いつの間にか悪の組織の幹部になっていた件   作:アジぺんぎん

2 / 175
1 いつの間にかと言われれば、なし崩し的にとしか

 

「貴女とこの組織を作り上げてから、長い時間が経ったものです」

 

 うん、それは本当にそうだよ。

 腕組みして考えてみるわ。

 ボクって今、何歳だったっけか? 三百は絶対に経ってる、はず。 五百年は経ったのか?  なんとなく経ってないような気がする。

 ていうか、こんなん真面目に考える必要なかったわ。ボクは覚えてないけど、どうせコイツは覚えてるし。

  今のは質問じゃなくて確認、ていうより、独り言だわな。

 

「…………」

 

「四百と、二十五年に三ヶ月、六十と五日。私たちは、随分と遠くまで来てしまいましたね」

 

  朗らかに笑うコイツは、気味が悪い。

  笑った時の目尻のシワが、記憶にある時よりも深くなってる気がする。

  何ていうか、老いてるなあ。

  ボクとは違って、酷く劣化している。

 経年による劣化を抑えることは出来ているのに、歳を取ってるように見える。

 

 

「それだけ、時間が経ちました。目的のために、歩みを止めませんでした。ですから、そういうこともあるでしょう」

 

「…………」

 

 

  静かに、コイツは目を閉じる。

  ただ椅子に座っているようだったが、どことなく、祈っているようにも見えた。

  遠くへ、遠くへと。

  それは、とても堂に入っているように思える。

 

 

「導きのままに、ということなのでしょう。貴女の言葉を借りるのなら、『シナリオ通り』ということです」

 

 

  シナリオ、なるほど、シナリオか。

  確かに、その通りかもしれん。 事実は小説より奇なりってアレ。

 今まさに奇の極限みたいな状況だけど、それはそういう運命でこうなったと。

 なるほど、なるほど。

 

 

「未来はたゆたうものであり、誰にも完全に予測は出来ない。つまりは、そういうことです」

 

 

  …………

 

 

「いや、どういうことだよ!」

 

「え?」

 

「『え?』じゃねぇわ!」

 

 

  アレでよく通じると思ったな!

 抽象に抽象を重ねまくって、本気で意味がわからんわ!

 どういう経緯でそうなったって聞いたのに、なんで返ってくる言葉がコレだよ!

 モノホンの天然野郎め!

 

 

「まあ、悪の組織という表現は言い得て妙と申しますか。私もこうなることは予想外と申しますか……」

 

「お前、お前お前お前!」

 

「悪の組織、ですかあ……」

 

 

 思わず胸ぐらを掴んで揺らす。

  何故こんなにすっとぼけた顔が出来るのか、本気で分からない。

 おい、おい、クソ教主!  叫んでるから唾飛んでるのは分かるけど、露骨に嫌そうな顔してんな!

 

 

「確かに、私達の組織は殺人、誘拐、器物破損は勿論、違法な実験、人身や怪しい薬物の売買などなど、犯した犯罪は数知れずですが」

 

「それでよくそんな間抜け面できるな」

 

 

「成り行きでこうなってしまったので」

 

 

  ……はあーーーーー。

  もう、なんでこうなったんだ?

  組織の長がこんな間抜けなのに、なんで何百年も組織が破綻してないんだ?

 なんでこんなに組織の存在が上手く隠されてるんだ?

 あと、なんで他の連中は目的に向けてあんなに足並み揃えて進めるんだ?

 謎が謎を呼ぶなあ。奇跡のバランス感覚だわ。

 

 

「まあ、仕方がないと申しますか。火が付いた悪意は、止められないと申しますか……」

 

「その歯切れ悪い言い方止めれ」

 

 

 申し訳無さそうにすんなや!

 さっきから何を他人事みたいに『不思議ですねえ』って顔しながら首を傾げてんだよ!  

 その首真横にへし折ってやろうか!?

 お前がそんくらいで死なないってことくらい分かってんだかんな?

 

 

「はあ、もう現実嫌だ……」

 

「あ、現実が嫌だからといって、瞑想に行くのは止めてくださいね?  貴女、一度瞑想すると五年は動かないんですから」

 

「まだ、ボクを働かせる気か?」

 

「それは勿論ですとも」

 

 

  ……まあ、コイツの言うことは聞くって決めたのはボクだけども。

 毎度のことながら、後悔しそうだ。

 悪の組織、もとい、ブラック企業だわ。

  年中無休で、低賃金のクソ環境だわ。

 

 

「ていうか、貴女は何も欲していないでしょう? ブラックも何も無いかと思いますが?」

 

「心読むな! プライバシーの侵害だぞ!」

 

「貴女、会議中も煩かったんですよ。思考に耽る癖、出来れば私を想って改めてください」

 

「こ、コイツ……!」

 

 

  手足ぶち折って、その四肢でちょうちょ結びしてやろうかな?

 ボクの方が力は上なんだ。出来ないことはないと思うんだけども。

  あ、駄目だな。ボクが動いた瞬間に逃げる気だ。

 素知らぬ顔で、めちゃくちゃ準備してやがる。

  ここはコイツのテリトリーだし、不意討ち察されたら追い付けん。

 腹立つけど、暴力は止めよう。

 

 

「……もういいわ」

 

「おや、落ち着かれたので?」

 

「お前に何言っても無駄だろ?」

 

 

 この世の全てが、何者かに操られてるのだとすれば、だよ。

  ボクは今はコイツの掌の上ってことだ。そういう形から抜け出せないなあ。

 まあ、今も昔も、そんなもんか。

 

 

「そうやって、何でもかんでもすぐ投げ出すクセ。改めたほうがいいのでは?」

 

「いや、お前が言うな」

 

「貴女のことは、我が子のように思っています。そんな貴女が、そう懐疑的では……」

 

「だから、お前が言うな! 他のことなら構わんが、今は違うだろ! お前が原因なんだよ!」

 

 

  ムカつくぅー。

 いや、もう言っても仕方ないわ。

 そんなことより、

 

 

「はあ……ボクは、いったいいつの間に、悪の組織の幹部になったのかって話だよ……」

 

「おや、嫌なのですか?」

 

 

 嫌だわ。 ただでさえ設定盛々の今なのに、なんでさらに設定を盛らにゃならんのか?

  ただでさえ、馬鹿みたいな肩書や、突きつけられたら恥ずかしくなる能書きがあるんだわ。

  嫌だね、今更そんなコテコテなの。

 だから、この世界は三流脚本家が書いたクソアニメよりも酷いんだ。

 

 

「…………」

 

「ですが、悪の組織の幹部と名乗るには、十分なことをしてきたでしょう?」

 

 

  ……ぐうの音も出ないわ。 急に正論ぶっこむの止めろよ。

 でもさあ、

 

 

「それもこれも、お前の命令だけどね」

 

「ええ。だから、私は甘んじて受けましょう。悪の組織の、最悪のボス。一つ肩書が増えるくらい、今更ですし」

 

 

  変わったもんだわ。

 昔は、そんなこと言う奴じゃなかったのにさ。

 

 

「おっと。私は、貴女をガッカリさせてしまったようです」

 

「…………」

 

「ですが、人は変わるものですよ。変化は遍くモノにあるのです。ああ、貴女の悲観主義は、昔から変わりませんが。ええ、昔からね」

 

 

  悲観主義者で悪かったな。

  物事を悪いようにしか捉えられんのよ。

 一回変わっちゃったら、もう元には戻れない。 コイツ、口ではボクのことをガッカリさせた、なんて言ってるけど、実際はボクを見てコイツが嘆いてるんだ。

 そのことを分かってて、皮肉ってる。

 性格悪いこと、この上ないわ。

 

 

「過去しか見れない懐古主義め」

 

「この世は全てが誰かの妄想と決めつける、貴女の空想主義に付き合っていられません」

 

 

  現実に起こったものを崇拝してる分、自分の方が偉いってか?

 てか、おい、目ぇ合わせろや。

 自分の言ってることに自信あるなら、ちゃんとその通りに態度で示しやがれ。

 

 

「四百と三十二年前からの付き合いだろ? ちょっとはボクに連れ回させろよ」

 

「四百と三十二年前から、四百と二十五年前までの七年。どれだけ貴女に振り回されたと思っているので?」

 

「…………」

 

 

 それ言われると弱いじゃん……

 

 

「貴女は、死ぬまで私に従う。そういう契約でしょう?」

 

「契約じゃない。ポリシーだよ」

 

「他人の思い通りになることが?」

 

「言わせんなよ、恥ずかしいだろ?」

 

 

  本当に、こういうやり取り好きだよな、コイツ。 あ、でも自分がこういうの好きってこと、自覚してないんだろうなあ。

 昔から、とにかく鈍かったし。

  まあ、この鈍チンに何言っても無駄だし。 ボクから言うことは何にもないかな。

 

 

「……貴女の不満も、理解はしていますよ」

 

「心は読めるくせに、まったく理解してない。分かったようなフリしてさ。お前のそういう所、嫌いだよ」

 

 

  うん、言うことはない。

 何百年かけても、変わらなかったし。

  もうちょい、自覚してほしいんだけどねえ。

 

 

「でさ、悪の組織ってなんか恥ずかしいから、やめてほしいんだけど」

 

「無理な相談です。ですが、『悪』もそう悪いものではないのですがね」

 

「『悪』は、悪いって意味だよ」

 

 

  マトモな感性してるんなら、悪いもんは悪いって思うよ。

  こんなに拗らせてるとはねえ。

 いっつも疲れてる顔してさ。

 本当に、もう少し前向きに考えられないものか。 まったく、悲観主義はどっちだって話だよ。

 こんな後ろ向きな奴がトップとか、よく成り立ってるよな。

 

 

「我慢してください。我らの活動も、佳境なのですから」

 

「佳境?」

 

「貴女、興味のないことにはとことんですね……」

 

 

  ん? 何それ知らん。

 

 この四百年、進展なんかなかったやん。

 ボクが計画の中心ってことを聞いたのは、いつだったろうか?

 この悪の組織の、悪の組織らしい悪い目的のために、ボクの力が必要だとか、うんたらかんたら。

  でもまあ、最後の最後で果たしてもらう務めとやらを、ボクはずっと待ちぼうけている状態である。これまで、良い報告を聞いたことは全く無かった。

 それなのに、佳境?

  もしかして、見栄張ってる?

 

 

「何度か、ルシエルが言っていたでしょう?」

 

「あの幽霊女、声が小さいから分かんないんだよ」

 

「貴女が、聞いていなかっただけです」

 

 

 ウザっ! わざわざ指摘すんなよ。

 

 

「まあ、構いません。私達の組織自体、これまで所属して、悪の組織の幹部として活動してきたのに、今になってそれに気付いて我儘を言うくらい、貴女にとってはどうでもいいことでしょうし」

 

「悪かったな」

 

「なら、もう少し悪びれてください」

 

 

 いやー、悪かった悪かった!  反省してるわ、マジで!

 

 

「ごめんごめん。許してください」

 

「もう、構いません。貴女とは、長い付き合いですから」

 

 

 やれやれ系か? 流行らないぞ、皮肉屋は。

 

 

「これから、貴女に、任務を与えます」

 

 

 空気が変わる。

  混じりっけなしの、真剣そのもの。

 久しぶりに見たな、この顔は。本当にめっずらしい。

 

 ボクは基本、教主であるコイツの護衛(ほぼ名目上)しかしてこなかった。

 与えられた任務の数はめっちゃ少ない。四百年以上活動したけど、組織のために動いたことは数えられる程度だ。   

 いや、別にボクが無能だから働かせてくれない訳じゃないよ?

 言っちゃあなんだけど、ボクはこの組織では間違いなく最強だ。

 コイツを除けば、他の幹部の連中が全員がかりで来ても勝てる自信がある。 破壊工作なら、ボクの右に出るような人材は他には居ないよ。

 でも、皆はボクのことを無闇やたらには使えないんだよねえ。

 ボクは使い勝手が良いし、強い。カードとしては、間違いなく最上位。

 でも、この組織は、ボク無しでは目的が果たせないんだ。

 組織の目的を鑑みれば、ボクの存在の重要度は、まあ最重要に近い。 だからこそ、万が一でも、失うリスクを負いたくはない。

 このボクに護衛をつけるなんて話が昔出たくらいだよ。ボクよりも強い人間なんて、一人も居なかったから一瞬で終わった話だけどね。

  本当に重要な局面以外では、動かせてはくれなかった。 三百年前、コイツが殺されかけた時とか。 二百年前、組織が滅びかけた時とか。 百年前、世界に向けて喧嘩を売った時とか。

 最後の最後、本当にヤバくなった時以外、何もさせてくれなかった。

 だというのに、

 

 

「『越冥教団』第一の使徒、アインよ。貴女の行動一つで、我が教団の明日が決まると知りなさい」

 

「…………」

 

 

 はてさて、何を任されるのやら。

  国を滅ぼすくらいなら、他の連中でも余裕だ。

  ボクが動くのは、『人』の手に余るようなモノを相手にする時くらいだよ。

  モノホンの化け物相手なら、ボクとコイツくらいしか相手にならんし。

 まあ、何が相手でもバッチコイよ。

 ボクに勝てる化け物なんて、今の世にはボク自身しか居ないと思うけども。

 

 

「アイン」

 

「はいはい。どんな化け物相手でも、ボクがきちんと仕留めてや……」

 

「貴女、学校に通いなさい」

 

 

  …………ん? は? 聞き間違い?

 いや、え、は?

 

「は?」

 

「クライン王国の、国立魔法学園に通いなさい」

 

 

 あ、駄目だ。 ボクのリーダー、ボケちゃった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。