いつの間にか悪の組織の幹部になっていた件   作:アジぺんぎん

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この話の元ネタは『ラグナクリムゾン』という漫画の第38話です。本当に凄くて、こんな話を書いてみたいなって思って、この小説を書き始めました。ちなみに、元ネタとは言いつつも元の話は全然違うので、是非『ラグナクリムゾン』を読んでみてください。この話の十倍面白いと思います。


168 『超人』アイン 参

 

 怒りのあまり我を忘れることってある?

 意識してないのに、全身至るところに力が籠る。

 目の前が真っ赤に染まって、何も見えなくなる。

 もう、身体と心がバラバラで、何をしたか自分じゃ分からなかった。

 本当に時間が跳んだみたいだったよ。

 やけに身体は疲れてて、溢れた涙が止まらなくて、何キロ四方が消し炭になってた。

 

 現実が受け入れられないんだ。

 暴れることでしか発散できなかった。

 ちゃんとボクのことを封じ込めてくれたオリオンには感謝だね。

 もしかすれば、そのまま『星』の表面を焦土にするところだった。

 

 我ながら驚いたものだよ。

 ライラのために、ここまで怒れるもんかと。

 こんなにも大切に思うものが、できたのかと。

 本当に大切なものは、失って初めて気付くものだ。

 ままならない日々を知っていたはずなのに、何かたったひとつでも得られることは有難いと知っていたはずなのに。

 愚かなボクは、幸せが簡単に壊れるものなんて、そんな簡単なことに気付けなかった。

 

 自分を責めて、他人を責めて、怒って、泣いて、嘆いて、無心になって。

 何度繰り返したか分からないくらいに、嘘だと呟いて。

 そして、終わりがやってきた。

 暴れても、気落ちするほど嘆いても、現実は受け入れないといけない。

 向き合う時は、いつか必ず来てしまう。

 この四百年あまり、一度だって忘れたことはなかった。 

 

 

 ……ライラは、眠るように死んでいた。

 驚くほどに綺麗で、しばらくすれば目を覚ますんじゃないかと思った。

 でも、もうどこにも魂はなくなった。

 明らかに他殺だったよ。

 心臓は抜き取られ、おびただしい血が辺りを汚していた。

 

 犯人捜しは、すぐにした。

 もちろん、犯人は絶対に殺すつもりで。

 

 ボクは『過去』を覗く力があるし、言ってなかったけど、オリオンは『今』を見る力がある。

 ボクは『星』の記録を見る力がある。オリオンは、人の集合的無意識と繋がってるから、あらゆる人の目を使って世界を観測できる。

 犯人の過去と今を見つけ、即座に報復してやるつもりだった。

 

 でも、見つけられなかった。

 驚くことに、『星』の記録はことごとく破棄されていた。

 最後にボクらと別れてから、死ぬ後まで、ボクらは知る機会が失われてしまったんだ。

 これでは、犯人が分からない。

 魔法を用いた過去視は、『星』の記録の覗きのダウングレード版でしかないし、こうなると、もはやどうしようもない。

 

 ……とでも言うと思ったかね?

 

 あのライラが、ボクと同列の強さのライラが、どこぞの馬の骨に殺されるもんか。

 容疑者をあえて挙げるなら、ボクとオリオン。だが、ボクらが彼女を手にかけるはずがない。

 他にも、ライラ自身。

 これもない。アイツは自分で死ぬような人間じゃない。動機がないし、仮に死ななきゃならない理由があっても、自分が生きる道を探す。それに、ボクとオリオンが協力するんだから、ねじ曲げられない運命なんてない。

 

 あとは、もう『星』だろうさ。

 間違いなく、『星』がライラを殺した。

 人間を殺す目的の魔王が、『星』がそうするつもりで作った被造物が、目的を達成しきる前に殺されたんだ。

 腹が立つことに、『星』は素直、言い換えれば幼稚だ。

 ムキにならないはずがない。

 

 ボクは『星』の一部となった。自分自身を何故殺さなくちゃいけない。

 オリオンは『人間』の象徴と呼ぶべき存在だ。『星』は人間自体が嫌いじゃないから、消すに消せない。

 なら、落とし前をつけさせるのは、誰になるのか。

 

 即座に『星』を破壊しようとした。

 すぐに跡形もなく消しつくし、『星』に住まう生物ごと殺してやると。

 自分の命の終える時は、今しかないと本気で思った。

 だが、冷静になった。いや、オリオンがしてくれた。

 

 

「蘇生を、試そう」

 

 

 ボクが本当にしたいことは、そんなことじゃない。

 敵討ちなんて、心底どうでもいい。

 欲しい未来は破滅じゃなく、希望に繋がるものなんだ。

 ライラが隣にいて欲しいんだ。まだまだ、幸せを謳歌できたはずなんだ。

 彼女の可能性は、誰に閉ざされる権利もなかったはずなんだ。

 

 

「彼女から受けた恩を、今全部返そう」

 

 

 愚かで、間抜けで、どうしようもない選択だった。

 でも、人間いつだって冷静ではいられない。

 振り返れば、すぐにおかしかったと気付くことでも、視野狭窄に陥っていた当時はコレしかないと思った。

 

 ……そうだね。道を変えることは、できなかった。

 だって、これでもボクらが選んで、真剣に生きてきた道だもの。

 このために、何人も殺したからさ。

 敵を返り討ちにしただけじゃないよ? 素材も金も、研究のためには必要だ。国の上層部や、素材になる人間を何千人も殺した。

 

 この時、感情は特に動かなかったよ。

 必死だったし、ライラのためって思ったらむしろ頑張れた。

 人間の価値観じゃないよね。

 なんなら、ここまでやってきて、どうして止められるんだって思ってた。強いてきた犠牲と、ライラの魂はどこに行くのかと、本気で思っていた。

 

 まあ、そんな熱量はずっとは続かないんだけどね?

 今もこうして、自虐として話してるんだから、わかるでしょ?

 でも、ボクは愚かにも他人の未来を奪うことを選んだ。その末がよぉ、こんな志の低さが許されるもんかよ。

 途中で止めるなんて、ボクが許さない。

 せめて、命を奪われる奴らや、それを悲しむ奴らにとって、ボクは悪魔でなくちゃいけない。

 だから、そう振る舞う義務があると信じてた。

 

 うん、くだらないよね。

 いや、まともな理由がある方が変か。

 自分を立派と思うつもりも、正しいと信じるつもりもない。

 結局は意地しかないんだから。

 

 ……研究で具体的に何をしてたか?

 あんまり面白くないよ?

 

 ひたすら、実験と研究のために動いていた。主導はオリオンで、ボクはオリオンの依頼した雑用をこなす。

 エネルギーの供給、素材集め、殺し。大体この三つ。ま、ボクのことを喋っても仕方ないし、オリオンが何をしてたかが気になるよね。

 ボクも何してるかまったく知らない訳じゃないよ?

 オリオンが何をしてたかは、分かってたさ。

 

 具体的な研究は、魂の観測からスタートしたかな?

 肉からは最早、魂が消え去り、脱け殻と化していた。輪廻の輪に戻ったであろう魂を引き戻すことを目指したんだけど、これはすぐにダメになったな。

 この『星』の外側の魂の観測が、多分、千年かけても無理って分かったし。

 ボクらはあくまで『星』の中の存在で、アレは宇宙に広がる法則だからね。ソッコーで匙を投げて別のアプローチを考えた。

 

 次に考えてみた時間遡行は、マジで頭を悩ませたね。

 輪廻の輪の観測がムリゲーって分かったし、次に可能性のあるアプローチを目指したんだけども、これが難問でさ。

 実験をした後に、『星』が『ちょっかい』かけてくるの。

 爆発だけならマシだけど、『星霊』は最悪だね。規模次第じゃあ、戦闘のついでに人類が滅びかねん。

 

 本当に困るのは、そのレベルが来ると勝てないんだよね。

 ガチでやったら勝てるけど、『ちょっかい』は時間遡行のためにボクのエネルギーの殆どを持っていった後に来るだろうし。

 フルコンディションじゃねぇ時に、『星』とマジ喧嘩は無理だ。

 ボク抜きで時間遡行も無理だし。

 

 アイツが存在封印したのって、実験でのミスが原因だしね。

 上手くいきかけたんだけど、『星』がガチ切れして最上位の『星霊』を差し向けたんだ。ボクもオリオンも、力を使い果たした後の強襲で真面目に危なかった。

 ボクはどうとでもなるけど、オリオンはガチで命獲られる可能性があるしね。

 身を守るために、『星』に気付かれないようにああするしかなかった。

 

 ボクもオリオンも最強だけど、ミッション達成のための制約が多くてね。

 まず、ボクかオリオンどっちか死ぬのは論外

 ……言いたいことは分からないでもないけど、当時はそういうルールだったの。

 あと、人類が死に絶えるのは禁止。

 意外? 案外、分別があるもんだって? 

 ま、これはオリオンの提案だしな。彼女が目覚めた時に、彼女が愛した世界が壊れてたら寂しいじゃんか。

 こう言われたら納得せざるを得んかった。

 

 それからも沢山のアプローチは試す、というか実用可能か考えたけど、何かしらで課題があった。

 二十年くらいで行き詰まったね。

 

 行き詰まってからの研究と実験の日々は、本当に辛かったな。

 そりゃあ、分かってたよ。

 そもそもが無謀な挑戦だからね。行き詰まって当たり前さ。

 でも、ボクはともかく、オリオンは挫折の経験が少ないからさ。四百年生きてると二十年が短くなるけど、当時はまだ百年も生きてなかったからさ。

 あの時間は、とても長くのしかかった。オリオンは、本当に苦しそうだったからね。隣で見てるのが、本当に辛かった。

 苦しんで苦しんで、歩みを止めたくなるような時間だったよ。

 

 第二使徒は、そうして行き詰まった果てに生まれたんだよなあ。

 

 我ながらアホなアイデアだから、恥ずかしくて仕方ないんだけど、そん時は焦ってたから許して欲しい。

 なんもかんもダメで、限界が来た時に選んでしまった。

 

 ライラの魂を一から創り出すとかアホの発想すぎる。

 

 過去視によって観測した魂を元に、完璧な魂ができるまでリトライし続けるとかアホの極みすぎる。

 時計を分解してパーツを海に放り捨て、海流に身を任せていつかそれが出来上がるのを待つようなもんだ。

 時間の流れを早くした異空間の中で、何度も何度も試した。終わりのない愚行だったのに、やることがないより、なにもしないより、ずっとマシだった。

 ボクとしては息抜きのつもりだったのに、本当に長い間チャレンジしてた。

 それも、あの娘ができたことで止めちゃったんだけどね。

 

 止めた理由? 端的に言うと目が覚めたんだよ。

 淡々とした作業に夢中で麻痺してたけど、多分五兆回くらい試したし。

 これ、オタク特有の大袈裟クソデカ数字じゃないよ? 時間の流れが早いってのは、設定としては外の一年が中の百年くらいにしてみたんだ。

 だから、冗談抜きで兆はやった。

 素数を捜し続けるスーパーコンピューターに徹したオリオンを見つめ続ける千年は、本当に長かったんだ。

 

 粘って粘って、やっと九割くらい近付けた魂が偶然できた。

 アレ以上の幸運は、もう訪れない。

 それに、ボクの記憶のライラと、第二使徒は、顔は似てても心はまったく違ったろう? 記憶だって、できる限り完璧にした。なのに、たった一割の違いでも、結果はあのザマ。

 アプローチとして始めから誤りだった。

 見きりをつけるには頃合いだったね。

 

 そこから先は、あの娘の記憶を見ただろう?

 人手欲しさもあったし、ボクらの関わらない所で『星』の注目を浴びてくれれば、その隙に色々細工できるっていう打算もあった。

 結局、彼らは君を造り出してくれたから、味方を率いれて正解だったよ。

 

 心底から、ボクは彼らに敬意を表する。

 彼らは彼らの想いがあって、それを叶えるために全霊を尽くした。

 それは素晴らしいことで、尊いことだ。

 ボクらという存在が、間違いなく彼らの運命を狂わせただろう。きっと、殺さなくていい人殺しをさせた。

 でも、彼らはきっと悔いなかった。

 だから、ボクから彼らへ謝罪はない。

 

 後は、君の知っての通り、あの娘たちを使って、世界に多大な影響をもたらした。

 あの娘が加わってから、人間をより多く、冒涜的に殺すことになった。精算なんて、とてもしきれない罪だ。

 間接的に殺傷した数は、冗談抜きでうん千万人は、いくだろうさ。

 きっと、ボクの母も、こんなことをして欲しくて子を庇ったんじゃなかろうに。

 

 ……何を思っていたか、ね。

 

 長すぎる時間を生きてしまった、という感じだね。

 ぐだぐだと、無駄に長く生きたせいで、背負わなくていい罪を重ね、人生を穢した。

 人間、清廉潔白に生きれたら、その方が良いに決まってるんだ。

 多くの命を奪って、反省も謝罪もなく戦い続けるだけの人生なんて、絶対に間違ってる。

 

 分かってたさ。

 こんなこと、ライラが望むはずもない。

 人間を愛した彼女が、数多の可能性を奪うことを良しとするはずがない。

 分かってた上で、ボクらは愚行を犯した。

 ライラに蔑まれても、失望されても、殺されてもいい。

 ただ、もう一度だけ会いたかった。

 どうしようもない話で、申し開きようもない。

 

 ……後悔、ね。

 

 してないよ。

 確かにしんどかったし、投げ出したくなったさ。

 でも、ボクは何万回、あの選択の瞬間をやり直したとしても、ボクはこの愚行を繰り返す。

 ボクは、ライラが居ない世界じゃあ幸せに生きられない。

 ボクは、オリオンを独りぼっちにするつもりは、毛の先ほどもない。

 

 確かに、ボクはオリオンに心臓を抉られた。

 でも、ボクはオリオンを責めるつもりはない。

 アイツはボクの、無二の友だ。

 友だから、アイツの失敗も、被った痛手も、笑って許してやるもんだ。

 それに、

 

 

「ライラ……」

「何故、死んでしまったのです?」

「私を残して、どこに行くのです?」

「貴女に、伝えたいことが、沢山……」

 

 

 オリオンの想いを、理解しているつもりだった。

 太陽を、導きを、愛する友を殺されたんだ。

 その失ったものを必死に取り戻そうと共に足掻く、唯一の同志だった。

 ボクは彼を、友と呼ぶ他にはなかった。

 なのに、ボクは彼の想いを見誤った。

 

 ボクは、友としてライラを敬愛していた。

 でも、オリオンは、ライラを女として愛していた。

 その気持ちを、ボクは見誤った。

 だから、これはボクのミスで、彼の責任じゃあない。

 やり遂げられなかったのは残念だけど、そりゃあこんな悪人が大願を叶えられる方がおかしな話さ。

 当然の報いだと、嗤ってくれたまえ。

 

 ボクはもう、死ぬことが怖くない。

 自分にできることをやりきったからかな?

 やっと、終わりの時が来た。

 ゲームセットだ。敗者はただ去るのみさ。

 

 

 ………………

 

 

 長らく付き合わせてしまったね。とはいえ、外の時間で一秒ってところだけど。

 ボクの話は、これで終わりだ。

 

 ……うん、ボクはずるい大人だ。

 君たちを苦しめ、貶めた。

 なのに、君たちにまだ重荷を背負わせる。

 勝手に死んで、勝手に満足して、去ってしまうボクを許さなくてもいい。

 いや、一生ボクを恨み続けても、忘れてくれても、どっちでもいい。

 ちゃんと、地獄に堕ちるから、あとは君たちの好きにしてくれ。

 

 あ、そうだ。

 オリオンによろしく伝えてくれると嬉しい。

 一言、『ボクは君が勝つために、最善を選んだ』ってさ。

 

 ああ、あと、

 

 

「迷惑をかけて、ごめんね。あと、君たちとの日々はとても楽しかった。一瞬、君たちの味方に付きたくなるくらいには。だから、ありがとう」

 

 

 ※※※※※※※※

 

 

 既に、その身体に力は入らず、既に崩壊は始まっている。

 身体の端から粒子へ変わり、死体すら残らず死んでいくのだろう。

 先ほどまで、最後の十秒を引き延ばし続けたような状態だった。時計の針の進みを誤魔化し、為すべきを為そうとした。

 悪あがきのため身体を無理に固めたが、本当に最後がやって来たのだ。

 

 命の灯は、消えてしまった。

 

 魂は肉体から離れ始め、ぐらりと上体は仰け反っていた。

 力が抜けた死体を支えていた、アインの胴を切り裂いた『天空』が、アリオスの両手にずっしりとのしかかる。

 もはや、事は済んだとアリオスは確信した。

 

 

「…………」

 

 

 斬られたアインの身体から目を逸らしたのは、二つの理由があった。

 ひとつ、確実にアインは死に、もはや気を払う必要がなかったから。

 ふたつ、敬愛する師の終わりに、目を瞑りたくなったから。

 

 戦場にも、祈る時間はあって然るべきだ。

 消え行く魂に、せめて安らぎをと。

 決して、否定されるべきでもなく、誰も彼を責められない。その瞬間、場の全員が納得し、声を出さなかったのだから。

 

 しかし、

 

 

「!」

 

「は、は、はぁ……!!」

 

 

 想定外なのは、アインの執念が、死すら上回ったことである。

 

 誰も理解できないし、する時間もないことだが、アインはその時、持てる全てを使ってさらに数秒の延命を行った。

 余命十秒をさらに縮め、満足に動くための三秒を作り出した。

 しかも、ただの独力だけでなく、『天空』の力を吸い上げて己の糧にしたのだ。外付けの、得体の知れない力など、拒絶反応が出て当然だが、数秒後に死ぬなら関係ない。

 

 この土壇場で、アインはたったひとつの手段を取るために、全てをかけた。

 

 

「ボクは……!」

 

 

 アリオスの手を弾き、『天空』を手に入れる。

 大きく振り上げた『天空』、刃の届く距離には倒れ伏すクロノ。

 未だ、アインはオリオンを想っている。

 ならば、取る行動はきっと、

 

 

「まっ……!」

 

「己が役目をまっとうする!」

 

 

 動かないクロノ、振り下ろされる剣、必死に手を伸ばすアリオス。

 時の流れが緩やかに感じる中で、全員が直後の悲劇を目の当たりにする。

 まず、血飛沫が派手に舞った。

 次に、驚愕で全員が動きを止めた。

 

 最後に、ただ、涙が流れた。

 

 

 

「ふふ、ふふ……」

 

 

 

 アインは、己の胸を『天空』で刺し貫いた。

 

 

 悔いる咎人のように膝を折り、頭を垂れる。

 ただ、剣を握る手は離れることはなく、上体は倒れない。

 言葉にならないほど、満足げに微笑んで、もう動かない。

 

 そして、ようやくアリオスは師の元へ駆け寄った。

 師に触れてみて、気付く。

 

 

「自分の命ごと、剣を封印している……」

 

 

 絶対に解けない封印だと、触れただけでわかる。

 アインが必殺技とまで呼んだ、最強の封印術なのだ。

 効果を終えるその時まで、決して解かれることはない。

 

 

 ※※※※※※※※

 

 

「……本当に、してやられたよ」

 

「クロノ……?」

 

 

 クロノがとても自然に起き上がった。

 先ほどまで、虫の息であったのに、今は少し苦しそうにしているだけだ。

 あり得ない回復に、疑問が溢れて言葉がなくなる。

 それを知ってか、クロノは先んじて言う。

 

 

「まず、アインの血、一番エネルギーを蓄えられる物質から心臓を補った。アリシア、ラッシュ、皆のおかげで何とかなった。助かった、ありがとう」

 

 

 極大の力を蓄える性質を持つ、アインの肉体だ。ある意味、『神』を上回った生物の血液が代償である。

 心臓を作り出すための素材として、最良であった。

 なんとか、ギリギリで死ぬ前に、新しい心臓をでっち上げることができたのだ。

 そういう細かな部分はすっ飛ばして、焦るようにさらに言う。

 

 

「だが、マズイ状況だ。オリオンは俺の『神』の力とアインの『星』の力を奪った。おそらく、アインの力を下敷きに俺の力を取り込み、『神』になるつもりだ。俺が気を失って、どれくらい戦ってた?」

 

「五分ほどだ」

 

 

 そして、とても哀しそうにアインを見つめる。

 敬意を払うように、そっと動かないアインに触れ、『天空』の柄を抜こうとした。

 だが、びくともしない様子だった。

 

 

「こっちは、武器を封じられた。『天空』は、俺たちの力を引き出す武器だ。アインと戦った時の全力は、もう出せない」

 

 

 アインが何を狙って戦ったのか、クロノは分かっていた。

 魂で通じ合った二人に、隠し事はない。

 だから、何の意図があったかを知り、畏敬の念を隠せないでいたのだ。

 

 

「アインは、このために最期に戦った。『天空』を封じつつ、一秒でも長く時間を稼ぐために」

 

 

 どこまでも、裏切った友のためになる行動を取っていた。

 最後まで勝つための手段を選んでいた。

 友を愛するアインの心は、とても一途で、ブレることは一切なかった。

 

 

「『天空』と、俺がやられてからの、五分と一秒の時間。本当に、嫌なものを持っていかれた」

 

 

 ただ、クロノは、アインへ称賛を送る他になかった。

 

 

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