初撃
力いっぱい、剣を振り下ろしただけの攻撃。
以前なら、簡単に防がれてしまったであろう、安易な奇襲である。
しかし、それは確実に『魔王』の身体を弾き飛ばした。
単純な膂力が、『魔王』のそれを上回ったのだ。
それだけでなく、速い。
出した呪いは、空を掴む。
攻撃を受けた瞬間、反射で反撃をしたが、それは届かなかった。
想定より、遥かに俊敏だ。
「『雷光砲』」
「!」
第五階悌魔法『雷光砲』
雷を生成し、凝縮し、解き放つ。
たったそれだけの魔法だが、だからこそ、込められた力によって威力が大幅に変わる。
単純でも、殺傷能力は折り紙つきだ。
それに『魔王』は、防御を選ぶ。
肉体を変形し、切り離した。
さらに魔力を込めて硬度を強化し、直前の魔力反応から、対抗属性を纏わせる。
即席の盾だったが、そこらの素材で丁寧に作るより、よほど硬い。
防御の手段としては、満点だった。
「!」
「割れろ」
だが、威力はやはり、想定を越える。
「グッ……!」
「――――――!」
全身が雷で焼かれ、痺れる。
その隙を突いて、動く影が見えた。
もちろん、『魔王』は呪いでコレを迎え撃とうとした。
だが、それは叶わない。
単純に、動きが速すぎて追いきれなかったからだ。
「…………」
出血。
外骨格の隙間を狙われ、確実に肉を削がれた。
しかも、剣には属性が付与されている。
確実に神経系にダメージを与えにきていた。
「ナルホド。マルデ別モノ……」
「全ての呪いを、受けに来た」
確実に、ヒヨコたちは『魔王』を相手に戦えるレベルに至れていた。
※※※※※※※※※
実に厄介。
彼らに『魔王』が抱いた感想は、それだった。
基本的な陣形は、クロノが『魔王』と正面から戦い、他二人がサポートする形だ。
適切なタイミングでアリオスが割り込み、なるべく『魔王』の意識を散らす。アリオスは、魔法も同時に器用に使える。撹乱という役割をこなすには、これ以上ないほど適任だった。
アリシアは、さらに二人をサポートしつつ、隙を見て大火力を叩き込む。支援のための魔法、防御魔法、足止めの魔法、大魔法。全てを同時に展開し、前衛二人の戦いをスムーズにしている。
格段に、レベルが上がっていた。
同じことを繰り返し、カンを研ぎ澄まし、出来ることを増やしていく。
剣技にも魔法にも、練度の違いが明確化している。
変わった、と言える。しかし、これは覚醒や変異とは言えない。
当たり前に熟達し、当たり前に上手くなった。とても順当な、そして急速な成長だ。
その末に辿り着ける、劇的な成長だった。
だが、何よりも、クロノが凄まじい。
(強スギルナ……)
剣を打ち合いながら、『魔王』は思う。
明らかに、出力が上がっているのだ。
元よりエネルギー量は凄まじかった。だが、それを吐き出す力は、それなりといった印象だ。
だが、今はまるで違う。
タガが外れたような、大出力だ。
その変化は、そのまま攻撃力に現れる。
攻撃を受ければ、その度痺れるほどの衝撃を受けていた。
「『雷霆』」
「ムゥ……!?」
雷光の剣が、『魔王』を襲う。
クロノは剣に雷を纏わせ、戦っているのだ。
以前、アリオスが見せた技の昇華版だ。
細かく剣を振り、反撃の隙を作らない。しかも、強い電撃によって、動きが阻害される。
先程からチクチクと、雷系統の魔法で邪魔をし続けるのは、余波が肉体に作用するからだろう。その速度から、ほぼ不可避というのもかるが、一番は『魔王』も、その身体は筋肉で動かしており、僅かなりとも、動きに支障は出てしまうためだろう。
繊細な剣の間合いでの戦いに、これは地味に効く。
「こっちだ」
「『ライトニング』」
唐突に、クロノが離れる。
目論見は、分かっていた。
背後の前衛と、後衛による挟撃だ。
雷が真っ直ぐ『魔王』の心臓へ走り、逃げ場をアリオスが潰す。
膝と肘を叩かれ、動きの出鼻を挫かれた。
直撃した雷撃は芯まで響き、痺れを引き起こす。
「鬱陶シイ!」
一喝。
そして、魔力と呪いが吹き荒れた。
取り囲む雷を払う。
開けた視界の中のどこに、三人が居るかを探して、
「『雷王城』」
即座に、真っ黒な雲に囲まれた。
見ただけでも、相当な雷を溜め込んでいた雲であることは、推して知れる。
バチバチという男が聞こえた瞬間、黒雲から生えた雷の刃が、『魔王』を貫く。
「ケハァ……!」
口から黒い煙が出てしまった。
再生の間もなく、雷が通ったのだ。
切り刻まれた分だけ、電気の通り道が出来ていたのだろう。
内臓までしっかり焼かれている。
ギョロギョロと、『魔王』の瞳は動いて、
「ゾ、ゴォォォォ!!」
黒雲に囲まれた状態でも、『魔王』は敵の位置を把握できる。
見えないモノを、見通してみせる。
その能力は、
目隠しされても、確実に位置を特定できる。
反撃は、これ以上なく正確だった。
「分かってる」
だが、その反撃は、さらなる反撃が打ち消した。
三ヶ所同時の、『雷光砲』だ。
避けることも出来ず、三発全て着弾する。
さらに、
「『雷王城』発動」
ドーム状になって『魔王』を取り囲んでいた雷雲が、活性化する。
ゴロゴロと、獣が唸るような音が響いた。
目が潰れるほどの光が漏れ出る。
雷雲の中では、四方八方から、即死レベルの雷撃が走っている。
雲は、いわば檻なのだ。
最後の一撃を、確実に当てるためのもの。
「――――――!!!」
真上に集まった雷雲が、さらに絞られる。
それは、エネルギーが、雷がそこに集まっていく事を示している。
だが、集まるにしても、限度があるのだ。
限界まで力が集中すれば、どうなるか?
当然、わななき、墜ちる。
轟音
現れたのは、あちこちが焦げ、欠損した『魔王』だ。
確実に、弱っている。
だが、その威圧感はさらに増す。
「ゴ、ァァァア」
ただの咆哮が、衝撃波を伴う。
危うく飛ばされかける。
だが、怯まず次の攻撃を仕掛ける。
「『エレキバーン』」
「っ!」
第四階悌『エレキバーン』
これをアリシアが行えば、殺傷能力に磨きがかかる。
雷鳴を凝縮し、球状にして打ち出すのだ。
敵に接すれば、そのまま爆発する。
数百という爆弾が現れ、動けない『魔王』を襲う。
それに対して、アリオスはアリシアと同じ程度に距離を取り、剣を振り抜く。
剣に込められた紫電が、飛んだ。
紙ほど薄い、鋭い一閃だった。
斬られ、弾ける。
肩から脇腹にかけて、袈裟斬りにされた。
再生能力で二つに別れる事はないが、完全に肉体を断たれた。
この時点で、確実に瀕死。
そこから、さらに雷の爆弾が起爆した。
傷口を抉るように電気が走り、体内をさらにズタズタにしていく。
「ガァァァアァァァア!」
再生のための時間が欲しかった。
なので、『魔王』は防御を固める。
結界の魔法で、空間を隔てる。
だが、
「おおおおおお!!」
そこから、さらにクロノがやって来る。
完全な死角である、上空からの強襲だった。
剣先を『魔王』へ向け、落下。
ただの自由落下ではなく、空気を固めて足場を作り、蹴りあげたのだ。
さらに、意図はしていなかったのだが、足場と己とで反発する電極を作り出し、速度を上げていた。
音速を越え、衝撃波が走った。
「貴様ァァァア!」
「砕けろ!」
亀裂。
そして、轟音。
クロノの剣は、『魔王』の身体を焼き斬った。
かなりの大技だ。
与えられたダメージは、計り知れない。
だが、それでも、クロノは止まらない。
「まだ!」
呪いが遅れて湧いて出た。
クロノは、即座に距離を取る。
「畳み掛けろ!」
アリオスの言葉に呼応し、遠距離から数多の魔法が発動された。
内容は、主に雷を中心にしている。
全員、元から得意とする術の系統ではなかったが、究める時間はいくらでもあった。
十全な威力を、乱射可能だ。
地面がまともであるなら、とっくにガラス化するほどの熱が集まっていた。
そして、
「AAAAAAAAA!!!」
あらゆる魔法が、弾かれた。
視界を覆う魔法が晴れて、『魔王』の様子が明らかになる。
それは、
「やっぱり、姿を変えた……」
「予想通りですね」
落ち着いた様子で、呟いた。
大幅な変化に、再生された肉体に、驚いていない。
新たに生えた一対の腕も、裂けた口から見える邪悪な牙も、無視した。
それよりも、注目すべきなのは、
「アリシア!」
「分かっています。『雷光砲』!」
先も放った、大火力。
直撃すれば、十二分に効くはずだ。
しかし、
「効カヌ」
まったく、堪えた様子はない。
一瞬前と後とで、別次元の防御力だった。
これは、
「やっぱり、『進化』してる」
「察シテイタカ。ダガ、ソウデナクテハ」
進化。
多種多様な魔物が見せる、数少ない共通の特徴だ。
魔物は、得た魔力と、年月によって、その力を大幅に変化させる事がある。
本来、永い年月をかけて、ようやく果たせる進化。種としてしか成し遂げられず、個人が至れるものではない。だが、魔物の特権として、不可能は成立する。
数多の命を吸い上げる事が条件となるが、彼らは理論上、生きている限り、強くなり続ける事ができる。
そして、その法則は、『魔王』にも当てはまる。
「ですが、あまりにも『進化』するまでの期間が短すぎます。しかも、『進化』には多くのエネルギーを取得する必要があるはず。あり得ません。クロノくん?」
「……最初に見た時とは、まったく別の生命だ。とんでもない化け物だな」
「流石は『魔王』か……」
異常な耐性獲得。再生。強化。
あらゆる異常事態の正体が、これなのだ。
「正解ダ、若人タチ」
嬉しそうに、『魔王』は言った。
己の能力の正体に、気付かれてもなお、楽しんでいる。
死に瀕している今を、生を。
その姿勢は、不気味とすら言えた。
「我ハ、攻撃ヲ受ケレバ、ソコカラエネルギーヲ吸収シ、解析、ソノ能力二応ジテ身体ヲ変化サセル。意識セズトモ、自然トソウシテシマウノダ」
「…………」
「変形ノ度二、ソノ能力へ耐性ヲ得テユク。ソシテ、ソノ度二、肉体ハ癒エテイク」
予想はしていた。
しかし、やはりあまりにも理不尽だ。
どんどんと、こちらの手は潰されていくのに、向こうは加速度的に強くなっていく。
初見の力で屠れば倒せるが、そんなこと、出来れば苦労はしない。
先程も、あれだけ攻撃を加えたというのに、その命には届かなかった。
不死身に近いタフネスを突破しなければならない。それは、本当に途方もない事だ。
「……絶望シタカ?」
「まさか」
しかし、怯みはしない。
瞳から溢れるのは、並々ならぬ覚悟だけだ。
それを、容易く悟らせる。
「飽きるくらい殺せば、殺せる」
「……脳筋で困りますね。アリオスくん、どう思いますか?」
「仕方がない。本当に、それ以外に手立てが見当たらないんだから」
呆れてしまうくらいに、やることがない。
完璧すぎる、『魔王』が悪い。
既に決まってしまった道筋を、辿る。
遠く、遠く、険しく、激しい道筋だ。
しかし、やる他にはないと、わかっている。
「ハハハ、良イゾ、若人」
死ぬまで、戦い続ける。
その覚悟が、身体を突き動かす。