いつの間にか悪の組織の幹部になっていた件   作:アジぺんぎん

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三章 魔物が嫌い
39 昔話、逸話、伝説


 

 むかしむかし、ずっと昔のお話です

 

 人類は永い平和を守り、穏やかな日々が続いていました

 

 争いの性は鳴りを潜めます

 

 あとにも先にも、こんな平和はないだろう

 

 過去の惨状を知り、この時代を生きた者は、そういうに違いありません

 

 何故、平和が続いたか?

 

 以前に起きた戦争の影響で、戦う力が無くなっていたというのも理由でしょう

 

 もしかすれば、人は争いに飽きたのかもしれません

 

 平和に飽きるその日まで、今だけは平和で在り続けよう

 

 そんな意地があったのかもしれません

 

 では、その平和は何故崩れたか?

 

 人の手によって作られた平和は、誰の手によって壊されたのか?

 

 決して、人が悪い訳ではありません

 

 木に落ちる雷のように、悪人の善意のように、神の戯れのように、厄災は降り注ぐ

 

 たった、それだけのお話なのです

 

 

 ※※※※※※※※

 

 

 本を閉じる。

 

 何度も何度も読み返した、プロローグ。

 長い長い苦しみと、人を焦がす冒険譚の始まり。

 彼女にとって、こんなにも引き込まれた物語はない。子供向きの童話であるにも関わらず、心に残り続けた理由を、彼女はなんとなく自覚している。

 皮肉と嘲笑の上に、この感動は成り立つのだ。

 この先の展開も含めてそらんじられるほど読み込んでも、その根底は変わらない。

 

 読んでいて楽しかったのは、昔のことだ。

 今となっては、憎しみの方が近い。

 

 

「…………」

 

 

 いつもと同じだ。

 床に敷いた魔法陣の上で、心が死に続ける。

 自分の中の世界が既に終わってしまった事を見せつけられて、とても憂鬱だ。

 毎日毎日、飽きもせず、苦しみ続ける。

 救いを求めた時期も、支えを作ろうとした時期もあった。だが、どれも結局は、暗い闇に呑み込まれて消えていったのだ。

 絶望によって死んだ世界の中で、彼女は一人耐え続けてきた。

 

 

「…………」

 

 

 痛みも、苦しみも、もう慣れた。

 人を寄せ付けないようにして、誰にも頼らないようにして、役目を果たそうとしてきた。

 もう、何も期待していない。

 もう、何も信じてはいない。

 無駄と知りながら、惰性で抗う事を選び続けるだけの日々だった。

 だから、

 

 

「嗚呼……」

 

 

 涙など、とうの昔に枯れ果てた。

 救いを求める声も出尽くした。

 

 継承されたソレは、人を憎むモノなのだ。

 人が抱えて無事なはずもなかろうに。

 いったいぜんたい、どうしてコレを抱えてしまおうなどという思考回路に至ったのか?

 問いただせるなら、そうしている。

 最初の一歩さえ間違っていなければ、もっとマシな形になれただろうに。

 

 

「皆、死んだらいいのに」

 

 

 ソレを抱える彼女は、言葉にすら力が宿る。

 もしも今の呟きを誰かが聞いたなら、耳から血を流しながら発狂死していただろう。

 だが、溢れた呪いは、魔法陣に阻まれる。

 際限なく溢れる呪詛を、浄化し続ける。

 彼女は、浄化の速度を上回らないように、溜まった鬱憤をゆっくりと吐き出していく。

 ただ平穏に暮らしている者たちへの妬みが、輝かしき生を謳歌する者たちへの憎しみが、踏みつけられた者たちへの怒りが。

 形を成して、死を撒き散らそうとする。

 

 

「死ね、死ね、死ね」

 

 

 本の中のように、助けてくれる英雄は居ない。

 高め合い、助け合うライバルは居ない。

 周囲の人間は、ただ恨み辛みをぶつけるための、都合の良い装置だ。

 全てが、呪いのための生贄だった。

 あらゆるものに対する仇花として、育てられた。

 

 

「死ね、クロノ・ディザウス……」

 

 

 そんな彼女、リリア・リブ・ロックフォードは、あらゆる存在を嫌悪する。

 その中でも、彼は特別。

 自分と『同族』であるクロノ・ディザウスだけは、殺さなくてはと強く思っている。

 

 

 




クロノくん『!?』
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