ストーリー読んでたら書いてる暇なかった。
目蓋をあければ、そこはまるで異なる世界であった。
その経験が、彼らは多くある。
弾き飛ばされたか、空間を操ったか。
何にせよ、特異な状況に対応できなければ、生き残れなかったのだ。
だから、彼らは冷静だ。
取り乱す可愛げがあるほどに、彼らは子供ではない。
子供であれる時間が、ない。
用意された運命は極めて険しく、甘えて生き残れる世界ではない。
不測の事態など当然で、突然連れられた地で、到着の瞬間、
迎えられた奇襲に対しても、彼らは一切動じない。
「「「「「「…………」」」」」」
多種多様な攻撃だった。
魔法か、矢か、衝撃波か、剣か。
様々な
引率の役目であるライラは一切動かず、十分な殺傷性を持つソレらを、すべて見逃す。
なので、各々が自力で身を護る。
剣でそっと受け流す。
高速で躱しきる。
対抗属性の魔法をぶつける。
呪いで腐らせる。
僅かな攻撃の安全地帯に逃げ切る。
そして、六人は傷一つ負うことなく、周囲を睥睨する。
戦場における、独特の緊張感。
肌を刺されるような感覚がする。
数多の殺気を感じ取り、先手を取ろうと攻撃準備を密かに整えて、
「すげぇじゃねぇか、新入り!」
「まさか、全部無傷とは。活きが良いのを連れてきたな、ライラ!」
「若いのに、随分慣れてやがるな」
急激に、緊張が消えていく。
攻撃を仕掛けた側の幾人かが、クロノたちへ駆け寄る。
だが、特異な殺気はまったくしない。
既に警戒を解いていて、彼らは既に十年来の友人の距離感である。
少なくとも、これ以上の敵対行動はないと感じたのと、大きな戸惑いから、クロノたちも接近を許した。
「俺はコイツが気に入った! 魔法を剣で逸らすなんて、並大抵じゃねぇぞ!」
「わたくしは、こちらの方が。素晴らしい判断の早さと魔法構築です」
やいのやいのと囲まれ、質問の暇もない。
誰が好きだの、気に入っただの、何が良かっただのと、とても好き勝手だ。
クロノは師を見るが、面倒がっているのか、首を突っ込む様子がない。
「俺は、コイツだな。唯一、防御だけでなく反撃をしてきた。戦慣れと力が、他と別格だ。そこらの砂利が、まるで凶器だったぜ?」
アインだけが、目の前の人物たちを、敵として見て備えていた。
アインの周囲だけに流れる、ピリリとした空気は、全員感じ取っている。
感じた上で、無視を選んでいる。
「あの、貴方たちは……」
「コイツらは下っ端だ」
沈黙していたライラが、ようやく前へ出た。
絡むのが心底かったるい、という心根が、態度に現れている。
「いや、俺らにも名前があるんだが?」
「ローレンツ、マイア、カシオ、レグンだ。人の名前を覚えねぇ奴だな」
「…………」
名を聞いて、アリオスやアリシアが多少動揺を覚える。
戦場において、音に聞く英傑の名と同じ。しかも、先程見せた技と力から、本物である可能性が極めて高い。
「どけよ、下っ端ども。あたしらは、これから用があるんだ」
「相変わらず、偉そうな奴だぜ」
「当たり前だろ」
ライラは、鼻をならす。
散れと言わんばかりに手で周囲を払いながら、不遜を崩さずに、吐き捨てる。
「強い奴が、一番偉いんだ」
そう言いきるライラに、彼らは肩をすくめる。
だが、誰も否定はしない。
クロノたちは、戦慄している。
数多の英雄が一致団結した組織であるとは、知っていた。
熱烈な歓迎からも、彼らがどれほどの使い手かは推し量れる。
そして、力をつけて、分かった事があった。
誰が強くて、自分との距離がどれほどか。
手の届く距離に構える、曰く『下っ端』が居る。
さらに先に、アインという手本が居る。
それよりも遠くに、クロノが師と仰ぐ者が悠然と待っている。
そして、そんな相手が百年余り殺しきれていないのが……
「ボスに会わせる。
「ほらよ、鍵だ」
無造作にライラへ投げられたのは、鍵の形をした魔法式だった。
魔法を形作る前段階の、不完全なソレ。
クロノたちは、ソレに大きく驚く。
本来、魔法として成立しなければ、すぐさま消え去るはずの式。いわばカンバスに描く予定の絵の構想が、そのまま飛び出たようなものだ。
恐ろしい技術の塊が、どのような意図の元で使用されるか。
鍵を、宙に押し込み、捻る。
すると、そこには扉が現れる。
分かる。
特に、魔法を主体として戦うアリシアは、痛い程に分かる。
この技術が、幾星霜の果てに生まれたのだ。
扉の先にあるナニカを、隠し、護るための。
「気を付けろよー」
気楽に、英雄の一人が別れを告げる。
ライラは振り替えることなく、先へ進む。着いて来いとでも言わんばかりに、指で招いている。
ほんの一瞬、覚悟を定める時間を各々で設けた。だが、その一瞬の間に、迷いなく後に続くアインに、呆れと頼もしさを感じる。
クロノたちは、導かれるままに、扉を潜る。
歩く。
まるで、宇宙を歩くように、瞬く煌めきと闇に包まれている。
どこまで続くか、検討も着かない。
歩く。
お互いの存在だけが頼りな、何もない空間。
黙れば耳が聞こえなくなったのかと錯覚するほどの、残酷な沈黙が顔を見せる。
明らかに、生物が住んでいい場所ではない。
ナニが納められているか、想像すら叶わない。
歩く。
道標がなければ、とっくに道を見失っていただろう。
先導するライラという灯りは、それほどに鮮烈だ。この空間は、それほどに広く、それほどに来訪者に優しくない。
奥へ奥へと進みんでいく。
そして、突然、
「莨昴∴縺ェ縺代l縺ー…………」
深淵を見る。
「…………!??」
突如現れたソレに、全員が総毛立つ。
「莨昴∴縺ェ縺代l縺ー…………」
「紹介する。アレが、あたしらのボスだ」
剣を杖にした、男だった。
うつむき、影になっているので、殆ど顔は見えない。
老いているのか、若いのか、分からない。
理解不能な言葉を繰り返していることから、心神喪失の状態なのかもしれない。
しかし、立ち姿だけで分かるのだ。
コレは、あまりにも次元が違うと。
「何百年前からこうしてるか知らねぇ。随分昔から、イカレちまってる。意志疎通も無理だ。だけど、コレはあたしらのボスだ」
「…………」
「来歴は、誰にも分からん。どこの誰か、知る奴は居ねぇ」
人語すら介せない者が、何故ボスか。
理由は、語るまでもない。
究極で圧倒的で、絶対的な力を有するソレを祭り上げた者が居たのだろう。
「教団を滅ぼす。それだけが目的の奴だ。まったく理解不能だが、その関係者は肌で感じ取りやがる」
「莨昴∴縺ェ縺代l縺ー……」
「洗礼だ。ボスに揉まれてな」
何故、ボスに会わせると言ったか。
理由は明白、一つしかない。
何かしら、教団に縁があるクロノたちが、これの前に立てば、どういう目に遭うか、想像がついているのだろう。
ボスと呼ばれたソレは、未だピクリとも動かない。
だが、クロノたちへ意識を向けているのは、なんとなく察せた。
強くなるための、ライラからのスパイスだ。
戦いの場を用意するのは、とてもシンプルで、手っ取り早いプレゼントだ。
各々、武器は抜く寸前。戦闘の用意は、いつでもできている。
一秒後か、十秒後か、それとも刹那の後か、欠伸を挟むほどの後か。
その後に、きっと、切り結ぶことになるのだろうと予感する。
その瞬間のことだ。
「……誰だ?」
耳に届いた声に、全てが止まる。
「アイン……?」
呼び掛ける声は、意志というものをまったく感じなかった。
「誰だ? 誰だ、誰だ?」
不用意に近寄る様は、明らかに異常だ。
光に集まる虫のようで、正気とは思えない。
その様子に、ライラですらも、困惑を見せていた。
「ボクの記憶に、居ない……。こんな奴は知らない……。なのに、何故……?」
「おい、どうした? ていうか、そろそろ離れろよ、ボスの間合いに……」
「!」
頭に手を添え続けて、足取りも覚束ない。
耐え難い苦痛に侵され、何も考えられなくなった病人は、こうなのかもしれない。
様子がおかしかった時は、幾度もあった。
今回の乱心に、最も近しかった瞬間は、
「何を、思い出し……」
アリシアとリリアが、初めて見た、アインの胸の内をさらけ出した時。
その狼狽を、彼女らは忘れない。
目蓋の裏には、未だにその時の光景が残り続けている。
「誰だ……?」
「莨昴∴縺ェ縺代l縺ー……」
「お前は、誰だ?」
力が高まっていく。
そして、
「莨昴∴なければ……」
「言え」
アインは、威嚇のために牙を見せる。
酷く、獣的であり、激情と困惑があらわになっている。
そこまでになって初めて、クロノたちは我を取り戻し、
「待っ……」
「ボクの記憶に居座るお前は、誰だ!?」
アインがソレへ飛びかかった次の瞬間、
アインの四肢は、切り落とされた。