ロイヤルTS転生追放者×3のぐだぐだ冒険者ライフ 作:GT(EW版)
──決着から言うと、戦闘は私の勝利だった。
だが「万事何事も無く」とは行かなかったのが、彼らとの戦いだった。予想以上に彼らが……特に炎属性を操る黒髪のガリア少年が発揮した底力には、素直に「おっ」と感心させられるところがあった。
「くっそおおおッ!」
仲間が倒される度に私のビームサーベルと切り結ぶ炎の出力が上がっていくのを感じた。珍しいことに、彼は感情の昂ぶりによって魔力の出力が大きく増減する「スキル持ち」だったのだ。ネーリンが実力を見誤っていたのもその為だろう。
圧倒的格上の敵を相手にしても歯を食いしばり、友情と熱血を大切にしている姿勢はまるで少年漫画の主人公のようだったが、惜しむらくは彼が盗賊団の一員であることだ。
……これだけの素質があるのならもっと別の生き方があったのではないかと思ってしまうのは、私が恵まれた環境に生まれたからだろう。最初から好き好んで盗賊になるような人間はそうはいないし、彼らにだって若くして悪事に手を染めなければならなかった悲しい過去があったのだろう。
故に私は説教もしなければ感傷も抱かず、ただ淡々と彼らの戦力を削いでいった。
「ハァ……ハァ……! ち、くしょう……っ」
勝てんぜ……お前は。
既に女団員とセクハラ団員は沈黙し、二人揃って彼の後ろで仲良く倒れ伏している。そんな二人を守るように、少年は息も絶え絶えな様子で私の前に立ち塞がっていた。
M.ネーリンであったなら、決して諦めないその勇気に好感を抱き、新しいおもちゃを見つけたとばかりに笑顔を浮かべていたかもしれない。
ヨーク・アルパティーンであったなら、感情の振れ幅で出力が変わるそのスキルに興味を持ち、自らの弟子になるよう誘いを掛けていたかもしれない。
しかし、私は違う。
このアリア・フレイテルは二人ほど甘くもなければ、心豊かで母性のあるタイプのTS転生者でもないのだ。
「君はよく頑張ったよ……眠れ、少年」
「っ……!」
金色の刃が煌めくビームサーベルを携えながら、私はフィニッシュを繰り出すべく風を纏って突進していく。
彼の健闘は讃えるが、強敵と言うほどではなかったなと──自分よりも歳下の敵を相手に王者の風格を漂わせる私に、背後から殺気が飛んできたのはその時だった。
──弓矢による、狙撃である。
自分たちのアジトという戦場の地の利を活かし、それまで闇属性魔法「ステルス」を使いながら息を潜めていた四人目の団員が、少年に斬り掛かろうとした私の背後から必殺の弓矢を撃ち放ってきたのである。
目の前の相手に意識を集中させている相手が勝利を確信し、僅かに気が緩んだところを一撃で仕留める。これまでの仲間のピンチを前にしても我慢して無駄撃ちしなかったのは、密猟者の面目躍如と言ったところか。
それは盗賊団の癖に罠らしい罠も仕掛けず、誰も彼も正攻法で私に挑んできた彼らの中で唯一持ち味を活かした賢い戦法だった。
しかし、そんな手は読めている!
「何っ!?」
闇属性使いの射手の口から吐き出された、驚きの声がアジト内に響き渡る。それも当然だろう。
彼からしてみれば死角から完璧に不意を突いた筈の一撃が、はじめから予知されていたかのようにあっさりと避けられたのだから。
見よ、これがトビウオターンだ! 私は突進していった少年の前で急ブレーキを掛けて跳び上がると、強引な方向転換を行いつつその勢いのままジャンピングスローの要領で振り向き様に反撃の風魔法を射手に浴びせた。
手をかざした前方に突風を発生させ、相手を吹き飛ばすシンプルな風属性魔法──「ウィンドプッシュ」。その一撃で遠方の射手を吹き飛ばしたのである。
「うっ……」
後方の壁に叩きつけられた射手は短く呻き声を上げると、それきり動かなくなる。
風の攻撃魔法は火や雷ほどの威力は無く見た目もやや地味だが、遠近距離を選ばない為使い勝手が良く、咄嗟の状況では重宝していた。特にこのウィンドプッシュは風の魔力適性を持っている者ならば真っ先に習得する魔法なのだが、攻撃と防御を兼ね備えた優秀な魔法である為子供の頃からお世話になっている。
ヨークなどはこの魔法を見て「フォースじゃ! フォース・プッシュじゃ!」と目をキラキラさせて興奮していたものだ。……当たり判定広いなフォースの力。流石は世界中で社会現象を巻き起こしたレジェンド作品である。
これは自慢になるが、私は不意打ちへの耐性には自信がある。
と言うか、各種サブカル知識を含む前世の記憶を取り戻した十歳ぐらいの頃、真っ先に打ち込んだのが不意打ちや闇討ち、その他諸々陰湿な搦め手に対する対策訓練だったのだ。
その理由は、紳士諸君ならご存知だろう……くっ殺しない為である。
くっ殺しない、為である!
自分語りになるがシュヤクナブル王族の第三王女として第二の生を受けた私は、良血故にすこぶるロイヤリティーが高い。
しかし王の血を引く者は私の他に三十人ぐらいおり、兄弟姉妹の大半が腹違いの子供であるが故に家族間の仲には些か問題があった。
要するに、王宮はくっそギスギスしていたのである。
後継者争いとか派閥争いとか、それこそ中世時代のロイヤルファミリーによくあるような感じで。
そんな環境であったが為に私の周りにも敵は多く、元々継承権的な序列で言えばそこまで高いわけでもなかったのだが、それに関しては当時の私が無駄にキレッキレだったのが良くなかった。
前世の記憶を取り戻す前の私は……うん。怖い者知らずな子供の時分だからこそ、成し遂げられたことってあるよね。
良くも悪くも、自分の全盛期は十歳ぐらいの頃だったなぁと言う者は、この世の中割と多いのではないかと思う。
アークレイ・シュヤクナブルの全盛期もまた、そのぐらいの年齢であったのだ。
他人事のように言ってしまって勘違いさせたかもしれないが、もちろん記憶を取り戻す前の私も取り戻してからの私も、等しく私である。
前世の私が今世の私を乗っ取ってしまったとか、そう言った憑依転生者の悲哀的なシリアスな真実は無いのでそこは安心してほしい。私は生まれた頃から間違いなく、アークレイ・シュヤクナブルという一人のTS転生美少女だった。
そう……美少女すぎたのだ。美少女すぎたんですよ私は! アハッ⭐︎
兄弟姉妹で唯一の六属性適性持ちであり、一桁の年齢の頃には既にテレポート含む上級魔法を粗方習得していた。そんなアークレイ・シュヤクナブルは客観的に評価した場合、稀代の天才児だったのだ。
その上見目も麗しく頭脳も明晰とくれば、国民からの人気も上の兄姉たちを押し退けるほどだった。
そうなれば当然、兄姉派閥の間では私のことを疎ましく思う者も多いわけで……表面上は媚びへつらいながら、腹の底ではいつ私のことを蹴落としてくるのか気が気で無かった。こちらに野心が無いことは公言していたのだが、それでも何度か謀られそうになったものである。
そこで、前世の記憶と共に各種サブカル知識を手に入れたアークレイは思ったのだ。「あっこれ私ゲス野郎共のゲスな罠に嵌められるポジションじゃね?」と。
……一般常識よりも先に、その手の知識を最初にサルベージしてしまったのが原因である。
ローティーン美少女の脳内に突如として刻まれたウス=異本の知識はあまりにも刺激的に過ぎ……天才少女アークレイの思考をバグらせたのだった。
最強の姫騎士という存在は、不意打ちや搦め手に弱い。
前世の記憶で真っ先に取得した偏見的なその知識は、持って生まれた才能を余すことなく発揮していたそれまでの私にとって未来への警鐘となった。
このまま調子に乗っていると、いつか取るに足らないと思っていたゲス共に足をすくわれて大変なことになると──危機感を抱いたのである。
そして自分のような色んな方面を敵に回しているパーフェクト美少女の場合、その先に待っているのは尊厳を破壊し尽くされた恥辱の未来だと。
……まあ、同人エロゲーでもあるまいし、それは行き過ぎた極端な想像に過ぎなかったのだが、あの時の私は前世の記憶が今ほど馴染んでおらず現実とサブカル知識がごっちゃになっていたのである。その結果、一時的にエロゲ脳になってしまったわけだ。
今にして思うと当時の振る舞いは黒歴史そのものなのだが、あの時行った不意打ちやデバフ、罠への対策は巡り巡って今の冒険者生活に役立っている。
それには丁度良いことに、当時の婚約者がその手の悪辣な魔法に優れた闇属性適性者だったのも都合が良かった。
彼との度重なる実験のおかげで私は「ステルス」への対応をはじめ、姫騎士の弱点を一つずつ潰すことができたのである。
そんなこともあったので私は元婚約者のことを嫌ってはいなかったのだが……実験の際、試しに数秒間だけ私に洗脳魔法を掛けるように言った際には躊躇いなく「じゃあここで下着を脱いでくれ。パンツだけ脱いで上着はそのままで!!」と命じられたのは今でも許していない。
まるで初めての王様ゲームで初っ端からアクセルを踏み間違えたかのような変態的な命令だった。飛ばしすぎである。
私としてはそれまで彼のことを真面目でピュアな男の子だとばかり思っていたから、精々が語尾に変な言葉を付けさせてくるぐらいの可愛らしい洗脳だろうと思っていた。
身内に対して無警戒だった私も悪いことには悪いのだが、当時十歳の少年からマニアックな性癖を告白されて恥ずかしさと同じぐらい激しい困惑を抱いたものである。脱いだ時点で満足して中身を見せろとか言われなかったのは良かったのだが、それはそれとして私は彼にドン引きだった。
「洗脳魔法を掛けられている間の記憶は朧げでも、掛けられた時の君の命令ははっきり覚えているんだぞ……」と、実験が終わった後涼しくなったスカートを押さえながらジト目で睨んでやると、彼は顔を真っ青にして五体投地で謝ったものだ。謝るくらいならするな。
以来、婚約が破棄されるまで彼は一生私に頭が上がらなかったのは笑い話にしていいのかわからない思い出である。
──まあ、子供の頃にそんな経験を重ねたことで今の私は姫騎士や女騎士の弱点を概ね克服していた。
それ以外の弱点対策にも余念は無く、お忍びで王都から遠征に出掛けた際には村の討伐隊に紛れてゴブリンやオークなどの天敵をバッタバッタと薙ぎ倒したものだ。正体がバレた時は予想以上の騒ぎが起こったものだが……良い思い出である。
振り返ってみるとあの時の経験があったからこそ、サードライフには見知らぬ地で冒険者をやりたいと思ったのかもしれないな。
このアリア・フレイテルは戦闘狂でも暗黒卿でもないが、なんだかんだで私が最も充実しているのは、こうしてバトルドレスを身に纏いながら剣を握っている時間なのかもしれない。
至って平凡な人間だった筈の前世の自分との乖離に、思わず苦笑を浮かべてしまう。
「何を笑ってるんだ!」
「……ふっ、すまない。あまりにも滑稽だと思ったんだ。方や盗賊で、方や冒険者……そんな我々が今、こうして剣を交えていることが」
「滑稽だと……!? ……滑稽ってどういう意味?」
「……あまりにも馬鹿馬鹿しくて、おかしいことだという意味だ」
残る最後の一人となったガリア少年と斬り結びながら、私は決して恵まれた生い立ちではなかったのであろう彼の問いに答えてやる。
私は相手が子供だからと攻撃の手を緩めるような甘い冒険者ではないが、無邪気で素朴な質問に答えてやらないほど冷たい人間でもないのだ。
「ああ、そういう意味だったのか! 団長もよく言ってた! ……んん? 俺たちの戦いは、バカバカしくなんてねぇっ!」
「滑稽」の意味を自分たちの存在に当て嵌めた途端、私のビームサーベルと鍔迫り合う彼の炎がその威力を増していった。
納得したと思ったら再びキレ散らかすとは、年齢相応に忙しい奴だな君は。元気な子供は嫌いじゃない……が、盗賊は嫌いである。
「俺たちのミオチーヤ盗賊団は……!」
一閃、私のビームサーベルの刃が少年の剣の刀身を真っ二つに斬り飛ばす。まあ、こんなものだろう。
しかしその切れ味と力の差を目の当たりにしても、少年の闘志は揺るがなかった。
「絶対に……っ!」
折れた剣を振り被り、再度私に斬り掛かってくる。
そんな彼に対して敬意を表するわけではないが、私はその場から一歩も下がらずに迎え打つ。
そして。
「──私を、許さなくていい」
「……ッ」
彼の一振りを上体の動きだけでかわした私は、カウンターの要領で懐に飛び込みながら剣を疾らせていく。
後で治療してやるから、一時的な欠損ぐらいは許してくれよ、と──大きく目を見開いた彼に対して詫びを入れるようにアイコンタクトを取りながら、私は武器を握る彼の両腕目掛けてサーベルを横薙ぎに払ったのだった。
──しかし、悪運は彼に味方した。
「……!?」
この戦いに終止符を打たれようとしたその瞬間、私が踏み込んだ足場が突如として崩落し、沈んでいったのである。
私が罠に気づかなかった……? 違う。このフロアに落とし穴があったのなら、とっくに気づいていた筈……
「な、なんだ? うわあああッ!!」
これは予め用意した落とし穴ではない。
私と共に崩落に巻き込まれていくガリア少年が誰よりもこの現象に驚いており、慌てていることがその証明だった。
崩落の原因は罠ではなく──おそらく、これまでの私たちの戦いのせいでもない。
洞窟を改造して作ったと言うこのアジトの強度には、私も再三注意しながら戦っていたつもりだ。
そうなると、原因は一つしかない。崩落した地面と共に落下していく最中、私はこのアジトの最下層である下のフロアから聖なる力の波動を感じた。
「ネーリンめ……」
ミオチーヤ盗賊団のリーダー、ミオチーヤと語らいに行ったM.ネーリン。
三層から彼女が撃ち放った攻撃が、二層にいた私たちを巻き込んだのである。
彼女のことはこれでも仲間だと信頼しているのでわざとではないと思いたいが……彼女とミオチーヤの間で戦いが起こり、その流れ弾に巻き込まれてしまったのだと判断した。室内の戦闘では、こういうことが起こりうる。
しかし、困った。
このアジトの三層……深いッ!
一層と二層の間が普通の民家の一階と二階ぐらいの高低差だとしたら、二層と三層の間は大型デパートの屋上から一階ぐらいの高低差があった。あからさまに階層詐欺なのである。
それは前世の世界の人間はもちろん、この世界の人間でも生身なら普通に死ねる高さだった。
当然私は風魔法で下に逆風を吹かせるなり、土魔法で着地先の地面を柔らかくするなりして対処するつもりだが……落下までの時間でケアできる範囲は、私から半径二メートル程度が限界だった。
「あああああああああっっ!?」
すなわち、今目の前で悲鳴を上げながら一緒に落ちている彼は墜落したら最後、助からないということだ。
彼は元々倒す予定だった盗賊だ。自分たちのアジトの崩落でどうなろうと、所詮は自業自得である。助けてやる義理はない。
それが、道理なのだが……
「掴まれ!」
「っ!?」
「死にたくないなら早く!」
「あ……うん」
──気づけば私はビームサーベルを解除し、少年に対して右手を差し伸ばしていた。
そんな私の声に少年は僅かな逡巡を見せた後、その手から剣を捨てて私の手を掴んだ。
別に目の前で死なれても、気にするようなガラではないのだが……手を伸ばしてしまったのはきっと、今は亡き母親の教育が良かったからであろう。
彼の手を掴んで強引に引き寄せた私は、その身体が私の魔法の有効範囲に届くように、密着した体勢で抱え込んでいった。
その際私の胸元から「ムグッ」と苦しそうな声が聴こえてきたが、五体満足で下ろしてやるんだから数秒間ぐらい我慢しろ。あと変なことしたら突き落とす。
『せめて、下の子たちには優しくしてあげなさい……貴方は本当は、誰よりも優しいお姉ちゃんなんだから』
……追放されても離れきれないものだな。
今際の際に授かった、母親との口約束というものは。
甚だ不本意ながらも私は、抱き抱えた少年と共に三層の地面へと落ちていったのだった。
元婚約者殿はただ自分よりも圧倒的に強くて綺麗で凛と澄ました生意気で偉そうな天才美少女姫に対するコンプレックスが妙な形で爆発してしまっただけです。飛ばしすぎ。
なお、そんな彼女が人並みに恥ずかしがってモジモジしていた反応を見て心から反省し、性癖は無事破壊されたもよう。