いつの間にか悪の組織の幹部になっていた件   作:アジぺんぎん

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57 構築完了。再起動まであと……

 

 巨人は、恐るべき存在だ。

 

 北の山に鎮座するソレは、古から存在する。

 いったい、いつからソレが北に居着くようになったのかは、誰も知らない。

 何故なら、自身の領域に入り込んだ全てを排除する、というプログラムに則るだけの半生物であり、そして、手がつけられないほど強かったから。

 つまり、ソレの生誕のヒントとなり得る場所にも近付けず、そもそもソレを見た者がほぼ殺されてきたのである。

 かろうじて、ソレの存在によって、その山は草一本生えない、永久凍土が支配する死の冬山と化したと伝わるのみで、『勇者』が現れるまで、姿すら曖昧だったのだ。

 王に付き従うようになるまで、『霜の巨人』は、無頼の怪物だった。

 

 龍は、最上位の存在だ。

 

 龍という種族自体が、そもそも強い。

 強靭な肉体を持ち、一日で千里を駆け、一晩で二千里を飛び、永き時を生き、死体すら大量のエネルギーを宿し続けて朽ちないほどの生命力を持っている。

 その魔力も凄まじく、吐かれたブレスで森を更地にし、唱えた魔法は熟達した魔法使いを容易く上回る。

 だが、ソレは、そんな最上位の種である龍の中でも、規格外。

 世界中に散らばる百の龍から、龍の王として認められた極点。

 そこを根城にした。たったそれだけで、南の大森林を巨大な砂漠へ変えた。

 魔物の王でなければ、謁見すら出来なかった稀代の怪物。それが『黄金の龍』だった。

 

 だが、

 

 

「ヤハリ、記憶ヲベーストシタダケデ、本物ニハ遠ク及バヌナ」

 

 

 くびり殺された死体は、見るも無残だ。

 黄金の鱗は引き剥がされて地面に散らばり、霜が降りている。

 巨人のあちこちから火花が散り、身体のあちこちが溶けている。

 共通しているのは、捻り切られた首だけだ。

 

 

「フム、フムフム。最初トハ、迷宮ノ質ガ変ワッテキタ。呪イヲ打チ込ンダ時ト異ナル」

 

 

 魔物の王は、死体の上で、座り込む。

 実に退屈そうで、そして傲慢だ。

 一目で王と分かるほど、他とは違う。普通は、ここまで威風堂々と在れるものではない。

 機嫌次第で、生死が決まる。

 そんな、プレッシャーを放っている。

 

 

「主ヲ変エタカ。ダガ、」

 

 

 ピリピリと、空気が震える。

 泥の奥底から湧きあがるような、呪いが溢れる。

 呪いの耐性を会得した迷宮ですら、小さく震えるほどの呪詛だ。

 例えるならば、大瀑布。

 都度都度、迷宮が蓄え、浄化し、収め続けても、なお余りある呪いの暴走。

 それは、負の感情に連鎖したもの。

 

 

「飽キテキタ」

 

 

 不快である。

 たったそれだけで、世界が揺らぐ。

 これが、『魔王』のスケールだった。

 

 

「茶番モ、ホドホドニシテ欲シイ。ドレダケ、オ預ケスルツモリダ?」

 

 

 求めるモノは、強者の死だ。

 命を懸けて闘い、返り討ちにあった者の末路。

 苦痛、嫌悪、誇り、希望、思惑、策謀、理解、傲慢、安堵、願い、諦念、悲哀、恋慕、憤怒、恐怖、禍根、嫉妬、達成感、虚無。

 あらゆる要素が入り交じった、ソレが見たい。

 だというのに、

 

 

「命ノ輝キガ見エナイ。懸命デモ、全力デモ、死ノ危険ガ無ケレバ、見エヌノダ」

 

 

 どれも、命を懸けていない。

 死のリスクが、存在しない。

 そんなもののどこに、輝きが宿るというのか?

 求めるモノをお預けさせられて、ずっと我慢が利くほど、『魔王』の気は長くない。

 溢れる呪いが、世界を壊す。

 既に玩具には飽きている。次の興の乗るモノがなければ、世界をそのまま破壊する。

 それだけの力が、『魔王』にはあって、

 

 

「寄越セ! 命ヲ! ドコニ居ル!? 強キモノヨ!」

 

 

 大気が震える。

 王の怒りに呼応して、呪いは強まる。

 ここがもしも外ならば、確実に『裁き』と『星霊』が出現するほどに。

 

 あり得ては、いけない光景である。

 エネルギーというものにも、許容量があるはずなのだ。使えば有用な魔力にも、ひとつの生命が宿せる量には必ず限界がある。

 呪いなどという有害なものなら、その縛りはさらに強くなる。

 だが、『魔王』の生み出す呪いは、際限がない。

 あまりにも巨大。あまりにも、潤沢。

 ともすれば、星を上回らん勢いかもしれず、

 

 

「コノママ世界ヲ滅シテモヨイ……」

 

「それは困ります」

 

 

 呪いの発生が止まる。

 すべての動きを停止させ、まず自身の右肩を見た。

 

 

「コレハ……」

 

 

 異形の腕が、無くなっている。

 肩から先は完全に消失しているが、血は一滴も流れていない。

 明らかに、異常事態だ。

 だが、『魔王』は状況理解するより、攻撃を防御するより、反撃を行うよりも先に。

 

 ただ、喜びを表した。

 

 

「貴方を足止めしろとお願いされまして。残念ながら、この世界を壊されるのは困るのです」

 

 

 男だった。

 見慣れない真っ白な服を着た、胡散臭そうな男だ。

 四方に身の丈ほどのナニカを浮遊させ、気味の悪い力で身を包んでいる。

 これまでの茶番とは、明らかに違う。

 死の香りが、漂っていた。

 

 

「ハハッ!」

 

「『祭殿』」

 

 

 凄まじい気配がした。

 色濃く現れる、『魔王』が嫌悪する力。クロノという人間からも感じた、相容れないという酷い厭悪。

 ()()()()()()()魔物である『魔王』が、本能的に嫌ってしまう相手。

 生きていた頃にも何度か確認したが、()()()()踏み込んだ人間は見たことがなかった。

 明らかに、ネジが飛んでいる。

 普通、ここまで行けば帰ってこれないのに。

 

 

「『神官』カ!?」

 

「ええ、見ての通りの『神官』です」

 

 

 既に、祈りは届いたようだ。

 目に見えるほど濃く、『神』の力を感じる。

 

 

「神無き世界で神へと祈る。そんな異端者の元締めが、小生です」

 

「面白イ!」

 

 

 力が弾ける。

 爆発的に増幅されたエネルギーが真正面からぶつかり合い、空間が捻れる。

 世界は大きく歪み、そして、

 

 

「貴様モ、クビリ殺シテヤロウ!」

 

「遠慮します。小生は、迷える子羊たちを導かねばならない。まだ、死ぬわけにはいかないのです」

 

 

 神官の四隅に配置された柱が舞う。

 空のテーブルが現れる。

 色鮮やかな花々が光る。

 手に持つ皿の上に置かれた肉塊が、嗤う。

 

 神官というものと戦った事はないが、『魔王』は知識として知っている。

 本来、もっと大規模な建築物の中で、さらに多くの人数を必要とする行為のはず。

 だが、この神官は単体、しかもたったこれだけの設備で、『魔王』の呪いと同等の力を引き出している。

 

 儀式

 

 空間を清め、供花し、贄を捧げ、祈る。

 神への祈りを通して、加護を得る。

 それによって達する目的は様々だが、今回の場合、十中八九『外敵の排除』なのだろう。

 魔法使いでいうところの詠唱にあたるが、かけられる手間と力の源は別物だ。

 

 対応策は、セオリー通り。

 発動する前に叩けばいい。

 しかし、

 

 

(コノ、凄マジイ『神気』ハ……!)

 

 

 四方を結界で囲み、その内部を神殿と見立てているのだろう。

 テーブルに置かれた花が、急速に萎れていく。

 肉塊を捧げ、神官は十字を切った。

 儀式が進むごとに、爆発的に『神気』が高まる。

 下手に手を出せば、攻撃した『魔王』の方が傷ついてしまうだろう。

 在りうべからざる奇跡を、目の当たりにする。

 人がここまで至れるとは、完全に想定外だったのは、隠す余地もない。

 

 

「神官、貴様!!」

 

 

 片膝をつき、両手を組む。

 堂に入る祈り姿が見える。

 儀式が大詰めに入ろうとしているのだろう。

 呆気に取られて行動に移せなかったが、今度はすぐに動きだせた。

 呪いを纏い、殴りつける。

 しかし、まったくダメージはない。

 これほど強力な結界には、お目にかかった事がなかった。

 

 

「主よ。主よ。我らが主よ。我らの願い、聞き届け給え。邪悪な者共を祓い給え」

 

 

 感じ取る。

 一際鋭い感覚を有する『魔王』だからこそ、ほんの僅かに。

 世界の()から、見られている。

 鈍感な世界では到底気付けないほど薄くはあるが、確実に、なおかつ、強く。

 

 

「主よ、世界を捧げます」

 

「!」

 

 

 この術を、『魔王』は知らない。

 世界の全てを包み込むが如く、神の気配は顕現する。

 そこは、踏み込む事の許されない区域。

 神官が設定した、不可侵の世界。

 

 

「『聖域』」

 

 

 確信する。

 この男は、強い。

 

 

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