ロイヤルTS転生追放者×3のぐだぐだ冒険者ライフ 作:GT(EW版)
案の定、アクシデントは起こった。
ツィツインフェザーの巣がある目標のポイントには、虹色の羽毛を逆立てながら空を飛び回り、地上に向かって手当たり次第炎のブレスを吐き散らしているモンスターの姿があったのだ。
体長8mを超える巨大な双頭竜の姿は、まさしく二対四枚の翼を持つツィツインフェザーの成体である。
なるほどこれは確かに色鮮やかながらも禍々しい姿をしている。その上これほどの巨体と力を持っていれば、魔王軍の侵略に怯える古の人々が魔王の眷属と疑うのも道理だろう。
しかし文献によるとツィツインフェザーはその気高さ故に弱者に対して自ら牙を剥くことはなく、機嫌を損ねない限り、地上の者たちを進んで脅かすようなことはしないと記述されていた。
何なら住処に迷い込んできた子供を人里まで乗せて送ってくれたり、火山が噴火する際には地上の人々に避難を促したというハートフルな記録まで残っているほどである。
故にこうしてツィツインフェザーが我を失った様子で地上にブレスを吐き散らしている光景は、私のような知恵者であれば即座にただならぬ事態であることがわかった。
……と言うか。
「ネーリン、さっき密猟者と言ったな?」
「んー? 言ったかなァ?」
このアリア・フレイテル、先ほど意味深に呟いたピエロのセリフを聞き逃すほど能天気ではない。
私は彼女の性格と趣味性癖から、現在の状況を概ね察することに成功した。
即ちこのTSエロピエロ……やってくれたのだ。
「お前は知っていたのだろう。こうなることを……こうなっていることを」
「ピンポーン! 大正解」
「まあ、そんなことじゃろうとは思ったわ。お主が普通の採取クエストを奨める時点で何かあると」
そう、M.ネーリンは最初から知っていたのである。
今日この日、クエストに出掛ければ、そこでは怒り狂ったツィツインフェザーが拝めるだろうと。
彼女はその展開を承知していた上で、昨日今回のクエストを提案したのだ。
「実はボク、この数日間盗賊団に潜入していてね」
「えっ」
朝の天気について話すようなお気楽さで、割と重大な秘密をネーリンがカミングアウトする。
その一言でヨークが「うわぁ……」と言いたげな引き攣った表情を浮かべ、私も話の流れを大体読み取ることができたが一応確認の為、無言の圧力で続きを促した。
応えた彼女は嬉々として説明を続ける。
「アリアなら「ミオチーヤ盗賊団」って名前に聞き覚えあるんじゃないかな? 各国で指名手配されている少数精鋭の犯罪組織なんだけど、実は先日からこの島に上陸していたんだ」
「ああ、その名前ならわしも知っておる。盗みや密猟の他に人身売買、禁止薬物の運び屋稼業その他諸々なんでもござれな……絵に描いたような悪の組織じゃと」
「幻影島に上陸していたのか」
それが本当なら、エラい人に即刻伝えなければならない一大事であろう。
幻影島はその過酷な航路故に辿り着くことは困難だが、それ故に都市部よりも警備は手薄で国家指名手配犯が忍び込むには絶好の立地である。何せ故郷を追放された我々自身も、こうして何食わぬ顔で冒険者稼業を営めるぐらいだからな。その辺りの監視はガバガバなのである。
もちろんこの島にも警察組織はあるのだが、彼らが取り締まっているのは精々町の中だけだ。彼らの目が届かない大自然の中は、皮肉にも反社会勢力が暗躍するのには打ってつけの場所だったというわけか。
「一応聞いておくが……警察やギルド長には報告したのか?」
「もちろんしてないよ? だったらキミたちを呼ぶわけないじゃないか!」
常識的な私の問い掛けに、ネーリンはてへっと笑いながらあっけらかんと答えた。知ってた。
まったく……報連相のできない人間は部下に持ちたくないものである。尤も彼女とは部下ではなくパーティの仲間として対等な関係を結んでいるつもりであるが、それはそれとしてエキセントリックな彼女の行動に振り回されるのは疲れるので大変だ。
「……で、私たちは何をすればいい?」
言いたいことは色々あるが、とりあえず先に彼女の望みを聞いておくことにした。
一体どうやってミオチーヤ盗賊団の存在に気づき、そこに潜入していたのかは知らないが……重大情報を今まで隠していた理由をはっきりさせておきたかったからだ。
するとネーリンは「キミたちは話が早くて助かるね、ウフフ……」と気味の悪い笑みを浮かべた後、おもむろに仮面を外し、素顔で私たちと向き直った。
「団長と話したい。キミたちには、ボクが彼と一対一で対峙する為の露払いを頼みたいんだ」
透明感のある美しさ──というのは彼女のことを言うのだろう。
仮面の下に隠されていた素顔からは性格とは裏腹に繊細な印象を受け、触れれば体温で溶け落ちてしまう淡雪のような雰囲気をその身に漂わせていた。
「理由は聞かないでくれると嬉しい。ボクから追加の報酬を払うから……お願い」
白銀色の髪を朝日の光で煌めかせながら、少女はルビーのように透き通った真紅の瞳で我々の姿を見据える。
人間離れした美貌から繰り出される、それまでの振る舞いが全て偽りだったかのような真摯な眼差しは、そりゃあ年頃の冒険者たちが墜ちるわけだと思った。
顔がいいってズルい。暴力性のヒロインではなく、ヒロイン性の暴力である。
普段は飄々としている残念系美少女が急にシリアスになった時の破壊力は強すぎる。禁止しろ。
「……わかった。だが、追加料金は要らん。クエストの後に私とヨークに一杯奢ってくれればいい。ヨークもそれでいいな」
「うむ。わしも異存はない。此奴の秘密主義は今に始まったことではないし、なんだかんだでわしらにも益をもたらすからな」
どの道ああして暴れ回るツィツインフェザーのことをこのまま放っておくわけにはいかない。その内町にも降りかねんぞあの様子では。
相手が国際指名手配犯ともなると正直言って冒険者の手に余る問題だが、これでは羽根の採取という本来のクエストを達成するのさえ困難である。
同じパーティの仲間として──まあ彼女には前回の巨大イカとの戦いで助けてもらったので、その借りを返すという意味でも付き合ってやることにしよう。
「ありがとね」
ネーリンはそんな我々の答えに目を細めて微笑みを返すと、再びピエロマスクを被り直した。
そして私たちは暴れ回るツィツインフェザーに気づかれないよう木陰伝いに移動しながら、彼女の口から数日間潜入していたと言う件の盗賊団の情報を受け取っていく。
「ミオチーヤ盗賊団の構成員は全部で十人。一人はボクが潜入する時倒したから、今は九人か。この手の犯罪組織にしては人数が少ないけど、少数精鋭だからこそ中々尻尾が掴めず、共和国も手を焼いていたそうな」
「なんか……蜘蛛の刺青とかしてそうな盗賊団じゃな」
「残念、彼らのシンボルは蜘蛛じゃなくてハムスターの刺青だよ」
「なにそれかわいい」
少しばかり気の抜ける雑談を交わしながらも、我々は頭上から降り注いでくるツィツインフェザーの火炎ブレスを掻い潜っていく。その姿には中々、我々も強キャラ感が出ているのではないかと思う。
しかし、本当に酷い狂乱ぶりだな……繁殖期のゴブリンだってここまで酷くは……うん、アイツらもこのぐらい酷かったな。私を襲ってきた奴らは全員殺したけど。
だが、ツィツインフェザーはゴブリンとは違い、本来気高く誇り高い生き物の筈である。それがこうも見境なく大暴れする理由となると、単に盗賊団から危害を加えられただけではなさそうだ。
たとえば……自分の子供が攫われたとか。
「正解! アリアに300賢者ポイントを進呈しよう」
「要らない」
「彼らは数日前からツィツインフェザーの捕獲を計画していてね。今朝はボクたちより一足早くここに来た彼らが、手始めにツィツインフェザーのタマゴを攫っていったんだ。タマゴを囮に、親を罠に嵌めようとしているんじゃないかな」
「RPGとかで割とある展開じゃな」
確かに。
強力な力を持っているが普段は大人しいモンスターが、子供に手を出されたことで我を失い主人公に牙を剥く展開とかファンタジー作品では実に王道である。
しかし、タマゴ泥棒か……某狩りゲームでは碌に成功した記憶が無いが、それを早朝の内に完遂してしまうとは中々どうして、ミオチーヤ盗賊団とやらは良い腕をお持ちなようだ。憧れはしないが少し感心する。
「彼らは団員の全員が盗賊スキルをハイレベルまで鍛え上げている盗みのプロだからね。流石のツィツインフェザーも、彼らの手からタマゴを守り抜くことはできなかったみたい」
「タイニィフェザーじゃないからな」
「ヨーク、しつこい」
「……ごめんなさい……」
「……いや、そんなにガチめに謝らなくていいから」
「ふふっ」
何わろてんねんネーリン。
しかし我がパーティのメンバーは、誰かがシリアスモードになると誰かがボケ倒さなければ落ち着かないところがあるから困る。
フッ……やれやれだな。二人はいついかなる時もエレガントで頼り甲斐のある私を見習ってほしいものである。いや、頼られたくないけど。もうリーダーとか絶対にやりたくないし。
おっと危ない! ブレスの余波で崩落した頭上からの落石をビームサーベルで斬り飛ばしながら、我々はツィツインフェザーの咆哮で賑やかになってきた山路を並走して駆け抜けていく。
しかし流石に面倒だな、ステージギミックのようなこのブレスの雨は。雷でも浴びせて撃ち落としてやろうか……
「アァァァイッ!」と、声の張った球審のような叫びを上げて空を旋回するツィツインフェザーに対して忌々しげに一瞥する私の背中を、どうどうと宥めるようにヨークが叩く。
「撃つなよアリア。あの子は不安がっているだけだから……タマゴを取り返してやれば、すぐに落ち着く筈じゃ」
「わかっている」
正直言って私は、モンスターからタマゴを盗んだ、という盗賊団の行為について思うところは特に無い。冒険者に依頼されるクエストの中にも、その手のクエストは珍しいものではないからだ。
今回の場合罪に当たるのは、彼らがタマゴを盗んだ相手が狩猟禁止の天然記念物であるツィツインフェザーだったからという一点に尽きる。
だからこそそのタマゴは後ろ暗い貴族連中などに高く売れるのだろうが、それはそれとして私は今頭上で怒り狂っているモンスターについて同情したり、少年漫画の主人公のような義憤に駆られることもなかった。
ただ……
「……すぐ連れてきてあげるから、待ってて……」
……こういう時に限って包み隠せない善性が出ている元聖女様の様子を横目に見ると、私もまあ……仕方ないから協力してやろうかなという気にはなる。それが人情という奴だろうか。
「うーん、やっぱりキミたちって……」
「なんだ?」
「……何でもない。さっ、そろそろ向こうに彼らのアジトが見えるよ!」
巨大な双頭竜が旋回する危険地帯を疾風の如く突破していくと、落ち着いたところでネーリンが言った。
なるほど、ツィツインフェザーの巣からタマゴを盗んでいったと言う「ミオチーヤ盗賊団」の拠点は、思っていたよりも近くにあったようだ。
そこは──山岳部の谷間から轟音を上げて流れ落ちている、一本の滝だった。
盗賊は嫌いだ。私のいた王国でも、アイツら頻繁に問題を起こしていたから。
しかしあの場所にアジトを作った者とは、少しだけ気が合いそうだと思った。
「滝の裏に構える秘密基地とは……わかっているではないか」
「……何言ってんのじゃ?」
「大丈夫? 今は真面目な仕事をしているんだけど」
「あっはい」
ここで梯子を外すか……ええい、ノリの悪い奴らめ。
しかし滝の裏にある秘密組織のアジトとか洞窟とか、私としては何かこう、失った青春を刺激する深いロマンを感じるのだよ……! わかってくれ二人とも!
「そうか。で、あれがアジトか……今まで誰も気づかなかったわけじゃな。幻惑の魔法が掛かっている。わしらには通用せんが」
「ボクも見つけた時は驚いたよ。天然の洞窟を改造して作り上げたらしい。中は結構広くて、上から下まで三層に分かれているよ」
流されたか。まあ良い。
それはそうとアジトを見つけた途端、フード越しに見えるヨークの口元が強張っていたのが気に掛かる。
彼女ほどのTS娘が怖気付いたわけではないだろうが、何か、あのアジトの中から特別な何かを感じているようだ。
「どうしたヨーク?」
「……強い暗黒面を感じる。ネーリンの言っていたリーダーのものか?」
「ああ、それは組織が戦闘用に雇っている奴隷……用心棒の気配だね。彼も団長に匹敵する実力者だよ。キミ好みのね」
「奴隷……強力な用心棒か……ふむ、では其奴の相手はわしが引き受けよう」
「待て。そうなると他の団員を相手する私の負担が大きくなるのだが……」
「大丈夫だよ! ミオチーヤ盗賊団は密猟や泥棒のプロフェッショナルだけど、対人戦に関しては団長のミオチーヤ以外そこまでじゃない。キミなら一人でも制圧できるんじゃないかな」
「うむ、確かに他は大したことなさそうじゃな。いけるいける」
「……信じるからな、その分析。嫌だからなイキって飛び込んでいった結果、予想外な実力に返り討ちに遭って辱められるのは」
「姫騎士の様式美だネ!」
こうして離れた場所からも相手の力をおおよそ探ることができるのは、ヨーク・アルパティーンが持つ特殊な才能の一つである。本人は「フォースの力じゃ」と語っているが、真偽はさておき便利な力の持ち主だった。
そしてM.ネーリンの戦力分析もまた、的中率の高い精度を誇っている。私自身も習得した「魔法」の数では万能性が高い方だと自負しており、そんな私たちだからこそ冒険者パーティの中でも少ない人数でやり繰りできていた。
二人が言うのなら、本当に団長と用心棒以外大したことないのだろう。
仕方がない。私も腹を括ることにしよう。ヨークにはビームサーベルを作ってもらったしな。ティアラからカシャンとバイザーを下ろし、私はやれやれと首を振った。アリア・フレイテルはハードボイルドな冒険者なのである。
「Bランク冒険者に無理難題を言う。こういうのは私が望むスローライフではないのだがな……」
「良いことを教えてあげるよアリア。スローライフっていうのは、時間を気にせずにゆっくりとした生活を楽しむことであって、仕事をしないで怠惰な時間を過ごすことではないんだ」
「◆知らなかったのか?」
なんだその煽りは。ニンジン食わせんぞ。
流れるままに、断続的に流れ落ちていく滝の裏側。
そこに構えられたミオチーヤ盗賊団のアジトに、我々は侵入していく。
入り口は小さな空洞に擬装されており、一見すると入ってすぐ行き止まりに突き当たったように見えるが、既に下調べを終えていたネーリンがおもむろに手を壁に当てると、そこがスイッチとなりゴゴゴ……と岩の扉が開いていった。
うむ、いいじゃないかそのギミック! 事前知識無しでも何かの拍子に開きそうで開かないそのセキュリティーは、何とも私好みの仕組みだった。やはり好きだわこのアジト。
しかし流石は世界を渡って活動し、その悪名を轟かせているミオチーヤ盗賊団である。
もしくはヨークが彼らの気配を外から察知していたのと同じように、彼らもまた我々の動きを事前に察知していたのかもしれない。
彼らのアジトの真の入り口である扉の先には、その手に鋼鉄の両剣を携えながら長身の青年が待ち構えていた。
両剣──ダブルセーバーを携えた、青年である。
「コラーッ! まーたー!」
「コラーッ! らーたーまー」
「!?」
Kor-ah, Mah-tah.
Kor-ah, Rah-tah-mah.
その光景があまりにも某スペースオペラでダース・モールがエレベーターから出てくるシーンと似ていたので、私とネーリンは思わず先行するヨークの後ろでコーラスを歌った。
「ここはわしが」
すると同じことを考えていたヨークもテンションが上がったのか、急にいい感じのBGMを流し始めた我々に驚く青年の前で、漆黒のローブをバサリと勢い良く脱ぎ去った。
懐から念動力で手繰り寄せたライトセーバーを右手に携えると、誰よりも洗練された動作で光の刃を解放していく。
お馴染みの起動音と共に解き放たれた光の色は、禍々しい波動を放つ「赤」。
前世の記憶に刻まれた画面の中の暗黒卿の姿に憧れ、自らもそれに倣おうとしたTS転生美少女の姿がそこにあった。
「……! 聖女、アル……?」
ツーサイドアップに束ねられたエメラルドグリーンの髪に、くりっとした大きな金色の眼と白く麗しい肌。
ローブを脱いだことで初めて露わになったヨークの姿を目にした瞬間、青年は思わずと言った様子で彼女の旧名を呟いた。
世界を渡り歩きながら活動する盗賊団の一員ともなれば、彼女の顔を知っていても不思議ではない。寧ろ彼らのような盗みに慣れている者ほど、高額な盗品の取引相手としてロイヤリティーの高い人物にはくまなく目を通している筈だ。
おそらく彼女のことは、取引には絶対に応じない清廉な人物として見ていただろうが。
「わしはヨーク・アルパティーン。お主を試しに来た」
「……っ」
さて、ヨークの素顔を見て明らかに動揺している彼のバックボーンは知らないし、さして興味も沸かないが……首に巻きつけられた奴隷の首輪を見たところ、彼こそがネーリンの話に聞いた用心棒で間違い無いだろう。
ヨーク・アルパティーンは弟子からの贈り物であるローブが傷つく恐れがある場合には、無防備にもこうしてローブを脱いだ姿で敵と相対する。
つまりあの用心棒は、それほどの実力者だということだ。……さては弟子にする気だなアイツ。見るからに鬼の血が入ってそうな亜人種っぽい青年が両剣を持って待ち構えていた姿に、彼女は暗黒面を感じて気に入ったのだろう。その気持ちは少しわかる。カッコいいよね。
──ヨークの趣味は冒険者稼業の傍ら、自らが厳選して引き取った弟子を指導し、その長としてお山の大将になることだと言う。
流石に銀河帝国を作ってそこの皇帝になろうとまでは考えていないだろうが……気に入った戦士を見ると我先にとちょっかいを掛けるところは、確かにネーリンと同類の変態だった。
ダース・モールがエレベーターから出てくる時の曲ほんとすき(´・ω・`)