ロイヤルTS転生追放者×3のぐだぐだ冒険者ライフ   作:GT(EW版)

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まほう!

 前世の世界と比べると科学力に乏しい原始的な世界だが、この世界にはフィクション創作でお馴染みの「魔法」が存在する。

 

 魔法にはそれぞれ火、水、風、土、雷、光、闇と七つの属性があり──これもフィクション創作ではよくあるパターンだろう。

 いずれも武力はもちろん日常生活の助けにもなる有用な力であり、我々のような華奢な美少女が冒険者というバリバリの肉体労働をこなすことができるのも、全てはこの「魔法」の力があったればこそ。

 特に戦闘に関してはいずれの属性も身体強化に扱うことができる為、私のいたシュヤクナブル王国では鍛え上げられた筋肉よりも高い魔力を持つことが力の指標となっていた。

 私も王宮や学園ではそれなりに鍛錬していたつもりだが、追放生活以来当初の予想以上に冒険者生活が上手くいっているのは間違いなく王家代々に受け継がれた魔法の才能のおかげだろう。

 何より私のような冒険者稼業を始めて一年しか経っていない若輩者が、各国の警察組織が手を焼いている「ミオチーヤ盗賊団」のアジトに意気揚々と挑めているのがその証である。人の努力を嘲笑うようで本当に申し訳ないが……良血のパワーとはそういうものだ。母上には改めて感謝だな。

 

 そんなことを考えながら入り口から入ってアジトの奥へ、奥へと進んでいくと、いかにも盗賊っぽい世紀末的なジャケットを着飾ったイキの良い野郎どもが駆けつけてきた。

 とりあえず手から稲妻を放つ雷属性の魔法「ライトニングサンダー」を浴びせて気絶させておく。

 

「ヒャッハー! これはまた激マブなチャンネーがやってきたぜー! ぐえっ!?」

「YOYO! 姉ちゃんたち道に迷ったんなら俺たちの部屋まで案内してやアアアア!?」

「容赦無いねぇキミ……」

「激マブなチャンネーとかこの世界で初めて聞いたわ」

 

 先手必勝である。相手のホームで戦う以上、敵に考える時間を与えさせず電光石火で叩くのが最良と私は考えていた。

 特に雷属性の魔法は発生速度、弾速共に早く、対人戦においては非常に優秀だ。特に初めてヨークに見せた際には「ライトニングじゃ! フォース・ライトニングじゃ!」と興奮していたこの技は、私が習得した中でも使用頻度が高い雷属性魔法だった。

 出オチさせて申し訳ないが、盗賊団なんてどの道ロクな連中ではないのだ。目についた人間は片っ端から制圧していくべきなのである。

 

「流石だね、アリア。それじゃあボクは団長のところへ行ってくるよ! ここは任せるね」

「ああ、何を話すのか知らんがさっさと用事を済ませてこい」

「ラージャ!」

 

 ネーリンから「お願い」されたのは、彼女が「ミオチーヤ盗賊団」のリーダーであるミオチーヤと一対一で対峙するまでの露払いである。

 まるでデートにでも出掛けるかのようにウキウキとした様子で私に手を振ると、ネーリンの姿はたちまちこの場から消え去っていった。

 

「消えた!? 「ステルス」か……?」

「くそっ! どこに行きやがったあのピエロ女!」

 

 自らの姿を眩ませる魔法には「ステルス」という闇属性魔法がある。

 しかし、今彼女が発動したのは闇属性の魔法ではない。並大抵の冒険者では扱うことのできない「複合魔法」という高等技術である。

 水魔法と土魔法の合わせ技で足元の地面を沼のように変化させ、そこに潜り込むことでネーリンはリーダーのいる下層への移動をショートカットしたのだった。

 

 さて、この場に残った私だが、彼女のお願いを受け入れた以上は協力してやるのが道理である。故に私は、一人で盗賊団の平団員を相手取ることになった。

 

 ヨークは置いてきた。ぶっちゃけ付いてきてくれたら楽だったのだが、彼女は現在後ろで繰り広げている用心棒とのチャンバラで忙しいのである。

 

 

「いいぞ……良い。お主の心から強い憎しみと怒りを感じる。剣を握り、わしの首を掻き切れ! 暗黒面に身を委ねるのだ! それ以外お主に勝ち目は無い!」

「ぐっ……ぐうゥゥ!」

 

 

 喜悦に笑むヨークと、踏ん張る青年の苦悶の声が後ろから聴こえてくる。

 仲間が心配じゃろう? お主が守れなければ仲間は全員死ぬ──と、一体どこのラスボスだよと疑いたくなる言葉を可愛らしい声で畳み掛けている美少女の姿から目を逸らすように、私はその場から遠ざかり次の敵を探していった。

 フッフッフッ……ああなったヨークは私も怖いのだよ。彼女は元聖女の片鱗が出ている時には我々の中にいるのが勿体無いぐらいの健気な常識人なのだが、ふと「暗黒面を感じた」時に限っては誰よりも融通が利かなくなるイカレ娘だった。

 ……あの子の言う暗黒面って何なんだろうな。フォースユーザーではないので、ぶっちゃけ私にもよくわからない。

 

 

 

 

 

 ──さて、先ほど私はこの世界の「魔法」についてざっくり説明したが、その続きである。

 

 

 魔法にはそれぞれ七つの属性があるが、それは魔力を保有する者の誰もが全ての属性を同様に扱えるわけではない。

 ゲームなどでもよくある話だが、扱うことのできる魔法には人それぞれの「魔力適性」があるのだ。「火は使えるけど水は使えない」と言った、体質的な向き不向きである。

 

 たとえば魔力を持っていても一つの属性の魔法しか扱うことができなかったり、複数の魔法を扱えるが特定の属性以外の魔法は精度が落ちたりと言った──努力ではどうすることもできない適性が、それぞれの人々に備わっていた。

 

 

 しかし我々ロイヤルTS転生追放者の三人は皆、複数の属性を高精度で扱うことができる優秀な魔力適性を持っていた。

 

 

 ヨーク・アルパティーンは火と光と闇。

 M.ネーリンは水と土と光。

 

 そしてこの私アリア・フレイテルは、闇属性以外の全属性を完璧な精度で習得することができるのである。

 

 言うならば、この能力こそが一番のチートだった。高精度の魔力適性など、普通の人間は二つ持っていれば将来の有望株で、三つ持っていれば神童と言われる。その一般常識は私が六歳ぐらいの頃に今は亡き母から教わったものだった。

 

 ……まあ、腹違いの兄弟たちの中にも四つか五つ複数の魔力適性を持っている者は何人かいた。

 現国王に至っては闇も含めた全属性を扱えることから、この才能は私と言うかシュヤクナブル王族共通の特異体質なのだろう。

 ポケットなモンスターで言えば、特性をへんげんじざいにしたミュウみたいなものである。技範囲の圧倒的な広さは、それだけで対人戦において絶大なアドバンテージになる。重ねて言うが、その点に関しては追放された今でも感謝していた。

 何より魔法の組み合わせとか、コンボルートを考えたりするのは楽しかったしな。私は今でも時々調子に乗っているが、最も調子に乗っていた十二歳ぐらいの頃はそれはもうイキりまくっており、当時の婚約者を相手に幾度となく実験を繰り返していたものである。

 

 サンドバッ……実験に付き合ってくれた彼には、今思うと申し訳ないことをしたものだ。そりゃあ身分に構わず怒りの婚約破棄を叩きつけてくるわ。

 彼にはどうか、好き合った新しい婚約者殿と幸せになってほしいものである。私の見えないところで。

 

 あっ、団員いた。これでも喰らえー!

 

「効かねぇ! ゴム手袋だから! グアアアアッッ!?」

「兄者ー!? おのれ、よくも兄者を……!」

 

 私が雷属性の使い手と判断し奥から絶縁装備を着込んできた男を、右手から投げ放った炎魔法「ファイアボール」で焼き焦がす。その後、彼が焼け死なないように左手から「ウォーターボール」を繰り出して消火してやった。

 

 アジトは広々としているが、室内での炎魔法は私自身にも被害が出そうなので程々に抑えるべきだろう。

 そんな時はこれ。

 

 

「凍れ」

「!?」

 

 

 ウォーターボールから弾け飛んだ水飛沫が付近にいたもう一人の団員の足に付着したのを見て、私はビッと指を差してその水分を「凍結」させた。

 

 魔法は全部で七属性と言ったが、定番の「氷」は水属性魔法の中に統合されている。

 

 敵に浴びせた水分を一気に急冷させ、ターゲットごと一帯を凍結させるこの技は、水属性の適性と熟練度の高い者にしか扱うことができない上級魔法の一種である。極まった水属性使いは水を浴びせるまでもなく、この大気にある全ての水を凍らせることができるらしい。

 

「な、何なんだお前……何なんだ!?」

 

 雷、火、水。これまでに見せた魔法だけでも三種の属性を披露した私の姿を見て、下半身が地面ごと凍結され、身動きを封じられた団員が化け物を見るような目で息を呑む。

 そんな彼に私が近寄ると、彼はハッと何かに気づいたように口走った。

 

「灼熱の、赤い髪……まさかあんた、アークレイ……様……?」

「ただの冒険者だ」

「あイタッ!?」

 

 何やら余計なことを口走りそうな様子だったので、ビームサーベルの柄で頭部を殴打しとどめを刺しておく。

 一応はまだ、誰も殺していない。相手は懸賞金が掛かっている国際指名手配犯とは言え、正式なギルドの依頼でもないのに命を奪うのはその後の手続きが面倒なのだ。罪に問われることはないだろうが、一週間ぐらいは事情聴取が長引く。それは困るだろうスローライフ的に考えて。

 

 

「これで四人目……さて、どうするか」

 

 

 我ながら鮮やかな手並みだったなと自画自賛し、私は自分自身の強キャラ感漂う振る舞いにしばし酔いしれる。うむ、私カッコいい。戦闘用に三つ編みロングに結んだ灼熱の髪が靡くぜ。

 

 これまでに制圧した団員は出オチの二人と今燃やしたのと凍らせたので二人。ミオチーヤ盗賊団の団員は全部で十人いるが、先日ネーリンが潜入する際に一人倒しているから残る団員は五人となる。

 

 そこからヨークが戦っている一人とネーリンが狙っているリーダーを除けば、私のノルマはあと三人か。

 ……いや、ヨークの相手はあくまでも「用心棒」と言っていたから、正規の団員ではないのだろう。だとすれば、アジトにいる敵は残り四人になるのか?

 

 失敗した……ネーリンにもっと詳しく聞いておけば良かった。

 この手の犯罪組織は一人でも取り逃がすと後々面倒だからな。逃げ延びた団員が忘れた頃になって復讐に来る展開は勘弁である。

 

 

「風に聞いてみるか」

 

 

 そういう時こそ探知魔法である。

 私は目を閉じて神経を集中させると、全身に満ちる魔力からそよ風を発生させ、このフロア内に吹き抜けさせていく。

 

 探知用に扱う風属性魔法の一種、「風の報せ」。発生させたそよ風に自らの五感を同調させることによって、術者の視覚の届かない範囲をソナーのように探ることができるのだ。

 

 ヨークが持っている謎の気配探知能力と比べると手間が掛かるし有効範囲も狭い下位互換になるが、初めて訪れた場所のMAP情報を読み取ることができる点は未知の場所を探る上で重宝する魔法だった。

 

 個人的には水と土と風の魔法は補助も複合も応用の幅が広くて使っていて楽しい。火と雷の魔法にも豊富なバリエーションはあるのだが、この二属性に関しては素の火力が高い為、ファイアボールやライトニングサンダーのような基礎魔法を雑にぶっ放すのが結局一番強いのである。何ならファイアボールしか使えないがその一芸だけでSランク冒険者まで至った火単色の魔力適性者もいるほどだ。

 

 そして光属性だが……これに関しては個人的に、あまり好きではない。

 

 いや、魔法の性能はトップクラスに優秀なのだ。使い勝手も威力も。

 光属性は我々三人が共通して保有している魔力適性だが、具体的に扱うことのできる魔法にはビームを撃ったりアンデッドを浄化したり呪い等のデバフを解除したりと言ったものがあり、戦闘にも回復にも適用できる万能の属性だった。

 何なら複数の魔力適性など無くても、光適性さえあればこれ一本でやっていける汎用性である。私が今日使った中では「テレポート」もこれに分類されるし、世間一般でも光適性持ちは各職場で引っ張りだこな「当たり」適性と言われていた。

 

 それはいい。

 

 それはいいのだが……その優秀さ故に「光の魔力適性を持つ自分たちこそが最も太陽神に寵愛された人類なのだ!」と極端な思想を持つアレな人間が多いことが、私の心にこの属性に対してマイナスイメージを抱かせていた。

 もちろん光適性持ちだって大多数はまともな人間な筈なのだが、王国にいた頃の私の周りにはそう言ったアレな人種の割合が極端に多かったのである。

 

 教会の司祭などは私を見て何を勘違いしたのやら、「火、水、風、土、雷──そして光。全ての属性を支配し、穢らわしき闇の力に染まらぬ清廉なる光の聖女たる貴方こそが、我らの頂点に立つ真の王に相応しいのですッ!!」と当時十二歳の私を勝手に聖女認定し、あろうことか国家転覆を企んで権力争いに担ぎ上げてきたものだった。

 

 その頃には既に「アル」という、太陽神から天啓を授かった正真正銘の聖女様がいたというのに、彼らは彼女のことを冷遇しあまつさえ偽聖女扱いしたものである。

 

 そんな彼らの盛大な「やらかし」は私が王国から追放される際にいい感じの口実にできたのでこれ以上私の方から恨み言を吐く気は無かったが……そんな者たちが身の回りにいたせいで光属性に関してはあまり好きではなかった。

 

 それはそれとして光魔法に関してはただ便利だからという理由で普通に使っているのだから、我ながらダブルスタンダードな人間である。

 

 

「まったく……」

 

 ああ、思い出したら腹が立ってきた。これも、あの団員に「アークレイ」という名で呼ばれたからだろうか。

 

 ……まあ、当時の私は持って生まれたチート染みた魔力と魔力適性にすこぶる調子に乗っていた時期でもあった。

 そのせいで彼らをその気にさせてしまった私自身にも、非が無いとは言い切れないだろう。今でもたまに思い出しては黒歴史に悶えるぐらい生意気で斜に構えたメスガキだったからなロリ時代の私。

 

 

「このフロアにいる人間は……ヨークと用心棒だけか。ツィツインフェザーのタマゴも無し、と」

 

 気を取り直して、このフロアのサーチ結果を確認した私は次の動きを決める。

 このフロアに他の団員がいないということは、残りの者たちはネーリンの向かった下層にいるのだろう。

 

 トン、とおもむろに足の裏で地面を小突く。すると私の立っている地面の土が一瞬にして透明な沼地へと変化し、きこりの泉の中に帰っていく女神様のように私は自らの身をその中に沈ませていった。

 

 ネーリンが使っていた水と土の複合魔法を真似してみたのである。服を汚さないように簡単なバリアを張っておくのも忘れていない。

 彼女はこのオリジナル複合魔法に「ドンブラコ」とオリジナリティーの無い名前を付けていたが……使ってみると色んなことに悪用できそうな汎用性の高い魔法だと思った。

 具体的な使用法としては室内の上下移動の他に、地中からの奇襲とかスカートの中を覗いてみたりとか……後者はかつて、私がネーリンにやられたことである。それが彼女とのファーストコンタクトだったのだから、第一印象は割と最悪だった。

 

 閑話休題。

 

 そうして私がアジトの上層から下層へと逆トーレルーフ的なショートカットを行うと、丁度良く天井から抜け出てすぐのところに二人の団員の姿を発見した。

 男が一人と、女が一人。先ほどの団員たちと同じファッションをしていることから、どちらもミオチーヤ盗賊団のメンバーで間違いないだろう。

 

 

「急いで! 裏口から逃げるのよ!」

 

 

 そうはさせんよ。

 二人とも慌ただしい様子でこの場から逃げ出そうとしていたので、私はすかさず土魔法を発動し、ボコリと隆起させた地面によって彼らの逃げ道を塞いだ。

 

「閉じ込められた!」

「なら下層へ行くぜ!」

 

 盗賊団のアジトともなれば逃走用の裏口ぐらい幾つも用意しているだろうとは思っていたが、私たちが暴れ始めてからまだそこまで時間が経っていない内に逃走を選ぶとは予想外である。

 随分臆病と言うか、判断が早いものだ。その冷静さを武器にこれまでの修羅場を潜り抜けてきたのだろうと、何となく彼らの強みがわかるような気がした。

 

 ならば適当に挑発して、冷静さを削いでみるか。

 駄目元だが、走り出した彼らが止まってくれれば儲け物というつもりで声を掛けた。

 

「我々に侵入されて即退散とは、とんだ腰抜けの集まりだな。まあ……リーダーがリーダーでは仕方ないか」

「……っ!」

「なんだと!?」

 

 あっ、思ったより食いついてきた。やっぱすげぇぜ、敗北者構文!

 

 逃げ道が塞がれたことで、他の裏口に繋がる通路に回り道をしようとしていた筈の二人の団員が足を止めてこちらに振り返る。その隙に歩を進めることで、私は余裕を持って彼らに追いつくことができた。

 

 我ながら人の悪いTS美少女だと自嘲するが、実際私はその手の創作なら悪役令嬢みたいな立場の人間なのであえて開き直り、とことん嫌な奴に徹してみる。なに、相手は盗賊だ。生産する黒歴史などあるまい。

 

「ん、何かおかしいことを言ったかな? 団長団長とゴロつき共に慕われたところで、何者にもなれず、何も得ることはできなかった……どこにもたどり着くことができずに光の世界を追われ、決死の覚悟で逃げ延びてきたこの島でさえ、今もドブネズミのようにみみっちく悪事を重ね続けている。そんなゴミ山の大将だと言っているのだ、貴殿らのリーダーは」

「……っ」

「てめえ!」

 

 ……こんな感じで良いだろうか。

 良さそうだな、うん。

 

 二人とも見事に冷静さを失い、ぶち切れている。女の方は今にも泣き出したそうな顔で唇を噛んでおり、男の方はその手に短剣を携えて私を睨み付けた。

 

 某敗北者構文に加えてかつての姉妹とか学園生時代の取り巻きとかが使っていた表現をミックスした挑発の台詞だったのだが、「ミオチーヤミオチーヤ敗北者! ゴミ山大将敗北者!」とラップを刻まなかったのは私の理性である。

 訳知り顔に貶してはみたが、もちろん私は彼らの団長のことを噂程度にしか知らない。しかしそんな薄っぺらな煽りでも、このフロアにいる団員たちへの効果は覿面だったようだ。

 

 あっ殺気。

 

 

「俺たちの団長を馬鹿にするなぁぁァァァ!!」

 

 

 瞬間、私の周囲の気温が一気に高まる。

 背中に殺気を感じた私が咄嗟にその場から飛び退くと、先ほどまで私が立っていた場所を鋭い一閃が通り抜けて地面を抉っていった。ネーリンまたやらかしたな……用心棒と団長以外にも強いのいるではないか。

 

「ガリア!」

「ちっ! 避けるな馬鹿野郎ー!」

 

 女の団員から「ガリア」と呼ばれた小さな影は、このフロアにいた三人目(・・・)のミオチーヤ盗賊団員であった。その両手に携えた銀色の剣は赤い炎を纏っており、炎魔法によるエンチャントが施されているのがわかる。

 

「ご挨拶だな」

 

 私としては二人の逃走を防ぐことができれば十分だと思っていたが、さらにもう一人の団員を釣り上げることができたのは想定以上の成果である。

 ミオチーヤ盗賊団は思っていた以上に団員間の結束が強く、団長は慕われているらしい。

 

 それも驚きだったが、さらに驚いたのが今しがた斬り掛かってきた団員の姿である。

 

 この世界の女性の平均身長よりも低く、ヨークよりも少し高いぐらいの背丈の黒髪の男の姿は、あどけない顔立ちも併せてどう見ても子供だったのだ。

 

 

「……若いな」

 

 

 思えばアジトに入ってからこれまでに対峙してきた団員たちに対しても、ずっと気になっていた。

 ミオチーヤ盗賊団の団員はその世紀末的なファッションと実戦で鍛えられた肉体に誤魔化されていたが……その誰もが若く、ともすれば二十歳も行っていないのではないかと思える年齢構成に見えたのだ。

 世界各国から指名手配されている「絵に描いたような悪の組織」にしては、団員たちの顔ぶれは随分と幼い。それこそ私が即興で思いついた安い挑発に、ことごとく全力で乗り掛かってくるほどに。

 

 なんか……思ってたのと違うなと思い始めた私がバイザー越しに怪訝な眼差しを向けると、炎の剣を構えながら少年が吠えた。

 

「うるせぇババア! 取り消せ! 団長はゴミ山の大将なんかじゃないっ!」

「ばっ」

 

 挑発を、返すか。

 

 この、アリア・フレイテルの挑発に、挑発を、返してきたか。

 しかし悲しいかな、転生者である私の累計精神年齢は既に老成している。

 

 その程度の可愛らしい挑発など、全く、これっぽっちも通用しないな少年。

 

 

「私はまだ十八歳だ! 肌を見ればわかるだろう!!!!!!」

「ヒッ……」

 

 

 挑発は利いていないけど、誤解されるのは気に入らないのでやんわりと否定しておいた。利いていないけど。

 

 自分でもビックリするほど大きな声が出てしまったが、私は今も冷静である。

 そんな私が両手を広げながらノースリーブの肩と膝周りの素肌を見せると、盗賊団の女性が緊張感の抜けた声で呟いた。

 

「あっ、本当ね……わっ、綺麗な肌……」

「ナリア、敵の話なんて聞くなよ!」

 

 ……フッ……そうだろうそうだろう。やはりこういう話は女性の方が理解が早くて助かる。

 

 ティアラから下ろしたバイザーで今は目元こそ隠しているものの、部分的に素肌を露出させているこの装備の利点としては、目隠れ状態でもなお相手に対して私の美少女ぶりが十全に伝わるというものがある。

 

 やはり私がデザインしたこの装備は私という素材のカッコ良さを引き出すナイスデザインなのだということを、女団員とその横で目をカッと見開いている男の反応から改めて確認した。……良かった、本当にババアに見えてるんじゃなくて。いやババアだってカッコいいババアはいるんだけど、私はまだその時ではないのである。

 

「俺からはよく見えないぜ! もっとスカートたくし上げるとかさ!」

「死ね」

「ヤベっ!?」

 

 危うく自信が揺らぎ掛けた私を見てこれ幸いとばかりに直球のセクハラしてきた男団員に対し、私はノールックでファイアボールを撃ち出す。だが、その一撃は寸でのところでかわされた。

 殺す気で撃った攻撃を避けるとは、どうやらこのフロアの団員たちは一筋縄ではいかないようだ。

 女の団員もまた長杖を構えて戦闘態勢を取ると、それまであった逃走の雰囲気は完全に応戦へと切り替わっていた。

 

 此方も抜かねば無作法というもの。私は口元に不敵な笑みを浮かべながら、私は腰元から昨日ヨークから受け取った新たな武器、ビームサーベルを取り出して言った。

 

 

「しゅこしは歯ごたえのある敵が現れたな」

 

 

 噛んだ。

 

 

「噛んだわ……」

「噛んだぜ……」

 

 うるさいぜ、少し黙ってろ!

 おのれヨーク! お前が狂ったようにタイニィフェザー連呼していたせいで私まで影響されてしまったではないか!

 

 ええい……この怒りは彼らにぶつけよう。

 右手に携えたビームサーベルを起動すると、私は羞恥心で赤らんだ顔を隠すように金色の光の刃を構え、油断なく彼らの姿を見据えた。

 

「気をつけてナリア、ゼーゼ。この人、とんでもなく強い……!」

「フッ……見せてもらおうか。ミオチーヤ盗賊団のエースの──実力とやらを」

「!」

 

 この場で唯一、私が噛んだことを全く気に留めずに対峙してくれたガリア少年に、心の中でそっと感謝する。お礼に彼のことをエース扱いしてそれとなく格を上げておいてやろう。ありがたく思うのだな。

 

 だがそれはそれとして、私は彼らを制圧することに手を抜く気も、見逃してやる気も無い。

 

 年齢構成も含めて、目の前の敵は噂に聞いていたミオチーヤ盗賊団の印象とは大分違ったが……まあ、あのネーリンが彼らの団長と一対一で話したいと言っていたほどである。

 何か訳ありなのだろうなと大凡の察しは付いているが……今は一介の冒険者に過ぎない私は余計な口を挟まず、やるべきことを実行するだけだった。





 アリアは追放ライフを楽しんでいるけど偉かった頃のロイヤル気分は割と残っています。わからせなきゃ……(´・ω・`)
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