いつの間にか悪の組織の幹部になっていた件   作:アジぺんぎん

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68 師匠役、楽しいかもしれん

 

 思ったんだけど、若い子をしごくのって、虐待に入るのかな?

 割りとボコボコにしてきたけど、問題ないよね?

 どっかに訴えられたりしないよね?

 流石にイジメすぎて不安になってきたよ。

 

 クロノくんとツンケン娘がボクの修行に臨むようになって、もう三日か。

 三日、ボクはクロノくんを瀕死に追い込み続けた。

 同じように、意図的に魔力を暴走させ、それを抑えさせる訓練。普通は、魔力暴走なんて起きたら余裕で死ぬけど、それで死なないのが修行さ。

 言っちゃえば、ボクは毎日毎日クロノくんに飛び降り自殺させてるようなもんだね。

 体はボロッボロだし、死にかけるストレスなんて想像を絶するはずだ。なのにもう三日も連続でボクのところへ来てくれてる。

 

 あんまりにも従順だから、笑っちゃうよ。

 なんていうか、ワンコ?

 突き放しても『構ってくれー!』って寄ってくる感じが、なんとなく。

 だから、面白すぎてテンション上がって、ちょっといたぶり過ぎたかもしれん。

 初級、中級、上級、超級って感じでランク分けしてたのに、調子に乗って中級くらいの難易度をぶつけてた可能性あるかもなー。

 

 結構頑張って考えたんだけど、やばいなー。

 このままじゃ、難易度を見直す必要がある。

 それに伴い、ボクが必死こいて修行内容考えてた時間も無駄になる訳だ。

 あー、普通に嫌だなあ、それは。

 なんかもったいないし、時間を無駄にしたっていう事実に耐えられない。

 

 反省ばっかしてもしゃーないのは分かってるけど、やっぱ気になる。

 こんなに人に関わる事もなかったしさ。

 自分のダメな所が浮き彫りになってる気がしてやだ。

 アホとしか関わって来なかったし、ダメなところ見ちゃうと、自分があのアホ共と同じって感じがしてムカつく。

 はー、定期的に一人になりたい。

 

 でも、そうは言ってらんないしさあ。

 人と関わるごとに、どんどん憂鬱になってく。

 あーあ、植物みたいに穏やかな平穏が欲しい。

 全部暴力で解決出来れば楽なのにさー。世の中、複雑でやんなっちゃう。

 ……別に、ボクが雑すぎるっていうだけじゃないと思うよ?

 

 で、クロノくんね。

 普通に日を追うごとに、どんどんボロボロになってた。やり過ぎたかな~って思ったよ?

 でも、楽しくってサー。

 飽きた頃には手遅れっていうか、なんというか。

 流石にもうちょっとセーブすべきだった。

 

 鍛えたい訳であって、別に再起不能にしたい訳ではない。

 心をぶち折ったのなら、それなりのケアをしないといけない。

 修羅場を潜ってるとはいえ、子供だしねえ。

 自分が蒔いた種だから、自分でやらないといけない。

 

 はずだったんだけどねぇ。

 

 

「…………マジか」

 

 

 座禅してるクロノくんを見て、思わず呟く。

 確かに、才能あるとは思ってた。

 けど、ここまでとは。

 

 

「いや、正直引いてるんだけど?」

 

 

 ボク、かなり調子に乗ったよ?

 魔力を暴走状態で貸し付けるだけじゃなく、クロノくんの本来の魔力も操って暴走させた。

 難易度爆あげ、絶対クリア出来ねぇってやってから思った。

 まさか、一日やっただけで?

 恐るべしだわ、死ぬ気。元あった才能とかけ合わさって、すごい成長した。

 

 

「ヤバくね? 成長率が期待以上なんだけど」

 

「死ね!」

 

 

 なんというか、クロノくんが集中してるし、特段注意を払わなくていいようになったから、今度はツンケン娘の方に意識を割ける。

 クロノくん、どんだけボクが乱そうとしても集中切らさないし。

 暇だから、どうしてもこっちに向くよね。

 

 

「うーん、どうしようかなー。マジで困った」

 

「よそ見、するな!」

 

 

 体術のレベルはそこそこ。これは、幼少から鍛えられてたクチでしょ。

 魔法は、あんまり上手くないな。呪いの器として育てられたから、必要なかったのか。魔法学院受かったのは、コネと魔力の高さのゴリ押しだね。

 

 

「よそ見出来るくらい余裕与えるのが悪いよ」

 

「くっ……!」

 

「意地っ張りだねぇ。もっと素直になったらいいのに」

 

 

 目の前でそこそこ騒いでるのに、クロノくんはリラックスしてる。

 今も、ボクからクロノくんの魔力に干渉してるけど、全然動じてくれない。

 凄い密度だ。かなりエネルギーを練り込まないと、こうはならない。

 

 

「呪いの力、まだ使えるよね?」

 

「!」

 

 

 動きが止まる。

 これで暇が出来たね。

 

 しゃがみこんで、クロノくんを見る。

 天才的だね、マジで。

 ほっといたら、年単位でこのままかもしれない。ボクが瞑想してる時くらい、入り込んでる。

 

 もしかしたら、次の領域が待って……

 いや、止めとこう。流石に早すぎるわ。

 

 

「使えるものは使わなきゃ損だよ? 変なプライドは、目を曇らせる」

 

「……あ、あたしが、今さらあんな力、」

 

「君は本当につまらないね」

 

 

 おお、止まった止まった。

 ちゃんとメンタルに効いたみたいだ。

 もうちょい観察してたかったし。

 

 

「君、張り付く人間を間違えてるよ? どうして、クロノくんに入れ込むのかな?」

 

「は、はあ!? アンタ……!」

 

「君は、彼とは釣り合わない。格が違いすぎるんだ。呪い込みでギリギリなのに、なんで君は彼に近づけると思うんだい?」

 

 

 うん、とてもいい具合だ。

 想定は一週間だったけど、巻きで終わったな。

 普通に難易度あげたのに、なんでこんなに早く終わるんだよ、キッショ。

 これもしかして、次も早めに終わるかな?

 喜ぶべきか、悔やむべきか。

 

 

「…………」

 

「弱いくせに、彼にたかるな。話は、自力で立てるようになってからだ」

 

 

 ツンケン娘に近寄って、足払い。

 何が起きたか分からなかったみたいだけど、反射的に身を起こそうとした。

 そこに合わせて、腹を蹴りあげる。

 しばらく立てないだろうし、次はクロノくんだ。

 

 初級の訓練は、こんなもんでしまいだ。

 取り敢えずこんくらいで止めとこう。

 ツンケン娘が止まるような、心を揺さぶる言葉がもうなかったしね。

 自分のボキャブラリーの無さが悔やまれる。

 じゃあ、

 

 

「次の段階に進もうか」

 

「ぐげあ!」

 

 

 集中してるクロノくんを、蹴り飛ばす。

 次は、もう少し面白い地獄を見せてやろう。

 

 

 ※※※※※※※※

 

 

「す、凄い、ね、わかってた、けど……」

 

 

 リリアにおぶりながら、クロノは言う。

 いつもはリリアがクロノに肩を貸し、色々とアインへの愚痴を言って沈黙を埋めるのだが、そのリリアが今日はずっと黙りっぱなしだったのだ。

 沈黙に耐えきれず、クロノが話し始めた。

 溜まった疲労は凄まじく、息も絶え絶えだったが、重苦しい雰囲気に耐えられなかったのだ。

 

 

「どれだけ、鍛えたら、ああ、なれるんだろう、な?」

 

 

 とはいえ、クロノにリリアが共感できる事は言えない。

 自覚しつつ、相容れない事を語る。

 それで、少しだけでも、リリアが素直にならないかという打算も含めて。

 

 

「遥か、高み、だ……逆立ちしても、勝てない……」

 

 

 だが、語る内容に、偽りはなかった。

 純粋に、強者への敬意に溢れていた。

 

 

「俺、かなり、密度の濃い魔力を、纏ってた、はずなんだけど、な……簡単に、すり抜けられたよ……」

 

 

 高密度の魔力は、それだけで頑強な鎧となる。 

 特に、クロノの元来の魔力は高く、さらにアインの魔力が足されていた。

 全てをコントロールし、高密度の魔力を纏っていた。

 だが、アインの攻撃はクロノに効いた。

 アインはその時、ほぼ魔力が無かったのだ。だが、クロノよりも圧倒的に少ない魔力で、クロノにダメージを与えた。

 

 その手法を、クロノは見抜いている。

 魔力の鎧をすり抜けた。

 力に同調し、鎧を無効化したのだ。

 

 

「凄い、な、俺も、あんな風に……」

 

 

 真似してみようとしても、出来そうになかった。

 二度失敗した所で、『そんなんしてる暇あるなら集中しろ』と、アインに叩かれたので、続きは出来なんだが。

 それでも、憧れはあった。

 このレベルまで、早く行きたいと。

 

 

「強く、なりたい」

 

 

 訓練は、第二段階に移ったとのことだ。

 これまでは極限の集中の上で成り立った、魔力制御を、動きながらやれと言う。

 出来なければ、容赦のない体罰と罵倒が待つ。

 腹を殴り、顔を蹴り、やれ『お前はここに時間を無駄にしに来たのか』、やれ『動かないだけなら、お前はかかしより役立たずだ』だのと。

 クロノは、それはもうめちゃくちゃに絞られた。

 全身の傷は、それだけ今日は上手くいかなかったという証だった。

 

 クロノは、怒りを抱かない。

 ただ、今日、一歩を進めた事への喜びと、アインへの感謝しかなかった。

 そして、

 

 

「出来なくても、いいじゃない……」

 

 

 リリアの言葉に、一瞬固まる。

 強くなる、という、その目的を胸に刻み付けたクロノには、意味が分からなかったのだ。

 思わず、リリアの方を見ようとする。

 だが、回らない首と俯いた顔のせいで、見たいものは見えなかった。

 

 

「そんなに頑張らなくても、アンタ、強いじゃない……」

 

「…………」

 

「あんなになるまでされなくても、十分さ……」

 

 

 何故、そんな事を言うのか?

 アインがリリアに何を言ったか、知らないから分からない。

 二人との間に広がる差など、クロノが知るところではない。

 

 

「……足りないんだ。全然」

 

「…………」

 

「俺は、もっと強くなりたい」

 

 

 クロノは、溝など分からない。

 クロノの高く、綺麗な目からでは、リリアの泥濘のような世界など、理解できるはずもないのだ。

 

 

 ※※※※※※※

 

 

「もうちょっと待ちなよ」

 

「ボクが付いてる内は、クロノくんにちょっかいかけるのは許さない」

 

「ボクと事を構えるのは、本意じゃないでしょ?」

 

「安心しな。多分あと七日だ」

 

「それを過ぎれば、好きにしな」

 

 

 

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