ロイヤルTS転生追放者×3のぐだぐだ冒険者ライフ 作:GT(EW版)
「キミって最初は敵だったのに主人公と会う度に絆されていつの間にか仲間になってそうなキャラしてるよね」
「いきなり何だ」
失敬な。それではまるで私がガリア少年を主人公にした少年漫画のヒロインポジションみたいではないか。甚だ遺憾である。
ミオチーヤ盗賊団アジトの最下層にて落ち合ったM.ネーリンが開口一番に言い放った言葉に、私は遺憾の意を表した。
──思った通り、崩落の原因は三層で戦っていたネーリンの流れ弾だった。
もちろんあの程度の高さから落下してどうにかなる私ではなかったが、どちらかと言えば彼女がこれだけ離れた二層にまで影響する攻撃を放った事実の方が驚きである。
かつて勇者パーティから追放された伝説の大賢者ネーリン。如何なる状況でも常に余裕を見せつけ、普段から飄々としている彼女が本気を出すほどまでに、ミオチーヤ盗賊団の団長は強敵だったのだろうか。
……と言うか。
「お前、その格好……」
「ああこれ? ふふ、久しぶりにボクも舞い上がっちゃってね。いつもの服は全部脱いじゃった」
「脱いじゃったって……」
崩落した二層の先──私が落ちた先の三層にいた彼女の装いは、普段のピエロ衣装を身につけていなかったのだ。
もちろん、裸だったわけではない。いつもの仮面も脱いでその美しい素顔を晒していた彼女は、ピエロの格好ではなくそのご尊顔に見合った神秘的な衣装を纏っていた。
白を基調とした丈の短いワンピースに、金色のロングブーツと手袋。白銀色の髪を肩先まで下ろしたその頭の上には、雫の紋様が刻まれた水色のサークレットを被っている。
襟元から背中に下ろされたマントと言い、今のネーリンはまさしく「女賢者」と言った感じの叡智とえっちに溢れたコスチュームだった。
「……キミが言うなよ姫騎士」
「すまん。いや、しかし改めてドラクエ3女賢者の衣装は完璧すぎると思うのだ。聖職者なのにミニスカロングブーツというそこはかとない背徳感は、数々の後続作品に影響を与えた。あれほど叡智とえっちを両立させたビジュアルは他にあるまい。キミにもよく似合っているよ」
「あれ? もしかしてボク褒められてる?」
「? 当然だろう。できることならお前にはいつもその姿でいてもらいたいものだ」
「……それはできない相談だね。自分で言うのも何だけど、この姿になったボクは少し綺麗すぎるから。精々気が向いた時にマスクを外すぐらいだよ」
「そうか」
ピエロマスクを外すだけならば他所のパーティにちょっかい掛ける時に頻繁にやっているだろうと思いながらも、そこは彼女の譲れないポリシー的な何かなのだと察し、デリカシーに溢れた私はあえてそれ以上踏み込むことはしなかった。
今の状況には彼女の姿の他にも、色々と聞きたいことがあったしな。
たとえば──岩の上で片膝を立てて座り込んでいる今の彼女が、その細腕と豊満な胸に明らかに尋常ではない聖なる力を放つ一本の剣を抱き抱えていることとか。
たとえば──そんな彼女の下で、血の一滴も流していないにも拘らずうつ伏せに倒れて死んだように眠っている青年の姿とか。
「大賢者の礼装」を身に纏ったネーリンの太もも眩しい神々しい姿も相まって、目の前の光景に題するなら「聖剣を抱きし巫女と、裁きを受けし者」と言ったところか。
まるで伝説の一端を写し取った絵画のように、広々としたアジトの三層には何とも踏み入り難い神聖な景色が広がっていた。
「何があったんだ?」
一体全体どういう状況なのかと、単刀直入に訊ねる。
すると彼女は抱き抱えていた剣の柄を両手で掴みながら、その刀身を真紅の瞳で見つめて返した。
「話せば少し長くなるから、とりあえずキミもその子を下ろしなよ」
「ん? ああ、そうだな」
言われて頷く。私は今、この両手に二層から共に落ちていったミオチーヤ盗賊団の一員──ガリアと呼ばれていた少年の身体を抱えていたのだ。
確かに長話の間、気絶した彼のことをずっと抱えているのは面倒だ。ネーリンに促されるまま足下にそっと彼の身体を横たわらせてやる。
「なんだかんだで子供には優しいよねぇアリアはー」とほざく彼女の言葉をスルーしながら私自身もその場に腰を下ろして脚を伸ばすと、彼女が両手に抱えるその剣──「勇者の聖剣」の姿を見つめた。
M.ネーリンの趣味は気に入った冒険者の少年少女にちょっかいを掛けることである。
しかしそれは、単に彼女があどけない子供たちを狙う小児性愛者だからではない。彼女がちょっかいを掛ける相手には、若さ以外にも決まった法則があったのだ。
──それは、「勇者」の適性である。
勇者──辞書的な意味は文字通り、勇気ある者のことを指す。しばしば英雄と同一視され、誰もが恐れる困難に立ち向かい偉業を成し遂げた者を表す呼称として用いられる。武勇に優れた戦士や、困難に立ち向かい勇敢に戦った者に対しても用いるが……この世界では別の意味を含む。
まあ、つまるところ前世のファンタジー創作でお馴染みのポジションである。
天の神様より祝福を授かった「勇者」が、この世に破滅をもたらす暗黒の「魔王」と戦い、勝利する。物語としてはあまりにも使い古された王道中の超王道だが、この世界では過去に現実として何度もあった歴史上の出来事だった。
尤も私が生まれたこの時代は、過去の歴史と比べれば平和な時代である。貴族の通う学園で婚約破棄騒動が流行るぐらいだからな……平和も平和よ。ぺっ。
故に「勇者」も「魔王」も現代の人々にとっては歴史の授業に出てくる教科書内の記述に過ぎず、特に魔王の存在が最後に観測されたのは今から300年前の時代まで遡った。
そしてその時代は目の前にいる元大賢者、M.ネーリンが現役の大賢者として立派に活躍していた時代でもある。そういう意味では間違いなく、彼女は生きた伝説だった。
「キミも知っていると思うけど、「聖剣の勇者」はこの300年の間一人も世に現れていない。理由は表立って人類の脅威が存在していないからだという説もあるけど、実は勇者の「適性」を持つだけの人間ならSSRぐらいの割合で生まれるから案外珍しくないんだ。その適性者たちがそれぞれの地域で名を上げる活躍をして、実力を認められた子たちが勇者様勇者様と持て囃されているのが現代の勇者事情だね」
「ほー」
「そしてそんな彼ら「適性者」が選定の湖の試練を乗り越えてボクの持つこの聖剣を手にした時、初めて伝説に謳われる「聖剣の勇者」が誕生するというわけさ」
「へー」
「……反応薄いね」
「聖剣の勇者の伝説が記載された書物は飽きるほど読んだし、六歳ぐらいの頃には粗方調べ終えたからな。ああ、十歳の頃には独自解釈を提出した私の論文が学会に表彰されたこともあったな」
「隙自語乙。流石は王国きっての賢姫様だね」
「乙とか久しぶりに聞いたわ」
ネーリンはかつて勇者パーティの一員として戦っていたことのある元大賢者様だが、ただの大賢者ではない。
彼女のかつての肩書きは「聖剣を抱きし大賢者」であり、その役目は「時が来るまで選定の湖を守り続け、選ばれし勇者に聖剣を渡すこと」。
すなわち彼女は魔王軍と戦う勇者パーティの一員でありながら、勇者に聖剣を授け、勇者を「聖剣の勇者」にした張本人でもあったのだ。
前世のフィクション創作で言えば、湖の精霊とか迷いの森の妖精とかその辺りのポジションである。
おまけにこの容姿と抜群のスタイルに加えて──膝上20cmぐらいのミニスカロングブーツな銀髪美少女だと言うのだから、色々と設定を盛りすぎなTS転生者であった。
「キミに言われるのは釈然としないなぁ……」
「いいから続きはよ、はよ」
この世に他一人として存在しない立場を言えば、王族などより遙かにロイヤリティーが高いのがM.ネーリンという少女だ。
そんな彼女が語る偉人故の高次元な話に私は、嫉妬ではないが少し心に面白くないものを感じながら話の続きを急かすように地面に伸ばした自らの脚をバンバンと叩いた。
そうすると彼女は「はいはい」と慣れた対応で苦笑を浮かべた後、数拍の間を置いて言い放つ。
「ボクはね……次代の勇者を捜していたんだ」
体育座りのように岩場の上で両膝を立てると、彼女は全身で包み込むように青白く光る抜き身の聖剣を抱え込んでいく。
かつて勇者パーティの一員であり、聖剣を抱きし大賢者でもあったM.ネーリン。
そんな彼女が本来の定住場所である「選定の湖」から離れ、今こうして幻影島で冒険者をやっている理由を──儚くも美しい憂いを帯びたアンニュイな表情で語った。
だからその姿勢だとさっきからめっちゃパンツ見えていることは、何も指摘しないでおいた。今指摘すると格好つかないからな。私は空気の読める美少女なのだよ。
「真っ当に、シリアスな事情だな」
ピンクか……と、意外と可愛らしいのを穿いているんだなと頭によぎった思考を隅に追いやりながら、私はネーリンの語った殊勝な目的に感心する。
彼女がそんなことを言うのは意外なような、納得するような、どちらとも言えるのが正直な感想だった。
しかしそんな思考の中で私は、少しだけ面白くない感情を抱いた。
……どうやら私たち三人の中には裏切り者がいたようだ。
私とヨークのように追放先でサードライフを満喫するのではなく、よもや今も心は現役のまま本来の使命を果たそうとしている健気な奴がいたとは……と。
私は彼女の立派な行動目的に対して何も口にする気は無かったが、口に出さずともバイザーを上げた私の視線には内なる感情が表れていたのであろう。
ネーリンは困ったように笑いながら、首を横に振った。
「キミが想像するような立派な理由じゃないさ。別にこれは昔務めていた湖の賢者の使命とか役目とか、そういうのとは全く別の……あくまでもボク自身の個人的な趣味とわがままに過ぎないからね」
「わがまま?」
そんなことを言って、本当は誰よりも殊勝な理由で勇者を捜しているのだろう? かーっ、健気な女ばい。ふーん……ふーん。
「拗ねるなよ……」
拗ねてはいない。
ただ自分と同じ境遇の仲間だと思っていたロイヤルTS追放転生者が、自分とは似ても似つかない立派な志で冒険者をやっていたことが心中複雑なだけだ。
まあ、だからと言ってこれが理由でお前を追放する気は無いが……そういうことはパーティを組んだ頃に最初に言ってほしかったのが、正直な気持ちである。
「本当に大した理由じゃないんだけどなァ……じゃあ一つ、キミに質問するよ」
「……何だ?」
つーんとそっぽを向く私に対して、パンチラ賢者が唐突に訊ねてくる。
「キミは勇者っていうのは、どういう存在だと思う?」
哲学問答かな? 何とも聖職者らしくご立派なことだ。
しかしその質問をされた以上は、私が返す答えは決まっていた。
「勇気ある者だ」
奇跡! 神秘! 真実! 夢!
誕生無敵のドデカい守護神──は別としても、そこは譲れない一線である。
人並み外れて強い存在とか、英雄的な活躍をした偉人とか、一口に「勇者」と呼ばれる存在にも様々な者たちがいる。
しかし前提として外してはならないのが、決して挫けることのない熱い「勇気」の持ち主であることだ。どんなに怖くても、どんなに負け続けても、前に進むことを決して諦めない熱い勇気を持った者こそが真の勇者なのだと、私は前世でも学んでいた。主に、僕らの勇者王から。
なのでぶっちゃけ、「この世界に住む少数の人類には勇者の適性があるんですよ」などと言われても、私としては「はぁ……」という感想にしかならないのである。
世間一般の認識に対する、勇者観の不一致という奴だ。何なら王族時代には「勇者はそんなんじゃないよぉ〜」と声を上げたこともあったのが私だ。
──ウンザリした顔で私がそう語った瞬間、ネーリンが目の色を変える。
彼女は一瞬にして岩場から跳躍すると、スカートとマントを翻しながら物凄いスピードで私の目の前まで急迫し、飛び掛かるような勢いで腕を掴んでずいっと顔を近づけてきた。
「だろう!? キミもそう思うだろう!? たまたま聖剣に反応する適性を持っていたり、ちょっと難しい度胸試しに成功しただけで勇者と呼ばれるなんて絶対おかしいよねぇ!」
「っ……ち、近いんだが」
「いやあアリアにもわかるかー! わかってくれる人で良かったぁー! ふふ、やっぱりキミたちはボクが見込んだ通りだよ!」
「一人で納得していないで説明しろ……」
「ああ、ごめんごめんつい興奮しちゃって! やっぱ一番大事なのは勇気だよねー!」
急にテンションを上げるなよ。
鼻息荒くまくしたてたネーリンは、私の抗議を受けると少しだけ距離を取ったが、依然私の両手を掴んだままブンブンとその腕を振り回していた。
しかし人間離れした美しい容姿を持つ白銀の美少女が、唐突に見せた大型犬のような態度は控えめに言ってあざとかった。
私はTS転生者なので耐えられるが、普通の男の子が彼女にこんな態度をされたらそれだけでドギマギして心臓が光になるだろう。しゃがみ込んだ姿勢だからまたパンツ見えているし……わざとなのかこのくそびっちとジト目を向けてやると、ネーリンはそんな私の目線を辿るなり「あっ……」と声を漏らし、私の腕から離した手を下半身に当てながらそっと女の子座りに姿勢を整えた。
普通に気づいていなかったんだな……って言うか、お前も普通に恥じらうのか。
「ボクのこと、なんだと思っているの……」
「R18系ネット小説で活躍する確信犯的なくそびっちTS小悪魔美少女」
「キレそう」
普段から行っているM.ネーリンのあざといムーブに対して常日頃から抱いていた印象を包み隠さずに明かすと、彼女は真顔の笑みで応えた。
そんな彼女の反応に罪悪感を感じた私は、潔く頭を下げる。正直すまんかった。
しかし、なるほど……普段は不気味なピエロマスクに隠されていたから気づかなかったが、こう言われるのは割と本気で嫌がっていたんだなお前は。今度ヨークにも伝えておこう。これまで見てきた彼女のあざとさは掴みどころのないトリックスター的な演技だと思っていたが、案外どれも素の感情によるものだったのかもしれない。
「ま、ボクも仮面を付けている時はそう思われるように振る舞っていたから許すけど……この格好、本気を出すと勝手に切り替わっちゃうんだけど、いつも通りに動くとやたら見えちゃうから嫌なんだよなぁ……」
……いや、これはこれでよりあざといな。スカートを押さえる仕草が叡智すぎて良くない。
そりゃあこんなのがパーティにいたら追放もされるわ。色々と精神的なアレコレが激しすぎて、男たちも魔王討伐に集中できなかっただろう。
300年前の勇者様も彼女が同じパーティにいることが、気が気でなかったのではないかと当時の状況を想像して納得した。
そんなネーリンは「あの子たちには見られていないよね……」と周囲を見回し、依然ミオチーヤ団長とガリア少年が気絶したままであることを確認して安堵の息を吐いた後、コホンと咳払いして言った。
気を取り直した上で、話の続きである。
ネーリンは先ほどまで座っていた岩場までひとっ跳びで移動すると、その場から再び聖剣を拾い上げて高らかに言い放った。
「ボクはこの聖剣に相応しい次の勇者を捜している。だけどそれは、正しく勇気ある者でなければならない! 強いだけでも、適性があるだけでもダメなんだ!」
そうだな。勇者とはただ並外れた力を持っているからと、軽々しく口にして良い称号ではない。
だと言うのに、その名前が背負う意味も理解せず驕り高ぶる者の何と多いことか……私の通っていた学園にもその手の連中は多かったな。
誰も彼も性格が悪かったり、女癖が悪かったりすぐ誰かを除け者にしたり……そんな口ほどにもない奴らばかりだったから、私の学年では「勇者様」という呼び名は専ら蔑称扱いだった。嘆かわしい話である。
……ああ、でも「私は聖剣の勇者の末裔! やがて真の勇者となる為に、最優の賢姫である君に決闘を申し込む!」と入学初日から私に突っかかってきた末裔君は中々面白い奴だったな。
彼だけは何度私に負けても三年間諦めずに挑み続けてきた、熱いガッツの持ち主だった。弱かったけど。くっそ弱かったけど。
しかしそんな彼のことを「勇者一族の恥晒し」と馬鹿にする連中には思わずキツいおしおきをしてやったぐらいには、私も彼のことを結構気に入っていたものだ。
もはや懐かしい学園時代の思い出を振り返っている間にも、ネーリンは聖剣を掲げながら高説を続けていた。
「そう……不届きにも勇者を名乗る適性者たちには、誰も彼も勇気が無かった。勇者を目指しているくせに格下のパーティメンバーをいびって追放したり、勇者を名乗っているくせに困っている人を助けることより女の子を口説くことを優先したり! ああ、やたらと合理主義者で多額の金銭を払わなければ戦おうとしないビジネス勇者もいたね。あと勇気を履き違えて無謀な特攻をして死んでいった子も……違うんだ……そういうのじゃないんだよボクが望んでいるのは……!」
……ん? なんか雲行き怪しくなってきたな。
「勇者を名乗るんならさあ!! 勇気を持てよお前らアアア!! どいつもこいつも軽々しく勇者を名乗ってなんなんだよ勇者なめんな! お前らみたいな連中が勇者を名乗ったら勇者のロイヤリティーが落ちるだろうが!! 勇者と言えば有能を追放するアホですよね! 性格の悪い美少女を侍らせた人格破綻者ですよね! 主人公の踏み台兼引き立て役ですよねって違うだろバカ!! そいつらは勇者でもなんでもないただのクズで、本物の勇者というのは愛する者の為ならどんな絶望だって乗り越えていける、泥臭くも誇り高い勇気ある者なんだよおおおおおっっ!!」
変なスイッチが入った、魂の叫びだった。言い過ぎだろ何もそこまで言わなくても……
M.ネーリン──聖剣を抱きしかつての大賢者は……深刻な小物化、噛ませ犬化が進む現代の勇者適性者の在り方に熱い解釈不一致を感じていた──厄介極まりない勇者ガチ勢だったのだ。
……なんか、ウチの子がすみません。
誰かに謝るわけではないが、何か酷く多くの方面を敵に回してしまった気がする彼女の発言に対して、賢い冒険者である私は無意識に頭を下げるのであった。
ネーリンは普段は道化を演じていますが内面はピュアです。
なので関わった男の子は心を奪われるしパーティはクラッシュします。