ロイヤルTS転生追放者×3のぐだぐだ冒険者ライフ 作:GT(EW版)
アリア・フレイテルはこの「幻影島」の冒険者ギルドに所属する数少ない女性冒険者の一人である。
燃えるような灼熱色の髪は華奢な腰に掛かる長さまで下ろされており、鎧等の防護服に身を包んだ屈強な冒険者たちの集うこの冒険者ギルドの中で、彼女だけは両肩を晒け出したノースリーブの軽装で一人カウンターの椅子に腰掛けている。
誰がどう見てもこの施設に不釣り合いな姿には、大半の者が冒険者ではなく受付嬢かウェイトレスかと判断するところであろう。
しかし本土から離れた孤島のギルドともなれば、同業者として彼女と顔見知りの冒険者も多く、今更絡みに行くような男もいなかった。行き交う冒険者たちの酒場施設も兼ねているこの場所では、誰もが目を奪われる美貌に反して癖のある彼女の人となりはそれなりに有名であり、ある意味名物になっていたからだ。
──そんなアリアは今、赤ワインを片手に優雅に飲んだくれていた。
時刻は朝の九時。酒場を兼ねたギルドの施設ではこの時間帯、夜間のクエストから帰還した冒険者が飲みに来ることもあるが、彼らのターゲットとなる魔物の多くが吸血鬼よろしく力を増す深夜の時間帯に、あえて探索へ赴く人間は少数派であった。
つまるところこの世界でも大概の仕事は朝から夕方に掛けて行うのが基本であり、一般常識だった。
翻ってこの時間に仕事にも行かず、早朝からずっと酒場でワイングラスを片手に黄昏ているアリアの姿は、変わり者の多い冒険者の間でも異端と言えた。
しかし彼女の場合は、やむを得ない事情があって昼夜逆転した生活を送っているわけではない。
単に休暇を怠惰に過ごしているだけだった。
そんな控えめに言って駄目人間のような朝を過ごしているアリアだが、店としては毎日安定した収入を落としてくれる上客である為酒場の店主も務めているギルドマスターは営業時間中に彼女のことを追い出すことはしない。
これがマナーの悪い客だったのならそれを口実に出禁にできたのかもしれないが、朝から晩まで酒場のカウンター席でワインを嗜んでいる彼女は、所作が豪快な者が多い冒険者でありながらまるで貴族の令嬢のような気品のある飲み方をしていた。
グラスの中で転がす赤ワインを憂いを帯びた儚げな顔で見つめているアリアのエレガントな姿たるや、彼女自身の麗しい容貌も相まり、併設されたギルドの受付カウンターからはギルドマスターの娘である受付嬢が「アリア様……今日も素敵……」とうっとりした表情で熱っぽい眼差しを送っていたほどである。
そんな受付嬢を筆頭に多くの者たちの視線を浴びながら、当のアリア・フレイテル本人はと言うと──
「……フッ、やはり私には赤ワインが似合うな……」
サングラスに隠された紺碧の瞳を細めながら、ニヒルな笑みで自画自賛の言葉を呟いていた。
アリア・フレイテルはTS転生者である。
それも、美少女として生まれた自分自身の容姿と魅力についてはっきりと自覚しているタイプのTS転生者である。
既に何十杯と赤ワインを啜っている筈のその顔は、ほんのりとも赤くなっていない。その事実が示すように、人よりアルコールに酔いにくい体質をしている彼女であったが……彼女は既に、他ならぬ自分自身に酔いしれていたのだ。
私の名前はアリア・フレイテル。その名の通り、ありふれた転生者である。
これを読んでいる者たちには、突然の自分語りをお許しいただきたい。私はかつて、アークレイ・シュヤクナブルという名で呼ばれたこともある者だ。
……いや、誰だよと思った方は正しい。
まあ、これも前世の記憶にあるフィクション創作の世界ではありふれた話だ。
何の冗談か、私はアークレイ・シュヤクナブルという貴族──まあ王族だったのだが、私はかつてこの島から海を挟んだ隣国の王女の一人として第二の生を送っていた。
そこでの生活は……まあ、今の私が「アリア・フレイテル」という別の名を持ち、冒険者として日常を謳歌している時点で概ね察しはつくだろう。
追放である。
追 放 である!
大事なことなので二回言わせてもらった。つまりどういうことかと言うと……詳細は長くなるので割愛する。詳しいことは某小説投稿サイトの女性向けランキングの作品をチェックするといい。今はどうか知らないが、前世の私が生きていた頃は大体そんな感じだったから。
要は悪役令嬢的な立場に転生した私は色々とやらかして、周りの人間もやらかして、その結果壮大なやらかしスパイラルの果てに何もかも面倒くさくなった私が責任を取って粛々と王族から追放された感じの顛末である。いわゆるアークレイレクイエムという奴だ。
そんなこんなで王族ではなくなり元の名も失った私だが──これも例のジャンルの王道を辿るように、追放前よりも充実した生活を送っていた。
そもそもが小市民だった前世の記憶を持つ私だ。王位継承権を巡る陰謀渦巻く王宮での生活は、とてもではないが私に合うものではなかった。責任から逃げるなと糾弾したければするがいい、それが私だと開き直りながら今は新たな人生を送らせてもらっている。
そんな私のサードライフの拠点たるここは、今から四十年ほど前に発見され、冒険者と調査団によって開拓を進められている「幻影島」。
私が前にいた「シュヤクナブル王国」と、今の私が所属している冒険者ギルドの本拠「ザーマミナス共和国」の間の海域にポツンと浮かぶ離れ孤島である。
幻影の名の通り、周辺の海域は常時悪天候で霧が掛かっており、初めて人類が上陸するまでは存在さえ不確かな未開域にあったと言う。
渡航技術が進歩した現代でもこの島に上陸するのは容易いものではなく、生半可な覚悟では踏み入ることのできないこの島は私にとってこの上ない立地であった。
領土的にはここはザーマミナス共和国の島となっており、私はかつての王国から亡命した形になる。どうせ死ぬならとあの時密漁船に乗り込んでこの島を目指してみたのが、案外上手くいったものだ。
前世の日本と違って戸籍の管理もなく、王国のみならず共和国本土からの目もほとんど届かないこの島では、名を変えて流浪の冒険者として何食わぬ顔で過ごすのは簡単だった。
これでも乙女ゲーム的な王国の学園では首席だった身だ。王族の血故に元々高い「魔力」を持っていたことも幸いし、最初の一ヶ月程度は慣れない生活に苦労したものだが、一年も経った今となっては一端のBランク冒険者である。
因みにランクは最高でSSSSSランクまであるらしい。そこまで行くと何か凄くアホっぽいが、基本的にはEからAランクまでの指標となる。
その中でも私が一年で成り上がったBランクというのは特に良いものだ。何が良いかと言うと、周囲から羨望の眼差しを送られる程度にはエリートで、責任がのしかかりすぎない程度には身軽な立場である。
Cランク以下と比べれば割の良いクエストも多く、おかげで休暇の日には朝から晩までこうして飲んだくれていられる。
……うむ、今日も私はカッコいいな。ミステリアスなイケメンクールTS美少女とは私のことだ。
王族をやっていた頃はプレッシャー故にナルシシズムに浸る余裕も無かったものだが、改まってみると今生の私はとても凄く美人なのである。グラスの中で転がした赤ワインの水面に映る凜とした顔立ちを見て、私は自分自身の美しさに改めて浸っていた。
「なんじゃ……ここにおったのか」
クールな表情の裏にエレガントな微笑みを隠していた私の下へ、不意に背後から呼び掛けてくる声が聴こえた。
放つ言葉は時代がかった老人のようであったが、声色は耳当たりの良いうら若き少女のそれだ。
グラスを抱えたまま私がチラリと眼差しを向けると、そこには漆黒のローブをフードまで目深に被った小柄な少女の姿があった。
カウンター席に座っている私からも口元までしか窺えないその容貌は、控えめに言って怪しかったが、トテトテとこちらに向かって小走りに駆け寄ってきた彼女に対して、私は全くと言って良いほどに警戒心を抱いていなかった。
それもその筈、彼女は私のパーティメンバーであるからだ。
「ヨークか」
彼女の名前はヨーク。ヨーク・アルパティーン。
その名の通り、よくあるパターンでこの冒険者ギルドに転がり込んできた──彼女もまた、私と同じくやんごとなき身分を持つ追放者であった。そんな彼女もTS転生者である。
「まったく……お主も暇じゃな。クエストを受けない日ぐらい、町に出掛けてみれば良いものを。ギルマスも呆れとったぞ?」
「他に楽しみを知らんのだよ。おかげで着飾る服も無い」
「なんじゃ、ナルシストのくせに着飾らんのか」
「私は素材で勝負する女なので」
「うぜぇ……」
私の小粋な冗談に対してフードの下から悪態を吐きながら、ヨークは私の右隣の席に我が物顔で腰掛けてくる。
例によって中世ヨーロッパ的な雰囲気を持つこの剣と魔法のファンタジー世界では、皆基本的に日本人よりも背が高く、女性でも平均身長は165cmに及ぶ。
私の身長も大体そのぐらいであったがヨークの背は頭ひとつ小さく、150cm未満と日本人でも小柄な部類だった。
しかし彼女の年齢は私の二つ下の十六歳。この世界では堂々と酒を飲める年齢である。そんなヨーク・アルパティーンであったが、席につくなり彼女が頼んだのはミルクだった。
注文と同時に寡黙な店主が手慣れた動作で彼女の前にコップを置くと、少女がすかさずそれを手に取る。ミルクは彼女の大好物なのである。
しかしその際にフードの縁が肩までずり落ち、白い液体を啜る美少女の素顔が衆目に晒されることとなった。
「きゃー! アリア様とアルちゃんのツーショットよー!」
「のじゃロリ、いいよね……」
「いい……」
後ろでは貴重な彼女の素顔を見たことで新人冒険者の手続きをしていた受付嬢が急に湧き立ち、テーブル席では遅めの朝食を摂っていたプロの冒険者コンビが崇高なる話題に頷き合っている。どうでも良かった。
「素顔、見えてるぞ」
「む……あっ」
甘い物が大好きな彼女にとって、ミルクの味は夢中で啜るほど美味だったということだろう。
庇護欲をそそる薄幸そうな顔立ちに満面の笑みを浮かべてミルクを飲むヨークだが、その味に集中するあまり自らの状態に気づいていない今の状況は彼女にとって都合の良いものではない。
ここにいる者たちの間では、ともすれば隣国に何人もいる王女の内の一人だった私以上に、彼女の顔は知れ渡っている可能性が高いからだ。
彼女が無防備になるのはこれが初めてではないが、同じパーティメンバーのよしみだ。私ははだけたフードを彼女のエメラルドグリーンの髪にそっと元に戻してやり、その素顔を衆目から隠してやった。
「フッ……世話の焼ける聖女様だ」
「聖女言うな王女様」
「ごめん」
「許す。……ありがと……」
……なに、お互い様だろう。私もお前もみだりに素顔を晒すにはいかんせん問題のある人物である。
ボソリと呟いた礼の言葉に対して、私は手元のワインに視線を戻しながら薄い笑みを浮かべる。そんな私たちの様子を見てまたも受付嬢が興奮していたが、やれやれ顔のいいTS美少女が並ぶと困ったものだ。同性すらも魅了する我々の一挙一動が、酷く尊いのだと思われる。
──そう、TS美少女である。
一年前、奇しくも私がこの島に辿り着いた頃に出会った彼女、ヨーク・アルパティーンという少女は驚くほど私と境遇が似ていた。
日本という国に住んでいた前世の記憶を持つことも。
前世の性別が男だったことも。
今世でやんごとなき身分に生まれたことも。
諸事情あってその立場から追放され、一介の冒険者としてこの島に流れ着いたことも……私たちはそっくりだった。
あまりにも不自然に、いっそ我々には想像もつかない大いなる存在が意図していたかのように──三人のロイヤルTS転生追放者はこの島で巡り合ったのだ。
「やあ! ボクだけ除け者にして二人で相席なんてズルいじゃないか。ボクも混ぜてよ!」
「うわ、面倒くさいのが来た……」
そんな私たちの間で共通する、もはや運命的としか言いようにない奇妙な境遇について改めて思いを馳せていると、いつからいたのか最後のパーティメンバーが私たちの肩を馴れ馴れしく抱き寄せながら現れた。
ヨークのエメラルドグリーンの髪に勝るとも劣らない派手な白銀色の髪を肩先に触れる程度の長さまで伸ばした彼女は、見た目は私たちと同い年ぐらいのうら若き少女である。
身長は私と同じぐらいだが……私より少しだけ大きい。そう、少しだけ。そんな彼女は鈴を転がすような声も相まって雰囲気だけでも美少女感に溢れているのだが──その顔面は私とヨーク以上に分厚い仮面に覆い隠されていた。
今にも下水道から色々なサメ映画をおすすめしてきそうな……怪しげピエロの仮面である。まあ実際怪しい奴なのだが、彼女もまた私たちの仲間で──ロイヤルTS転生追放者の一人だった。
「ネーリン、我々はお前と違って休暇の遊び方を知らないんだ」
「……コイツと一緒にされるのは心外じゃな。わしにだって休日を共にする友ぐらいおる」
「えっ、キミ弟子以外と交友あったの?」
「…………」
「ボクたちはキミの友達だよ聖女様」
「聖女言うな! 勇者パーティから追放されたサークルクラッシャーが」
「このやり取りさっきもやったな」
「天丼って奴だね! ……だけどボクの肩書きだけロイヤリティなくない? ちょっとくどいし」
「たわけ。お主が一番偉大じゃろが」
「300年前、勇者に聖剣を授けた伝説の大賢者様だからな」
「今は遊び人のサークルクラッシャーだけどね!」
「なお悪いわ……教団が知ったら泣くぞ」
「照れるね」
かつては大国の王女だったのだが、色々あって王族から追放された私ことアリア・フレイテル。旧名アークレイ・シュヤクナブル。TS美少女特有のイケメン要素担当。
かつては太陽神に仕える光の聖女だったのだが色々あって聖地から追放されたヨーク・アルパティーン。旧名アル。TS美少女特有の無防備さ担当。
そしてかつては世界を恐怖に陥れた大魔王を討伐した勇者パーティの一員だったのだが色々あって追放されたのが、彼女M.ネーリンである。TS美少女特有の……バグった距離感担当。
彼女は当時の伝説が書き綴られた書物には、聖剣を抱きし大賢者ネーリンと呼ばれていた女性だ。その素顔は普段からピエロマスクに隠されているが、彼女もまたとてつもない美少女である。
パーティを追放された理由が「美少女すぎたから」と言われても納得してしまうほどに、彼女もまた立派なTSチート転生者の一人だった。
──ロイヤルで、TSで、転生者で、追放。
これはそんな悲しくも愉快な過去を持つ、無駄に顔のいい三人の美少女が一堂に介した結果始まった──剣と魔法と時々ダンジョンのぐだぐだ冒険者ライフの記録である。
あり溢れているよくあるパターンのマンネリ
タイトル通りのお話です(´・ω・`)