クソだね、クソ。
ホントにかったりぃわ、クソッタレ。
だってさあ、あんだけ長いこと仕事してさあ。
こんだけ七面倒なことしてさあ。
手に入ったものが少なすぎるよなあ。
あの時、ボクはクロノくんをボコボコにした。
そりゃあもう、めちゃくちゃにしてやった。
蟻を潰さないように本気の本気で手加減して、針の穴に針を通して芸術品作るくらいに慎重に戦った。
別に肉体的には疲れてないけど、本気で気疲れしちゃったわ。
マジでキツかったよぉ。
何が悲しくてあんな雑魚に気ぃ使わなきゃならんのさあ。
で、その報酬は、お菓子と紅茶。
もっとボクを敬え!
もっと報酬を寄越せ!
別に何が欲しいとかは無いんだけども!
我ながら無欲すぎて笑う。
こんなに求めるものが少ないとか大丈夫か?
体はこんなに若いのに、本当に精神は枯れ果ててるなあ、ボクって。
性欲はまだしも、食欲と睡眠欲まで無いとか、どうすりゃあボクは人生を楽しめば良いんだ?
……いや、もう全部楽しみ尽くした後だったか。
まあ、それは良いや。
昔のことなんて思い出しても良いことがない。
普通、人間は未来を見るものだからね。
だって、その方が建設的だし。
じゃあ、建設的な事も少しだけ話そう。
クロノくん、かなり『神気』が馴染んだね。
ボクだって、好きで彼をボコしたんじゃない。
ずっと言ってるけど、沢山『神気』を使ってもらって、慣れてもらう必要がある。
それを何度も何度も繰り返して、神様になってもらうのが目的だ。
その進捗だけど、今はとても順調。
あの時、クロノくんは攻撃や防御、逃走、あらゆる行為に『神気』を使用していた。
かなり馴染んでる証拠さ。前の時は、使った瞬間に半死になってたのに。
正直、ちょっと引くよね。
あの一回で、力の核心を掴んでるってことだから。
神の器だから天才的なのか、天才的だから神の器足り得たのか。
ボクは関わってないから分からんなあ。
今度暇潰しに聞いてみるのもアリかもしれん。
クロノくんの成長は、実際素晴らしいよ。
親和率で言ってみたら、初めて会ったときがゼロパー、キメラ事変で三パー、今で五パーくらいかな?
まだそれだけかい、ってなるかもだけど、コレって凄いことだからね?
あの『神気』に親和出来てる時点で、一パーセントでも前人未到なんだ。
正直、いつどこで終わっても最高記録さ。
教団としては初めての成功例だし、次も創れる保証もないから、何としてもそのまま神にしたいみたいだけど、現状でも十分だとボクは思うね。
最悪、死体さえ回収出来ればいい。
再現は難しいかもだけど、手がかりは見つかった。
次に繋がらないなんて事は、決して無いんだ。
他の連中はもっとやる気だからこんなの言ったら怒るだろうし、喋んないけどね?
今回の奇跡だって、何百年も待った末のものなんだ。
奇跡っていうのは起こすものっていうじゃん? この奇跡も、勝手に起きたんじゃなく、途方もないトライアンドエラーから生まれたものだ。
皆頑張ってるんだし、そりゃあ百年単位の時間があるんだから、いつかは出来るわな。
だから、ダメだったなら、また何百年でも待てばいいと思うのはおかしいかな?
人間としての視点が離れてしまったのか、それとも、人だからこそ諦めないのか。
バランスがなかなか難しいな。
いつかクロノくんにも同じようなことが起きるかと思うと、ゾッとしないね。
そうなったら、ボクがケアして人から離れないようにしないと。『神気』を使ってもらうには、人の負けん気が必要だからなあ。
絶望して、自分の力にすがるようにも出来るかもだけど、現状みたいに『誰かのために』みたいなポジティブな理由で力を使わせる方がリスク少ないし。
…………
ボクって意外と周りのこと考えてるよなあ。
あんま興味のない事のはずなのに、何故こんなに熱心に解析してるんだろ?
はーあ、自分の嫌なところ見るってダルいなあ。
理解し合えない人が居るって、面倒だなあ。
つくづく、ボクは他の皆とは意見が合わないって分かっちゃう。
表面的なものじゃなく、根本的に。
人とヒトモドキの差がコレかぁ。幸薄ちゃんのこと、笑えないよ。
だって、ボクが普通に振る舞ったら、絶対ろくな事にならないんだよなあ。
最悪、組織が分裂することになるかもしれん。デカくなった弊害キタコレって感じ。だから、和を保つため、ボクが気を張らないといけない。自分をある程度は律さないといけない。
それでもボクのことを目の敵にしてるけどね。
まあ、マシなケースと考えよう。ボクが共通の敵になったから、協力してクロノくんも作ってくれたことだし、結果オーライって感じです。
さて、
「教主」
一月半ぶりくらいだったっけか?
久しぶり、でもないなあ。
下手したら十年くらいは会わないし、このくらいで久しぶりもないか。
でもなんか、時間が空いた気がするなあ。
これまでみたいなめちゃくちゃ薄い時間じゃなくて、濃密な一月半だったからか。
うん、人間の心理は不思議だ。もうほとんど、人間辞めてるけども。
「教主、ボクだぞ」
「―――――――」
しまったな、
好きだよなあ、本当に。
懐古主義も極まったらこうなるんだから、ビックリするわ。
まあ、お楽しみ中悪いけど、今日の所はボクの方を優先してもらおう。
「起きろ、アホ。ボクこそ最優先事項だろうが、このムッツリ野郎め」
「――――――――――!!!!!」
軽くビンタしたつもりだったんだけど、反撃モードに移行しちゃった。
でも、こんくらいなら大丈夫。
ボクに効く類の魔法じゃないし。
教主は他の雑魚どもとは違うから、かなり気張らないと駄目だけど、無理する範囲じゃない。
「おい、起きろ、■■■■■! お前の大好きなお茶会の時間だぞ!」
「!!!!!」
今度は強めに頭を叩いてみる。
流石に寝相悪いな。
次でも起きなかったら一回頭潰してみるか?
……お?
ああ、潰さなくて良かったらしい。
流石に友人のスプラッタは見たくないし、良かった良かった。
「ア、イン……? 私は、」
「見事に寝ぼけてたな、■■■■■。夢見が良さそうで何よりだ」
機嫌悪そー。
まあ、コイツが見る夢なんて悪夢しかないしなあ。
あ、頭さすってる。状況を呑み込めたようで何よりだ。
そのおかげで余計に機嫌悪そうだけど。
「……ええ、暴力でしか物事を解決できないバカな友人のお陰様で」
「どういたしまして」
こんな優秀な友人に恵まれるなんて、君の幸運には思わず嫉妬しちゃうなあ。
上等な椅子にふんぞり返ってられるんだから、楽でいいだろ?
「……貴女には、クロノ・ディザウス監視の任があったはずですが。サボりですか?」
「今日だけだよ。それに、エセ神父が代わりに見てるんだから、別に良いだろ」
穴なんて無いさ。
今日は休むって、そう決めたんだ。
もうボクが決定したんだから、覆せないぞ?
ボクに振り回される事を光栄に思い給えよ。
「はあ……では、何故貴女がここに? 無理矢理作った休みを利用してまで、何をしようというのです?」
「コレだよ、ほら」
空間にしまってあった、テーブルを取り出す。
椅子は教主の分が既にあったし、ボクと、もう一人分だけでいい。
あと、混ざらないよう、壊れないようにしてたティーセットね。
カップ三つ、クリーマー、ティーポット、ケーキスタンドやらやら。
全部幸薄ちゃんに見繕ってもらったやつ。
こういうのって良くわかんないけど、なんか、そこはかとなく良いよね!
茶葉は完璧に密封してる。
ティーポットに入れた瞬間、スゴイいい匂いがした。
「これは……」
「お茶会。お前、好きだったじゃん?」
熱湯入れて、三分蒸らすんだっけか?
ケーキスタンドにそれっぽくお菓子置いて、ティーカップを椅子の前に置いて。
あと、することある? 無いよね?
…………
じゃあん! 完成!
辛気臭い場所だったけど、なんか華やかになった気がしない?
ボク主催のお茶会。
これで合ってるかは知らんけど、まあ良いっしょ。
「……お茶会」
「やってなかったじゃん、最近?」
懐かしいなあ。
ボクに品性を身に着けさせるためとか言って、無理矢理こういう貴族的なマナーを学ばせようとしてきた。
コイツ、昔から神経質だからなあ。
昔のボクなんて、ほとんど獣だったのにさ。
「……貴女も懐古に目覚めましたか?」
「たまに昔を懐かしむくらいは普通にあるさ。度が過ぎてるお前と一緒にするな」
神経質過ぎるんだよなあ。
真面目で、誠実で、完璧主義すぎた。
もっといい加減に生きて良いのに、手の抜き方が分からなかったんだ。
なーんて哀れな奴だろうか?
そんなだから、■■にバカにされるんだ。
…………
「あ゛あ゛もう、鬱陶しい! 『存在封印』解けよ! 目の前に居る奴の名前も呼べないとかストレスなんだが!?」
「それは出来ません。解くのは、目的を達した時。そう決めましたので」
「自分に縄かけるのにハマるとは。とんだ変態が身内に居たもんだよ」
なんとでも言えってばかりに肩をすくめるんじゃあないよ。
本気でしばいてやろうか?
やっぱスプラッタ映像流すか?
「はいはい、好きなように言いなさい。ですが、」
「?」
「何故急にお茶会などと? 貴女、堅苦しいのが性に合わないといつも言っていたでしょう?」
まあ、そうなんだけどさ。
うん、分からんけど、取り敢えず淹れてみるか。
大体こんなもんでしょ。
ちゃんと三人分、カップに注いでやる。
このバカのためにセットを用意して、お茶を淹れて、前に差し出してやるなんて、なんてボクは優しいのか。
感謝して咽び泣け、バーカ。
「良い茶葉が手に入ったんだ。なんか、昔、お前が用意したのに似てる気がしてさ」
「…………」
優雅に飲むなあ。
さっきまで寝ぼけてたのに。
ボケ老人手前みたいな痴態だったのに、そんなで誤魔化せるとでも?
「良かったのは、茶葉までですね。昔、貴女に施した教育は無駄に終わったようです」
「せっかく用意してやったのに、この言い草よ」
「味覚は鋭くとも、舌に繊細さは宿らなかったようですね」
うざ。
何だよ、別に変わらんだろ?
多少屋敷で淹れてもらったのと誤差はあるけど、セーフだろセーフ。
細かい奴だなあ、マジで。
「これでは、■■も文句を言うでしょう」
「いーや、■■はボクと同じでこんくらいならセーフっていうね!」
……はあ。
お互い、黙ってしまった。
ちょっとしんみりしちゃったな。
懐古主義じゃあないけれど、昔が楽しかったのは本当のことなんだし。
だから、つい、ね?
本音を漏らしてしまうのも、しょうがない。
「また、三人でバカやりたいね」
「…………」
仕方がない、仕方がない。
この感情は、止められない。
もう終わった物語を、一体いつまで追いかけるのか?
そんな虚しい事を考えてしまう。
「そう、ですね」
「…………」
…………
うん、無駄な事を考えたよ。
感傷に浸るなんて、変になったのかな。
昔のことを思い出す機会が出来ちゃったから、つい、ねぇ。
本当に、つい、さ。
「私も、そうなることを願いますよ」
でしょうね。
もう、止まれないもの。
「さて。ボクじゃあお前を満足させられないらしい。これは、もう出直すしかないな」
「もう、行くのですか?」
「お互い忙しい身でしょ? お前の鼻を明かすくらいはしたかったけど、まあ出来ないならしゃーなしだし、いいや」
かなり休めた。
やり取りは少なかったけど、心は回復した。
報酬としては十分だ。
現物はお茶会一回分の材料くらいだけど、それで思い出を共有出来るなら、それでいい。
ボクはコスパが良いからね。
これで、五年は不眠不休で働けるな。
思い出っていうガソリンでこんなに有能な仕事をしちゃうなんて、ボクはなんて有能なんだ。五分未満で五年分をチャージ出来るんだから、ボクよりエコな機械はないよ。
ボクが心安らぐ時は、やっぱりここにしか無い。
……偶に昔を思い出して語るだけで、ボクはもう良いんだけどなあ。
「待ちなさい」
「……何だよ?」
また小言か?
仕事に戻るんだから、気持ちよく送り出し……
「そこに座りなさい。貴女の雑すぎる行動を矯正して差し上げます」
「はあ?」
「マナーを叩き込んであげましょう。昔のように、ね……」
…………
まだ、話し足りない事もあるか。
そりゃあそうだ。
ボクらの過去は、語っても語り足りないくらいあるもんなあ。
昔のことを喋るのは、楽しいもんなあ。
うん、仕事があるけど、まあいっか!
エセ神父には後で謝っとこう!
「仕方ないなあ! とことん、付き合ってあげよう!」
「また■■と会う時、恥ずかしくないようにしないといけませんから」
また、ね。
また、いつか三人で……