いつの間にか悪の組織の幹部になっていた件   作:アジぺんぎん

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明けましておめでとうございます
多分あと五、六話くらいですが、今年もよろしくお願いします。


165 悪あがき

 

 アインの最大の武器は、『星』を上回るエネルギー量と、それを完璧に使いこなす技の極み。

 シンプルだが、付け入る隙がない。

 何よりも硬く、重く、しなやかで、速く、そして強い。常に状況への回答を複数持ち、攻撃も罠も心理戦も、的確に対処する。物理的・魔法的攻撃は、硬さで弾けも、技で受け流せもする。

 仮に呪詛や因果律干渉といった、異能を使われたとして、そもそもの存在が大きすぎるせいで効きが悪く、致命になるまで持たない。

 

 逆に、攻撃は一撃が必殺の威力が宿る。

 宿ったエネルギーに質量を持たせるだけで、簡単に押し潰せるだけの力が出るし、それが音速の数十倍の速度で飛んでくる。

 もしも、エネルギーを活性化させたとすれば、嵐を『星』の全てを覆い、死の星に変えることもできる。

 かといって、素人のように暴れまわるだけではなく、途方もない積み重ねの上に成り立つ合理のもとで使われる。

 技の引き出しは、きっと世界で一番多いだろう。

 

 さらに言えば、『星』からのバックアップも受けている。

 アインは、『星』の化身なのだ。

 これまでの力は基本スペックとして、自然にある大地や海、空気や空間まで、それがこの『星』のものならば、あらゆる存在に優先されて操作できる。

 そして、大規模な天候や大地の操作はオマケでしかない。

 本命は、『星』からかけられた期待。

 巨大な存在、広く信じられる概念、そうしたものには、力が宿る。思考のうねりは、乗せられた感情は、微かなれども熱を持つ。それが集積すれば、ひとつの世界ができてしまう力を持つのだ。

 だから、『星』から全幅の信頼を寄せられることは、計り知れない意味を持つ。

 ただでさえ最強のアインは、この『星』においては、戦いでは絶対に負けない。

 

 これが、ただひとりで『神』をも上回った力を得た怪物だ。

 時間を止められない。人の心を操れない。他人の傷は癒せない。因果を操れない。強力な武器は持たない。炎や氷などを生み出して操るのは専門外。

 万能かと問われれば、違うと言える。できることは、絶対に少ない。

 

 だが、強すぎた。

 その一点だけが、凄まじすぎた。

 

 ただひとり、次元の極点に至れた異端なる生命。

 それが……

 

 

「はあ……はあ……!」

 

「…………」

 

 

 たった二人を倒せないほどに、弱っていた。

 

 

「ねぇ……」

 

「分かっている」

 

 

 最盛の頃は、見る影もない。

 倒れないようにバランスを取るので精一杯。

 もはや、意識も途切れつつあり、アリオスたちが見えているかも怪しい。

 

 しかし、それは仕方ないことだ。

 何故ならば、アインは心臓を盗まれた。

 人間のそれとは異なり、アインの心臓はエネルギーを留めるための重要器官。

 取られたと共に、エネルギーのほとんどを失い、残ったエネルギーも制御できずに荒ぶり続ける。

 核を失った原子がどんな状態になるか。

 それが、今のアインの状態だ。

 

 

「!」

 

 

 だが、それでも、アインは勝ちを諦めない。

 

 

「化物だな、本当に……」

 

「感心してる場合じゃないわよ」

 

 

 アリオスの雷の速度の剣も、リリアの呪詛も、アインは捌く。

 雷剣は、エネルギーの動きから攻撃のタイミングを予感する。雷の熱は、『星』の操作権限をもってアインの体を逸れるように調整した。

 呪詛は、『星』とのパスを強化し、受けた分を『星』へ押し付ける。肉体的にダメージは追うが、汚染された皮膚は切り離し、端から再生させていく。

 

 全てが同時に、一瞬の内に行われる。

 神業と呼ぶ他にはない。

 

 

「――――――!!」

 

 

 アリオスの喉への突きに対して、ギリギリで躱して腕の延びきった所を掴み、地面に叩きつける。

 仰向けになったアリオスの心臓を踏みつけ、同時にリリアの元へ駆ける。

 

 

「いい加減に、しなさい!」

 

 

 触れれば、端から腐る呪詛の鎧と大槍を構える。

 既に全身を覆い、触れられないリリアに対して、アインは投石をもって攻撃する。

 エネルギーを込め、圧縮し、固めた拳大の石は、鋼を遥かに上回る強度を得る。それを力任せにぶん投げた。

 

 

「!」

 

「舐めてる、からだよ!」

 

 

 槍で迎撃を試みるが、着弾の瞬間、石の座標はリリアの背後に入れ替わる。

 無防備な背中から攻撃を受け、仰け反った瞬間、アインは無防備なリリアに飛び蹴りを喰らわせる。

 土による具足で保護をしながら、完璧に決まった。

 

 

「ぜ、え、え……」

 

 

 白黒する視界に堪え、曲がりそうな体に鞭を打ち、最善手を取る。

 アインは追撃より先に、飛び蹴りに使った左足を、すねの半ばから切り落とした。

 今のコンディションでは、対策を立ててもリリアの呪詛による汚染を防ぎきれない。その箇所を離して対処する。

 

 そして、切り落とした足が呪いに侵され切る前に、それを掴んで背後から迫るアリオスをぶん殴った。

 

 

「まだ、ハンデが、必要、かぁ?」

 

「……見てられん」

 

 

 リリアの呪詛は、主の仲間を襲わない。

 ダメージの要因は、アインに力一杯殴られたことだけだ。

 強烈な一撃をもらいはしたが、まだまだ動ける。

 

 対してアインは、明らかに失うものは大きかった。

 強がっているが、気力が落ちている。

 切り離した足の再生ができていない。本来、リリアの呪いは魂にまで及ぶのだ。ちゃんと効けば、再生などという横紙破りは許さない。

 

 

「もう、勝敗は見えている」

 

「あ?」

 

「このまま削り続ければ、俺たちが勝つ」

 

 

 悲しそうに、アインを見る。

 ここまで弱っているのかと、驚愕する。

 

 

「貴女は、本当に凄まじい。きっと、そのコンディションでも、俺たち二人では崩せない」

 

「ボクは、負けないんだよ。お前たちは、ボクには、勝てない」

 

「だが、ずっとは持たない。こうして待つだけでも、貴女はいずれ死ぬ」

 

 

 冷徹で、当然の真実である。

 ただ、待って守りを固めるだけで、アインはそれで終わる。

 もはや、リリアの呪いを耐えられないのは、証明された。

 

 

「……武に生きるなら、かかってこい。師を越えれずに終わっても、」

 

「挑発には乗らない。俺たちの目的は、クロノを守ることだ」

 

 

 アインを、絶対に舐めてはいけない。

 どんな死にかけでも、獣は獣だ。

 

 あくまで、冷静に、慎重に。

 師を越えたい、救いたい、武の頂に挑みたい。そんな、嘘偽りない本心に蓋をし、優先すべきに力を注ぐ。

 武人ではなく、戦士としての心得。

 クロノを守る以外のことに、もはや揺れはしなかった。

 

 アインは小さく口を開け、何かを言おうとパクパクと震わせる。

 続いて、肩を僅かに落とす。

 

 

「……マジで、よく育ったな、お前。いや、お前らか」

 

 

 ポツリと、そう呟いた。

 とてもしみじみと、深く溜め息をつくように。

 うら若い声だが、とてもしわがれていた。

 計り知れない苦悩が、気の毒なほどに伝わった。

 

 

「もう、諦めなさい。静かに、看取ってあげたいのよ」

 

 

 偽らざる本音だった。

 アインは、戦いに身を置き続け、ついには捨てられてしまった憐れな迷子だ。

 どこにも行けず、空回り、無為に生を終えようとしている。

 だから、最期くらいは、穏やかに。

 そうした願いをかけることは、きっと間違いではないはずだ。

 

 

「……ふふ」

 

 

 アインの苦痛は、想像を絶するはずだ。

 暴れ狂うエネルギーを、精神と技術で無理矢理に抑えつけ、破壊される体を維持している。

 もって、五分で限界が来る。

 命の終わりを感じる。うたかた中で冷たい泥に沈んでいく感覚がする。

 

 だから、

 

 

「殺す」

 

 

 殺気が膨れ上がり、空気を張り詰めさせた。

 終わりかけの命を燃やし、ろうそくの減りを著しく早める。

 一撃、一瞬にかける重みは、並大抵ではない。

 原動力は、怒りである。

 舐められて、そのままで終わるような、中途半端な真似は、死んだとて許せない。

 

 もはや、言葉は必要なかった。

 

 

「ラッシュ、アリシア! クロノを守れ!」

 

「「…………!」」

 

 

 リリアの呪詛による質量と毒の壁。

 アリシアの多次元結界による隔絶。

 ラッシュは減速とショック吸収の術をアリシアの壁へ付与。

 アリオスは、地面に突き刺さったクロノの聖剣『天空』を手に取る。鞘に納め、全エネルギーを込める。居合斬りなど、アリオスは知らないが、迎撃にはこれが最善と本能で知る。

 

 対して、アインは裸一貫。

 クラウチングスタートの姿勢で、全身の力を漲らせる。

 暴走するエネルギーを解き放ち、指向性を死にかけのクロノへ向ける。加速度的に体が燃焼していく。

 武具はなく、権能もなく、あるのは死にかけの体と技だけだ。

 しかし、

 

 

「嗚呼、何でボクは、こうなっちゃったんだろうなぁ……」

 

 

 一歩で音速を数倍、二歩目で熱で体が赤くなる。

 もはや大地を蹴る意味はなくなり、翔ぶ様はまるで矢の如し。

 世界を局地的にねじ曲げるほどのエネルギーを乗りこなし、ただ、正面の壁をぶち破るために費やされる。

 

 

「「「!」」」

 

 

 呪いに侵されきるより前に、大質量の呪詛の壁をぶち破る。

 次元の隔絶すらも、紙のように破られる。

 あらゆる弱体化をもろに受けつつも、それでも勢いは留まらない。

 

 そして、

 

 

「ありがとう、師よ。さようなら」

 

 

 アインの攻撃がクロノに届く直前。

 アリオスが振るった『天空』は、アインを肩から切り裂き、腹まで届かせた。

 

 

「…………」

 

 

 ぼたぼたと、赤い血が滴った。

 怪物としてではなく、人として真っ当な流血だった。

 夥しい血が滝のように流れ、クロノの切り取られた胸の穴を満たしていった。

 

 

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