いつの間にか悪の組織の幹部になっていた件   作:アジぺんぎん

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遅くて申し訳ない


118 文化祭イベント 破

 

 やってきた畜生を、叩き潰す。

 結構嫌な音が鳴ったけど、再生の音も同時に聞こえる。

 このまま追撃し続ければ倒せるかもだけど、オーディエンスが鬱陶しすぎる。結界を張って周囲を隔絶したいけど、()()()()()に神経使ってるせいで、ちょっとしんどい。

 何度やっても、獣は体を起き上がらせる。

 もう、いい加減にしてくれ! お前、何回しばかれてると思とんねん! 

 

 向かってくる速度はそれなりで、普通よりは速いって感じ。高い再生能力に、硬さもそれなりって感じだ。

 いっぱいある頭それぞれが、独自の思考と能力を持つ。かなりの数の生物が複合されてて、しかも、高いレベルでそれが纏まってる。

 マジで『ぼくのかんがえたさいきょーのまもの』ってのが感想。

 

 なんで、こんなんが学校に現れるんだよ!

 

 びーくーる!

 こうなった道筋、思い出していこう!

 

 数日前、クロノくんにボクがアドバイスした後のことだ。

 あの後、もう目まぐるしい日々を送ってた。

 まず、なんか知らんけど、この学校の教師の一人がマッドなサイエンティストらしい。ソイツが、イリーガルでデンジャラスなキメラを作ったとかいう噂があった。

 それだけでもお腹いっぱいだったけど、なんか学校でイジメられっ子が暴れるとかいう情報が出た。なんでも激ヤバな術式を違法なトコロから仕入れてきて、放ってたら大爆発らしい。

 あとはもう詳細省くけど、扱ったらダメな薬品でテロするつもりのヤベーのがバイオテロするつもりとか、地脈(土地の魔力溜まり)が数百年ぶりに爆発するとか、大小厄介事が様々起きてる。

 

 で、その大問題に誰が対応してるか?

 アンサー、ボク一人です!

 ふざけんじゃねぇ!

 

 ボクは最強だけど、万能じゃないんだ!

 なんで事前の予想が百パーセント実現の上で、プラスアルファがあるんだよ!

 おかげで大忙しだよ、こら!

 

 今ボクは、このキメラを周囲に被害を出さないようにしながら戦って、仕掛けられた爆発の術式を遠隔で解除して、バイオテロの場所を探りながら、地脈の活動を抑えながら、他に厄介事が起きないか探ってる。

 オーバーワークだって!

 ボクは色々できるけど、なんでも同時にできる訳じゃねぇって!

 誰か一人でも良いからボクのこと手伝えって!

 

 弟子とクロノくんは自分たちのことで精一杯。

 女共は何してるかも知らん。アイツらボクのこと嫌いそうだし、ていうかクロノくんとかの方へ行ってそうだし、多分望み薄。

 消去法的に使えるのはチャラ男だけど、アイツ、なんかボクとはまた別の厄介事の相手してるらしい。

 

 マジでどうなってんだよ!

 何がどうピタゴラスイッチしたら、こんなアポカリプスになるのさ!

 全部クロノくんのせいだな、これは。

 因果関係なんか知らんけど、直接的な原因なんて無いけど、許せねぇよクロノくん!

 

 はい、ということで今回はボクは介入できません!

 あーあ、弟子とクロノくんのいざこざ見たかったなあ!

 残念だなあ、チクショウ!

 

 ……ホントに無理になったら、クロノくんたちの方に投げよ。

 

 

 ※※※※※※※※※※

 

 

「俺は、お前を避けてきた。その理由は、師が語ったはずだ」

 

 

 友のその言葉が、拒絶を意味していると分かる。

 恨めしげにすらも思える目が、去れと訴えている。

 決して曲げぬ意志が、納得しないなら力ずくになると語っていた。

 それでも、クロノは退かない。

 事情は知っている、知っていてここに居ると、胸を張る。

 

 

「……お前は、星の化身に近付こうとしている。強さの代わりに人間性を捨てている最中だ。そして、お前が得ている強さは、俺とは致命的に相性が悪い」

 

 

 アインから、聞いていた。

 そうでなくとも、察するところはある。

 クロノは教団が生み出した最高傑作の一つ、『神の子』なのだ。

 どうあれ、クロノは『神』という、この世界の禁忌の一つに触れている。

 なら、アリオスがどう感じるかは、自明であった。

 

 

「……知っているなら、分かるだろう? 俺たちは、離れるのが安全だ」

 

「かもしれない」

 

「師のように、力をコントロールできるようになるまで待って欲しい」

 

 

 嘘偽り無い、アリオスの本音だ。

 そうなるように、全力を尽くして、命懸けでこの約束を果たそうとするだろう。

 クロノは、悲しそうにアリオスを見る。

 アリオスの強さに、悲哀を抱く。

 

 

「アインから、俺は聞いてる。星の化身に近付くデメリットを」

 

「…………」

 

「人間性の喪失。元の人格の破壊。喜怒哀楽は消えて、代わりに星の敵を滅ぼせという使命が、刻まれる」

 

 

 アリオスは、それを否定しない。

 事実を前に、何の反応も取る必要がない。

 

 アイン曰く、これ以上強くなるということは、さらなる純化を意味しているという。

 より大きな無感動に押し潰され、星への忠誠心に満たされる。

 本来その生物に備わった本能や、人の願いすら押し退けて、『星霊』としての機能がそれらに成り代わるのだ。

 

 

「そして、その呪いは、アインですら完全には、はね除けられなかった」

 

 

 クロノは、思い起こす。

 背筋が凍るような無表情を、アインはしていた。

 

 

『人間は、色々な面を持っている』

 

 

 怖いとか、変とか、クロノの中で頭の中に、対峙したモノに対する感想が浮かぶ、遥かに前。

 直感が、真っ先に彼を突き刺した。

 言葉になるよりも前の段階で、これは『違う』のだと。

 いつも目にしている、笑う姿、嘲笑う姿、怒った姿、さらには、無情の姿とすら、かけ離れたものだった。

 

 

『多重人格に少し似てるね。人の性質って多面体で、色々な面がそもそもあるだろう? だからボク

の中にも人の人格があれば、星の人格もある。ボクは基本、星が抱く衝動を人のボクが屈服している形で抑えてる』

 

 

 どれだけの時間をかけて己と向き合い、このような形に落ち着いたのか。

 少なくとも、一朝一夕のものではない。

 真似できるとは、思えない。

 

 

『とはいえ、ボクもかなり星の因子が濃い。少し過剰に感情を出さないと、呑み込まれそうになることもある』

 

 

 子供のように感情を剥き出しにすることもある。

 逆に、恐ろしいほど冷たくなる時もある。

 二面性が極端で、チグハグである瞬間も多かった。

 しかしそれは、彼女の性質だった。

 少なからず、クロノは驚きを抱いた。

 

 

『彼、これからしんどいよ? 自分じゃあり得ない感情が、いきなり湧いてでるんだ。しかも、それは君の不利益になる』

 

『…………』

 

『彼が一番、望まないところだね。で、君はどうするつもりなんだい?』

 

 

 試すような物言いだが、いつもとは違う。

 どこか、心配を含んだ言い方だ。

 らしくなくて、なんだかとても、嫌な予感がしていた。

 

 

「……きっと、十年は先なんだろう? お前が俺の側に戻るのは」

 

「…………」

 

「それは嫌だ。とても嫌だ。だから、そうならないようにしたい」

 

 

 無表情だ。 

 かなり厄介なことを言ったが、まるで堪えていない。

 疑っていた訳ではない。けれども、人間性の喪失が、目に見える形に表れていて、心を揺さぶられる。

 

 

「俺は、お前を殺しかねないんだ。何かあってからでは遅い」

 

「それでも、嫌だ」

 

「我が儘を言うな」 

 

 

 目的は、ハッキリしていた。

 何を望んでいるのか、それは、無表情のアリオスからでも伝わる。

 ずっと、彼は一つだけを願っていた。

 たしなめるアリオスは、とても感情が稀薄になっている。けれども、奥底に潜ませたものは、星の力でも消しきれない。

 

 クロノは、アリオスの強さを確信した。

 だから、

 

 

「嫌だ。許せない」

 

 

 絶対に、認めない。

 我が儘だなんて百も承知で、誤っているのがどちらかなんて、考えるまでもない。

 しかし、そんなものはどうでも良かった。

 みっともないと思われても構わなかった。

 魂の片割れが離れるという、耐え難い苦痛に比べれば、マシだった。

 

 

「永劫の別れじゃない。本当にすぐなんだ」

 

「どうしても、納得できない」

 

「大人になれ。どうしようもない」

 

「嫌だ」

 

 

 頑なな態度に、アリオスは眉をひそめた。

 僅かながら、虚無を無視して苛立ちが先立った。

 この幼稚さは少々不自然だが、答えは何にせよ変わらない。

 

 

「なら、問答は必要ないな?」

 

「最初からそのつもりだ」

 

 

 

 刹那、アリオスは翔んだ。

 

 

 

「っ!」

 

 

 アリオスの目的は、クロノを打ち倒すことではない。

 姿を隠せさえすれば、それでいい。

 それに、他の面子が閉じ込めるための結界を張ろうとしているのは分かっていた。

 より早く、速く、離脱を図る。

 

 

「待ってくれ!」

 

 

 本気のアリオスに追い付けるのは、この場ではクロノだけだ。

 あらゆる権能を使って、後を追う。

 すると、

 

 

「!」

 

 

 正面から走る雷を、クロノは躱す。

 直撃すれば、一時の死は避けられなかった。

 勿論、今のクロノなら、自動で死する前に肉体の時は遡る。だが、距離は離され、追跡は困難になっていただろう。

 そのために、アリオスは致死性の攻撃を行った。

 どれだけ本気か、示すには十分だ。

 

 

「……みっともないな、俺」

 

 

 正しさで動けるなら、胸は痛まなかったかもしれない。

 引け目や負い目で、うずくまりたくなる。

 しかし、この欲望は、何にも勝る。

 

 

「勝つ」

 

 

 いかにして、アリオスに追い付くか。

 学校中を舞台としたレースが、始まる。

 

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