いつの間にか悪の組織の幹部になっていた件   作:アジぺんぎん

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166 『超人』アイン 壱

 

 ボクの過去なんて、別におもしろいものじゃないよ?

 だって、これまで色々匂わせてたけど、大抵は言っちゃったからね。

 こういうので、『実はこうだったんだ!』なんて展開はない。普通に、きっかけがあって、やりたいことができて、そのために必死に頑張った。

 流れはもう分かってるんだし、捕捉くらいしか喋ることはない。

 

 ただ、それは何もかもが間違っていた。

 始まり方は悲惨極まりなく、至った結論は明後日の方向で、頑張り方もやってはいけない方法だった。

 結局、何もかもが空回り。

 飽きるほどの時間と、信じられない犠牲の末に、何も得ることはできなかった。

 

 そういう失敗の物語なんだ。

 映画館で見たなら、ボクは途中で帰るね。

 映画はエンドロールまで見る派のボクがだぜ?

 とってもつまらない話なんだから、したって仕方がないだろう?

 

 お前たちは、ボクを降した。

 敗者の物語なんて、忘れ去られて然るべきだ。

 古きも、弱きも、等しく置いていかれる。

 その摂理を、ボクは否定するつもりはない。

 だから、お前もボクのことなんて、ただの敗者として忘れてくれればいいんだ。

 

 あん?

 そりゃ、お前の都合だろ。

 ……いや、敗者は勝者に従うものって、そう言われたらアレだけども。

 

 

 ………………。

 ああ、分かったよ。

 ここまで来て、ボクの口から語らないのも変な話か。

 まあ、座れよ。ここは、魂の世界だ。ゆっくり喋っても、外じゃ一秒も経ってないだろうさ。

 

 

 始まりは、多分四百五十年くらい前?

 ボクが母の胎から産まれた時、世界はもっと混沌としていた。

 魔王が台頭し、世界中の魔物たちをまとめ上げ、人間と大戦争を繰り広げていた頃だ。いつ誰が死ぬかわからんアポカリプスな情勢だったよ。

 

 今となっちゃ、世界での争いは人と人だけど、昔は人と魔物がするものだ。

 敵と味方がハッキリ別れてて、しかも、旗色はだいぶ悪かった。

 平和な世の中からじゃ、想像もできんだろうが、みんな生きるので必死だった。

 食うに困った野郎共が、野盗やるのなんて当たり前。奪われ殺されたり、返り討ちにあって豚の餌にされたりさ。

 

 いや、都会の方ならもう少し治安は良かったかもしれんよ?

 ボクは田舎出身だったから、余裕のない生活しか知らない。

 でもまあ、都会も上流階級以外はそう変わらんかったかとしれんが。少なくとも、口減らしくらいは普通にしてたでしょ。

 

 うん、まあ、酷いもんだったよ。

 何が酷いって、人を殺すことすら、仕方ないって諦められてた。

 自分たちが苦しいから仕方ない。皆してることだから仕方ない。罪の意識に耐えかねて、皆そうしてくだらない言い訳をする。

 いや、殺すこと自体は、完全にダメとは言わんさ。ダメなのは、低きに流れ、絶望に折れ、弱さばかりが目立ってしまった時流。

 あと、単純にボクが苦労したってことだ。

 

 言った通り、普通にあるんだよね、口減らし。

 ボクは田舎生まれだし、育てられる人間の数には限りがあった。

 

 娯楽がない時代だからさ、産む気もないのにやることやるんだよね。

 生まれて、四ヶ月くらいかな。

 母親が粘ったんだけど、結局は豚の餌になることが決まった。

 

 いや、ホントだよ。

 倫理観なんて、まるで役に立たないんだ。

 赤ん坊も老人も女も、そう決められたなら殺されて、家畜の餌にしてしまう。

 残酷でも、冷酷でも、そうしなければ死んでしまう。

 だから、嫌でも皆やるんだよ。

 

 とはいえ、ボクもくびり殺される訳じゃない。

 所業は鬼畜だけど、流石に自分の手でしめる勇気はなかったみたいだし、死ぬまでまず放置しようとしたらしい。

 普通なら、それで死ぬだろうね。で、みじん切りにして肉団子ってもんさ。

 

 ボクが死ななかった理由は、ボクがただの無垢な赤ん坊じゃなかったからだ。

 異なる世界から転生し、既に知性と理性を獲得してる存在だなんて、知りようもないか。

 

 産まれてから、ずっとヤバい空気は知ってた。

 あと、魔力やらなんやら、不思議とそういうものを感じてた。

 首が据わって、動くこと自体はできる。魔力で身体強化なんて習うわけなかったけど、できなきゃ殺されるかもって思ってた。

 だから、言葉を覚えるより前に、ボクは体をより強く動かす術を覚えた。死にたくない一心で、ボクは強くなろうとした。

 

 いつまでも死なず、豚の乳で育ったボクを、村人たちは普通に怖がったよ。

 こういう不気味な光景を見るとね。人は、恐れて避けるのさ。

 恐怖が限界に達する前、多分二歳くらいかな? 生まれ育った村を出たのは、そのくらいの時だった。

 

 強くなったと言っても、所詮はガキだし。

 その時は、まだ武器を持った大人たちを相手にできるほど強くなかった。

 ……ボクの母親も、飢えと寒さで死んだから、もう残る理由もなかったしね。

 

 かくして、ボクは人の世から離れた訳だよ。

 ん? 村はどうなったのか?

 知るわけないじゃん。もう、二度と戻らなかったんだから。

 いや、別に恨んだりした訳じゃない。当時はただ必死だったし、思い返しても仕方ないって思えるからさ。

 思い入れも、何もないんだよね。その過去をさらい出すためのリソースももったいないし。

 

 ただ、母の最期の言葉くらいは、聞いてやっても良かったかもな。

 このボクを産んだんだ。どんな扱いを村から受けたか、想像に難くない。

 恨み言を受け付けないなんて、不義理なことをしたもんだ。

 

 

 ……その後の放浪は、とても長かった。

 よくわからん茸を食って、腹を下した回数は百じゃきかん。

 大半が森の中だった記憶だね。

 もう、平衡感覚って全然なくなる。

 ずっとどこかへ彷徨い続けて、どこを目指す訳でもなかった。

 

 弱肉強食サバイバーな日常だったよ。

 文明を忘れ去り、来る日も来る日も殺し合いさ。

 無人島で生き抜く動画とかってボク見ないし。

 火の起こし方と水の濾過のやり方くらいは知っておいても良かったかもだけど、覚えてないから仕方ない。

 小動物を食い殺す。自分より体がでかい獣は避ける。飢える日は当然あるから、土を食って腹を満たす。

 

 食事で満たされたことなんてないよ。

 だって、別に美味しくないし。

 火も通してない肉を、骨ごと食い散らかすだけだ。

 血生臭いし、食いにくいし、なんかエグい味だし。最初の方はよく体調不良になって、ダウンすることも多かった。

 

 でも、食べなきゃどのみち死ぬし。

 吐いても食べなきゃいけない。

 不味くても、肉は肉だし、泥を啜るよりかはマシだった。

 口の中じゃりじゃりで不愉快だし、腹は全然満たされんし。土の匂いが広がるあの感じは、もう言葉にもできん。

 

 西へ東へ、北へ南へ。

 自分の棲家を探して、ふらふらと。

 原動力は、そうさな。マシな飯が食えることだったのかもしれない。

 ……いや、そりゃあ簡単に人里に辿り着けりゃ良かったよ?

 でも、当時、人の生息圏は狭かった。一日に何十キロも移動しないし、もう砂金探しみたいなもんさ。

 最初に人の痕跡見つけるまでに、十年くらいかかったよ。

 

 安住の地は見つからなかったなあ。

 強くなっても、変えられなかった。

 心休まる時はなくて、他の獣に殺されないかビクビクして眠れなかった。

 弱さの罪は、嫌ってほどに分かった。

 

 助かったのは、なんとか生き延び続けてる内に、強くなれたことかな。

 一日中、エネルギーを昂らせ続けたことある? 最初はミミクソみたいな力しかなかったけど、エネルギーの絶対量は増えていった。才能がなけりゃ頭打ちだったけど、ボクの身体は普通より遥かに巨大な力を許容できる体質だった。

 流石、ボクみたいな異質な魂を収めてきた肉体だよ。その時は自覚なかったけど、十努力すれば二十も三十も結果が帰ってくる。

 すぐに、常人の十倍くらいのエネルギー量にはなった。

 

 あと、エネルギー切れがなくなったから、ボクはずっと身体を強化し続けたんだけどもね?

 その内、ボクの身体は強化した状態こそがいつも通りになっていた。つまり、何が起きたかと言うと、エネルギーと肉体が融合し出した。

 君たち五人がそうであったようにね。

 

 まあ、特殊な魂、特殊な肉体、特殊な環境が揃って偶々そうなった。

 激痛っていうか、まじ死にかけたけども。  

 いつの間にか、無意識下でも動き続けられるようになった。ほぼ意識トンでたが、多分半年くらいで『進化』は終えたかな?

 

 ボクは、いつの間にか、身体を獣に変えることができるようになった。

 

 いやあ、ボクって天才。

 求めることができるようになったんだよ。

 もう、人の味覚じゃ生肉が無理すぎて、ちょうど獣になりたいって思ってたところさ。

 なりたい自分って、やっぱり頑張ればできるようになるもんだねぇ。

 

 獣の形態がもう、楽で楽で。

 生肉は旨く感じるのが、もう革命だった。

 ボクもその頃はまあまあ強かったし、のんびり獣ライフを送ってた。

 

 

 で、衝撃だったんだけどさ。

 齢十三歳にして、ボクって討伐指定モンスター扱いされてた。

 フラフラ各地で出没する、激つよ狼だったからさ。

 行く先で生態系は崩れてたし、見た目はヤベーしで、そりゃあ変な扱いされるよな。

 

 人の痕跡見つけるのに十年くらいかかったって言ったっしょ?  

 これって、人間に討伐隊を組まれて、しゃーなしで返り討ちにしたんだよね。

 

 当時はそこそこ強かったけど、脇が甘くてさ。

 一人逃がしちゃって、それで余計にめんどくさい事になったんだよねぇ。

 

 ん? 殺したのかって?

 あったり前じゃん。

 向こうが殺すつもりなのに、なんでこっちが手加減しなくちゃダメなんだって。

 いや、真面目な話、人類の精鋭だったからね。元の身体に戻る隙さえ、なかった。人生の中でもベストテンに入るグッドバウトだった。

 今なら全員秒で寝かせられるけど、昔は無理だ。

 

 で、衝撃だったんだけど、初めての人殺しだったのに、全然ショックじゃなかったんだよね。

 これでも、殺人は悪って価値観はあるよ?

 なのに、全然忌避感がない。こりゃあ、人の世にはもう交われんと思ったね。

 獣の世界に浸かりすぎたせいで、もう人間じゃなくなった。

 

 当然、ボクは爪も牙も使うからさ。

 まあ、人間の血の味を知っちゃった訳なんだけども。

 結構、美味しかったんだよねー。

 まともな食事をしてなくて、舌がバカになってたのもあるけど、ふと、人間の肉って旨いなって思っちゃった。

 

 生かしちゃおけない邪悪だと、我ながら思ったね。

 自分で自分を怖いとも思った。

 達観できるだけの余裕は、その頃にはなかったからさ。

 

 ……そりゃあ、辛かったさ。

 生きていくのがしんどかった。

 なんでボクがこんな目にって、何千回思ったことか。

 でも、自害は、考えたことなかったな。その気ならとっくにしてるくらいには、辛かったからさ。

 苦しくても、辛くても、悪に堕ちても、何やかんやで生きていたかったんだよ。

 

 だから、この後も生き続けた。

 つまり、勝ち続けた。

 

 他の獣たちとの闘争も、大自然の険しい洗礼も、人間たちの狩りも、全部を退けた。

 他人を蹴落としてでも、生きたかった。

 だから、ボクは多くの命を貪った。

 全てを等しく食い散らかして、強くなった。

 毒沼の主たる粘菌獣も、聖なる盾を操る戦士も、百の魔法を支配する賢者も、古の霜の巨人も、空を茜色に染めた燃える幻鳥も、十の魔剣を振るう魔剣士も、深淵の闇も。

 

 不思議なもので、強くなればそれだけ強い奴らがやって来る。

 望まなくても、運命がそれを選ぶのさ。

 殺したくなくてもボクは敵を殺すし、戦いたくなくても戦わなくちゃいけない。死にたくないだけなのに、穏やかに暮らしたかっただけなのに、ボクにとっては、そこらの民間人が簡単にできることが、とても難しかった。

 だから、ボクは永い永い旅をしなくちゃいけなかった。

 

 ……ある戦いの後のことだ。

 いつものように、強敵を殺した少し後。

 かなり派手にやってね。戦いの余波で三つの山が消しとんだせいで、目立ちすぎた。

 そのせいで、やって来ちまったんだ。

 

 最強の戦士たちが。

 

 

「■■■■■■■!!」

 

 

 当時、ボクは人間の言葉が分からなかった。

 学ぶ機会に恵まれなくてね。

 親愛の挨拶を向けることもできずに、やって来る人間は殺す他になかった。

 だから、当然やって来た奴らを皆殺しにするつもりだったよ。

 

 でも、

 

 

「■■■■?」

 

「■■■■!!」

 

 

 これまでやって来た人間たちや、主をやっていた魔物たちと比べても、桁外れ過ぎる化物だった。

 若い男女のように見えたけど、中身はマジで別物だった。

 男は厳めしい顔をしながらこっちを睨んで、女はケラケラと笑っていた。

 

 まさかまさかだよ。

 世界最強の剣士と、世界最強の魔法使いが徒党を組んでやって来た。

 

 

「■■!」

 

 

 当時、世界で唯一魔王と正面から戦えた、大英雄。

 

 二対の聖剣を操り、剣によって天地を引き裂いた頂。

 『勇者』ライラ・ジークムント

 

 多くの魔法を生み出し、操り、杖によって不可能を可能に変えた超人。

 『大賢者』オリオン・マクスウェル

 

 

 後の、生涯唯一の友だった。

 

 

 

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