いつの間にか悪の組織の幹部になっていた件   作:アジぺんぎん

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122 女子会 中

 

 人の嫌がることはすすんでしなさい。

 

 

 彼女らは、そう言い聞かされて育ったに違いない。

 性格が本気でひん曲がってるか、類い稀なる無垢な魂か。二つに一つだけど、クロノくんじゃあるまいし、あの二人が後者である可能性は虚数の彼方にしかない。

 ボクのことを彼女らなりに理解し、こうする道を選んだんだろうな。

 ボクは、暴力に関しては最強だ。右に出る者なんて未来永劫居ないし、ちょっと冷静なら、ボクに敵う訳ないって分かるはず。

 舞台が『暴力』なら、ボクは何がどうあれ勝つけれど、残念ながら今は『話し合い』だ。

 

 戦いにおける、基礎の基礎。

 相手の得意で戦わず、自分の土俵に引きずり込む。

 彼女らは、ボクより遥かに舌が回る。

 だから、こういう平和的なやり方は、とてもやりづらい。

 

 こういう頭がキレる奴は、こっちが意図せず溢した言葉から、色々と見抜いてくる。

 感情の表れ方や秘密が、勝手に解釈されて、勝手に暴かれる。

 卓上でのやり取りを教育されてきたんだ。

 そういう察しの良さだけじゃなくて、挑発とか煽てたりとか、そういうこともしてくるだろう。  

 

 そして、不幸なことにボクはそういうのに弱い。

 煽られたらキレるし、やられたらやり返したい。

 交渉とかのテーブルに座らされたら、ボクとしては即逃げが安定。出来ないなら、ちゃぶ台返しが安定行動。

 でも、何故か今は拘束されてるから、それも出来ない。

 

 なら、この場合の最善手は一つだね。

 もうとにかく、黙ることだ。

 

 バカにされるし、煽ってくるし、すっげームカつくだろうけど、沈黙を貫く。

 何か喋れば絶対、良くないことになる。

 出来れば、反応するのも良くない。

 もう、無に成りきるしかない。何も考えず、ボーッとするのが良い。

 

 でも、

 

 

「…………」

 

「良い茶葉が用意できました」

 

「このお菓子、すごく美味しいわ」

 

 

 まさか、こうなるとは。

 聞き出すとかになったら、思わず拷問とかをイメージしちゃったけど、まあそうか。

 暴力的なのは、ボクの領域だ。

 そこから抜け出すために、こういうほのぼの系を目指してるのか。

 

 

「隣国から取り寄せました」

 

「流石、商売で成り上がった家ね。良いものに目敏い」

 

 

 ていうか、コイツらこんな穏やかな関係だったか?

 あんま良く知らんけど、クロノくん取り合ってわちゃわちゃしてると思ってたのに。

 

 

「クロノくんに食べていただくモノです。下手なモノは渡せません」

 

「ホント、いつも上手くやってるわ」

 

「彼の好みは把握しています。私のリサーチは完璧です」

 

 

 鼻が高そうだね。

 ふふんって効果音出てそう。

 

 

「安物、高級品を交互に試しました。甘い、辛い、酸い。食感や見た目まで、あらゆるパターンで試しましたので」

 

「流石ね」

 

 

 偏執が過ぎない?

 ブレーキなしで褒められること?

 普通に怖かったよ? なんでノートいっぱいにびっしりクロノくんの好み書いてるけど、冷静に考えてヤバいよ?

 

 

「リリアさんも、この前はかなり積極的でしたね。私は真似できません」

 

「……た、耐性なんて有れば有るだけ良いから! 呪いの対策も必要だから! 手を繋いだのも、別に変な意味じゃないから!」

 

 

 え、急にツンデレみたいなこと言うやん。

 ああ、でも、冷静になって考えたらヤバいよな。

 コイツの呪いって、パンピーなら触れれば即死レベルなのに。

 クロノくんも、影でそんなんしてたんか。

 万が一もないだろうから、他の皆と居る時は目を離してる時もあったけども。

 結構危ない橋を渡ってない?

 

 

「私なんて、一緒に居るだけでドキドキですのに」

 

「あたしも、理由もなくあんなの出来ないわよ」

 

 

 すごい自然に女子トークしてるな。

 この二人、ほぼ災害みたいな力があるのに。

 不思議だよね、こんな普通の女の子みたいで。

 

 ……理由、ていうか元凶は、あの女たらしか。

 

 

「心臓が高鳴るのは、彼の前でだけです」

 

「死ぬ寸前でも、こんなことにならなかったのにね」

 

「不思議です。彼の何から何まで、不思議です」

 

 

 変えた者と変えられた者。

 彼女らは後者で、幸せそうだ。

 女たらしにとってみれば、自分のやりたいことを貫いただけなのにな。

 全部が全部、良い方向へ行くばかり。

 運の良いことだよ、ホントに。

 

 

「―――――」

 

「―――――?」

 

 

 幸せそうに喋りやがる。

 まだまだ、渦中だっていうのにさ。

 これから仲間や自分が死ぬ状況が来るかもしれんのに、そういう運命を背負わされる異常な力を持っているのに、普通に青春しやがって。

 なんとも、気が抜けてくる。

 

 ボクを置いてけぼりに、彼女らは喋る。

 これまであった危機はもちろん、日々の他愛のない話まで。

 本当に、ただの女子会みたいだ。

 何か裏があるんじゃなくて、ボクにどうにかさせたいんじゃなくて、『本当は、こうして話をしてみたかった』みたいな。

 

 そして、

 

 

「アンタは、何にも無いの?」

 

 

 ふと、自然に、こっちを向く。

 ……急にこっちに話振るなよ。

 何も喋らんからな。

 

 ボクの意志を感じ取ったかは知らんけど、二人の表情が柔らかい。

 ずっと、楽しく話してたから、ていうだけかもしれんけど、何となく、ボクにも何かを向けている気がしてならなかった。

 

 

「アンタだけよ。何もないのは」

 

「私たちは私たちなりに、全力で生きています。手を抜いているのは、貴女だけです」

 

 

 言ってろ言ってろ。

 どうせ、少年少女の青春にゃあ勝てねぇよ。

 そこまで面白い人生送ってる訳じゃねぇし。

 ガキに理解されるほど、ボクは安くない。

 

 ……だっていうのに、コイツらは、変な目でボクを見てきやがる。

 どうしようもない子供を見るような、そんな生暖かな。

 

 

「彼に変えられたことを認めていないのも、貴女だけです」

 

 

 …………あ?

 

 

「彼は、才に溢れています。無論、武や勉学も相当ですが、何よりも、人を変える才能に」

 

 

 気持ち悪い。

 何を笑ってるのやら。

 考えてることが分からない。

 

 

「怖いの?」

 

 

 ツンケンが、笑ってる。

 なんで笑ってるか、皆目見当がつかない。

 異世界人たちの言葉は、どうにも理解するのが難しい。

 

 

「変化を認められない。受け入れるのが怖い。アンタには、似合わないわね」

 

「…………」

 

「何もかも、力で解決出来るって豪語する、図々しいくらいが丁度良いのに」

 

 

 何も知らないくせに、分かったようなことを言う。

 自分が一番正しいみたいな態度は、とても癪に障る。

 

 

「怒ってるの?」

 

「何が、そんなに悲しいのでしょう?」

 

 

 誓って、ボクは感情を表に出していない。

 だから、コイツらの言い分はでたらめだ。

 それらしい言葉で、惑わそうとしているだけだ。

 

 

「…………」

 

「……ねぇ、話してみない?」

 

 

 まやかしだ。

 さっき、言っていた。

 優しくはない、だから、暴く。遠慮はない、だから、聞き出す。

 拷問は意味がないから、こうして、穏やかに揺さぶっている。

 たったそれだけの話だ。

 

 

「あたしは、アンタが気に食わない。ソコを見せないで、超越者ぶってるのが嫌。それで、あたしたちのこと、子供扱いだもの」

 

「…………」

 

「その腹の底、覗かせろっていっつも思ってた。そして、アンタは今……」

 

 

 呪いを扱う人間の顔じゃねぇだろ。

 弱ってる、とでも言うつもりか?

 憐れみを語るなら覚悟しろ。

 噛みついて、首を捻り取ってや……

 

 

「話したそうに見える」

 

 

 ―――――――――

 

 

「自分の淀みに、決着が付けられないのですね。分かりますよ、それは」

 

「誰かが、それを受け止めないと」

 

 

 自然と、歯を見せてしまった。

 眼に力が寄っていく。

 

 

「! ……駄目よ、図星突かれたからって、止めてあげない」

 

「貴女も、誰かを頼れば良いのです。想いを、ぶつける相手を持てば良いのです。私たちは、それに成れます」

 

 

 純粋な殺意だった。

 小娘共が震えてるのが分かる。

 

 

「言いたくなかったけどね! あたしたちだって、アンタには感謝してんのよ!」

 

「貴女には、貴女の目的があるのでしょう。ですが、その道すがらに、どんな意図があるにせよ、貴女にも助けてもらったことは忘れてしません」

 

 

 拘束具、もう少しで破れそうだ。

 不快な音を出す喉笛も、すぐ潰せる。

 

 

「私は、貴女に、返したい」

 

「もしも、困ってるなら、アンタの力に成りたいと、思ってる」

 

 

 欺瞞だ。

 まやかしだ。

 嘘だ。

 偽りだ。

 幻だ。

 虚偽だ。

 

 だから、だから……

 

 

 

 

「クロノにやったあの剣は、元々、ボクの持ち物じゃないんだ」

 

 

 

 

 言ってはいけなかったのに。

 

 

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