いつの間にか悪の組織の幹部になっていた件   作:アジぺんぎん

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167 『超人』アイン 弐

 

 オリオンはチラッと知ってるだろうけど、ライラは知らんよな。

 ボクの最初の友人で、人類を救う勇者の名前だ。

 

 お伽噺にあるだろう?

 魔王を倒した、勇者と賢者と聖獣。

 アレは、ボクらの昔話さ。

 オリオンが自分ごと、ボクらに関する人々の記憶を封印したから、物語は広まれど、ボクらの名や歴史は忘れ去られたがね。

 

 ……そう、ボクらの最後の秘密の名前。

 ボクたちが何故教団を結成するに至ったか、その理由こそが、彼女だ。

 でも、核心へ行く前に、もう少しだけ思出話をさせて欲しい。

 ボクの覚悟が決まるまでの、ほんの少しの時間だからさ。

 

 

 当時、人類はマジで負けかけてた。

 ライラとオリオンはもちろん、沢山の英雄たちが居たけれど、いかんせん手が足りない。

 当たり前だけど、戦場に居ないと負けることすらできないからね。

 そうでないにしても、当時の魔物は桁違いに強かった。色々あって、その時ばかりは魔物が有利な立場を手にしていたのさ。

 なにより、ボクらも未熟だったからね。最強無敵の存在になるのは、もう少しあと。

 だから、ボクらと数多の英雄をもってしても魔王を倒す道のりは、とても難儀したのだ。

 

 だから、彼らは戦力が欲しかった。

 確か、魔王直属の四天王だかなんだかを、二匹くらい殺したくらいの時だ。

 三匹目が手強くて、手をこまねいていたらしい。

 そんな中、誰にも属さぬボクを知って、力ずくで仲間に引き入れにしたらしい。

 

 うーん、追い込まれてたねぇ。

 ボクちゃんと人間も殺してたのに。藁にもすがるたぁ、このことだ。

 でも、こっちがすがられてる側なのに、もうめちゃくちゃだったんだよなぁ。

 

 マジで、過去一で死ぬかと思った。

 だって、アイツら化物強いんだもん。

 特殊能力ここに極まれりって感じで、もうチートもチート。

 

 ライラは、この世界の『概念』を武装化する権能を持っていた。

 これ、意味分かる?

 時空や精神、魂とかもうマジでどんなものでも操れた。それだけじゃなく、勝利とか阻害とか、ふわっとした概念すら思いのまま。

 そりゃ、死を象ったもので攻撃がヒットしたらそのまま死ぬ訳じゃないよ? 対象とか、使う概念の強さによって、どの程度実現するかは変わってくる。

 でも、できないことはないんじゃないってくらいに万能だ。

 ナーフまだかよ、この野郎って感じ。

 

 オリオンも、クソぶっ壊れ性能してた。

 もう、魔法っていうか、魔法のようなナニカを使う。

 何がヤバいかって、こと魔法に関しては制限がないんだよね。

 魔法って一応理論と技術で成り立つ学問なんだよ? 魔法を使うには術式やら媒介やらが必要で、そこにエネルギーを注ぎ込んで、実現させるのにも技が要る。

 なのに、コイツにはそんな理屈は必要ない。

 理論も技も、『こうすれば良い気がする』で全部解決する。ほぼ、空想が実現する力と言い換えてもいい。

 マジで超絶万能、チートでしかない。

 

 こんな奴らが徒党組んで、ボクをボコしに来たんだぜ?

 我ながら、よく一人で勝ったよな。

 

 

 ………………

 

 いや、うん、勝ったよ?

 当時でも、今の十分の一くらいのエネルギーは保持してたし、負けようがない。

 十分の一っていうとアレだけど、『星』が保持できるエネルギーの一割って、何千人っていう一流の魔法使いが百年かけても貯められない規模だからね。

 どんな権能を持っていたとしても、物理とエネルギー量のごり押しで何とかなった。

 

 でも、アイツらへこたれねぇんだよ。

 殺そうとしても上手く逃げられる。その場から離れても、いつの間にかペイントボール投げられたらしく、追跡してくる。

 しつこいったら、ありゃしねぇ。

 それに、

 

 

「■■■■■!」

 

「■■■……」

 

 

 いっつも、楽しそうに笑ってるんだ。

 有利でも、不利でも、全部を楽しんでた。

 ライラは子供みたいに笑うし、オリオンは呆れながらも小さく綻ぶみたいに笑ってた。

 生きることにそこまで意味を見出だせなかったボクは、何を笑ってやがるって思ってたけど、やっぱり他の人間たちとは違うって感じてた。

 

 ……二人を信じなかったのかって?

 そりゃ、もしもここでボクが人間の姿に戻ったなら、対話の余地があったかもしれん。

 人間不信とか、そういう動機じゃないよ? これでも、漫画とかアニメの独りぼっちだから荒んだメンドイキャラみたいに、繊細じゃないんだ。

 でも、ボクは面倒くさがりだからね。

 信じた結果、裏切られて死ぬリスクが高いし、自分以外の全部は最初から敵って決めてたんだよ。

 

 でも、嗚呼、でも、彼らは実に、ボクの予想より遥かにバカだったんだ。

 

 

「■■■!」

 

 

 ある日、ライラは剣ではなく、黒板を手にしていた。 

 普段からやたらとハイテンションな奴だったけど、この時はことさらだった。

 まったく攻撃の気配がなくて、とても不気味に思っていた。

 

 ま、ここでボクが遠慮する理由もなかったから、手始めに爪で引き裂こうとした。

 すると、

 

 

「!」

 

「■■■……」

 

 

 いやー、ビックリしたね。

 ボクの攻撃をいつも必死で紙一重で避けてたのに、この時はなんも効かなかったんだもん。

 明らかにヤバい空気したし、もちろんすぐ逃げようとしたけど、ダメだった。

 同質の結界で、四方を囲われていた。

 

 

「■■■■■■■■■。■■■■■■■■■■■■■■■」

 

 

 ドヤ顔でオリオンがなんか言ってたのは、覚えてる。

 多分、ボク専用の結界を作ったんでしょ。

 魔法として、特化させただけじゃなく、ライラから何かしらの概念を借り受けたのかも。

 引き時をミスったのと、手の内を見せすぎたせいだ。我ながらアホをやったもんだと、呆れたね。

 でも、煮るなり焼くなり好きにできるのに、アイツらはなにもしてこなかった。

 

 

「■■■! ■■■!」

 

 

 黒板に文字を書いて、自分を指差しながら、同じ言葉を繰り返す。

 すると、次第に分かるもんだよ。

 アイツ、自分の名前をボクに教えようとしてたんだ。

 バカだコイツって、マジで思った。

 

 ……与えられたのは、この世に生まれて多分二回目だ。

 もはや顔も思い出せない母からもらった、この命。

 そして、敵との争いに辟易していたボクに、戦い以外の時間をくれた。

 

 とても久しぶりで、とても嬉しかったのを、覚えている。

 

 

 ※※※※※※※

 

 

 我ながら、頭はよかったと思う。

 だって、まさか一ヶ月で一つ言語を覚えるとは。

 気付けば、ライラたちの言っていることを理解していた。

 そんで、

 

 

「わはははは! 最高の結果が得られたな!」

 

「結果的には、でしょう? まったくこの考えなしは。愚かという言葉は、貴女のためにあると自覚してください」

 

 

 言葉が分かるようになると、ウザさが倍増したんだよなあ。

 もう、すっごいウザイのコイツら。

 耳元でやいのやいの、毎日毎日飽きないのかと。

 ボクも、一言だって話していないよ。

 なのにずっと、いつまでも喋り続けるんだもの。

 学習の機会は嫌な意味で山ほどあった。

 

 

「だが、結果がよければ最初と道中が悪くても関係ない! もはや、聖獣に戦闘の意思はない! 素直に成果を喜ぼう!」

 

「ずっと言っていますが、こんな獣を仲間に引き入れようというのがそもそも間違いです。最初を間違えれば後ろは全て誤りです」

 

「そんなことはないさ。何事も良いように考えるべきだよ」

 

 

 ずっと、楽しそうにしている彼らに、思わない所がない訳じゃない。

 天岩戸って話があってね?

 まあ、他人が楽しそうにしてると、そっちが気になるってことよ。

 アイツらはアホだったけど……

 

 

「というか、そもそも論で語るなら、わたしはカッコいい狼の背に乗って戦いたかったから、スカウトに来たんだ」

 

「アホですね……」

 

 

 マジでアホだったけど。

 でも、悪い人間ではなかった。

 

 

「だが、わたしは無駄なことはしない。わたしのカンは良く当たるだろう? きっと、背中を預ける仲間になってくれる。世界を救うのを、手伝ってくれる」

 

 

 初めて、ボクは絶対な善に触れたかもしれない。

 ボクを守る力と意志を持つ人間に、出会ったかもしれない。

 そう思うと、不思議と悪い気はしなかった。

 

 

 ……嗚呼、勘違いはしないでね?

 別に、ボクの人生に出てきたこれまでの人間が悪だったとほざく気はない。結果としてボクは多くの人間に害されたけど、彼らを貶めも恨みもしない。

 追い詰められれば、どうしても追い詰められた末の結論と正解しかないんだもの。

 死を前に、他人に分け与えることを、ボクは善とは思わない。純粋に、おかしいんだよ、そういうのは。

 

 だから、敵を前に何かを与えようとする行為は、ハッキリ言ってイカレてる。

 ボクは一般人の考え方を捨てられない。

 命を奪うことは、悪いことだ。死にたくない。人間、弱いのが当たり前。

 どれだけ異常な環境に身を置いても、そういう考えで生きている。

 

 英雄なんて、アイツらなんて、正直全然分からない。

 君たちも、根っこの部分では理解できないよ。

 でも、理解したいとは、ずっと思っていた。

 

 ……ボクはね、君たちが思うほどイカレられなかった。

 君たちからすれば、ボクなんて強いだけのイカレ野郎って思ってるだろ? でも、ボクからすれば君たちがイカレてた。

 それっぽく、振る舞っていただけだよ。

 つまらない独白をしてしまったね。話を戻そうか。

 

 ………………

 

 ボクは、彼らに少しだけ心を許した。

 ほんの僅かなものだけれど、貰ったものは返さないといけないからね。

 小市民なボクは、借りを返さないと気持ち悪いんだよ。

 少なくとも、一戦分くらいはと。そういう軽い気持ちで、魔王のとこの四天王をアイツらと一緒にぶち殺した。

 

 バカだったよ、ボクは。

 小市民すぎて考えが足りなかった。

 

 

「なんだ、人間の姿になれるならそう言ってくれれば良いのに!」

「これで今まで以上に意志疎通できるな!」

「いや、そりゃあこの先も一緒に戦うからな」

「? 一度でも手を貸したなら、今後一切、君は魔王から完全に敵と見られるぞ?」

「あれだけ名を馳せておいて、その言い訳は通じないだろう」

「中立を保っていたから見逃されたのだ。そりゃそうだろう?」

 

 

 なにそれ、聞いてないやん。

 ソロプレイ歴が長すぎて、そんなことになるとは思わんかった。

 このせいで、最後まで旅に付き合わざるを得なくなってもうた。

 

 だから、最後の最後、魔王討伐まで一緒だったけど、それまでのドタバタ珍道中は語りきれないから割愛ね。

 君たちみたいに、沢山の戦いと、積み重なった日常の末があっただけだから。

 道すがらの村を救ったり、町の人々のお願いを聞いてあげたり、立ちよった国の祭りでバカ騒ぎしたり。

 沢山、沢山思い出があったんだ。

 

 

 ……ライラは、良い女だった。

 恥ずかしいから本人には言わないけれど、アイツはまるで太陽だった。

 人々を明るく照らし、導く英雄だった。

 ボクやオリオンは偏屈だったから、アレだけど、彼女はボクら以外にも友人は沢山居たな。

 気付けば、誰かを助ける人間だった。

 

 ……『勇者ヒン○ルならそうした』

 

 ごめん、言いたかっただけ。

 

 でも、真剣に、ライラは真の勇者だった。

 そのように生まれ、そう願われ、期待以上を常に返した。

 本質的に、人を愛していたんだろうな。

 美徳を見つめ、期待し、いつか己の弱さを乗り越えられるのだと。ボクには及びもつかない人間への賛美が、彼女を彼女足らしめた。

 

 

「南の村で、強い魔物が出ているらしい。彼らを助けに行こう」

 

 

 平気で、こういうことを言うんだ。

 どこから聞いたのか、気付けば自分(勇者)の居るべき場所を知っていた。

 誰かの可能性を、決して見逃せなかった。

 

 暇だった訳ではないはずだ。

 勇者の到来を望む戦場は、多かったはずだ。

 何よりも、最強の戦士として、魔王の討伐を望まれたはずだ。

 戦局的に『関係ない』小さな村でも、手を伸ばさずにはいられない。

 

 合理的でない判断に、文句を何度もこぼしたよ。

 ボクだけでなく、オリオンも。

 こんな感じのやり取りは、いつものことだった。

 

 

「早く魔王を倒しにいくべきでは? 既に戦力は揃いましたのでは?」

 

「そう急くな。まだ、多くの人々が助けを求めている。救える命は多い方がいい」

 

「早く助けれたら、多くの命とやらを救えるだろ。はよ終わらせろ」

 

 

 ぶつくさ文句を言いながらも、結局はボクとオリオンが折れるんだ。

 なにせ、リーダーは彼女だったからね。

 いや、意志決定権はライラが持ってたっていうことね。何度『一生のお願い』を聞いたか分からんし、泣き落とされても拒否しきれん。

 ボクも、面倒だし、無理に押しきることはなかったけどね。

 

 

「いつも悪いね。わたしのワガママに付き合ってもらって」

 

 

 そう思うならたまには遠慮しろ、トラブルメイカーめ。

 

 なんで、目先の命を捨てられないのか。なんで、そんなに人が好きなのか。理由を聞くと、いつでも曖昧に笑っていた。

 腹が立っていたけれど、問い詰めるだけの強い理由はない。嫌にカンの良い女だったけど、自分のことはひた隠しにしたからな。

 彼女の生存戦略と理解していたから、別に踏み込みはしなかった。

 

 

「でも、わたしの側はきっと楽しいぞ。絶対退屈させん。約束するよ」

 

 

 きっと、それで満足だったからだろうな。

 過去なんてどうでもいいし、未来なんて考えるだけ無駄。

 褪せた日々に色が着いて、鮮やかに照り続ける。

 きっと、それが変わらないと思っていた。

 

 だから、彼女がどこの生まれで、どこで育ったとか。

 そういうことは全然知らないな。

 彼女は、いつだって『今』を生きていた。だから、魚のパイ包みとかエールが好きとか、そういうことは知ってるけど、何故そこに至ったのかは、とんと分からない。

 

 本当に、分からなかったんだ。

 

 

 ※※※※※※※※※

 

 

 ……ん? オリオンのこと?

 別に普通だったよ。

 お互い強い拒否とかもなく、お互いを普通に受け入れた。ライラと違って大人だしさ。使えるものは使うの精神さ。

 でも、お互いライラに近い位置に置かれたからさ。シンパシーっていうか、気の合うところは全然あったよ?

 二人で喋ることもめちゃくちゃあった。

 

 

「オリオンは、なんでライラと一緒に居たのさ」

 

 

 オリオンは、同じライラに振り回される側だったからなあ。

 結構普通に友達らしく駄弁ることも多かった。

 

 オリオンは、平民の生まれらしい。

 自分を天才と自覚し、一人だったライラの旅にすぐさま手を挙げたらしい。

 実力で全員を黙らせて、ライラの隣に立った。

 魔法は理論と技の学問なのに、独学と天才的な感覚で世界一の魔法使いになったんだ。こんなバケモン、嫌でも使わざるを得ない。

 ただ、つまりそれは最初からやる気があったってことだ。平穏を夢見るボクとは、そこだけが反りが合わなかったなあ。

 

 

「思い立った理由は、自分がそうするべきと思ったからです。力を持つなら、そこには責任が生まれますから」

 

「嘘くさ。ひねくれ者の変わり者だから、嘘ばっかり吐くね」

 

 

 そういうと、彼は口をへの字に曲げて、不満そうにしていたよ。

 貶されてるとでも思ったんじゃないかな?

 ま、ボクだからこういう言い方をしたけど、本当は、彼にはちゃんと英雄としての心得はあったことを伝えたかったんだよ?

 常人は、英雄にはなれない。強さじゃなくて、精神性のことね。イカレてないと、こんな割りに合わんことしないもん。

 彼はちゃんと、自分の役割をこなしていたよ。

 

 オリオンも、もちろん英雄だけど、ライラとはタイプが違う。

 見ず知らずの他人のために命を使うタイプじゃない。

 アレは我が弟子みたいな人種さ。例えるのなら、殉教者。自分が信じた、たったひとつのことに全てを捧げられる奴だ。

 コイツの場合、多分それは力だったのだろう。

 自分の力を遠慮なく振るえる舞台として、勇者な隣を選んだ。だって、自分の力は凄いんだぞって自慢げに戦うもの。ボクを封じ込めた時のドヤ顔は、忘れられない。

 

 だから、不思議に思ったことがある。

 どうして、ライラと共に戦うか。

 こうして聞いてみたのも、深く記憶に残っているのも、とても意外な答えが返ってきたからだ。

 

 

「ボクは、自分の命が大事だからさ。大義とかなんだとか、そんなことじゃモチベは湧かないかな?」

 

「野蛮ですね。力に思想なくしては、人は獣に堕ちてしまいます」

 

「自分を無駄に飾るなよ。ホントは、勇者として活躍してるライラが羨ましいとか、そんなんじゃねぇの?」

 

「…………」

 

 

 面白かったのは、露骨に押し黙ったことだ。

 適当言っただけなのに、図星を突いてしまった。

 その時、ボクは腹を抱えて笑ったと思う。

 眉間にシワを寄せたオリオンが、本当に面白かったから。

 

 

「実際、私がそういう俗物的な考えを持ったことは否定しません。私も、若く未熟でしたから。ですが、心とは移ろい変わるもの。今は考えていませんよ」

 

「お前がライラに着いていったのって、二年くらい前じゃ……」

 

「とにかく! 私は今、もっと崇高な理念のもとで動いているのです!」

 

 

 さんざん笑って、ジト目で睨まれて、バツが悪かったからね。

 静かに促してやると、オリオンは機嫌よく教えてくれた。

 

 

「彼女に、『ついて来い』と。そう誘われたからですかね」

 

 

 きっと、ライラと会う前のオリオンは、傲慢なひねくれ者だったはずだ。

 いや、性根は直ってないけれど、もっと酷かったのだろう。

 自分は選ばれた人間で、最も優れた人間で、称賛と羨望の中こそ相応しいと考えていたのかもしれない。

 

 だけど、太陽そのもののような彼女が。

 真に勇者に選ばれた彼女が。

 多くの人を救い続けた正しき彼女が。

 オリオンを相棒に選んだのだ。

 

 彼にとって、それは大きく考えを変えるきっかけになったに違いない。

 彼女の輝きは、夢を見せてくれるのだから。

 彼女の歩む道には、多くの希望があり、苦難があり、楽しさがある。周囲を巻き込み、自分の道に巻き込む彼女のことだ。当時のオリオンも、そうして魅せられたのだろう。

 

 ボクも、ライラに心を許してしまったからね。

 同じ立場のコイツの心情は、よく分かったさ。

 

 ボクもコイツも、思いは同じ。

 ライラの創る世界を、見たかったんだ。

 

 オリオンは、友であり、同志だ。

 同じく、ライラに導かれた者として、通じ合う部分は多かった。

 四百年経っても、その想いは変わらなかったよ。

 

 

 ※※※※※※※

 

 

 魔王を倒したのは、多分ボクが合流してから三年くらい後だと思う。

 その時の戦いも死闘だったなあ。

 三日三晩も続いた戦闘なんて、多分もうないね。

 もう、必死も必死。奇跡の末に勝たされた。

 

 ……そう、魔王ね。

 リリアの中で封印してた、あの残骸の全盛期。

 そもそも魔王って何、って感じだよね。

 ただ強い魔物っていう訳じゃなく、特別な役目を負った生命体なんだよ。

 

 君は知らんだろうけど、人間と『星』は共生関係にある。

 ざっくり言うと、『星』は人間を住まわせ、人間は『星』が排出する不必要なエネルギーを使用して処理をする。

 魔法を使えば、エネルギーが消費されるでしょ? アレって、『星』的にはかなりエコで嬉しいんだよ。

 

 でもまあ、それも過ぎれば毒っていうか。

 上手く言えないけど、善玉菌以外全部消えたら困るじゃん?

 何事もバランスが大切で、身体によくても時には控えることも重要ってこと。

 何が言いたいかというと、『星』にとって人間は健康に役立つ重要な存在だけど、増えすぎれば逆に『星』は体調を崩す。

 だから、定期的に間引かないといけない。

 

 魔王っていうのは、『星』の使徒さ。

 規定に達するまで人間を殺すための魔物。

 魔物側が有利に足ってたって言ったっしょ? その時、人間は『星』の庇護を受けられなかった。むしろ、優先的に殺すべき生物と見なされた。

 そういう意向を持った、というだけでも、『星』に住まう生物なら影響はある。なにせ、世界のルールが変わってるからね。

 端的に言うと、魔物は強くなってたし、人は弱くなってたんだ。

 

 だから、とても苦戦した。

 純粋な強さなら、君らが相手した時と変わらんけど、状況が悪かった。

 三人とも、マジで死にかけたね。

 

 どうやって勝ったか?

 窮地に追い詰められたから、覚醒したんだよ。

 よくあるじゃん、死にかけたところで真のパワーに目覚めるみたいな。

 いや、適当言ってるんじゃなく、マジで。

 

 ボクらの負けって、『星』に決められた決定事項なの。

 それを覆すには、並々ならんイレギュラーな要素が要る。

 例えば、魔王と戦う者は、人間を遥かに超越したナニカであった、とか。

 

 ボクなんてもう、代表的よ。

 いわばボクは『星』そのものになったし。

 いやー、土壌が育ちすぎてたよね。無制限にエネルギーを許容できる身体と魂の持ち主が、特に『星』のエネルギーが濃い僻地で、人としての可能性が曖昧な子供の頃から育ち、腹を満たすために大地すら口にしたんだ。

 最後の最後で、『星』との強烈なパスが繋がってしまった。

 

 オリオンも、アレで凄いイレギュラーでさ。

 すごくまとめて言うと、『人間の理想』なんだよね。

 この『星』が思考し、定めたルールが地表に影響を与えるように、人間も思考すれば僅かでもエネルギーが生まれるし、人間の中のルールが発生する。

 ああなりたい、こうしたい。そういう夢が人の胎から産まれ出でたのが、アイツさ。

 だから、人間由来の発明を、アイツは無条件で使いこなせる。どんな魔法も無制限に使いこなせたのは、そういうわけ。

 

 そんで、ボクが『星』に繋がったように、アイツも凄いものに繋がった。

 集合的無意識、と呼ぶのが概念的に一番近いかな。

 これまで人間が残してきた軌跡と、今を生きる人間の思考の結晶。アイツはそれを扱うことができるようになった。

 ボクと同様、ひとつの世界になり得る。

 

 ライラも、詳しく知らないけどそうだ。

 凄まじいナニカを得たらしく、存在の格がでたらめに上がった。

 アイツの権能も、制限はなかなかにあったからなあ。その制限が取っ払われれば、そりゃあデタラメだろうさ。

 

 ボクら三人は、最強になったんだ。

 魔王なんか次の瞬間には塵にした。

 長い旅だったけど、案外呆気なく終わるもんだったな。

 むしろ、終わった後の方が長かった。

 

 どこか知らん王様に褒められ、人々には崇められ、浴びるように酒を飲んだ。

 毎日毎日、夜は酒場に入って、もらった金を吐き出すように、居合わせた奴等全員を奢ってやってどんちゃん騒ぎ。

 使いきれないくらいに金はもらったから、暴飲暴食のお祭りだった。

 多分、一月は飲み歩いたと思うよ。

 

 そういう騒ぎを終えたら、各々別の道を歩くことにした。

 ボクは、世界を巡る旅を続けた。オリオンは、自分の国に戻り、世界一の魔法使いとして多くの弟子を取って国の発展に努めた。

 ライラは、庭付きの小さな家を建てて、隠居することにしたらしい。

 

 でも、たまに三人で会ったりしたよ?

 特段なにかすることがあった訳じゃないけれど、別れてからの愚痴を言ったり、お茶をしたり、手合わせをしてみたり。  

 穏やかな時間に、とても心を洗われた。

 ハッピーエンドの後は、きっとこんな時間が続くと信じて疑わなかった。

 多分、ずっとこうして、なんとなく幸せな日々を死ぬまで送れると思ってた。

 

 いつも通り、幸せな余白の中で。

 特に何も考えず、ライラが用意したであろうお茶うけは何か楽しみにしてて。

 

 だけど、

 

 

 

 ライラの死体の前で、立ち尽くすオリオンを見て、幸せの脆さを知ってしまった。

 

 

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