題は、もう手遅れってところなんだけども。
「おほん。……流石は司祭殿。ええ、私がエリーミン=アルプスドータです。マニカナ教区本部ではチーフを務めさせて頂いております」
「お噂はかねがね……。シスター・エーヴァンネーリジュです。こちらは助司祭のシスター・アディステア」
私がアディと自分を紹介すると、エリーミンはもうすっかり余裕を取り戻した笑みで頷いた。
そしてそれから、不幸な警邏騎士の方へと視線を移す。自分の正当性が証明された今、どうやってやり込めてやろうか……と考えているのだろう。確か、エリーミンはそういうことを考えるくらいには勝ち気な性格だったし。
さて、とはいえ警邏騎士の立場を悪くして万一にでもヘイトを買ったら面倒くさいし、ここはフォローを入れてあげるとしますか……、
と。
粗暴な警邏騎士のフォローに入ろうとして、その顔をよく見て……そこで、私の脳裏で埃を被った記憶がまたしても瞬いた。
あの簡素な鎧。砕けた感じの立ち姿。刈り上げた茶髪。気だるげな表情。そして何より、真面目な委員長タイプが多数を占めている警邏騎士にあってあの特徴的なチンピラ口調……。私は知っている。『
「い、いや~…………えへへ、なんつーか……その、申し訳ありませんでした?」
世界一情けない愛想笑いを浮かべている男の名は、オッズワイド=マグノリア。
『あまちょ』にも登場する、警邏騎士の中でもひと際存在感を放つ人物で──
──作中唯一存在する『純愛エンド』にて、アディと恋仲になる男である。
…………の、脳が。
脳が、破壊される………………!!
■エロRPG豆知識
大概、ヨーロッパ風のファンタジー世界観を踏襲している。
なお、初期MAPの街の西側にスラム街があるのはエロRPGあるある(たまに東側なこともある)。
■あまちょ用語解説
フィルの裁き
慣用句。概ね『天罰』の意味で使われる。この世界では主神『規律の』フィルマトが世界を管理し悪しき者には罰を下すという信仰があり、その罰を意味している。