いつの間にか悪の組織の幹部になっていた件   作:アジぺんぎん

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161 頂上戦 破

 

『これでも、一応使徒のひとりだしね。名乗りくらいはしてみようかな』

 

 

 アインは、初手に動かない。

 

 思惑として、あえてそうする合理的理由はない。

 合理的ではない理由を挙げるとするならば、力を抑えていた時ならともかく、今は正真正銘、世界最強の生物に戻ったためである。

 四百年余り、生物の頂点に陰ながら君臨してきた者の自負がある。

 真っ直ぐ、歪まず、大樹のごとく根差すもの。

 悪くない知り合いたちとの最後の勝負という場面で、小細工や瞬殺というつまらない展開は、想像にすら浮かばないのだ。

 

 横綱相撲、という単語の記憶はある。

 全てを真正面から受け止め、それでもなお圧倒し、凌駕する。

 これほど自分に合う言葉はないと、信じてすらいる。

 自分の力に、誇りと自負があるのだ。

 それ以外のやり方を、もはや知らないとすら言ってもいい。

 

 

『使徒としてのコードネームは、「超越者」。研究のコンセプトは、「神の超越」』

 

 

 全てを見逃す。

 全てを受ける。

 受けて立たなければ、殺した所で勝ちではない。

 こうでなくては、平等ではない。

 そんな傲慢が、アインには許されている。

 

 クロノたちにとって、この傲慢は、甘えこそすれ、はね除けるものではない。

 だから、全力の一撃をぶつけるつもりだった。

 

 

『世界で最も強い命。既に突出した力が、さらに突き抜け、サイの角のように独り歩む。いつの日か、「神」すら越える権能を手に入れるまで』

 

 

 巨大な力が、集約していく。

 四人の『天使』と、その主たる『神』。

 甘えているからこそ、恥も外聞もなく、備えられる。

 

 中核は、もちろんクロノだ。

 その力の根幹、『支配』によって、四人の『天使』の能力を纏めていく。

 アリオスの雷は、自然現象のそれとはまったく別の領域となる。単体でも天を揺るがし、破壊という概念を内包する。

 その雷に、純粋なエネルギーを付け足していくのが、アリシアの技である。アリオスの力に同調し、雷は太さを増す。まったく同じ質の力を再現する、体質という、無限に近い変数を割り当て、自然な足し算に落としこむという離れ業だ。

 それらに付け足す、リリアの呪いは、触れるもの全てを蝕む力がある。『天使』となって毒性はさらに獰猛になり、魂にすら及ぶだろう。

 さらに、ラッシュの力で、それら全てを補強し、一段階昇華する。五人の力が、かけ算的に跳ね上がる。

 

 一点集中。

 そこまでやって、狙う先は、ただひとり。

 

 

『最後の使徒である、このボクの力を見せよう』

 

「「「「「―――――――――!!!」」」」」

 

 

 無音。

 世界の上のあらゆるモノを呑み込んで、書き換える。

 この瞬間、次元より、因果より、彼らの意志が優先された。

 

 衝撃波だけで、半径五キロは消し飛んだろう。

 街が近くにあったなら、建物も命も、全部を平等に破壊していた。

 少なくとも、彼らにとっての奥義だ。

 実用性度外視の、直撃すれば守りを固めた使徒すら消し炭にする。

 

 それを、

 

 

『さあ』

 

 

 慢心なく、手心なく、本気で殺しにかかった。

 こんな機会は二度とないから、それを活かして全力以上を出した。

 後先を考えず、できる限りの『一度』を出した。

 破壊の力は世界をへし折り、煙と爆炎と、空間のねじれを巻き起こした。

 確実に命を獲れる一撃だった。対象は様々な障害物で見えないが、()()()()()()程度なら、今ので死んでいる。

 だが、それでも視線を逸らさない。

 

 何故だか、確信があったのだ。

 上回れないという、悪夢のように根差す想像が。

 そして、それを叶えるがごとく、目前の化物の様子を様子が分かる。

 

 当然のごとく無傷でやり過ごす、アインの姿がそこにはあった。

 

 

 

 

「化物め……」

 

『推して参る』

 

 

 

 

 ごく自然にアインが一歩を踏んだ先は、普通の一歩先ではない。

 目算、三百メートルは離れていたはずのソレが、前へ小さく踏み出す。

 すると、空間の繋がりが無視され、一歩先はそのままクロノたちの目前になる。

 仮に『転移』の魔法なら、扉を開いて通るような、ワンアクションがあるだろう。しかし、今のはそんな起きて当然の動作の『起こり』すらなく、一歩踏んだ先が自然と異なる場所へ繋がった。

 

 

「!!?」

 

 

 もはや、一瞬とすら呼べない空白の時間。

 それでも、防御や反撃、そうした行動を取れなかった時点でゲームオーバーだ。どれだけ驚異的な現象を目の当たりにしたとて、タイムラグなく即座に最善の対処が必要になる。

 それだけ、『最強』を前に無駄を晒すことは罪深い。

 果たしてクロノたちは、そんな最初の試練、いや、戦闘を成立させる上での大前提をクリアできたのかというと、

 

 

「――――――!!!」

 

 

 予知による先読み、人間では反応不能な速度での反射、事前に置いていた魔法の発動、肉体の呪詛化による流体的回避、仲間の動きからの予測。

 それぞれがそれぞれのやり方で、大前提をクリアする。

 さらに、五人の内、二人は回避と反撃の中から後者を選んだ。 

 クロノの剣は、巨狼の首を狙って振り下ろされ、その上でアリシアの魔法により、熱線が随所を狙う。

 

 

『虚しい日々が、終わらないんだ……』

 

 

 クロノは、魔剣『■■』の力をまっとうに使いこなしていた。

 折れず、曲がらない不壊の剣。

 その力の大部分を支配し、この世界の誰よりも上手く操っていた。

 名剣を素人が振るっても、藁束すら切れない。振る人間が名人なら、なまくらでも鉄を切る。この場合のクロノは、世界一の名剣を、世界一の剣士が扱っていると言って良い。

 文字通り、神がかり的な剣撃のはず。

 

 だが、その剣でも、骨にすら届かない。

 

 

『いつだって、思い出すのはあの頃だ。何を見ても、感じても、色褪せた世界から、色が戻らない』

 

 

 アリシアの熱線は、クロノが付けた僅かな傷を抉るためのもの。

 咄嗟に放った魔法ではなく、必殺と呼べる殺傷性はあった。

 アリシアは今や、あらゆる『魔』を司る存在となり、その体は『魔』によって構成されている。細胞の一つひとつが超高位の魔法でできた、意志を持った数多の魔法である。

 

 先ほどの攻撃は、アリシアの別け身のひとつ。

 戦術級の破壊力を込めていた。

 

 それも、命にはまったく届かない。

 

 

『何をしても、つまらない。あの頃に比べれば、なんと枯れ果てたことだろうか』

 

 

 巨狼の爪が、無造作に振り下ろされる。

 

 軌道にあるかどうかは、関係ない。

 遠近を無視し、効果範囲内の全てを切る。

 防御も、回避も、無駄に終わる。

 この攻撃は世界の何よりも優先され、当然、当たらないはずがないし、当たればその部分は崩壊する。

 

 

『日のない世界は、滅びるだろう? だからもう、ボクの世界は死んだ後なんだよ』

 

 

 アインの攻撃は、外れるはずがない

 アインの攻撃を受けて、耐えられるはずがない

 

 そんな概念を内包しているのだ。

 起き得る現象が、確認など飛び越して当たり前だと確定する。

 世界が、自分勝手に傲慢なルールを押し付ける。

 

 攻撃を受けた五人は、傷口から加速度的に『滅び』が広がった。

 しかし、リリアとラッシュが、『滅び』による死を許さない。

 

 

『虚しいんだ。生きていけないくらいに。でも、死ねないんだ。このまま死んだら、()()()()の結末が未来に残らないじゃないか』

 

 

 リリアの呪詛は、目に見えぬ概念にすら届き得る。

 アインの概念攻撃を呪うのだ。

 絶対的な一撃も、ヒビが入れば脆くなる。堅固な建物も、虫に食い潰されることすらある。

 しかし、巨大であることには変わりなく、押し潰されれば当然死ぬ。

 

 そこを、ラッシュがカバーした。

 脆くなった効果を、即座に分解する。

 あらゆる存在に紐付く情報を、書き換える形で、対象を強くも弱くもできる。

 あるいは濃く、あるいは薄く、あるいは速く、あるいは遅く。そうして、味方を不利から有利へ、敵を有利から不利へと変える。

 負った傷も、すぐに癒せた。

 だから、

 

 

『ハッピーエンド、なんてホントクソだよ。だって、ただ死に場所を失ったってだけなんだから』

 

 

 ラッシュが仲間の回復の後にしたのは、アインの情報の書き換えだ。

 埒外の堅さの、金剛石の身体を破らないことには、どうにもならない。

 直に触れ、仲間が通る道を作ろうとする。

 

 

『飽いた玩具を捨てるように、ボクらも運命に捨てられた。沢山の困難を乗り越えて、成し遂げて、それでも最期はあんなものだった……』

 

 

 無い道を作る、通る点を生み出す。

 青くも尊き覚悟であった。

 

 しかし、願いの貴賤を問わず、アインの牙は全てを貫く。

 

 

『何故、殺したか? 何故、戦うか? 理由は、とてもシンプルさ』

 

 

 胴体が消し去ったラッシュの体が、アインの近くから消える。

 アリシアが魔法で引力を発生させ、戦線を離脱させたのだ。

 もはや人間を辞めた命ではあるが、巨大な欠損は死に繋がりかねない。数秒でも、傷を癒すための時間が必要となる。

 

 それに合わせて、クロノ、アリオス、リリアは動いていた。

 未来を知る最適の剣が、雷を越える速さを得た刺突が、素っ首を狙う。呪詛はリリアたち側と、アリシアとラッシュ側を隔てる壁として、アインを侵食する猛毒として、大質量が蠢きたつ。

 

 

『ボクらは、過去に囚われた。もう、そこでしか生きられない。だから、生きるための侵略なんだよ、これは』

 

 

 アインは、吠えた。

 

 剣を受け、呪詛を呑み込んだ直後だ。

 咆哮による音と風の爆弾。だが、アインのそれは爆撃と変わらない。

 地面がめくり上がり、衝撃波により何もかも吹き飛ばす。アリシアとラッシュを加害するには、あまりあった。

 

 さらに、世界は変化を遂げる。

 

 

『道は一つ。歩めるのは自分か、他人か。なら……』

 

 

 歪み、捻り、軋み、変わる。

 アインの命令は、『星』の形すらねじ曲げる。

 

 大地が波打ち、揺れた。

 地面そのものが崩れ去り、立つことすらままならない。

 何が起きたのか、理解する間はなかった。

 クロノたちからすれば、生き物のように動く大地と、消える景色と轟音だけが、手がかりだった。

 

 いったい、何が起きたのか。

 アインは『星』に命令し、周囲の大地の形を変えたのである。

 すると、合わされば、山が何個できあがるか分からない量の土や岩が盛り上がり、アインを含む全てを内に包む形で球体が作られていった。

 アインの咆哮から立ち直るまでの間に、天は土砂によって塞がれた。

 

 瞬く間に、逃げ場はなくなる。

 極大の土と砂と石と岩が混ぜられて、周囲を取り囲んだ。

 そして、

 

 

『お前らが死ね』

 

「――――――!!」

 

 

 その全てが、落ちてくる。

 

 それは、一つの国を掘り返すような。

 こんな災いを、意志をもって起こせるのだ。

 限界を越え続け、独力で『神』すら上回らんとする怪物の真価の一端は、敵の心をへし折るには十分すぎる力だった。

 力の規模が、アインとその他では、違いすぎた。

 

 

 ※※※※※※※※※

 

 

 均した世界に、立つのはただ一人だけ。

 獣の四足は大樹のように土に根差し、立ち尽くしている。

 世界は大きな変化を遂げた。

 山も、谷も、森も、平地も、命も、全部が均された。

 不変を貫いたのは、均した張本人だけだった。

 

 

『お前ら、強くなったからボクに勝てると思ったのか?』

 

 

 アインの冷たい声が響く。

 失望と軽蔑を隠そうともしない。

 とても大きな溜め息が聞こえるくらいに、この侮蔑に力がこもっていなかった。

 

 

『多少強くなろうが、お前らごときに負ける道理があるか。年季が違うんだよ、ボケカス』

 

 

 嘘を吐くつもりは、毛頭無い。

 純粋にスペックが違うのだ。

 アインに並び立てる存在は、過去にも今にも未来にも居ない。

 前にも横にも誰が立つことも許さない。

 遥か高みから傲慢に、『最強』を背負ったからにはかくあるべしと定めている。

 

 だから、罵る。

 聞こえずとも、知らずとも、傲慢に。

 そのようにあるべきだと、他の誰でもなく、自分が決めたから。

 

 

『……ボクは、舐められるのが嫌いだ』

 

 

 睥睨するだけで、世界が揺れる。

 アインの感情に呼応し、応えているのだ。

 青が広がる空は、急遽暗雲が立ち込め、雷鳴が落ちる。水平線の彼方では、大きく波が唸り、闘争を前に猛る獣のように荒ぶる。地鳴りは大きく、常人なら立っていられない。

 数多の災害が、『星』では同時に起きていた。地震も、嵐も、噴火も、洪水も、あらゆる天災が、この『星』の王を迎え入れていた。

 

 

『ボクにも、誇りがある。戦うのなら、相手の全部を、引き出してなお上回ると決めている』

 

 

 強い怒りは、憎悪にも似ていた。

 求めているもの以外、何一つ認めていないのだ。

 癇癪でしかないのだが、この癇癪はひとつ間違えれば世界を滅ぼす。

 世界とは、人間社会という狭い範囲ではない。

 この『星』の遍く生命、環境、自然のことだ。

 

 

『……どれだけ、外法の術を使おうが、「星」からの裁きはないぞ。ボクは「星」の使徒でもあるから、対処は為された扱いだ』

 

 

 際限なく高まる圧力。

 緊張が、いつ弾け飛ぶか。

 

 

『というか、勝負に横やりをこのボクが認めるものか。この程度で死んだとは思っていないぞ』

 

 

 そして、

 

 

 

「――――――!!!!」

 

『それでいい』

 

 

 アリオスの超雷速の一撃を、体で受ける。

 アリシアの魔法で大気が爆発するが、キノコ雲の真ん中でも膝は折れない。

 リリアの蝕み、殺す猛毒の呪詛を、補食する。

 

 それは、全てが無かったことになるように、そこだけ世界が隔絶しているかのように、絶対の法則を敷く防御を用いたかのように。

 あらゆる術理が、無に帰していた。

 

 

「本当に、どうなってるんだ?」

 

「タフとか、そういう次元じゃありません。何か仕掛けがあるはずです」

 

 

 効きはしなかっただろう。

 痛くも痒くもないだろう。

 しかし、理不尽を前に折れない彼らの眼差しが、アインの闘志を刺激する。

 

 

「なら、なんとか隙を作らないと……」

 

「俺が、触れれば、もしかすれば、情報を読み取れるかも……」

 

『くだらないことに気を回すな』

 

 

 こういう者たちだからこそ、アインは気に入っていた。

 不気味に、不遜に、理解できない怪物として、歪に嗤う。

 お前たちとは違うのだと、見せつける。

 

 

『ただ、戦え。全力を尽くせ。そして、成長することに注力しろ』

 

「なあ、アイン、お前……」

 

『そのための手助けは、ボクがしよう』

 

 

 力について、アインは誰よりも知るところ。

 迷える若人たちの導き手は、最も効果的なやり方を理解している。

 一層、アインの圧力が増した。

 クロノたちを威圧するためではなく、世界へ負荷をかけるために。

 

 

『いい加減、起きろ「■■」。お前、曲がりなりにもクロノを主と認めただろう? このままじゃ、負けるぞ?』

 

 

 誰に話しかけているのか、その名を、世界の誰も聞き取れない。

 真理には蓋がされ、窺い知るには鍵を開けねばならない。

 そして、アインはその鍵に手を掛けている。

 

 

『かつて、「勇者」が所持した、対の聖剣のひとつが、この様か?』

 

 

 がんがんと、鍵を壊そうとしている。

 ひたすら乱暴に、この『星』の次元と概念と存在を揺らす。

 突き抜けた暴力が、世の理にヒビを入れる。

 

 

『もう、隠れてる場合じゃねぇぞ! 腹ぁ括れ、全員覚悟してきただろ! 今日がその時だ!』

 

 

 そして、禁忌の名を高らかに叫ぶ。

 教主による封印を破り捨てる。

 今はただ、記憶から消えない空前絶後の闘争を求める。

 

 

『目覚めろ、聖剣「天空」! ボクではなく、ソイツを選んだのなら、相応の力を見せてみろ!』

 

 

 次の瞬間、クロノの剣はまばゆい光を放つ。

 世界が確実に、変化する音がした。

 

 

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