あーあ、こりゃダメだな。
彼らならもしかすればって思ったけど、てんで期待はずれだったな。
せめて一分くらいはもって欲しかったぞよ?
おいおい、瞬殺だったよ。
確かに実力差はあったけど、もうちょっと気合いと根性で何とかならんのか?
ていうか、何とかしろよ。この後メンドクサイのボクなんだからさあ。
はーあ、どうすっかなあ、この後。
予定ではクロノくんが苦戦しつつもギリギリで持ちこたえて、最後の最後で力に目覚めて大逆転すると思ってたのに。
現実は上手く行かないなあ。
流石にぶつけるのは雑すぎたか。
いや、ボクが『魔王』の能力を過小評価しすぎた? んー、クロノくんたちを買い被ったかなあ?
なんにせよ、わりとミスだ。
困っちゃうよまったく、どうしよっかなー。
「いや、呑気すぎますよ。どうするんですか、この後」
うん、突っ込まれるよね。
想定外の実力差に、ボクもビビった。
クロノくんたち負けちゃったし、呑気すぎって言われるのも分からんでもない。
メンゴメンゴ、悪かった。
緊迫してた方が良かった? そういうことじゃない? あっそうですか。
「どうもこうもないよ。クロノくんたちを逃がして、ついでにあのクソ迷惑『魔王』は封印。傷が癒えたら二回目いってもらう」
「そう上手くいきますかね?」
「不安になる事言うなって。行くかどうかじゃなく、行かせるんだって分かるだろ?」
「はあ……今回は小生も手伝えとは、そういう……。貴女の行き当たりばったりの尻拭いというわけですか……」
いや、ボクも別に考えなしじゃないよ?
一回のチャレンジで勝てるとは思ってない。
勝てるまで戦わせて、レベルアップを図ればいいじゃないか。
死ぬ気でやりゃあ、成長するに決まってる。
それを何回もやらせりゃあ、めちゃくちゃレベル上がるだろうさ。
ボクが言わなくても分かってるっしょ?
はよ行け行け。
話してるだけ時間の無駄だわ。
「貴女も、座ってないで動いて欲しいです」
「座ってるんじゃない。瞑想してるんだ。座禅組んでるだろ?」
「……? よく分かりませんが、集中してるんですね? その割に、ベラベラ喋れていますが」
なーんで
和風っぽい国にも座禅はないし。
やっぱ、神とか救いの主が存在しないっていう宗教感がおかしくしてるのかな?
あと、喋れなきゃ話進まねぇだろ。
集中してるけど、わざわざ意識のリソース割いてんだよ。
今使ってる魔法の難易度分かってる?
多分、使える奴、世界に三十人も居ないよ?
「結構集中してるさ。何を閉じ込めてると思ってるんだ? 『魔王』だぜ?」
「そこまで大層な相手なのでしょうか?」
「まあ、ボクが今閉じ込めてるから分かりにくいか。まず現段階で、確実にお前より強いよ」
分かってる?
その昔、人間を滅ぼしかけた最強の魔物だ。
ヤバいどころじゃないよ。
エセ神父も、人間の中じゃトップオブトップ。それを上回ってる時点で、ガチでしょ?
「ふむ、呪いが主体の相手なら、私は有利に戦えます。勝てないとは思えませんが」
「えー、呪いぃ? あんなの、前見た時にはなかったよー?」
あ、エセ神父驚いてるなあ。
まあ、そりゃそうか。
あれだけの呪いがあるんだから、それがスタイルの魔物って勘違いしてもおかしくはない。
呪いだけの魔物なら、普通にエセ神父が勝つさ。
でも、前の状態の『魔王』に、呪いっていう能力が加わってるんだ。
そりゃあ、強いさ。ボクの方が強いけど、相性悪いから戦いたくないし、無敵なんじゃないかな。
ん? なんでそんなの分かるのかって?
一応、ボクって『魔王』より歳上だかんなあ。
だから、『魔王』のことは知ってる。この目でしかと見たことがある。
今と昔の能力値くらい、普通に見抜ける。
呪いがあるから『魔王』なんじゃない。
他と違うから、『魔王』なんじゃない。
世界最強、唯一魔物を統べる事を許された存在だから『魔王』なんだ。
人ひとりが勝てる相手じゃない。
「魔物の王としての能力はある程度は残ってるけど、大部分は死んでるな。エネルギー量は、全盛期の四割減。呪いが凶悪すぎるけど、差し引きマイナスか」
「それは……」
「ヤバいんだって、だから。ボクが張れる中でも最強の結界を張ってるけど、それもいつまで持つか」
一週間は閉じ込められると思いたい。
脳ミソ焼ききれるくらい演算しながら、この結界を維持してる。
我ながら凄いぞ、これは。
クロノくんに戦う場所を用意してくれって言われて、ボクが外界と隔絶する結界を創ることになったけど、本当に大変だったんだ。
クロノくんたちには一見、不自然なほど高度にならないよう、それでいて、あの『魔王』を閉じ込められるほどの効果を発揮しないといけない。
そもそも、ボクは複雑な術を使うのは向いてないし、本当に大変だった。
魔法使うのに詠唱と贄を使うなんて、正直自分でも頑張りすぎだと思う。
「猶予は?」
「一月は絶対にもたせる」
第八階悌魔法『迷宮創造』
一層から十層まで多重構造の迷宮を作成する。
出口は一つしかなく、そこ以外から出るのは基本的に不可能。閉じ込め、封印する術でありながら、明確な攻略法が存在する。その縛りは、結界の強度を大幅に引き上げる事ができる。
迷宮の名の通りに、脱出するには迷える宮を攻略する他にない。
ボクの自慢のギミック盛り沢山。
時間稼ぎっていう意味なら、これ以上の魔法はない。
回収済みのクロノくんたちは、『魔王』とは離れた階層に隔離した。
ある程度なら、時間も操れる。
つまり、エセ神父を負けイベの時に現れる謎のお助けキャラに仕立てる時間は十分あるってことさ。
「じゃあ、結界の中に入って、クロノくんたちの記憶いい感じに編集してきてー」
「いい感じ……具体的に言って欲しいのですが……」
「前回の経験引き継げてー、恐怖は上手い具合に和らげてー、またやってやんぜって気持ちにさせてー」
「……はいはい、いい感じにやっておきます」
含みがあるなあ。
まあ、心の広いボクは許してやるけど。
「ほんじゃ、期待してるよー」
「どうなっても知りませんよ?」
後で文句は言わないでおいてやるよ。
さて、不安要素は『魔王』がどう動くかなんだけど。
暴れないで大人しくしてくれよー?
………………
…………
……
あ、まず
※※※※※※※
「妙ダナ」
違和感を感じたのは、クロノたちを倒した数秒後である。
ただの結界だと思っていて、クロノたちを殺した後にすぐさま外に出るつもりだった。
直感的に、その結界は高度であっても、破れぬほど凄まじいものだと思っていなかったからだ。
しかし、瞬時に悟ってしまう。
この壁は、絶対に壊せないのだと。
「術自体ハ、ソレホド凄マジイモノデハナイ。ダガ、壊セル気ガマルデセン」
顎に手を当てながら、独り言ちる。
やはり愉快そうで、現状を楽しんでいるようだ。
推理小説でも読んでいるように、不明に対して心踊らせているようだった。
「フム、貴様ラハ、ドウ思ウ?」
振り返る。
この時、『魔王』は死体に向けて話しかけたつもりだった。
返答がないなど百も承知だが、何の意味もないおふざけのつもりでやった。
しかし、『魔王』の目に死体は見えない。
いつの間にか消えていた。『魔王』すら気付かぬほど、早く、密やかに。
「ナルホド、ナルホド。コレハ、結界トイウヨリ、小規模ナ世界ニ近イナ」
興味深そうに、笑っている。
敵の腕に、感心しているのだ。
強ければ強いほど、その命を散らす瞬間は美しいから。
それは、ご馳走の前で舌なめずりするようなものだ。
己の勝利を疑わない、傲慢さは隠しきれない。
「フムフム、世界ヲ相手取ルノハ、初メテダ」
呪いを、発動する。
対象は、誰か個人ではなく、全てに対して。
急速に呪いが溢れ、世界をどんどん犯していく。
世界すら、容易に呑み込む事ができる。
何もかもが、掌の上。生かすも殺すも、気分次第で決まる。
魔物の王は、間違いなく、最強の魔物だった。
「死ニ絶エヨ」
王は、高らかに笑う。
この世の全てが己の贄だと、信じて疑わない。