ボクって、結構頭に血が上りやすいんだよね。
別に、どうって訳じゃないんだけど、その場のノリとか勢いで色々やらかす場合がある。
慎重にやろうと心掛けてはいる。いるけど、どうしようもない時はある。
根っこの性質って、変わらないもんな。
取り繕っても、ボクの根本はうっかり者で、気が短くて、下らないこだわりのために命を捨てられるバカだ。
冷静沈着な悪の組織の幹部なんて、あんまりガラじゃないんだよね。
向き不向きってのは、何にだってある。
頭脳労働は全部アイツ任せだったし、今さらボクがそれっぽい事をしても、専門家には敵わない。
だから、こういう事が起きるんだよねー。
「おい、さっき言った事について、詳しく教えてもらおうか?」
「…………」
やっばー。
何が発端かって言ったら、アリオスくんだよねー。
こんなに一人に対して、長く時間をかけて育てた記憶もないしさ。
熱が入りすぎたっていうのが本音だよ。
弟子って呼んでも良い奴なんて、長い人生の中でも初めてだった。
正直、アリオスくんの方がクロノくんより勝って欲しかったまである。
そんな一番弟子の晴れ舞台に対して、ボクはテンションが上がってた。
普通に言っちゃいけない事をポロってたらしい。
エセ神父の研究所で、トップシークレットとして扱われてた単語だったとか、どうとか。
全然口走った記憶とか無いんだけど、それってホントにボクが言ってた?
実は気のせいとか無い?
「この耳で聞いたぞ。なんだ、『星の記憶』ってのは? 何故、お前が知ってる?」
「…………」
やらかしたなー。
流石に全部喋る訳にはいかんし。
なんとか納得を残しつつ、ボクの事は味方って思って欲しいんだけどなー。
まあ、自分のケツは自分で拭けってことか。
しゃーねー、頑張って誤魔化そう。
ここからどう誤魔化すかなんだけど、パターンとしては二つだね。
一つ、話自体を明後日の方向に強引に持ってく。
今、めちゃくちゃシリアスな雰囲気だけど、唐突に『お、今日は良い天気だね!』みたいな事を言って、お茶を濁してみる。
道化役は得意っちゃ得意だ。ちょっとふざければ、すぐにギャグモードになって、きっとボクのやらかしも忘れてくれるだろう。
……うん、はい、論外です。怪しまれるどころの話じゃねぇわ。
「『神父』が躍起になってた、能力。あたしに植え付けようとしたのが、『星の記憶』だ。お前、まさか、それを持ってるのか?」
「…………」
「教えろ。奴らの目的を知るために重要な情報だ。吐くまで、絶対に逃がさないからな?」
はい、やっても損しかないな、一つ目は。
ていうか、肩掴むなや。逃がすつもりないのは分かったし。
あーあ、ふざけられる雰囲気じゃねぇわ。やったら多分しばかれるな。
じゃあ、二つ目しかない。
それらしい事を言って、重要な事は言わない作戦!
「……話すから、放してくれない?」
「逃がさねぇぞ? 絶対喋れよ?」
分かったよ、喋るって。
言える範囲内で。
てか、睨むの止めてくんねぇかなあ。
喋りにくいんだけども。
「一応言っておくけど、面白い話じゃないよ?」
「いいからさっさと話せ」
せっかちだなあ。
話す気なくなってきそうだ。
まあ、ぽい事だけは喋るとしよう。
「……『星の記憶』っていうのは、過去視の事だよ」
「過去、視?」
「過去を全て覗けるのさ。この世のあらゆる過去を。一部の化け物を除いて。大仰な名前だけど、それだけの力だよ」
うん、嘘は言ってない。
過去を視るだけの力っていうのはマジだし。
ボクはそれをちょっと悪用してるだけだし。
「……魔法による過去視と、何が違う?」
「そりゃ、断然、性能さ」
さて、どこまで喋ろうか。
ボーダー的に、言って問題ないのは『星の記憶』の詳細。ダメなのは、ボクの正体に繋がること。
やさぐれ娘は、ボクとほぼ同類だ。
誤魔化されてる感じは、なんとなくで分かる。
真摯な気持ちで、仕方ねーって感じで喋らないと駄目だなー。
「過去視の魔法は、対象の欠片が必要だ。バカみたいに手間をかけて、そんで得られる情報は一欠片。とてもコスパが悪いよね?」
「コスパ?」
「でも、『星の記憶』は違う。星に繋がり、その記録を引き出せる。無条件に、あらゆる過去を詮索出来るのさ」
星の上で起きてきた、あらゆる現象、生物、その記録。
それを覗き視る事が出来る。
膨大、なんて言葉じゃ言い表しきれない、情報の海。何よりも正確で、見た側は、知識ではなく体験として成立する。
この世で最も純粋な情報である。
「……それで?」
「正体は、星が生まれてから、ここまでの全て。ボクは、その記録の一部を得られるんだ」
胡散臭げな目だねぇ。
言ってることは本当だし、言うべき事は全部言ってるよ?
「……じゃあ、あたしの過去は知ってんのか?」
「いや、知らん。星が生まれてからの、あらゆる事が記録されてるんだ。普通に考えて無理だよ。砂漠に落ちてる特定の砂一粒を探すようなもんだよ?」
情報をサルベージするのって、本当に大変なんだぞ。
何十億年って続いてて、しかも、情報の種類だって膨大なんだ。一人の人間に絞って過去を知るとか、どう頑張っても五年はかかる。
そんな便利なもんじゃないんだよー。
ていうか、人が使うためのものでもないしねー。オーバースペックすぎて、使えたもんじゃない。
普段使う分には、人間全体とか対象を大雑把にしないと分かんなくなる。
まあ、そのおかげで、ボクは今の武を手に入れられたんだけどね。
「じゃあ、何故、奴はその力を再現するのに躍起になっているんだ?」
「その力を持っている事が、完成形の証だからじゃないかな?」
「そう思う根拠は?」
「能力自体が必要なら、第一使徒が居るもん」
空気がピリついた。
徹底して隠してるボクの、ほんの一欠片。
予感が確信に変わる瞬間っていうのは、いつだってザワつくもんだね。
「やはり、あたしが見たものは……」
「有益な情報は、これくらいしか分からないよ」
これで満足してくんないかなー。
そろそろ席を外そうかしら?
ボクの試合ももうすぐだった気がする。
あんまり喋りすぎたらボロが出そうだし、早くおいとましたいかな。
「おい、待て」
「……何さ? ホントにもう何もないよ」
「お前の『星の記憶』の力を、使徒どもに使って、奴らの内情を暴けないか?」
あーはー。
ボクの能力でアイツらを探れるかってか?
あっぶねぇな。
嘘を吐かなきゃいかん質問じゃなくて良かったわ。
「無理だね。アイツらは、星の記録には残らない」
「何故?」
「アイツらが化け物だからだろ」
対策をしてた訳じゃない。
化け物たちが化け物になった過程で、星の記録から抹消されたんだ。
教主は、自分の存在を封印してる。
ま、詳しくは言わないけど。
「……そうか」
「そろそろ、ボクらの試合もある。話してもどうにもならん事は止めて、ウォーミングアップでもすれば……」
「あ、その事なんだがな」
????
「あたしは棄権する。お前とも戦う理由が無くなったし、弟子の成長も見れたしな。満足した」
「は?」
「帰る。あとでお前らをあたしらん所のボスに紹介するから準備しとけ」
あ、ちょっまっ!?
「…………」
光った瞬間に、もう目の前から消えてた。
周囲の気配を探ってみたけど、五キロ四方にはもう居ない。
なんだ、アイツ? 自分勝手過ぎるだろ。
ボクも久しぶりに激しめの運動したくて、実は準備とかしてたのに。
ていうか、ボクとの決闘は予定してたはずだろ。なにドタキャンしてんだ。
ホント、誰に似たんだよ、この野郎。
「…………」
このトーナメント、残ってるのはクロノくん、アリシアちゃん、ボクの三人だ。
で、クロノくんたちは同じブロック。ボクは皆とは反対に居る。
そんで、アリシアちゃんが今さらクロノくんと戦うとは思えない。別に意地を張る理由もないし、クロノくんを傷つけるくらいなら、彼女、舌噛みきって死ぬだろうし。
そんでそんで、もうクロノくん倒せるような奴は、ここには居ない。ボクも言わずもがなだし、順調に勝ち進んでしまうだろう。
これ、決勝戦でクロノくんとタイマン決まったんじゃないか?
ボク、準優勝以上で確定やん。
クロノくんとの約束もあるし、今さら辞退する訳にもいかんし。
「…………」
目立っちゃダメだったのに、やべー。
なんでこんなことになったんだ?