【完結】女転生者ですが、親友(♀)がエロゲの主人公と発覚したので死ぬ気で貞操を守ります。# シスターアディと淫魔の恩寵_Append 作:家葉 テイク
アディにとって『安寧』の崩壊に、私の死が含まれているということは。
──それって、さ。
つまり。つまり、だ。
アディだって、私と同じように…………かは分からないけれど、世界と同じくらいに、私のことを大切に想っていてくれたってことだよな。
私がしてきた数々の裏切りを知ってなお、それでも一寸の躊躇もなく飛び込んできてくれたってことだよな。
ああ──
──頭が、冷えた。
そして同時に、心が沸騰した。
馬鹿か私は。
よく考えてもみろ。たとえアディの生命を救うことができたとして──一五年以上も一緒に生きて来た
私は、自分の無思慮具合に愕然としていた。
──私だって、アディがクソボケどもに貞操を散らされる姿を想像しただけで、気が狂いそうになるほど心が痛かっただろうに。
なのに、大切な人を失うというそれより遥かに大きな痛みを、アディに押し付けて良い訳がないだろう!!
「! エヴァ……」
「悪かったわね、アディ。レルオーティエも。随分長いこと、目が曇ってたわ」
アディの手に自分の手を添えながら、私はゆっくりと立ち上がる。
同時に、ドラゴンが地下の大穴から勢いよく飛び上がった。……アディに疲弊や驚愕の色はない。おそらく、死に物狂いで暴れて光の女神の拘束から逃れた、というところだろうか。
ドラゴンを追って光の女神も飛び上がってくるけれど、射程距離の問題でもあるのか、上空一〇〇メートルくらいまで飛び上がったドラゴンには追い縋れない。
……っていうか、今まで状況に流されてたけど、アレ一体なんだ?
「あれは、わたしの新しい魔法だよ」
私が疑問に思ったのを察したのか、アディは明確に回答した。
……アディの新魔法? このタイミングで? ……いや、そもそも
最愛の親友が勝手に死にに行って、それを救うと決断するなんて経験……いかにも、新しい魔法を修得できそうなタイミングじゃないか。
……問題は、あんな魔法は『あまちょ』のアディも使っていなかった、という点だけれど。
「『マグナ・ライデア・ティタ・フィルマト・デザード・ジガゲル』。光の女神を召喚して操る魔法で……攻撃力もあるし、それにあの光自体にも、魔法を打ち消す効果があるんだ」
なんだそりゃ。
アディの弱点全くないじゃないか。しかも見た感じ、重力には囚われないらしい。射程距離──移動距離から察するに、七〇メートル程度──の中であれば自在に操作可能のようだ。
ただ……、
「……でも、それだけに持続時間が短くて。試したことはないけれど、多分三分が限界」
なるほど。
それはドラゴン側からしても分かり切っているのだろう。だから、あのドラゴンはこちらの射程外の位置をキープして待機しているのだ。
おそらく、持続時間同様に存在するであろうインターバル時間のうちに、安全確実に私達を始末する為に。
……どうする?
『移動結晶』……は使えるかどうか不明だな。あの規格外さだ。『移動結晶』の対象に指定された段階で『移動結晶』の効果が打ち消される可能性もある。
となると、光の女神抜きでヤツを打ち落とす方法を考える必要があるわけだけれど……。
「よお、何かお悩みかね」
と。
思案していた私の背後から、男の声がかけられた。同時に、ジャバ!! という物音が響いた。
思わず視線だけ走らせると、そこにいたのは──マグノリアとエリーミンだった。
あ、そうか。マグノリアは私の持っている『移動結晶』を視認している。そこにまずマグノリアが移動して、その次にエリーミンがマグノリアの持つ『移動結晶』に転移すれば、こっちまで簡単に移動できるんだ。焦りすぎて忘れていた……。
……なんでお前らまで来てくれたんだという思いは正直あるけれど、さっきの今で察さないほど私も馬鹿じゃない。
コイツらも、私達のことを助けたいと思ってくれたんだ。特にエリーミンは、自分の恐怖心を踏み越えてやってきてくれるほどに。
…………本当に、有難いな。
そして、自分がいかにバカだったのかも痛感する。
マグノリアもエリーミンも、こんなに早く駆けつけてきてくれていたっていうのに。そう分かっていれば、最初から自暴自棄になる必要なんかなかったというのに。
私は、アディに真実を隠し通せなさそうだというただ一点だけで絶望して、勝手に拗ねてしまっていた。
本当に大事なことはアディに幸せな未来を迎えさせることだっていうのに、アディの命を守ることばかり考えてしまって、状況を俯瞰する冷静な視点を忘れてしまっていた。
──ああ、なんて愚かだったのだろう。
私が積み重ねてきたものは、こんなにも私に味方してくれているというのに。
「──厄介な魔物は消されたと聞いたよ。もっとも、エヴァちゃんが追い詰められて暴走してるなんて聞かされれば、私だって恐怖は振り切れていたが」
「まあ、狡賢いくせに妙なとこで勘が鈍いお前には分かんねえだろうけどよ。俺だって、」
「ありがとう。二人とも。恩に着るわ。……本当に」
「お、おう……? まだ啖呵の途中だったんだがよ……?」
なんかカッコつけ損ねた馬鹿はさておき、私は切り替えてドラゴンを見上げる。
ドラゴンは自分だけ安全圏で飛行を続けたまま、嘲笑うみたいに私たちを見下ろしている。
……随分、鼻持ちならない野郎だ。
でも、大丈夫。
「アディ、レルオーティエ、ワイド、エリーさん。……今から私が言う通りの
二人のお陰で、策は
私は前に進み出て、それから──振り返ればそこにいる、大切な人達へ向けて言う。
「
──状況は、至ってシンプルであった。
アディの『マグナ・ライデア・ティタ・フィルマト・デザード・ジガゲル』──『光の女神』の射程距離にドラゴンが入れば、それで決着をつけることができる。
ただし、『光の女神』の持続時間は最大三分。顕現持続時間の短さを察してか、ドラゴンは老獪にも『光の女神』を警戒して射程距離七〇メートル以内に入ろうとしなかった。
『光の女神』は魔法を打ち消すので、『移動結晶』による移動は使えない。だから、エヴァ達はそれ以外の方法でなんとかしてドラゴンを射程距離内に収める必要がある。
この時点で、エヴァにとれる方法は二つあった。
一つは、アディを移動させることでドラゴンを射程距離に収めるアプローチだ。
これは、物理的に不可能である。『移動結晶』が使えない以上、こっちの手持ちではアディを長距離移動させることはできないからだ。
エリーならば飛行させることもできるかもしれないが、その場合はドラゴンも飛行して逃げればいいだけなので、結局はいたちごっことなる。
だから必然的に、エヴァが選ぶべきアプローチはもう一つの方法。
ドラゴンの方を移動させてこちらの射程距離に収める──というアプローチになる。
ただし、これは一通り考えるだけでは不可能なように思える。
だって、そうだろう。相手は上空一〇〇メートルを飛行する巨大な化け物なのだ。エヴァ達が魔法を撃ったところで、そもそもあそこまで届かない。
仮に届いたとして──ドラゴンの飛行には、
そもそも、あの巨体を翼のみで浮遊させるのは航空力学的に土台不可能。だから、翼を中心とした風魔法──『ドラル・アネモビル・アーリス・モート』を常時発動させることで飛行可能にしているのだ。
そしてこの
つまり、エヴァ達の手持ちの武器ではドラゴンの防御を抜ける可能性は非常に低い。
ドラゴンの魔法を相殺できるような代物なら別だろうが──肝心のアディの魔法は射程外だ。
自分達の手持ちの武器ではなく──誰かの武器を持ち出す方法があるとしたなら?
エヴァは、
ドラゴンはそれを見ておきながら、悠長に空を飛び
「このまま行けば自分の勝利は揺るがない────とでも思った?」
エヴァが、怜悧な笑みを浮かべながら告げた。
世界に反逆する魔王のような──巨竜に立ち向かう
「アルプよ、アルプ。『鍛錬の』ビーアルプスよ。欲深き獣を諫め山々を築きし、遍く山麓の母よ。欲深き獣に開拓を許した、慈悲深き山彦の姉神よ」
──それは、術式の改変であった。
より精密かつ複雑な道具立てを使用すればするほど、その威力は飛躍的に向上すると言っていい。
エヴァは既に一度、術式を改変して使用したことがある。その時の経験と、司祭長ゆえの伝承に対する理解、それから天才的なセンスによって──術式を調整する感覚を我が物としていた。
今回の場合は──術式効果を及ぼす射程距離とか、だ。
「
唱えるのは、かつてエヴァがその身で受けた
──『
(……なるほど、今まで培ってきたものの大きさに救われている今の私にとっては、おあつらえ向きのモノじゃないの)
──そして、エヴァが相手に押し付ける経験は。
「今人の世にて、我が身の為に拝借致します!!」
直後。
ドラゴンの翼の辺りに、
グギャアアアアアッ!? と、ドラゴンが此処に来て初めて声を漏らす。
そして、みるみるうちにドラゴンの飛行が危うくなり──そのまま、自由落下を始めた。
──エヴァが押し付けたのは、『ラシーダテラーに腕を掴まれて「腐敗」を叩き込まれた経験』だった。
アレ自体は『リクイゲル』によって操作した『清廉薬』によって防御していたのでダメージはなかったが、
それを押し付けてやれば、ドラゴンの飛行魔法は『腐敗』し──そして墜落する、という訳だ。
「おい、ドラゴンが落ちてくるぞ!? 何したんだお前!」
「何って……女神様に祈ったのよ。司祭長らしくね」
「……………………にしては見覚えのありすぎる黒いモヤが出て来たんだがよ」
白々しいエヴァの言葉に、ワイドが微妙な顔をする。
その後ろで彼女のチンピラとしての顔を知るレルオーティエも、同じように顔を顰めるが──こちらはエヴァに見咎められるや否や、さっと顔を逸らす賢さを保っていた。
それらの楽し気なやりとりを受けて、アディが一歩前へと足を踏み出す。
「なんでもいいよ。……わたしは嬉しいから。やっぱりエヴァは、絶体絶命の大ピンチでもなんとかしてくれるんだって分かったから!」
全長三〇メートルの『光の女神』が、彼女の歩みを反映するように大きな一歩を踏みしめた。
堕ちる巨竜に目掛けてゆっくりと拳を引き絞っていく。
「だから、私も戦える」
片目を閉じると、最悪の『予知』は既にヒビが入り、ノイズにまみれて細かな情景すらも見えない有様に変貌していた。
あと、一押し。
その事実を認識して、アディは大胆不敵に笑う。
世界の全てを敵に回す魔王のように。
巨大な悪に立ち向かう勇者のように。
「このふざけた
そして。
『光の女神』の拳が、堕ちた巨竜の頭部に突き刺さった。
──最低の未来が打ち砕かれる音が、確かに聞こえた。
──凄まじかった。
拳がドラゴンに直撃した瞬間、パキャア!! という何かが砕ける音と同時に眩い光が放たれたかと思うと──ドラゴンは綺麗さっぱり消滅して、ワニくらいの大きさの動物が地面に落下して、ぐしゃりと水っぽい音を立てた。
そう。
『ラゲル・デザード』だって、魔性化を解除することまではできなかった。流石に女神の姿を模しているだけあって、対魔法効果すらも規格外である……。本当に恐ろしい。
ともあれ、これでドラゴンの危機は去った訳だ。
ただ…………。
どどどどど……と。
空の上から、地響きのような──というか真実地響きとなった足音が響いてくる。
あー、そうだったな。忘れてた。
まだ、
「……エヴァちゃん、あの音は何だ? なんだか嫌な予感がするんだが……」
「えーとですね、さっき倒したドラゴンによって引き起こされた、ゴブリンの『氾濫』……みたいな?」
……エリーミンが無言で天を仰いだ。
まぁそうなるよね。このまま放置してたら、フツーにゴブリンの『氾濫』が引き起こされちゃうわけだし。私だって冗談じゃないと思う。
「えー、『移動結晶』は?」
「色々使いすぎちゃって、残りはこの三つだけ。……でも、
「はいはい。エヴァちゃんの秘密主義にはもう慣れたよ。じゃあ、ちょっと『移動結晶』を作ってくれないか。この空き瓶を使っていいから」
「了解」
適当なエリーミンの頼みに相槌を打って、私は空き瓶を砕いてから『クアゲル』の中に取り込んで『移動結晶』を作成してやる。
全部で二〇個ほどの欠片になった『移動結晶』のうち一〇個(補充とかしたかったから、残り一〇個は手間賃として拝借した)を手渡すと、エリーミンはそれを自分の
「じゃ、私は『氾濫』潰してくるから。『トルオビル・モート』」
と言って、空を飛んで行ってしまった。
……。
え、一人で行ったの? あのゴブリンの群れを潰しに? おつかいに行くみたいなテンションで?
………………こわぁ。
──と、ともあれ。
これでゴブリンの『氾濫』はこれで無事に鎮圧できるわけだし、ドラゴンも始末できたし、当初の目的はこれで一件落着ということになる。
アディもマグノリアもレルオーティエも、みんな目に見えて脱力していた。
ただし。
「アディ、一応もう少しだけ、その女神様は出しっぱなしにしておいてね」
言いながら、私は今生成した『移動結晶』をアディに掲げる。
「……? どうしたんです? まだ何かありますか? ……ああ、帰るまでが
「いいや、違う」
違う方向性で気を引き締めるアディに対して、私はきっぱりと断言する。
その意識は大事だけれど──そうじゃないのだ。
先程までの、気が動転していた思考能力が激減していた私では気付けなかったけれど。
今の私だからこそ、分かることがある。
──つん、と。
鼻の奥を、腐った臭いが刺激した気がした。
■頻出(予定)魔法解説
| マグナ・ライデア・ティタ・フィルマト・デザード・ジガゲル |
|---|
| 対魔灯神顕現魔法。 『規律の』フィルマトの『加護』を持ち、なおかつ特定の条件を満たした者にのみ使用可能な魔法。 灯によってフィルマトを模した全長三〇メートルほどの『光の女神』を作り出し、自在に操る。『光の女神』は物理的な攻撃力も保持している。現時点では、攻撃手段は徒手空拳のみ。 ラゲル・デザード同様に魔法を打ち消す効果は健在であり、魔法だけでなく魔具の機能、魔物の行使する魔法も打ち消すことができる。 直接攻撃によって魔具や魔物を著しく破壊すると、その魔性化をも打ち消すことができる。不定形などで物理的に破壊できないものに対しても、散らすなどで濃度や密度を一定以下まで薄めれば破壊扱いになる。 射程距離は術者から七〇メートル、持続時間は三分間。人の身に余る威力を誇る魔法だが、どうやら『加護』の力がエネルギーソースにもなっているらしく、本人の消耗は通常のマグナ級よりやや軽いらしい。ただし、再発動までは最低でも五分ほどのインターバルが必要。 |