【完結】女転生者ですが、親友(♀)がエロゲの主人公と発覚したので死ぬ気で貞操を守ります。# シスターアディと淫魔の恩寵_Append   作:家葉 テイク

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第三五話 漂う腐臭の奥には

 その後も、私達はエロトラップダンジョンを順調に潜って行った。

 面白いのは、私ではなくマグノリアが何度か衣服溶解液を食らっていたんだけれど、やっぱり服は微塵も溶けていなかったところだ。やっぱこの埋蔵神殿(ダンジョン)、明らかに女を狙って攻撃してるところあるよ。バカじゃないの。

 

 不思議なことに、悪臭は潜っていくたびに強まっていった。もう私なんかは途中から嗅覚が完全にマヒしてしまっている。

 それでも(命が懸かっているので)潜って行くと──その途中で、中堅探索者達がうつ伏せで倒れていることに気付いた。

 一瞬、あまりの悪臭に気絶でもしたか? と間の抜けた予想が脳裏をよぎったけれど、違う。コイツら、()()()()()()()

 

 

「おい……!!」

 

「待ってワイド」

 

 

 躊躇なく助け起こしに行こうとしたマグノリアの肩を掴み、制止する。

 見てみて気付いた。悪臭は……この男達から漂っている。とすると、何かの罠である可能性が高い。

 私の制止で、マグノリアもそれに気付いたのだろう。黙って引き下がるマグノリアを横目に見つつ、私は『クアゲル』を発動する。

 

 罠かどうかを調べるなら、リスクのない水塊で接触して確認するのが手っ取り早いよね。

 水塊をするりと動かして、死体をひっくり返していく。

 外傷は……ない。ただ、眼を見開いて苦しそうな表情を浮かべているあたり、おそらく苦痛はあったのだろう。漂う腐臭と併せて考えると……毒ガス、

 

 

「…………!」

 

 

 反射的に『クアゲル』で周辺の空間に霧のように細かく分散させた水滴を放つと、腐臭はだいぶ軽減された。

 ……っていうか体調には違和感ないわけだし、流石に毒ガスではないか。もしもギミックで毒ガスが出るような埋蔵神殿(ダンジョン)なら、流石に私の耳にも入っているはずだし。

 

 

「どうした?」

 

「いや、ガスで死んでるのかと思って」

 

 

 突然魔法で噴霧し始めた私に怪訝そうな目を向けるマグノリアに答えつつ(当然、その後慌て始めたけれど、その対処は面倒なのでスルーすることにする)、私は注意深く探索者の屍骸を確認する。

 ひっくり返してみると、胸元が赤黒く滲んでいるので……おそらく刃物で胸を一突きされたのだろう。窒息とか、そういうどうしようもなさげな攻撃じゃなくてひとまず安心だ。

 

 

「……っつか、これマズイんじゃねえか? さっきの話だと、三人死体があったら敵の神殿模倣(ロア=ミメティクス)の条件が整うんだろ!? これ、完全に条件が整ってる流れじゃねえか」

 

 

 と、そこでマグノリアが慌てた声を出す。落ち着けバカめ。

 

 

「大丈夫よ。埋蔵神殿(ここ)から運んでしまえばいいんだし」

 

「……た、確かに」

 

「ということで、行って来てね」

 

 

 そう言って、私はマグノリアに『移動結晶』を二つほど手渡してにっこりと笑う。一応、すぐに戻って来れるようにマーキング用にもう一つ『移動結晶』を見せておくことも忘れない。

 

 マグノリアが一旦埋蔵神殿(ダンジョン)を出てから死体を槍で突き刺して燃やせば、死体の利用は不可能になる。あとはトレイルソン本部長と仲介の男……いるなら私を殺そうとした黒幕しかいないわけだから、マグノリアが下手こいて死なない限りはどう足掻いても神殿模倣(ロア=ミメティクス)は不成立である。

 

 これで対策の方は万全──のはずだけれど、少し不安でもある。何せ相手は神殿模倣(ロア=ミメティクス)だからな……。絶対の安心というものがない。

 

 

 流石に嫌そうにするマグノリアを笑顔の圧で送り出してから、慎重に先へ進んでいく。マグノリア用の『移動結晶』は、もし修羅場にアイツが突然転移してきたら隠密的に非常に厄介なので、此処に置いておくことにしよう。

 

 そして、先へ進み始めてすぐに気付く。──腐臭がさらに濃くなっている。浴室に入ったときのむわっと立ち込める湯気、あれが丸ごと腐臭に置き変わっているかのようだった。

 

 中堅探索者達の死体が何らかの攻撃を受けて腐臭を放っていたのかと思ったけれど、どうもそうではないらしい。

 とすると……この奥にある『強烈な腐臭を放つ何か』と接触するとかして臭いがついた、とかだろうか?

 ……ちょっと今のうちから覚悟しておこう。

 

 そんなことを考えつつ先へ進んでいくと、

 

 

「あァ、あァ、あァ……。……まーったく面倒くさいですねェ!!」

 

「チィ……! 急にデカくなりやがって気持ち()りィ……!」

 

 

 ──オークみたいに筋骨隆々の図体になったトレイルソン本部長と仲介の男が絶賛バトル中だった。

 

 

 


 

 

 仲介の男は、左手の掌を上に向けた構え──魔道編章(ランクスキル)を扱う構えを取っていた。

 

 対するトレイルソン本部長は、『あまちょ』でも使用していた魔具を既に使用しているらしく、全身が赤黒く充血し、筋肉が隆起した肉体へと変貌を遂げていた。

 骨格レベルで変化しているらしく、その体躯は軽く二メートルを超えている。額から伸びた短い角と言い、オークというよりも『鬼』という感じだ。戦闘のさなかに体液トラップを何度か浴びたらしく、その体表は体液でてらてらと輝いていた。……なんだこれ。

 

 と、物陰から戦場の様子を伺っていると、がさごそと後ろから小さな物音が聞こえて来た。……見なくても音だけで分かる。マグノリアだ。

 

 

「おい。今どうなって、」

 

「静かに。……本部長と仲介の男が戦ってる」

 

「……了解。一応報告しとくが、連中はちゃんと火で葬っておいた」

 

 

 流石に警邏騎士と言うべきか、それだけ言うと、マグノリアはスッと表情を殺して口を噤んだ。

 そしておそらく一番手に馴染んでいるであろう盾と剣を取り出して、厳戒態勢に入る。

 

 トレイルソン本部長と仲介の男の戦いの方も、かなり白熱しているようだった。

 トレイルソン本部長はその図体に似合わない機敏な動きと圧倒的な破壊力で攻撃を仕掛けるが、一方で仲介の男はそれを炎で迎撃する。流石にトレイルソン本部長も炎をモロに浴びればただでは済まないらしく、そのおかげで機動力も防御力も劣る仲介の男も十分に戦えているらしい。

 ただし、その拮抗は長くは続かなかった。

 

 トレイルソン本部長が攻撃の手を止めたかと思うと、急に苦しそうにしながら膝を突いたのだ。

 それを見て、仲介の男は楽しそうな笑みを浮かべる。

 

 

「お? どうしたどうしたァ。もうそのご自慢のパワーも時間切れか? そりゃそうだよなァ……。その図体だ。()()()()()()()()()()()()()鹿()()()()()()()()()()

 

 

 見ると、埋蔵神殿(ダンジョン)を構成しているピンク色の肉の地面は、仲介の男の魔法によって焼かれていた。茶色く変色したり、ところどころ黒々とした炭に変貌している。──当然、有機物が不完全燃焼しているわけなのだから、酸素は飛躍的に消費されるだろう。

 それが戦闘区域全体の床で──となると、一酸化炭素中毒とまでは行かずとも、酸欠の症状が発生するのはそう不自然なことではない。

 図体が巨大化しているなら酸素消費量だって増加しているだろうし、なおのことだ。

 

 仲介の男は、膝を突いたトレイルソン本部長を見て満足そうな笑みを浮かべると、

 

 

「……ったく、焦らせやがって。だがこれで詰みだ。終わりにしてやるよ。──『ヴォアギタ・ハスタ』ァ!!」

 

 

 魔法の発動と同時に、仲介の男の右手に炎の槍が生み出される。

 男はそれを振りかぶり──トレイルソン本部長目掛けて投げつけた。……初級魔法ではあるけれど、あの形状に、『ハスタ』という魔法名称……。おそらく炎としての性質を持つのに合わせて、槍の様に物質に突き刺さる攻撃性能もあるのだろう。あんなものを食らえば、ただでさえ酸欠で疲弊しているらしいトレイルソン本部長では一たまりもないかもしれない。

 

 が。

 

 

「──待ってたんですよねぇ、その一撃を!!」

 

 

 トレイルソン本部長はそこで高らかに叫ぶと、膝を突いた姿勢から右腕を勢いよく振り切った。単なる、空振り。別に腕の振りで暴風が巻き起こるような怪力でもあるまいし──と一瞬思った後で、私もトレイルソン本部長の狙いに気付いた。

 ──()()()()()()。自分の体の表面に大量についた埋蔵神殿(ダンジョン)の体液を。

 

 この場合、『ヴォアギタ・ハスタ』がなまじ物質に突き刺さる性質を持っていたのが仇になった。

 トレイルソン本部長の腕の振りによって高速で放たれた体液と接触した炎の槍は、その体液に()()()()()、そしてそのまま仲介の男の方へと向かっていく。

 

 

「なァッ!? 『ヴォアギタ・ハスタ』解除──」

 

「ようやく生まれましたね、隙がァ!」

 

 

 ──そしてその一手に応対していた時間は、文字通り仲介の男にとって致命的な隙となった。

 どうやら酸欠はフェイクだったらしいトレイルソン本部長は跳ねるように仲介の男に肉薄すると、手早く男の横面に張り手を炸裂させ、

 

 

 こきゃり、と。

 

 

 人体が出してはいけない音を出して、仲介の男の首がへし折れた。

 

 その様子を見て、横のマグノリアが声を殺して私に言う。

 

 

「おいおいおいおい、やりやがったぞ……! だがこれで終わったか……!?」

 

 

 私も、そう思った。

 あとはトレイルソン本部長か私を殺そうとした黒幕のどちらかが倒れるところを見届けてから、疲弊している片方を私達で潰せばいいだけ。

 なのだけれど──そこで不意に、先ほど感じた違和感の正体に気付いた。

 

 ──()()()()()()()()()()()()()!!

 

 さっきの中堅探索者は胸を刃物で一突きにされて死んでいた。しかし、仲介の男が扱うのは見ての通り炎の魔法だ。もしも仲介の男が中堅探索者達を殺したのであれば、最低でも胸元は黒焦げになっていないとおかしいだろう。

 わざわざ仲介の男が刃物で殺した、という線も考えられなくもないが──いくらなんでも中堅レベルの探索者が、明らかな敵を刃物の間合いまで近づけてそのまま殺されるはずがない。

 つまり……中堅探索者達を殺した『誰か』が、まだどこかにいる!!

 

 

「いや……まだ……!」

 

 

 腐臭漂う戦場をさっと一瞥し、私は不意打ちに備える。

 誰でも襲われる可能性はあるけれど、まずは自分達の身の安全だ。トレイルソン本部長の方へ意識が行っていてマグノリアが殺されましたとか、私が死にましたとか、そんなのは冗談にもならない。

 

 そうして警戒していると、

 

 

「まっ、たく。貸してやった屍骸魔具(アンデッド)どころか、自分も殺される、と、は……地下(ヤミ)の探索者はつくづく使えない。お陰で、追加で贄を作るハメになった()()()

 

 

 首がへし折れているはずの仲介の男が、先程までとは別人のような鷹揚さで嘯いた。

 完全に油断していたトレイルソン本部長も、すぐさま戦闘態勢に戻って拳を振りかぶり──

 

 

「遅いのだよ」

 

 

 ゾブリ、と。

 自分も顔面に拳を叩き込まれると同時に、仲介の男はトレイルソン本部長の分厚い胸板を手刀で刺し貫いた。

 ……まるで泥の地面にでも刺したみたいに、あっさりとした一撃だった。たったそれだけで、トレイルソン本部長は簡単に絶命してしまう。

 

 そうか、アレが探索者達を殺した一撃か……!

 

 まずい……! 敵のタネが全然分からない。

 人間離れした不死性に防御を無視した必殺の一撃。魔法なのか? 魔具なのか? 神殿模倣(ロア=ミメティクス)なのか? それすら分からない上に、相手は見たところ消耗していない!

 

 完全な想定外の事態に戦慄する私達の視線の先で、仲介の男を操る者はバキバキに砕かれた顔面で笑って──こちらの方を見た。

 

 私は手に『移動結晶』を握る。……相手の攻撃手段は徒手を必要とするらしい。ならばこの状況から不意打ちはない。

 戦略的撤退は確定として……今は、少しでも敵の手札を観察して情報を集めるべきだ。

 ……大丈夫。万全の骸(イデアルホール)の発動条件はまだ満たされていない。

 

 

 ──しかし。

 そんな私の予測をあざ笑うように、仲介の男を操る者はあっさりとこう唱えた。

 

 

「『堕落の』トーレイラ様。ここに()()()()の命を捧げます。これを以て、哀れな我が身に一かけらの理想を与えたまえ」

 

 

 ……ば、馬鹿な!?

 此処に死人はトレイルソン本部長と仲介の男の二人しかいない! 反射的にマグノリアの方を見るが、マグノリアの方も冷や汗をかきながら首を横に振っている。……そもそも、コイツの裏切りはあり得ない。では、何故……!?

 

 混乱の極致に叩き込まれた私をさらに困惑させるように、仲介の男を操る者は私の眼を見据えて語り掛けてくる。

 

 

「やぁ、エヴァ。息災そうで何よりなのだよ。特に変わりなければ、今は司祭長かい? ──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 その()()()()()()()()を聞いて、私の脳裏を情報が駆け巡った。

 

 まさか。

 まさかだけれど…………。

 

 私を殺そうとした黒幕。

 私の戦力の程度を知っている者。

 それでいてアディの真価は知らない者。

 特徴的な口調。

 屍骸魔具(アンデッド)

 二人の死者しかいないのに発動した、()()()()()()()()()神殿模倣(ロア=ミメティクス)

 

 こいつは……。

 

 ()()()()は……!!

 

 

 ──私が謀殺したかつてのマニカナ教区司祭長、オーヴィエル=ラシーダテラーだ!!!!

 

 

 


 

 

STAGE_03 / ボス戦は()()の底から

[in 堕落第一神殿 浅層]

 

第三五話 漂う腐臭の奥には

 

 

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