いつの間にか悪の組織の幹部になっていた件   作:アジぺんぎん

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色証ヒトモシが出ない……


53 すまんすまん、油断したわ

 

「うぎゃーーーー!!!!」

 

 

 ヤバいヤバいヤバいヤバい!

 キモいキモいキモいキモい!

 最悪最悪最悪最悪最悪最悪!

 

 あんのクソ魔物めぇ! こっちがして欲しくないこと的確にしてきやがる!

 普通は諦めるだろ!

 この結界の形に気付いたら、どんだけ消耗を減らして攻略するかって戦法に切り替えるのがセオリーなんだが!?

 伏兵とか、迷宮攻略後の戦闘とか考えてねぇの? 出し惜しみしつつ、最小限の力で戦えよ! 脱出できなかった時のリスクとその手段で行える現状打開のリターンが釣り合ってねぇだろ!

 頭おかしいんじゃねぇの、こいつ!

 

 ヤバいヤバい、ヤバいって!

 こんなの想定してないよ!

 第一層の壁を厚くして、耐呪の術式刻み直して、呪いに犯された部分は放棄! エネルギー抽出、術式修正、時間流激減、重力場再構築、第一層地域修正、修正修正!

 忙しい忙しい、なんでこんなに忙しいんだ?

 あとはもう、ただ見てるだけでほとんど良かったはずなのに!

 

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

 

 

 キッショーーーー!!!!

 瓶詰めのゴキブリの群れ見てる気分だ。

 コレ、自分の魔力から術使わなくて良かったよ! 星から強奪した力をメインに迷宮作ったけど、自力でしてたら気絶してた。

 なーんで、ボクがこんな奴に振り回されなきゃいけないんだ?

 おふざけが過ぎるだろ、こんちくしょー!

 しばき殺してやろうかぁ!?

 やってやんぜコラァ!

 

 

 …………

 

 

 

 ただでさえ、脳ミソの容量を術の維持に使ってるのに、ここまでかき乱されるとは。

 普通、この迷宮を崩壊寸前まで押し込む方法なんて皆無なんだけども。

 あー、呪いっていう能力が厄介すぎたな。

 何もかもを毒すっていう性質から、本来なら壊せないはずの迷宮すらも根本からダメにした。

 壊れないっていう前提が、おかしくなった。

 それで慌てちゃったなあ……

 

 ボクも、かなり頑張ったんだよ?

 時間の流れを遅くして、呪いの進行速度を遅くしたり。呪いで犯された部分を放棄、封印しながら、新しく壁を創り直したり。『魔王』を迷宮のギミックで攻撃して、妨害したり。

 でも、まあ、無理なもんは無理だった。

 流石に同時処理こなしすぎたなあ。許容力が一瞬でオーバーフローしたよ。

 

 エセ神父に『一月は絶対もたせる(キリッ!)』って言ったのが恥ずかしい。

 もうガタが来てんよ。

 やっぱ、慣れない事はするもんじゃない。

 殴って黙らせるのが一番なのに、それをしなかった時点でボクの負けだったか……

 

 

「…………」

 

 

 呪いが漏れた。

 犯された部分の浄化を、星に流し込む形で解決してたけど、無理しすぎたね。

 普通の呪いなら、星も問題なく受け入れてくれるだろうけど、今回は質も量も桁が違う。

 流し込んでた呪詛を、逆流させられるとは。

 ちょっと前のボクならいざ知らず、今のボクに星の力をどうこうする力はない。

 

 

「……やっちまったー」

 

 

 全身に黒い痣が広がる。

 ついでに、激痛が全身を走る。

 どんどん体組織が死んでいってる。

 

 こりゃ、ダメだな。

 完全にボクのミスだ。

 

 

「ごめん! あとは任せるわ!」

 

 

 迷宮構造変更。

 マスタールール生成。

 迷宮のマスター権を譲渡。

 

 うん、本当にごめん。

 悪いとは思ってるんだけど、マジ良くないとは思うんだけどね?

 神父様、上手いことこの状況を収めてください。

 

 

 ぐえ……!

 

 

 ※※※※※※※※※

 

 

 目が覚める。

 意識が覚醒して、寝ている間は感じなかった痛みが強くなっていった。

 頭はガンガン痛み、体が重い。体調は、限りなく悪い。

 クロノは、闇から引っ張りあげられるような感覚だった。

 これさえなければ、もっと長く、眠っていられたはずである。

 だが、呼ばれている気がしたのだ。

 誰かが『ダメだ』と、否を突き付けている。

 揺さぶり、手を尽くし、まるで導くが如く、そうさせられている気がした。

 

 そして、

 

 

「起きなさい」

 

「!」

 

 

 霞む目が、ハッキリし出した。

 反射的に周囲を確認して、記憶を掘り返して、理解する。

 負けた事と、生きている事と、助けてもらったらしい事だ。

 何よりも先にアリオスとアリシアの無事を確認する。

 寝息を立てている二人が見えて、異常がない事を確かめてから、

 

 

「あ、貴方が、俺たちを……?」

 

「まあ、間違いではありません」

 

 

 そう言う男は、とても不思議な雰囲気の男だった。

 真っ白な蜘蛛の糸のような髪と、見たことがない真っ白な装束が特徴的な、貼り付いたような笑みを浮かべている優男のようだ。

 魔法的な意味が込められた装飾品は数々覗き、なんとも油断ならない。これだけ近距離に居ても、まったく隙があるように見えなかった。

 突如現れた第三者、しかも間違いなく手練れ相手に、取るべき対応は決まっている。

 クロノは、最大限に警戒した。

 頭を切り替えて、最善を取れるように。

 

 だが、その後に脱力する。

 この状況で敵である可能性は、限りなく低い。むしろ、その逆だと思ったからだ。

 一言で表せば『胡散臭い』男だが、下手に敵対していい相手ではない。

 だから、歩み寄るよう、態度を和らげようとする。

 

 

「あ、ありがとう、ございました……貴方が助けてくれなければ、死んでいました……」

 

「いえ、若者が死ぬ所は、私も見たくありません。どうぞ、お気になさらず。クロノ・ディザウスくん」

 

 

 名前を当てられ、ギョッとする。

 解こうと努力していた警戒が戻りそうだ。

 状況を考えれば、この『場』を用意してくれた()()の知り合いだと予想は簡単なのに。

 だが、男はそんなクロノの内心を見抜いたようだった。

 両手を挙げて、戦意がない事をアピールしながら、

 

 

「今回の件、専門家として参加しています。敵ではありません」

 

「……アインの、知り合いですか?」

 

 

 クロノの問いに、男は首を横に振る。

 嘘を吐いているようには、見えない。

 クロノの『真眼』が、上手く働かない。目の前の男を対象にすれば、何故かぼやけて見える。

 不思議な反応だが、既にクロノは警戒出来ないでいる。

 心を許しても構わないと、思えていた。

 

 

「小生は、学校の関係者です。彼女の事は、事前に把握していました。もしもの時に、対応は小生が行う予定でしたので」

 

「……じゃあ、なんで、俺たちに?」

 

「誰かを想う心に、野暮をしたくはありません。これでは不服で?」

 

 

 文句など、在ろうはずもない。

 それを望んで、外との隔絶を頼んだのだ。

 こうして助けてもらった時点で、つける文句など一切ない。

 ゆるゆると、クロノは首を横に振る。

 何も出来なかったと悔やむ一方で、安堵を覚えてしまった。

 

 

「……すみません」

 

「何故、謝るのでしょう? 小生は、何も思ってはいませんが」

 

 

 素でそう言ったのだろう。

 助けたことも、至極当たり前とでも言わんばかりだ。

 目の前の男との差に、自己嫌悪が止まらない。

 

 

「それにしても、危うかった。あんな怪物とは、聞いていませんでしたよ」

 

「…………」

 

「あれは骨が折れますね」

 

 

 男は、クロノを覗き込むように首を曲げる。

 様子を窺っているのだろう。

 何かを求められている気がして、クロノはとてもバツが悪い。

 アレを相手に、どうすれば勝てるのか?

 それをイメージ出来なくなっているから。

 

 

「……確かに、怖いですね。あんな化け物と戦うのは」

 

 

 動けなくなっていたクロノの内心をピタリと言い当てる。

 中を覗かれたような気がした。

 

 

「それで、どうします?」

 

「え?」

 

「貴方は、この状況を放っておけるので? アレが外に出れば、何も残りませんよ?」

 

 

 分かりきった事を言う。

 だが、その分かりきった真実に、胸が痛む。

 

 

「奮い立つ事が出来るはず。あの少女の呪いを受け入れると、そう言いましたよね?」

 

「はい、でも……」

 

 

 勝てる気がしない。

 どうやっても、勝つヴィジョンが見えない。

 力の差がありすぎる。

 何をどうすれば逆転出来るのだろう?

 

 その答えが、欲しくて堪らなくて、

 

 

「安心なさい。どう勝てば良いのか分からないのなら、小生が教えて差し上げます」

 

「本当に、アレに、勝てる……?」

 

「ええ。小生が導きましょう」

 

 

 だが、その欲しいものは、男が持っているという。

 思わず、クロノがすがり付くのも無理はない。

 自分の力では達成出来ないと分かりきっているのだ。

 この機を逃すべきでない。

 頼らなければ、道は開けない。

 

 

「小生の事は、そうですね……、ルサルカとでもお呼びください」

 

「ルサ、ルカ……?」

 

「職業上、本名を言うわけにはいかないので」

 

 

 とても怪しく、だが、振り払えない。

 ルサルカを名乗る男は、優しく微笑み、 

 

 

「期待された分の仕事は、こなしましょう」

 

 

 どこかへ向けて、そう言い放った。

 

 

 

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