【完結】女転生者ですが、親友(♀)がエロゲの主人公と発覚したので死ぬ気で貞操を守ります。# シスターアディと淫魔の恩寵_Append 作:家葉 テイク
……何が起きたのか、さっぱり分からなかった。
余波らしきそよ風が流れて来たくらいで、どんな魔法かも理解できなかった。呪文も、呟くようだったからいまいち聞き取れなかったし……。
唖然としている私の横を通って、エリーミンは地に伏している男の傍らまで歩いていくと、ゆっくりとその場にしゃがみこんで男に顔を近づけた。
先程までの優しさが嘘みたいな調子で、幼い少女のような容姿をしていることも忘れてしまうような鋭さを秘めてエリーミンは囁く。
「おい……アリキス。その子は私の客だぞ。先約の確認もせず商談とは、随分行儀が悪いじゃあないか……。また叩きのめされたいか?」
「あぐっ……すっ、すまねえ! アンタの客だったなんて知らなかったんだ! 悪かった! もうしねえ! フィルマト様に誓う! この通りだ!!」
必死に詫びる姿を一瞥して、エリーミンは男から視線を外す。
男はその瞬間に転がり込むようにギルドから飛び出して逃げ去って行った。……あの分では、しばらくギルドに顔を出すことすらできないだろう。ひょっとすると、この
男が逃げ去ったのを見送ってから一瞬して、見事な撃退劇にギルド本部中から歓声が上がる。
いや、確かに見事だった。『人目があるところでの魔法行使』にも拘らず種を全く察させないあたりとか、流石はギルド本部最強の探索者という触れ込みなだけはある。
……正直、ナメてた。この戦力が同行してくれるんなら、本当の意味で百人力だ。
「あ、あの……?」
で、肝心のアディはと言うと、まず自分が何をされそうになっていたのかもわからずにポカンとしていた。うむ、アディはそれでいい。
「驚かせて悪かった。ヤツはこの辺りでは有名な
「あっ……そうだったんですか。助けてくれてありがとうございますっ」
「本当に、ありがとね。エリーさん。助かったわ」
「なに、私が放っておいてもエヴァちゃんが片付けていただろ? 先輩として、手助けしたまでだ」
同調して礼を言うと、エリーミンは悪戯っぽくウインクをして応える。
いや、実際本当に助かった。完全に反射で動いていたからね。エリーミンの言う通り、私の魔法は使えばタネがバレてしまうし、タネがバレたらそれなりに不利になる魔法だ。こんな大勢の人目がある場所で使うべきタイプじゃない。
というか、咄嗟にポーチに手を突っ込んだことでエリーミンにそのことを悟られたこと自体、割と痛恨の極みだったりする。…………気を付けよう。
「クエストの受注、終わったわ。途中までエリーさんもついてきてくれることになったから」
「ええ!? ホント、何から何までありがとうございますっ!」
「たまたま用事が噛み合っただけだよ。それに、新人のうちは助けてもらうのも勉強の一つだ。しっかり学んでくれよ」
「はいっ!!」
気合を入れて頷くアディの微笑ましさに頬を緩ませながら、私達はイーガシア森林へと向かっていく。
その道すがら──
────私は、深く反省していた。
……甘かった。
『あまちょ』の
でも、そうじゃなかった。
あの悪徳情報屋。アイツは手口から言っても、おそらく『あまちょ』でアディにひどい取引を持ち掛けた輩と同一人物だろう。
ヤツが今日も偶然ギルドにいて偶然アディに声をかけた──と考えるのは、聊か楽観的すぎはしないか?
だって、今日のアディは別に情報屋を探してなんかいなかった。ただ、私達の手続きが終わるまで待っていただけだ。なのにあの短時間で、悪徳情報屋はアディに声をかけて『あまちょ』の流れと同じ話運びをしていた。
それは何故か。考えてみれば、それはすぐに分かった。
──『淫魔の恩寵』。
アディを襲った悪漢が理性を失ったように、『淫魔の恩寵』は被呪者の性的魅力を高める。ゆえに、醜い性欲を抱えた
だから悪徳情報屋は、アディと接触しただけで『あまちょ』の時と同じように劣情を刺激され、そしてその欲を満たすための行動を取った。
この一連の流れは、多少の前提条件を狂わせた程度では容易に変わってくれないだろう。
つまり、此処に一つの推論が生まれる。
──『淫魔の恩寵』によって引き起こされる『セクハライベント』には、
『淫魔の恩寵』は、基本効果として被呪者の精神と肉体を『堕落』させていく効果を持つ。そして、付加効果として周囲の人間に性的誘惑を仕掛ける効果もあるのは既に説明した通りだ。
私は今まで、『あまちょ』でアディが受けたセクハラの前提条件を乱してしまえば、計画されたものはともかく突発的なエロイベントは無効化できると思っていた。
いや、計画されたものも、前提条件を乱せば『あまちょ』本来の流れよりは悪辣さは減るのではないかとすら思っていた。
しかし……そもそもアディの貞操の危機には、『淫魔の恩寵』の効果という再現性のある要因も関わっているのだとしたら。
ただ接触を回避するとか、そんな消極的な対応だけでは……アディの貞操は護れないのではないか?
その事実を認めた私は、静かに決意する。
やるしか、ない。
これまでのような、対応する為の策じゃない。『淫魔の恩寵』による再現性の枷を完膚なきまでに粉砕できるような、そんな盤面を覆す一手を。