ロイヤルTS転生追放者×3のぐだぐだ冒険者ライフ 作:GT(EW版)
「女三人寄れば姦しい」という言葉がある。「女性はお喋りだから、複数人集まると騒がしくなる」という意味で用いるその言葉は、前世の私がいた世界の時代では公の場では迂闊に口にできなかった表現だ。センシティブ的な意味で。
しかしTS美少女が三人寄るとどうなるのだろうか……私はふと疑問に思った。
私もヨークも受付嬢のような純粋な女性と比べれば、それほど口数が多い人間ではない。私自身、何なら今の私よりも男性だった前世の頃の方が喋っていた記憶がある。
故に我々が集まったところでそんなに姦しいものかと、やはり疑問が残った。
「ボクは喋るの好きだけど?」
ああ、お前はそうだろうな。
彼女、M.ネーリンの場合は私たちと違い、300年以上も女性として生きてきたのだから、TS転生者特有の男性としての意識諸々は既に風化しているものと思われる。
だからこそ、彼女は男性相手でも平気で色目を使えるのだろう。
「そうだね! ボクほど歳を重ねると、もはや性自認とかそういう葛藤は無いかな? 何なら女の子はもちろん、イイ男なら快く抱かせてあげられるよ。まあ男性心理を身をもって熟知しているという意味では、男だった頃の経験は今でも役に立っているかな」
「くそびっちか」
「酷いなァ……これでもボクは316年も純潔を守っている乙女なのに」
「それはそれでどうなのかと思うが」
「特別な関係になりそうでならないギリギリを攻めるのがボクの流儀なのさ」
糞みたいな流儀である。
しかし、なるほど。TS美少女として生きた年月は、M.ネーリンという存在を性別の垣根を超えた新たな境地へと進化させたということか。同じTS転生者として興味深い話である。自分も彼女のように異性の心を弄びたいとは、欠片も思わないが。
「ま、ボクが今一番抱かれたいのはキミたちなんだけどネ」
「えっ」
「ヨーク、こっちに来なさい」
男女関係ないどころか、TS転生者だって構わずに食っちまえるTS転生者とは恐れ入る。彼女はもはや、バイセクシャルとも全く異なる別の何かだった。
ネーリンの価値観に深く感心した私は、それはそれとして彼女の毒牙から守るべくドン引き中のヨークを手招きして彼女の傍から離れさせる。私とネーリンとは違い、元聖女様はピュアなTS美少女なのだ。
そうしているとネーリンは小動物のように私の後ろに隠れた彼女の姿を面白がり、本気なのかどうか判断できない調子で笑った。
「冗談だよぉ……」
……いや、結構ショックを受けているな。
普段は飄々としている彼女も、仲間から警戒されるのは流石に悲しいらしい。まあ私は冗談だとわかっていたが。
「……誰彼構わずそんなことを言っているから、幾つものパーティを解散させるんじゃぞ」
おそらく私たちの中で最もまともな価値観を持っているヨークが、フード越しでもわかるジト目でネーリンのピエロマスクを射抜く。
そんな彼女の眼差しに、ネーリンはヘラヘラと笑いながら自己弁護を行った。
「ボクだって解散させようと思ってちょっかい掛けているんじゃないんだけどね。ちょっかいを掛けた冒険者がことごとくボクに惚れてしまって、それが原因で修羅場になったパーティが解散してしまうだけだよ」
「どうしてお主は若者の性癖を壊すんじゃ……それも、あれほど純粋な少年たちを」
「ボクが悪いんじゃない。ボクが魅力的すぎるのが悪いんだよ」
「いやその理屈はおかしい」
私の後ろに隠れながらヨークが、周囲に対してあまりにも節操の無いTSくそびっちに向かって非難の言葉を浴びせる。
少年たちの性癖を狂わせるという意味では正直彼女も似たようなものだったりするのだが、彼女のそれを正論と受け止めたネーリンは肩をすくめて微笑み、私の手元からグラスを掠め取るなり赤ワインを飲み干していった。おい。
「まあそれでも中にはボクに靡かないどころか、このボクを当て馬に絆を深め合った幼馴染冒険者カップルとかいたりするから尊いよね」
「最近Aランクになったあのパーティの二人だな」
「やっぱり幼馴染はいいよね! 古往今来、男と女の仲は障害が分厚いほど深まるものさ」
「一番の障害がなんか言っておるわ」
強力なライバルを乗り越えて結びつくほど、カップル誕生の瞬間は昂ぶるんだよねぇ……と呟きながら、ラブコメに一家言あるピエロマスクは恍惚と身を捩らせた。
それがM.ネーリンの厄介な性癖と言うか、彼女のライフワークである。
彼女は男女問わず、気に入った青い果実を見つけるとついつい仮面を外した素顔でその者にちょっかいを掛けてしまい、300年以上の人生で培ったコミュ力とTS転生者特有のバグった距離感を持って相手の性癖を破壊してしまうのだ。
同業者の間でも嬉々としてそんなことを繰り返す彼女の前では、若手冒険者の多くが彼女に魅了され、心を奪われてきたものである。
洗脳系の魔法でもなく素の魅力だけで少年少女を翻弄していく姿は、まさしくTS美少女の一つの到達点と言えた。普通なら女性冒険者たちから蛇蝎の如く嫌われそうなものだが、そんな女性たちさえ虜にしてしまうのだから始末に負えなかった。
私個人の意見としては、正直良い趣味とは言えないが。
「……そんなことをしていると、いつか誰かに
パーティの仲間として親切心からそう忠告すると、ネーリンは数拍の沈黙を置いた後、ピエロマスク越しに見える紅の眼差しを獰猛に歪めて笑った。
「それ、いいね」
記号で言ったら語尾に♦マークでも付けていそうな反応に、流石の私も溜め息を返す。こいつは重症だ。
彼女とパーティを組んでから半年以上になるが、私は未だM.ネーリンという人物を図りかねていた。
……まあ、こんなでも本当の意味で悪い奴ではないのだ。
彼女のライフワークのせいでクラッシュされたパーティも確かに多いが、憂き目に遭うのは元からパーティ間の人間関係が不安定だったところが多く、解散のきっかけがたまたま「リーダーが仮面を脱いだネーリンにベタ惚れしたから」だっただけで、遅かれ早かれ自動的に解散しそうな雰囲気のパーティだったように思う。
「此奴のふしだらな趣味はどうでもいい。そんなことよりアリア、お主に渡す物がある」
「何だ?」
「ふしだらとは酷いなぁ……ボクはただお気に入りのおもちゃ……将来の勇者候補と仲良くしたいだけなのに……」
「はいはい追放追放」
ネーリンの趣味に対しては一定の理解も示したくないとドライな対応を返すヨーク・アルパティーンが、私の肩をつんつくと突きながら強引に話題を変える。
私はネーリンのせいで空っぽになったワイングラスから視線を外して彼女の方へ振り返ると、彼女はローブの裏側から一本の筒を私に差し出してきた。
む? この筒は……そうか、もう完成したのか。
「流石は聖女の「天啓」スキルだな。対応が早い」
「スキルじゃない、フォースの導きじゃ。起動してみるといい。お主の新たな剣じゃ」
「では、お言葉に甘えて」
特殊な金属で形成された片手に収まる大きさの一本の筒を受け取ると、私はその製品の出来映えに心から感服する。
ワクワクを隠せない視線でこちらを見つめる彼女に促されるまま表面のスイッチを親指で押し込むと、その筒の先端部から独特な起動音と共に光の刃が迸り出てきた。
「おお、これは凄い」
何が起こるのかと見守っていたネーリンが感嘆の声を漏らす。私も今は、同じ気持ちだ。
金属の筒から形成される、質量の無い光の刃──それはまさしく前世の私が好きだったSF映像作品に登場する、お馴染みの武器そのものだったのだ。
「見事なビームサーベルだ」
「ライトセーバーじゃよ」
「ありがとう。オーダー通り、完璧なビームサーベルを再現してくれたな。報酬はすぐに振り込んでおこう」
「だからライトセーバーじゃって」
「……ボクが言うのもなんだけど、キミたちも大概変態だよね」
何を言うかネーリン! 貴様には光の剣のロマンがわからぬか!
せっかく「魔法」という原理も不明な都合の良い力があるのだ。前世の世界では架空の武器でしかなかった物を、現実に再現したいと思うのは当然の発想だろう。
「そうじゃそうじゃ!」
のじゃロリもそう言っている。
私=カッコいいTS転生者。
ビームサーベル=カッコいい武器。
つまりビームサーベルを持った私=最高にカッコいい美少女である。異論は認めない。
「それはない」
何だと聖女様。
「お主に光の剣が似合うのは認めてやるが、それはライトセーバーじゃからな。次ビームサーベルと呼んだら返品してもらうぞ」
「やだ!」
「……わかったよ。もうビームサーベルでいい。……赤い色になる筈じゃったのに、何故か金色になってるし……」
これはビームサーベルだ……誰が何と言おうとビームサーベルなんだ……!とゴネてみると、ヨークは割とあっさりと引き下がってくれた。チョロ甘系TSのじゃロリ娘である。
しかし、本当に素晴らしい完成度だなこれは。
すぐにでも試し斬りをしてみたいところだが、流石にこの場で剣を振り回すのは他の利用者に迷惑が掛かるのでやめておくことにする。クールでミステリアスなカッコいい美少女である私は、その辺の荒くれ冒険者とは違うのだよ。
──ピシュィーンッ……ブォン……ブォン……
……うむ! 何と言ってもこの音がいいなライトセーバーではないビームサーベルは。
再びスイッチを押すと金色の光で構成された刃は筒の中へと消失し、私は念願のビームサーベルを手に入れた喜びに心を躍らせた。
ヨーク・アルパティーンはいかにもなその偽名から連想するように──世界一有名なスペースオペラ映画の大ファンなのである。
因みに私はスペースオペラの中では巨大な敵に正義の怒りをぶつける某機動戦士アニメのファンである。故に、私が扱うこの武器をビームサーベルと呼ぶことは決して譲ることができない一線だった。
しかしそれはそれとして、この起動音は癖になる! 本来必要な素材も何も無いこの世界でよく再現したものだと、私は何度もスイッチを入れたり消したりしてその出来映えを確かめた。
「ふふん、わしの自信作じゃよ」
自らの手でこしらえた完璧に近いライトセーバーもといビームサーベルの姿を見て、ヨーク・アルパティーンはフードの裾が捲れた顔に恋する乙女のような恍惚とした笑みを浮かべていた。あざとい。だが許そう。だから初めてその偽名を聞いた時、ヨーダなのかパルパティーンなのかどっちかにしろと思ったことを許してくれ。
しかしこの中世ヨーロッパ的な雰囲気の典型的な剣と魔法のファンタジー世界の中で、明らかにおかしな武器を手にしている私とそれをノリノリで提供してくれたヨークの姿を見て、心なしかネーリンがピエロマスクの下で引きつった表情を浮かべている気がした。
「……キミたち、世界観って気にしたことある?」
愚問である。普通の理解力があれば確認の必要はあるまい。
「気にはするが、配慮はしない。所詮私は、世界から弾き出された存在だからな」
「そうそう、わしら追放者じゃし……流浪の地で扱う武器ぐらい、趣味に走ったってええじゃろ」
「キミたち都合がいい時だけ被害者面するよね」
「「でっへっへへへ!」」
それは言いっこなしである。そうでもなければ快適な追放者ライフは送れない。そのことをネーリン自身も理解しているので、私たちは顔を向かい合わせて笑い合った。
しかし技術的な意味ではまさに
この剣を作ることができたのは製作者であるヨーク自身の「魔法」と彼女が持つ唯一無二の「スキル」があったればこそだが、「鋼鉄すら両断する威力を持つ質量の無い剣」と言う点だけでもこれが世界観的にトンデモない発明であることは語るまでもない。
それこそこれを国の兵士にでも配備すれば、国家間の軍事バランスが一気に傾きかねないほどである。
「冒険者には過ぎた武器と言うのならお主の持っている「聖剣」とてその類いじゃろ。些細なことを気にするでない……今わしのライトセーバーを些細なことと言ったか!?」
「自分の発言にキレないでよ」
「落ち着け、またフード脱げているぞ」
「ああ……何話してるかわからないけど興奮するアルちゃんかわいい……っ」
私も、ヨークも、こう言った自分自身の前世の記憶に密接に関わる趣味の世界に入ると情緒不安定になってしまうのが玉に瑕だ。
興奮するあまりまたしてもフードが脱げてしまったヨークの姿を見て例の如く向かいの受付嬢が悶え始めたが、直ちに問題無いので良しとする。
あどけない少女のようなふわふわとした質感を放つエメラルドグリーンの髪を再びフードに隠した後、コホンと息を吐いたヨークがビームサーベルを持った私を見て名残惜しそうに呟いた。
「しかし惜しいな。お主にも暗黒面があったのなら、わしの弟子にしてやったものを」
「普通に嫌だが。私が求めているのは私を導いてくれる師ではなく、私のことを甘やかしてくれる存在だ」
「こんな子が次期国王の有力候補だったんだから世も末だよね」
「それな」
ネーリンの率直な言葉をわっはっはと笑い飛ばしながら、私はやはりあの時追放されて良かったと改めて思った。
まかり間違って私が一国の女王にでもなってみろ。私だけではなく、こんな私に期待していた者たちにとってもお互い不幸な結果になるのが見え見えである。なので私自身には特に私を追放した者たちに対して思うところは何も無かった。
その辺りの考え方は他の二人とは明確に違う点であったが……それはまたの機会にでも語るとしよう。
それはそれとして、同じ立場のロイヤルTS転生追放者と出会えたことは私にとってこの上ない気休めになっていた。
なんだかんだで「転生」というバグみたいな秘密を共有できる相手の存在は、心身のリラックスに良い影響があるのだろうとこの一年でわかった。
「……やはり、お前たちと語り合うのは楽しいな」
「どうした急に」
趣味に走った武器を使って冒険し、恵まれた容姿と能力を活かして仲間たちと気ままなスローライフを送る。現実の異世界転生など、そういうので良いのだ。
世の中何をやるにしても決して楽な道ばかりではないが……それでも今の私は私なりに、この生活に対してそれなりの希望を持って生きていた。
しかし。
「しかしこの温かさを持った人間が、地球さえ破壊するんだ」
「ブフッ!」
「……唐突に悲しそうな顔をして何を言っているんだいアリア?」
「総帥ごっこ」
「き、キラキラ光りながら言うな……っ、くくっ」
サングラスを外しながら光魔法でそれとなく演出して言い放った私の適当な発言に対して、元ネタを知っているヨークはミルクを噴き出し、ネーリンは困惑した。
そして受付嬢とギルド内にいた他の冒険者たちはと言うと……あれ? 謎に神妙な顔を浮かべている。
「アリア様……」
「王国、よくないよね……」
「よくない……」
???
……まあ、彼らの反応はどうでも良いか。
このアリア・フレイテル、王族のしがらみから解き放たれた今となっては、思う存分趣味に走ることができて気楽であった。
アリアは気づいていませんが、アリアが追放王女なことはギルド内では割と知られています。変装が大尉並みにガバガバなので